長らく放置しており申し訳ありませんでした。久しぶりにこっちのシリーズの更新です。
そしてその更新が何故かこれまでの話に度々しか登場していないトプロT主役の話です。バカですね。
一応トプロTのことを忘れてしまったという人でも読めるようにはしてるつもりですが、忘れた場合は前の話の『登場人物紹介』の部分や、バレンタインやクリスマスの話に彼は登場しています。
どうも。初めましての方は初めまして。
ジブンはトレセン学園所属のトレーナー。担当ウマ娘はナリタトップロード。回りからは『トプロT』とか呼ばれてるっス。
子供の頃に見たレースが切っ掛けでトレーナーを志し、ド田舎からここまで来て無事トレーナーになれて先輩にも恵まれ、嬉しいことに菊花賞で初G1をプレゼントしてもらえてかれこれ三年目になります。
そんなジブンは現在、トレセン学園の食堂にて昼飯を食べてるっス。ウマ娘のために味の改良が常に試みられてるだけあって、ここの料理はどれも絶品中の絶品。
今食べているカレーライスだって……申し訳ないっスけど、お袋の味を数段上回ってるっス。カレーライスってこんな旨かったんですねぇ……。
「あ、そういやトプロT、あの写真見たか? LINEのヤツ」
なんてことを思いつつライスとルーを混ぜていると、対面から声がかかってきました。顔を上げると、そこにはジブンをこの昼食の場に誘った張本人であるアドマイヤベガTことアヤベTがいます。
先輩にこう言うのはアレですけど、今日もラノベ主人公みたいな、特徴がないのが特徴とでも評せそうな地味な見た目です。
「……どの写真のことっスか?」
「あのアヤベさんとトップロードとオペラオーとドトウがお好み焼き作ってた写真」
「あーあれっスか。見たっス。美味しそうですよねぇ」
「だよねぇ」
ジブンと同じくカレーライスを食べるアヤベT。食べるのはジブンより早いですが、辛いのは苦手なのか水もジブンより多く飲んでいました。
アヤベTは、ジブンよりも二ヶ月ほど先にトレーナーになった男性でよく世話を焼いてくれる人です。基礎的なトレーニングのいろはも教えてくれた人なので、この人には基本頭が上がらないっスね。
……あとはまぁ、
染めたもの特有のパサパサになった黒髪を撫でつけてから、ジブンはスプーンを握り直しました。
……いけね。頭頂部からまた地毛である芦毛が少し生えてきてるっス。これじゃまたプリン頭ならぬ『ガトーショコラ頭』とか言われて笑われるっスね。
「お好み焼きかぁ……長らく食べてなかったな」
「ジブンはたまに食べるっスよ?」
「えっそうなの? お好み焼きって意外と食べる機会なくないか?」
「愛バ繋がりっスよ。ヒシミラクルとそのトレーナーが焼いたのを、トプロ経由で」
「ああ、そっち方面の……」
「そっス。上手いこと焼いてて、旨いもんですよ。ただ、それに影響されてか最近トプロが『私も焼いてみます!』とか挑戦するようになって……」
「へぇ?」
「正直調理風景が危なっかしくて見てられないですよ……。卵を片手で割ろうとして失敗するし指切って慌てて手当てする羽目になったり……」
「へ、へぇ……」
特にトプロが指切ったときはヤバかったっスね。思わず『素』に戻ってあたふたしっぱなしになっちゃいましたもん。
そんなことを思い出しながらジャガイモを口に運んでいると……不意に目の前のアヤベTがため息を吐きました。
「? どうしたんスか?」
「いや、なんていうか、相変わらず仲良いなと思って。お前とトップロード」
「はぁ……?」
当初、なんでアヤベTが急にこんなことを言い出したのかわかりませんでした。
しかし、数秒経って意図とさっき自分が話した事柄の意味を理解すると……顔が一気に熱くなってきました。
「ちょっ、待ってくださいよ違いますからね!? そういうことじゃないですよ!? 別にボクとトプロが毎日一緒にお好み焼き食べてるとか、そんなんじゃないですからね!?」
「わかってるわかってる、別に何も言ってないからっ。落ち着け」
カレーを喉に詰まらせそうになりながら捲し立てるボクをアヤベTは慌てたようにどうどうと宥めてくる……。
いけねっス……一旦冷静になりましょう……。
ぐびぐびと、今ある分の水を全て飲み干します。
「……落ち着いたか?」
