魔法科高校のウイニングポスト!   作:京都府の南スラヴ人

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入学編➀

―クイーンエリザベスステークスはここが佳境! さぁ、直線入って誰が行く! 先頭は一昨年のアメリカ芝3冠のマルガルラバーガーが果敢にハナを進みますがここで前年度覇者オオトリタイクーンが躍り出た! しかし、しかし、凄い! 内からシェイディモアがするすると! シェイディモアが先頭に立った! そのまま! そのまま! シェイディモア! シェイディモア1着! 日本馬がやりました! 日本馬がドンカスターマイルに続いてクイーンエリザベスSも制しました! 二刀流の女王シェイディモアです!―

 

「お兄ちゃん! 忙しいとこごめんやけどおめでとう!」

『今ちょうど色々終わったとこやで。ありがとう。それとお前もいよいよ入学やな。引越し、もう済んだんやろ』

「ようやくやで。まだ梱包用の箱ばっかやけど、ぼちぼち出してくわ」

『しかし、前も言ったけど、親父もお前を魔法科高校に進ませるとはな』

「適性があるて分かった時、ものっそ喜んでたんやろ? ちょっとは覚悟してたし、期待にも答えよ思てたけど、我ながらうまくいくとはなぁって感じ」

『俺も期待してるで。ゆくゆくはお前があれこれ指示出さなあかんねんからな』

「その話やねんけど、やっぱお兄ちゃんじゃダメなんけ?」

『俺は嫌。騎手生活大変やけど、馬主はもっと大変そうやし』

「正直な話さ、親父からは魔法もええけど社交性を身に着けてこいって言われてるんよ。俺自身は割とその辺自信ある方やと思っててんけど」

『うーん、どっちかっていうと、いわゆる同世代の上流階級の人らとの付き合いってことちゃうか。ほら、そういう子らがいっぱい勉強してるとこなんやろ』

「あぁ、そういう」

 

合点がいった彼は競馬新聞を手元に取り寄せた

 

「でも、お兄ちゃん、ほんま凄いな。ドバイWCのレース全部出てから豪州連続出場で連勝って」

『おかげで肩とか腰ががたがたや。お前とこうして電話できてんのも、親父がメディアだの関係者の対応してくれてるからやで』

「殿下とかに絡まれてるんか?」

『おぉ、そうや。他の馬主さんらから茶会の誘いがあってそれに…あぁ、ちょっと待って』

「うい」

 

電話の先から呼び鈴がなった

レース後の騎手ともなれば訪問者がいるのは当然であろう

 

『おい、電話代わるで。香港のリャン騎手やぞ』

『ハーイ。この前のパーティ以来だね』

「え!? ほんまにリャン騎手でっか!」

 

さて、彼らの競馬談義はだらだらと長く続いた。途中で他の騎手なども参加し一種のサロンと化したところに先週の高松宮記念を見せると更に拍車がかかる

自分ならああする、いやインコースを突けば、大外に出した方が良いなどとそれぞれの見解を出す事午前2時まで続いた

 

何が言いたいか

明日、いや今日は入学式だというのに彼は遅刻してしまったのである

 

「(やばいやばい、どないしょどないしょ)」

 

講堂の扉の前でうろうろしている自分が情けない

折角、一科生?なる枠で入学できたというのに、これでは示しがつかない

幸い、親族は全員海外遠征だったり、今頃京都に行ってるだろうから来ていないものの、見せられない姿だ

あぁ、中からたおやかでしっかりとした声が聞こえる。誰ぞ黒髪のふわふわした乙女が答辞だのを読みあげているのだろう

 

しばらくすると中が騒がしくなってきた

ドアが開くと同時にその流れに身を任せる

何がどうなってるか分かんないけど、こうしておけば大体うまく行くよね

そんな楽観でつらつらと大勢に従うが、妙に視線が痛い

「ブルームがなんでこんなとこに」みたいな声が聞こえるたびに、彼は「競馬好きが思いのほか多い……!」と舞い上がる

束の間、彼の腕を引っ張る者がいた

 

「おい」

「ぐえ」

 

引っ張ったのは薄茶色の髪をした少年

彼と同じく腕にお花が咲いているが、眉間にわずかしわを寄せている

 

「へへぇ、やーやーありがとう、って」

「全く、同じ一科生なんだからもう少しちゃんと、って」

「森ちゃん!」

「継男!」

 

森崎駿と彼――や、彼と言うのも味気ない。宇井保継男は幼少からの付き合いである

もっと言えば森崎家と宇井保家の関係は実に彼らが生まれる前からのお付き合いなのだ

 

