「アイドル部が許可されない?」
「そうなの!5人以上集めないと部活動として認められないって生徒会の人に言われちゃって……」
翌日、またしても早朝の神田明神。柔軟体操をする悠一に対し、穂乃果が困った様にそう言う。
悠一としては穂乃果、ことり、海未。この3人でスクールアイドルをやるものかと思っていたのだが……
「3人でやるんじゃ無いの?その、穂乃果が言ってたアライバ?だっけ?も3人グループだったじゃん」
「A-RISEです。中日の二遊間ではありません」
首を傾げる悠一に対し、同じく朝練に参加している海未から訂正が入る。
「やっぱり、生徒数を増やすには学校名も必要だから、部活として認可されなくちゃなって……」
そして、補足する様にこれまた同じく朝練に参加していることりが困った様な表情でそう言う。
スクールアイドルと言うのは学校を名乗る以上、どうしても部活動の様な扱いになる。なのでこの校則を突破しない限り、スクールアイドルとしての活動どころでは無いのだ。
「ふーん。で、当てはあるの?」
「うん!!一年生にね?一人すっごい歌が上手い子がいるんだ!!」
悠一がそう聞くと、目を輝かせて穂乃果がそう返す。
「へぇ。じゃあその子がやってくれそうなんだ」
「オコトワリシマスって言われちゃったー」
「ダメじゃん」
困った様に笑ってそう言う穂乃果に対し、呆れた表情を見せる悠一。
「でもね!講堂の使用許可は取れたんだよ!」
「ん?どう言う事?」
負けじと穂乃果は興奮気味にそう言うが、講堂を使って穂乃果が何をしようとしてるのか分からないのか、悠一は首を傾げる。
「ライブだよ。新入生歓迎会の後、講堂で私たちの初ライブをやろうって事になったんだ」
付け加える様にことりがそう言うと、ようやく悠一も納得した様な表情になる。
なるほど、それならライブを見た新入生達が入部してくるかも知れないし、それで穂乃果達が有名になれば、それで一石二鳥にもなる。
「ライブかぁ……因みにそれって、俺も観に行けるかな?」
「え!?ゆ、悠一、観にくるのですか!?」
興味津々。悠一がそう言うと、あからさまに海未が動揺した。
「うん、そのつもりだけど……」
幼馴染の晴れ舞台だ。出来る事なら観に行きたいのだが……
「うー……だ、ダメです!!恥ずかし過ぎます!!」
顔を真っ赤にして、海未は拒否して来る。スクールアイドルをするとは言ったものの、彼女としてはまだステージ上で歌ったり踊ったりする事に抵抗がある様だ。
それに身内とも言える悠一が来るとなると、さらに恥ずかしさは倍増する。
「うーん、校内でやる事だし、部外者のゆうくんが来るのは難しいんじゃないかな……」
すると、困った様に笑ってことりもそう言う。
「えー、そっかぁ……」
観に行けないと分かり、あからさまに落ち込む悠一。対して海未はホッとした様な表情を浮かべていた。
「ま、いいや。じゃあ、朝練始めるよー」
そして一通り柔軟体操を終えると、悠一は立ち上がって切り替える様にそう言う。
_________________
「おー、やっぱりことりは柔らかいなー」
「昔から柔軟は得意だったからねー」
まずは昨日と同じく柔軟体操。
ここで一番線が良いのはことりだった。股割りとまでは行かないが、股関節が柔らかく、そこから上体もペタンと前に倒せている。
「逆に一番硬いのは……」
そう言って、悠一はことりの反対側で同じく柔軟体操をしている少女に目を向ける。
「きゅ、弓道部に柔軟性はあまり必要無いので……」
そこには、昨日の穂乃果よりもさらに硬い、海未の姿があった。
見かねた悠一が海未に近づく。
「海未、背中押すよ」
「え、ちょ、痛!いたたたた!」
昨日の穂乃果と同じく、問答無用で背中を押す悠一。
しかし、殆ど上体が前に倒れないと言う、想像以上の硬さであった。足も全然開いておらず、上体を前に倒そうとすると、どんどんと閉じて行く始末であった。