「えぇ……落ち着いたっス。すいません、ジブンとしたことが……」
「いやまぁ、やりすぎなければ別に担当との距離感は当人同士の自由だしね……。僕からどうこう言う資格はないけど……」
苦笑いしながらカレーの最後の一口を食べるアヤベT。
ちくしょう、なんスかあの顔。どうせアヤベTのことだから『まさかトプロTがここまで進んでいたとは……爆ぜろよ』とでも思ってるんでしょうねぇ。
このままジブンだけ恥かいて終わるのは癪っス。
「そういうことならアヤベT!ジブンも言わせてもらいますけどねぇ!」
「なんだよ?」
「アヤベTだって担当のアドマイヤベガと───」
そうやってジブンが続けかけたとき。
ふと、視界の端っこに見知ったウマ娘を捉えました。ウマ娘は、真っ直ぐにこちらへと歩いてきます。
ジブンは少しギョっとしました。そのウマ娘こそ、今ジブンが話題に出そうとしていたアヤベTの担当ウマ娘であるアドマイヤベガその人だったからです。
今日も片耳だけに着けられた耳カバーと、『美人』と評せそうな顔が綺麗っスね。うちのトプロには敵いませんけど。
既に彼女は少し張れば声が届きそうな場所まで来てるっス。さすがに本人の前で言うわけにはいかないのでジブンは言葉を飲み込み、代わりにアドマイヤベガへ向けて「ども」と軽く会釈しました。
「…………」
アドマイヤベガも十五度ほど首を傾けて応じます。そうして彼女は……ものすごくナチュラルにアヤベTの隣までやってきました。
対するアヤベTはアドマイヤベガの接近に何故か気づいていないのか、呑気に水を飲んでいます。
「ん?トプロT、なんか言いかけてなかったか?」
「あ、いえ……なんもないっス……」
「なんだよ気になるじゃん。教えてくれよ」
「何の話をしているの?」
「あぁアヤベさん。それがね、トプロTが急に───ってうわぁアヤベさ───ゴホッゴホッ!?」
そして、アドマイヤベガ本人に声をかけられてようやく、初めて彼女の存在に気づいたようでしたが───そうして驚いた拍子に飲んでいた水を飲み込み損ねたようでした。器官にでも入ったのか苦しそうに咳き込みます。
ジブンはそれなりに焦りましたが、アドマイヤベガは慣れたものなのか呆れたように先輩の背中をさすっていました。
「……ちょっと、大丈夫なの? 急に驚かないでよ、驚くじゃない」
「ごめっ……ゲホッ、ゲホッ……。ンンッ、アヤベさん、いつの間に……? もしかして気配消して来てた……?」
「……別に。普通に近づいてたわよ。ねぇ?」
「はいっス」
アドマイヤベガの言葉に証人として頷くと、アヤベTは「うそん……」とか信じられなさそうに呟いていました。
……なんでかこの人、アドマイヤベガの接近には毎回気づかないんスよねぇ。その時限定で何かしらの結界でも張られてるんでしょうか。
「まぁともかく、どうしたのアヤベさん? 何か用?」
ウマ娘の前では丁寧語になるアヤベTの言葉に、アドマイヤベガは腰に手を当てます。
「……何か用、じゃないわよ。今日、お昼にミーティングの予定を立てたの、あなたじゃない」
「えっ、ミーティング?」
いつものジト目になりながら発されたアドマイヤベガの言葉に、アヤベTは首をかしげました。それから「ちょっと待って」と言ってからスマホを確認しようとします。
なんでしょうかなんでしょうか。
見た感じ、スマホに予定をメモしていたのに忘れたんスかね?……忘れないようにスマホにメモしていたのに、メモを確認すること自体を忘れてたんじゃ世話ないっスね。
「……んん? アヤベさん、今日はミーティングの予定無くない?」
「……あったわよ」
「えぇ? いやでもスケジュールには書いてなかったし……というかそもそも、今日はトレーニングも休みだよ?」
「あったから」
「いや、でm」
「あった」
「アッハイ」
ウマ娘からの押しには弱いアヤベTはあっさりと説き伏せられました。……これ、同棲したら絶対尻に敷かれるタイプっスね……。
ともかく、アヤベTはアドマイヤベガに言われるがままに急いで残っていた水を飲み切り、カチャカチャと皿やスプーンを手に持つと、
「す、すまんトプロTっ。そういうわけだから僕はここで……!」
「ああ、大丈夫っス。頑張ってくださいねー」