「なんで、お前がここに」

「やー、知り合いがおって良かったわ」

「質問に答えろ」

「親父から魔法と人脈と社交性磨いてこいって言われてな。ほら、俺の家も家業が家業やからさ」

「それは分かるが、お前魔法師としての道を進む気なのか?」

「家業と兼業というか、家業に使えると思ってはいるで」

「まぁ、応用は利きそうなもんだが」

「てか、ここ入学するって話してなかったっけ」

「聞いていない。言い方は悪いが魔法師の話題で宇井保家の名前がでてくることも無いしな」

「それもそうやな。ただ去年君と顔合わせた時にはもう魔法師としてのあれこれはやっとったで」

「聞いてないぞ……」

「まぁ、あん時はお互いそれぞれ距離合ったしなぁ。しゃーないしゃーない」

「それで、宇井保の御曹司は何組なんだ」

「A組やとは聞いとるんやけどな」

「同じくA組だ。ふぅ、こうなるのも縁というやつだな」

「よろしゅう頼んますわ。や、森ちゃんの言う通りな、正直魔法師としてのあれこれがよう分からんのよ。技術やのうて振る舞いというかな」

「分かった、その辺も教えてやる」

「ありがたいありがたい」

 

あれこれとダベりながらA組の教室へと移動する

既に生徒は何人か着席しており、交流を深めている

 

「適当に座ってええんかな」

「着席の表は無いな。ここにしないか」

「ええでええで」

 

適当な席へ座ると見計らったように続々とA組の生徒が入室してきた

 

「そうだ、今更だけどドバイWCと高松宮記念、それと……今朝で良いのか、クイーンエリザベスS優勝おめでとう」

「お、なんや知っとんたんかい」

「顧客のニュースぐらいは把握してるよ。本音を言うとな、お前がここに来ている方が驚いてる。今日大阪杯だろ?」

「そーです」

「見に行かなくて良かったのか?」

「み゛に゛い゛ぎ だ い゛でず」

 

流せるものなら血涙を流しているであろう表情が森崎を色んな意味で感心させた

 

「相変わらずの競馬狂だな。いくら放り込んだ」

「入学祝いも兼ねて10万。はー、観に行きたい。今からでも抜けたらあかんかなぁ」

「入学式より大阪杯を獲った男か……やめといた方が良いぞ」

「わーっとるって。その辺は弁えてるから」

「その辺以外も弁えて欲しい時がある」

「来週は桜花賞もあるからなぁ。なんやったら一緒に見に行くか?」

「入学したばかりだぞ。やめとく。それに見るなら、あの人とかどうだ?」

「うん?」

 

入室したその生徒は他の雰囲気と一線を画していた

麗らかな黒いロングヘアーに白い肌、周りに花と新雪が常に吹いて咲くような

彼女の名は司波深雪である

 

「おう、えらいべっぴんさんやな」

「それだけかよ。もうちょっとこう、心動くものとかあるだろ」

「あるよ、そりゃあ。でもなぁ、こう、俺の女性に対する見方がえらく尖ってんのは想像できるやろ」

「言われてみればそうだな。じゃあ、僕は旧交を温めれたし、彼女に挨拶してくるよ」

「挨拶て、そんな凄い人なんか」

「……お前入学式寝てたのか?」

「実は、出席すらしてませんでした」

「はぁ?」

 

でへへと頭をかいて笑ってごまかすと、呆れた顔で森崎は司波深雪へと足を向けた

もっとも、押しが強すぎて綺麗にあしらわれたようだが

教室をぐるりと見渡すと、森崎とは別にもう一人、また別の旧友に再会した

 

「北山さん!」

「……宇井保くん」

「え、誰々」

 

相変わらずクールな無表情だが、恐らくそれは芯が一本通っている裏返しであろう

北山雫と宇井保継男もまた顔なじみであった

 

「一校に入学してたんだ」

「親父から色々勉強して来いって言われてなぁ」

「えーっと、雫。この人は……?」

「前に話してた宇井保継男くん」

「宇井保って言います」

「は、はい! 光井ほのかです。よろしくお願いします!」

 

北山雫の隣に立つ光井ほのかの彼への第一印象は『優しそうな金持ちのお坊ちゃま』であった。手に持っている扇子はその道に通じていなくても、格調高いところのものなのだろうと分かる代物で、一層金持ち感を引き立たせている

関西弁の訛りからして、その地方の出身なのだろう。

 

「前に会ったん去年やっけ」

「そう。ジャパンCの勝利パーティで」

「あんときは盛り上がったなぁ」

 

思い出話に花を咲かせる。

しかし、それが自分に関わらないものを見るのは幼馴染としていたたまれない気持ちになってくる光井ほのかである。

彼女のその様を察したのか雫と継男は話を切り替える事にした。

 

「宇井保くんは部活どうするの?」

「いやぁ、それがなぁ」

「まだ決めていないんですか?」

「……実はここだけの話。部活動を立ち上げる側になろうと思ってんのよ」

「おぉー」

 