「こりゃ重症だ」
これはダメだと思った悠一は、海未の背後から足を閉じさせない様に、両手で膝辺りを固定する。
「ゆ、悠一!?なにを……」
後ろから両膝を手で押さえてるので、悠一の上半身が海未の背中に密着する形になった。あまりの近さに海未は顔が赤くなっているが、悠一は平然としている。
「よし、前に倒すよー」
「え!?このままですか!?」
彼女とて思春期の女子高生。幼馴染とは言え同い年の異性にこれほど密着されると恥ずかしいし、緊張もする。
しかし、それに構う事なく悠一は自分の上体を前に倒し、海未の背中を押す。
「あー!!痛い!!悠一!!ちょっとま……あーーー!!!」
だがその後は、密着した恥ずかしさを気にする暇も無く、ただ痛みと闘うのみだった。
_________________
「色々と尊厳を失った気がします………」
「あはは……ゆうくん、容赦無かったね……」
柔軟を終え、恥ずかしがっているのか、疲れているのかよく分からない表情でそう呟く海未。
それに対し、隣に居たことりが苦笑いでそう返した。
「よし、じゃあ昨日と同じで、5往復ね」
そして、今は参道の階段前。これまた昨日と同じく、基礎体力のトレーニングだ。悠一がそう言うと、3人とも階段を駆け上がって行く。
「ふっ、ふっ!」
この基礎トレーニングを順調にこなしているのは、海未の方だった。
流石は運動部と言ったところだろうか。3人の中では図抜けて早い。
「はぁ……はぁ……早いよー……海未ちゃーん……」
その後に、息の上がった状態で穂乃果がなんとか付いて行っている。やはり普段から運動してる人とそうでない人では差が出る。
しかし、下の方を見るとそんな穂乃果よりも、もっと酷い状態の少女が居た。
「だめぇ〜……しぬぅ〜……」
最後尾、ヘタった声でまるで腰の悪いおばあちゃんの様に階段を登る、ことりの姿があった。
「ことりー!!あとちょっとー!!」
「む、むりぃ〜………」
もう走り終えた悠一が激を飛ばす様にそう言うが、一向に改善する気配が無い。
「しょうがないな……」
正直このままでも良いが、悠一は切り札を使う事にした。
「あと20秒で登れたら、駅前のチーズケーキ買ってやるぞー!!」
世の中には飴と鞭というものがある。目の前に飴をチラつかせると、どんな鞭でも人は耐えられるのだ。
「ち、チーズケーキ……こ、こんじょーーーう!!!」
悠一からチーズケーキと言う言葉を聞いて、声を張り上げて必死に階段を登り始めることり。
これからアイドルを始めようと言うのに、見てくれは完全にスポーツ根性ものだ。
「うーー!!!っはぁ!………はぁ………はぁ……」
そして今にもヘタりそうな表情になりながらも、ことりはなんとかダッシュで階段を登り切った。
「はぁ……はぁ……ゆうくん、20秒切った?」
「18秒」
「はぁ……やったぁ……はぁ……チーズケーキ……」
制限時間内に登り終えたことを確認すると、遺言の様にそう呟いてその場に倒れることり。
どれだけ執念深いのだろうか。
_________________
「うわ!?」
「ああ!?」
「うおっと!?」
そして最後は、体幹のトレーニング。これまた昨日と同じく片足を後ろに上げるものだ。
やはりと言うべきか、始めたばかりの3人は安定しておらず、フラフラしていた。
「はい、フラフラしないでー。バランス保ってー」
そんな中、悠一は呑気に本を読みながら片足で立っている。
3人ともまだまだ体幹が弱いが、意外にも線が良いのは穂乃果だった。
両手で上手くバランスを取り、ふらつきも他の二人に比べれば少なかった。
「面白い事やっとるなー」
すると、横からのんびりとした口調の声が掛かる。片足立ちのまま4人ともその方向へと顔を向けると、おっとりとした雰囲気の、長い黒髪を2つに纏めた巫女服姿の少女が居た。