適当に手を振って答えると、アヤベTはいそいそと食器を片付けに行き、アドマイヤベガも再び十五度ぐらいの会釈をジブンにしてから追従していきました。
二人はそのまま、(おそらくアヤベTではなく、アドマイヤベガが合わせているのでしょう)ピッタリと歩幅を合わせて歩き出しました。
アヤベTが何か話題を振っているのか、時折アドマイヤベガはアヤベTの方を向いて頷いたりジト目になったりしています。
そのまま二人は食堂を去っていきました。
残ったのは、まだ半分ほどあるカレーとジブンだけ。
「……アヤベTだって、アドマイヤベガと仲良いくせに。ジブンのこと言えないじゃないっスか」
さっき飲み込んだ言葉を静かに吐き出してから、ジブンは飲み切っていた水を補充しにいくことにしました。
(担当バとの関係……ねぇ……)
水を補充しての二回戦。残っているルー部分と残しておいたライス部分を混ぜ直しながらジブンはふと考えていました。
突然ですが。
最初にもちょっと言いましたが、ジブンの地元はかなりのド田舎っス。見渡す限り田んぼばかりで、夏場はカエルがゲロゲロ鳴いてうるさいですし、バスは一日四本ぐらいしか来ないっス。
そんな田舎に住むジブンの母親はウマ娘で……ジブンはその血をかなり濃く受け継ぐことになりました。その影響で地毛は綺麗な芦毛の色ですし……身体能力も並のトレーナーよりは高いっス。視力も高いんで、生涯メガネとは縁が無いだろうなとか、オペラオーTにたまに羨ましがられます。
けれど……そうした『ウマ娘混じり』の人間は田舎では───特にジブンがいたようなド田舎では、かなり差別的な扱いを受けがちな人種なんです。
まぁ、まだ世間では茶髪に対する偏見も抜けきってない、と考えれば特別おかしい現象でもないっスね。おじさんおばさんからは『異物の血が混ざってる』と目をつけられますし、学校では『染めてこい』って何度も言われましたし、子供の頃のあだ名はもれなく『ジジイ』になりますし……。ここでは言いませんが、自分では友達だと思っていたヤツと色々ゴタゴタがあったりもしました。
これでも昔に比べればまだマシらしいっスけどね。ネット見てると、ジブンより上の世代のウマ娘混じりは、リアルで石投げられたこともあるみたいですし。
まぁともかく、そのせいか───まぁ元々根がひょうきん者ってのもありましたが───他人と接するときは少しバリア貼る形でキャラを作って接することが多くなってきました。
それはトレセン関係者の中では親しいアヤベTやオペラオーTに対しても例外じゃないっス。わざとらしい『っス』口調とかで、典型的な『後輩キャラ』として接させてもらってるっス。
いや、別に彼らを信頼してないわけではないんですよ。むしろこんなめんどくさいジブンに『同期』として差別区別なく接してくれてるんで文句無しに感謝してます。
ただそれはそれとして……って感じっスね。変えたくても変えられない、一種の防衛本能みたいなものっス。
……ジブンの芦毛自体は嫌いではありませんし、遺伝させた母のことも今は別に恨んではないっスけど。
……あとはまぁ、作っていたこの『後輩キャラ』が本物になりつつある、てのもあるんですけど。セルフ人間失格っスね。
(だからまぁ、先輩方にはもう少し待ってて欲しいっスね。……ま、一応『素』で接してる相手は他にはいるっスけど……)
そんなことを思いながら食事を再開しました。
「……中々、上手くいかないもんスねぇ」
「カレーライス、美味しくないんですか?トレーナーさん」
「いやカレーライスは旨いっスよ別に……ってトップロード!?」
完全に無意識で声に答えたとき……すぐ隣にウマ娘の顔があり、三センチぐらい飛び上がってしまいました。
そこにいたのは、ジブンの愛バであるナリタトップロードでした。今日もニキビ一つないおでこと純真な瞳が輝いているっス……相変わらず、このトレセン学園で一番綺麗なウマ娘ですね。
突然飛び上がったジブンにトップロードは大きな瞳を震わせて、
「す、すいませんトレーナーさん……そこまで驚くと思ってなくて……」
「いや大丈夫だよ……。しかしトップロード、いつの間に傍にいたの?」
「ついさっきです……。一応一度は視界に入ったはずなんですけど……」
「まじで?」
全然気配感じなかったんだけど。いつの間にジブンのトプロは忍者の修行を積んだんスかね?