温めている計画を扇子で隠すように両者に耳打ちすると、雫は納得し、ほのかは感心した。

 

「何部を立ち上げる予定なんですか」

「お楽しみにとっといてください。まだ色々仔細を決めてもいないんで」

「私は大体想像ついたよ」

「そりゃ、北山さんはなぁ」

「え、雫わかったの? 教えて教えて」

「……宇井保くん」

「まだアカンで。こういうのは焦らして焦らさな」

「むぅー」

 

自分だけ置いてけぼりにされたようで頬を膨らませるほのかに、雫と継男はにわかにはにかんだ。

 

翌日、学校生活が本格的に始まった。

履修登録だのが終わるとみなそれぞれの行動を始める。

森崎駿は既にグループを作れていたようで、司波深雪を囲んでどこかへと行ってしまった。見るに北山光井のペアもそれに同行したようだ。

継男も同様に席を立つ。向かう先は食堂。腹が減って仕方がないのだ。

 

「(やっぱ東京って料理までオシャレに見えてくるな)」

 

若き胃袋がカツ丼を求めていたので、故郷の蕎麦屋よろしく年季の入ったどんぶりにこんもりと乗っているかと思ったが、綺麗なお皿にでんとのっているタイプである。

うめぇうめぇ、サクサクの衣が口の中傷つけてるけどうめぇうめぇ、と完食した直後

何やら揉め事の雰囲気が耳をつんざいた。

 

聞き耳を立てるに森崎をはじめとした一団が司波深雪と仲良くしたいけど、彼女は彼女で兄との時間を過ごしたいと言うのだ。

後者の方が何と言うか良識的ではあろう。しかし、ここは魔法大学付属第一高校。

実力主義のエリートたちからすれば、兄妹仲の良さよりも自分たちと魔法に関する理論を交わしたいというのは極めて理解できる心情である。

結果として、彼女の兄…耳が間違えていなければ司波達也という名前であろうか。彼が食後だったという事もあって、身を引いたのである。

「一科生二科生とは思いのほか難儀な関係である」と思いつつ継男はその顛末をニヤニヤと見ていた。というより、森崎のあたふたした様が面白くて仕方がないのだ。

 

「……見てたのか」

「へへへへへ」

 

バツの悪い顔をした森崎の視界にヘラヘラとした継男が写るが、継男は表情そのままに教室へと戻った。

とはいえ数分もすれば、何人か教室へと戻ってくる。その中にはもちろん森崎駿もいた

ヅカヅカと歩み継男の隣に座る。

 

「食後にええもん見せてもろたわ」

「見ていたなら来ればよかったのに」

「森ちゃん、女性との付き合い方やけど考えた方が良いで。全員が全員押しの強さ好きな訳ちゃうしなぁ」

「ぼ、僕はそんな理由で司波さんに近づいたわけじゃ……!」

「だから、そういうのも含めて女性との付き合い方やって。顔はええパーツしてんねんから」

「お前に女性論を教えられるのは、なんか、こう、癪だな」

「……ちょっぴり気にしてること言いやがって」

 

継男が顔を少し曇らせると、森崎はしてやったりと笑みを浮かべた。

 

「それとアレが一科生二科生の違いっちゅうやつやねんな」

「そうだ。彼らは補欠だから無理しなくて良いのに」

「やー、何度も言うけどええもん見せてもろたわ。そこらへんが分からんかったからなぁ」

「お前、魔法師としてのあれこれは本当に無いんだな」

「魔法師になるつもりというのが、ここ1年前まで無かったからなぁ」

 

二科生、この学校では雑草と蔑まれている学生たち。

制服の腕部分に花弁のエンブレムの有無が象徴になっているようで、学校生活の幾ばくの面ではそれに格差があるようだが、継男は特別その格差を感じる事が無い。

彼、というか彼が進む業界からすればあまり気にするような事ではないから、というのが大きいだろう

 

「なぁ、継男。ちょっと付き合ってくれないか」

「女子との付き合い方話した後にそれ?」

「違う! 見学だよ!見学! 遠隔実習室で七草先輩が実習しているらしいんだ。見に行こう」

「七草、先輩……あー、確か会長さんやっけか」

「そこは覚えているんだな。なんかホッとしたよ」

 

森崎駿は宇井保継男がどこまで『魔法師』に精通しているか判断しかねている。

流石に十師族やいくつか家系については知っていたようなのだが、第一高校での一科生二科生の違いであったり、その進路などはとんと知らなかったようなのだ。

無理もない、彼の家業はそういったものとは無関係であり、無関係でも充分生活できるほどの資産を有しているのも事実なのだ。それに進路というのも継男は既に決まっているのだから、知識以上の扱いはしていないだろう

