「お疲れ様でーす!」
「お疲れー」
夕刻の体育館。帰り支度を終え、各々の運動部の挨拶が聞こえてくる。
ここは東照大附属の体育館。新体操部の部活動を終えた悠一は、その音を聞き流しつつ、帰り支度をしていた。
「悠一くん、お疲れ」
悠一が荷物をまとめて立ち上がると、タイミングを見計らったように幸人が話しかけてきた。
「おう、お疲れ幸人。コンビネーション、良くなってきたね」
「あはは、ありがと。それでもまだ悠一くんに合わせてもらってる感じかな?」
今日の部活の反省点や良かった点などを語る2人。新体操の強豪校ともあって、意識はかなり高い様だ。
「今日は一緒に帰るの?」
悠一がそう聞くと、本題を思い出したかの様に幸人はポンと手を叩く。
「そうそう。帰りにアキバ寄ろうかと思って」
「秋葉原?何で?」
部活帰りに寄る場所としては意外な提案だったので、悠一は疑問を口にする。
「さっきのスクールアイドルの事だよ。アキバは聖地だからね。色んな情報があるよ」
「聖地って何?」
「スクールアイドルが盛んって事。ともかく、幼馴染がスクールアイドルやるんでしょ?行ってみて損はないと思うよ?」
幸人の提案に少し考える悠人。穂乃果達がスクールアイドルをやると言わなければ恐らく寄ろうともしなかった場所だ。興味が無い訳では無かったが、この機会に行ってみるのもいいかもしれない。
「分かった。寄ってみるか」
そこに穂乃果達の為になるヒントがあるなら、尚更だ。
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「……なんか、雰囲気が独特って言うか……」
秋葉原駅の電気街口を出て、開口一番そんな事を漏らす悠一。身に覚えがあるのか、幸人も少し苦笑いになった。
「まあ、サブカル文化の中心地だからね。すぐに慣れるよ」
そう言って、前を歩く幸人。それに釣られる様に、悠一は後ろをついて行く。やはり普段見る景色とは違くて、何処で買ったのか凄い派手な衣装を着た女の子やら、何処かのアニメキャラの缶バッチをずらっと貼り付けたバッグを持ってる人やら、普段の生活を送っていれば絶対に見られない風景に、悠一も興味津々だった。
「あ、あれ……」
すると途中、悠一の目に大型のスクリーンが目に入る。映し出される映像には、何やら見覚えのある3人組のグループが踊っている。
「A-RISEだね。日本で一番有名なスクールアイドルって言ってもいいんじゃないかな?」
「ふーん。あんだけ激しく動いて、よく笑っていられるね」
映像での動きは、かなり激しい様に見える。その中でも、3人とも一切辛そうな表情を見せていなかった。
「あはは。動きだけで見せる僕らとは違って彼女らは表情も見られるからね」
「アイドルって大変だなぁ」
「どう?興味出てきた?」
「少しだけね」
そんな軽いやり取りをしながら、秋葉原の街を歩いていく。5分ほど歩みを進めると、とあるショップの入り口に辿り着いた。
多種多様のアイドルであろうか、大判の写真やらポラロイドやらの情報がかなり多い。
「ここ?」
「そう。スクールアイドルの専門店。グッズはもちろんCDとかも聴き比べ出来るよ」
そう言うと、何の躊躇もなく幸人は入店して行く。少し躊躇うも、悠一も店の中に入って行った。
「いらっしゃいませー」
店内に入ると、やはり情報量が多く、何から手を付ければいいのか悠一にはさっぱりだった。
「うわっ、これシスバニの新しいポラロイドじゃん。……あ、サニクリの缶バッジ、全員分ある」
その中でも幸人はもう自分の世界に入ってしまっているのか、悠一そっちのけでグッズを吟味していた。
ともかく悠一としてもこの雰囲気に慣れておきたいので、軽く店内を回る。
当然と言えばそうなのだが、穂乃果達のグッズは無い。
将来ここに穂乃果や海未やことりの写真が店頭に並ぶ日が来るのかと思うと、悠一はなんだかむず痒い気持ちになった。
一枚、ポラロイドを取る。先程スクリーンに写っていた3人組。A-RISEのメンバーの写真だ。3人とも笑顔で、カメラに目を向けている。
「穂乃果達も、こうなるのかなぁ……」
それに自身の幼馴染を重ねたのだろうか、ボソリと、誰にも聞こえない声で悠一はそう呟く。
「まあ、無いか」
しかしそんな夢物語はあり得ないだろうと、悠一は独り言を続ける。あの穂乃果だぞ?天地がひっくり返ってもそんな事はあり得ないだろう。
「わっ!」
「きゃっ!」
するとボーッとしていたからか、悠一の背中に何かぶつかった。
どうやら人と当たってしまった様だ。
「すみません!大丈夫ですか?」
すぐさま謝り、咄嗟に振り返る悠一。
「あっぶな!ちょっと!ボーッとしないでよね!戦利品がパーになったらどうしてくれんのよ!」
「せ、戦利品って……」
ぶつかって来たのは女の子の様だ。身長から見て中1、中2ぐらいだろうか、黒髪をツインテールに纏めていて、全く似合っていないサングラスとマスクを付けている。
「ごめんごめん。スクールアイドル初心者でね。ちょっと珍しくてつい」
年下ならやりようもあるだろうと、宥める様に悠一はそう言う。対して女の子はまだ怒ったままだ。
「次から気をつけなさいよ!って言うかあんた何?スクールアイドルのスの字も知らないでこの店来た訳?」
今度は女の子の方から訝しむ様にそう聞いて来て、悠一は苦笑いを浮かべる。
「友達が好きでね、それの付き合い。でも、中々いいね。この店」
何とか機嫌を直してもらおうと悠一がそう言うと、一転して女の子は上機嫌になる。
「当たり前じゃない!この店はアキバでも最大規模、品揃えもピカイチ、スクールアイドル追っかけててこの店を知らない奴はモグリよ!」
「あ、あははは……」
かなり強烈な子だなと言うのが、悠一の感想。
スクールアイドルのファンはみんなこうなのだろうか?
「あんたも友達に感謝しなさい!あと、商品を選ぶときは通路の真ん中に立たない事!いいわね!!」
「は、はい。分かりました……」
年下なはずなのに、何故か敬語が出てしまう悠一。小さい頃に母親に怒られていた時の感覚を思い出していた。
女の子はそれだけ言い残すと、足早にレジの方へと向かって行く。体は小さいがなんだか嵐の様な子だった。
「お待たせ悠一くん。何か変な子に巻き込まれてたね?」
すると、一通り商品を見終わったのか、幸人が話しかけて来た。どうやらさっきの顛末を見ていたらしい。
「うん、でも面白い子だったなー」
この少女がまさか年上だったと後に知るのは、まだ先の話。