ともかく、気分を切り替える意味も込めてジブンはンンっと喉を鳴らします。
「えっと……昼休みの時間、まだ大丈夫だっけ?」
「大丈夫です。まだ二十分ぐらいありますのでっ」
「あれ、まだそんぐらいしか経ってないんだっけ……ほんとだ。お昼はもう食べたのか?」
「はい」
「そっか?えっと、じゃあまぁ立ちっぱなしもなんだし、そこ座ったら?」
「は、はい……」
比較的素に近い口調に戻して問いかけます。
……さすがに大人として、担当バの前で『っス』とか『ジブン』とか言うわけにはいかないですし……担当バにまでキャラ作って接するのは、少し気が引けるっスからね。
さっきまでアヤベTが座っていた椅子をジブンが示すと、トプロはどこかおずおずとしながらも座りました。
「……んーで、どうしたのトップロード。僕に何の用?」
お昼はもう食べ終えてたというのにわざわざジブンのとこに来たことから、何かしら用があるのだろうと判断して問いかけました。
ですが、何故かその問いにトップロードはドキリとしたように身を震わせます。
「あ、いえ、その……用、といいますか」
「うん?」
「えっと、そのぉ……」
……さっきからトプロの様子はどうにもおかしいです。瞳も落ち着きなく揺れていますし、言葉も歯切れが悪く……まるで現在進行形で言葉を組み立てているようっス。
まぁ、語彙力が無いトプロが言葉の途中で詰まることもよくあることなので、一応ジブンは大人しく待ってみることにしました。
その後もトプロはしばらくあーうーだとか考え込んでいたようですが……良き案は浮かんでこなかったようで、彼女は白状するように、照れたように笑いました。
「あ、あはは……その、さっきまで、アヤベさんとこの食堂にいたんですけど、そこでトレーナーさんたちを見つけて……。それで、つい……見つめてしまってたら、アヤベさんが『二人きりになりたいなら、素直にそう言えばいいのに』ってアヤベさんのトレーナーさんを連れ出しにいってくれて……」
「……それはそれは」
相づちのように水を一口飲みます。
ということは……さっきアヤベT先輩がミーティングがどうとかで連れ出されたのは、アドマイヤベガの嘘だったというわけっスか。
道理で急に彼女が現れたりしたわけっス。南無、とジブンは心の中でアヤベTに手を合わせました。
「……んで、そうまでして僕と二人になりたかったって、どうしたんの? なにか、急ぎの用事?」
「い、いえっ! そういうわけではっ!」
だとしたら早く食べきらなければ、と腰を浮かせると、トプロは慌てたように腕を振りました。
……? 本当に、ここまで歯切れが悪いトプロは珍しいっスね。
思わず、今度はジブンがトプロを見つめると、彼女はそんな疑念を察知したのか、バツが悪そうに目を逸らしました。
しかし、ここまで来たら言うしかないと覚悟を決めたのか、やがてジブンの方へ顔を向け直しました。
「その……」
「うん」
「えっと……べ、別に用があるってわけではなくて……」
「うん?」
「た、ただ単に……トレーナーさんの、近くにいきたいなぁって……」
「んぶっ……」
カレーが喉に詰まりました。思わずドンドンと胸を叩き、『だ、大丈夫ですかトレーナーさん!?』と慌てて立ち上がったトプロを制止します。
なんとか水も飲むとようやく落ち着きました。
「……死ぬかと思った」
「ご、ごめんなさいっ!変なこと言っちゃって……わ、忘れてくださいっ!」
「いや、無理だけど……」
「……ですよね」
いつの間にやら、メイショウドトウみたいに瞳を渦巻かせているトプロの顔は、耳まで赤くなっていました。……たぶん、ジブンも同様でしょう。
……平凡そうな昼食の場から一転、ジブンと担当バの間に漂う空気は一気に微妙なものになってしまいました。
「す、すいません……」
「いや……」
「…………」
「…………」
「…………」
(えぇ……どうすんのこの状況……)
新たに生えてきた部分の芦毛を手慰みに触りながら頭を下げます。
なんか近くにいきたいって……えぇ……。いやすごい嬉しいっスけど。
……いやそりゃ、ねぇ?
三年目の付き合いとなって、トプロとの距離はそれなりに縮まってるつもりではあるっスけど。
クリスマスを一緒に過ごしたり(アヤベTやオペラオーTもいましたけど)、バレンタインにハート型のチョコレートをもらったりもしましたし……距離は着実に縮まってるはず、ス、け、ど。
別にまだ付き合ってるってわけではないというか……。トプロの気持ちだってハッキリとはわからないっスので……今は果てしなく微妙な関係って感じです……。
……いや、ジブンがヘタレなだけなんスけど。
トプロの方を見ると、相変わらず彼女は頬を赤らめたまま。ジブンと目が合いそうになると慌てて目線を下げます。
(……そんなに照れて言うぐらいなら、適当に誤魔化せばいいのに……)
恨み言のように思います。
ですがそれが───目の前のウマ娘にはできないことでした。
トプロは嘘をつくのが下手。不器用で、何事に対してもいつも正直の全力投球。
それは、彼女と過ごして三年目となるジブンがよーくわかってるつもりです。
そしてそれは、紛れもない彼女の美点であるはずっスから。
こんな、仮面被ってバリア張ってるようなジブンとは違う。他人の良いところを見つけて、相手を尊重することができて、根っこの明るい人格のままで、たくさんの仲間に囲まれている。
……彼女のそういうところが、ジブンは───
ふと、彼女を初めて担当したときのことが思い出されました。
『えー……おほん。改めまして。今日から君の担当をさせてもらうので、よろしくお願いします……』
『はい! こちらこそよろしくお願いします!』
『まぁ、ジブ……僕はまだ見ての通り新人だから、あんまりナリタトップロードに見合うようなトレーニングは設定できないかもだけど……まぁ、頑張っていきますので何卒……』
『いえいえ! 私こそ不器用ですので、トレーナーさんのご期待に添えられるかどうか……。……ところでトレーナーさん、これ聞いても大丈夫ですか?』
『なにを?』
『その黒髪って……染めたものなんですか?てっぺんだけ芦毛っぽい色ですけど』
『えっ? ……うわ、マジだ……ちょっとサボり過ぎたか……。……まぁそう、染めてる。親からの遺伝で芦毛だったんだけど、ちょっと色々あってね……』
『色々、ですか……』
『……っ、ど、どうしたの考え込んで。あ、アレだったら、今から頭頂部も染め直してくるけどっ?』
『あ、いえそういうわけではないんです。……ということは、トレーナーさんは本来芦毛だったんですね……』
『……そう。まぁ、他の人からしたら気に入らないものらしいけどね』
『そうなんですか?』
『地元じゃ結構奇異の目で見られたからねぇ……だから、あんまり良いものでは───』
『うーん……私は綺麗だと思いますけどねぇ』
『───え』
『芦毛って、ミラ子ちゃんと同じ髪色じゃないですか! とっても綺麗だと思いますし、羨ましいですから私は見てみたいですけど……』
『…………』
『あっ……すみません! まだほとんど初対面で、事情も知らないのにこんなこと言っちゃって……』
『……いや、いいよ』
『……そっか。よし、じゃあこれから頑張ろうか! トップロード!』
『はいっ! 頂点への道を、一緒に駆け抜けましょう!!』
「あの……トレーナーさん……」
担当バの声で我に返りました。
目線を上げると、そこには顔を赤くしたままのトプロがいました。
……いけないっス。さすがに黙りっぱなしは良くなかったっスね。
「……そっか」
なんに対しての『そっか』なのかと、我ながら突っ込みたくなります。しかしトプロはそこまでする余裕がないのか、相変わらず困ったような顔のまま俯いています。
……いやまぁ、たぶん困った顔してるのはジブンもっスけど。
とにかく、そのあたり諸々は無視してジブンはカレーの最後の一口を食べ終え、ウェットティッシュで口許を入念に拭きました。
「……なぁトプロ」
「は、はい? どうしましたか?」
ジブンの言葉に顔を上げたトプロと、ゆっくりと目を合わせました。
「確か、昼休みってまだ時間あったよね?」
「は、はい。そうでしたね」
「じゃあさ、このまま一緒にパフェでも食べない?」
「え……」
トプロの目が少し見開かれました。
「……いいんですか?」
「うん。カロリー諸々はこっちでちゃんと計算するから。もう少し時間もあるし、もうちょっと食べてこうよ」
カレーの後にパフェは食い合わせとしてどうなんだと思わなくもないですが、ここはスルーの方向で。
なにより───
「せっかくだしさ、もうちょっと一緒にいようか」
「っ……はい!」
ジブンがそう言うと、トップロードはいつも通りの、あの裏表の無い笑顔を見せてくれました。