 

「司波さんの次は七草さんか。中々、移り気なやっちゃな」

「だから、そういうんじゃないって」

 

実習室に向けて、年相応の会話をしながら移動したが、すでに実習室の見学コーナーは人で混雑していた。

七草真由美。十師族の一つ「七草家」の長女にして、第一高校生徒会長。整った容姿からも学内における人気は非常に高い。

声を掛けられるどころか、お目にかかるだけでも、と思ったが故のこの人数であろう

人の隙間からわずかに見える程度だが、繰り出される魔法の数々に、継男はぼけーっと凄い人だなーと思っていたが、隣の森崎駿は怒りのあまり声を荒げていた。

最前列に二科生がいたのがよほど気に入らないらしいが、継男は「熱心熱心」と微笑ましく見ていた。

 

「なんでアイツらが最前線の良い場所にいるんだよ!」

「落ち着きや。あの人ら以外にもいっぱいおってんからしゃーないって」

 

教室へ戻る道すがら、怒る森崎、宥める宇井保という絵であったが、怒りの様子を見せていたのは彼だけでは無かった

周囲の雰囲気から『そんな見たかったら早よ行けば良かってん』という言葉を口に出すのが憚られるが、思った以上口に出してみるものである

 

「そんな見たかったら早よ行けば良かってん」

「分かってるさ! それも含めて腹立たしいんだ!」

「まぁ、純な気持ちあるならそれでええわな」

「お前は、その、悔しくないのかよ」

「誘ってくれてゴメンやねんけど、遠隔魔法多分得意ちゃうからさ。CADにもよりけりやとは後置きするけど」

「あぁ、もう!」

 

森崎の怒りは流石にこれ以上は行かなかったが、ただやり場のない場所から動きもしなかった

 

「僕は絶対にアイツらを認めないからな」

「かっこええやん。青春モノお決まりの台詞やでそれ」

「茶化すな!」

 

怒りは冷めやらぬままに次の授業が、次の次の授業が過ぎ去っていく。

その結果、森崎の顔からは多少なり険が和らいだように見える。相変わらず眉間に皺寄せてるけど。

 

「継男、この後みんなで帰ろうと思うんだけど、どうする?」

「あー、ちょっと待って。携帯どっかに忘れちゃったみたいでさぁ。もう先行っといて。あの、間に合ったら間に合ったらでええし、無理せんで待たんでええからな」

「そうか、それじゃまた」

「ういー」

 

どこに行ったんだろう、と思って今日来たところを一通り歩くと、食堂ソファの背もたれと座席の間に挟まっていたのである。

 

けったいなとこ入ったなぁと思うが、森崎を待たせている事が念頭にあったので、そそくさと校門へと急ぐ。そこで廊下を闊歩する一団に遭遇した。一団と言うのも大仰だが、生徒会長七草真由美、部活連会頭十文字克人、風紀委員長渡辺摩利。いわゆる三巨頭である。

森崎から聞いた時に三強じゃないところにこだわりがあるのだろうと解釈したが、なるほどその堂々たる様はただ3年過ごして学校に慣れ親しんだからだけではあるまい。風格があった。魔法師としての堂々たる威容である。後ろにはそれぞれの2年生たちが連れているようである。

すれ違いざまに会釈をすると、向こう側も会釈する者、目礼で済ます者と分かれたが、特に意識はされなかったようである。『魔法師の世界で宇井保の話はまずない』という幼馴染の言葉を思い出した。

 

外へと出るとなにやら荒げた声が聞こえる。それも森崎の声で。

花壇の影に隠れながら、昼飯の時と同じように継男は眺める事にした。こういう揉め事は、レースにしてもそうだが眺める分には楽しいものである。

 

内容は正直、食堂でのそれと変わらなかったが、食堂での一件から一科生側も引くに引くつもりは無さそうだ。

長引くかなと思った矢先、一人の女子生徒が声を張り上げた。

 

「いい加減にしてください!深雪さんはお兄さんと帰ると言っているんです!」

「何の権利があって二人の仲を引き裂こうって言うんですか!」

「同じ新入生なのに今の時点でどれだけ優れているって言うんですか!?」

 

女子生徒の名前は柴田美月。眼鏡をかけており、スタイルは抜群である。

ただし、宇井保継男はその『言葉』にうっとりした。

森崎の実力を知っているからこそ、啖呵を切った彼女が印象深く残っているのである。

 

しかし、それは一科生の逆上を誘った。

お得意の早撃ちでCADを取り出し、西城レオンハルトをロックオンする森崎。そして、その森崎のCADを警棒で弾いた千葉エリカ。綺麗にハマった一連の流れだが、弾いたCADが

宇井保継男の頭に命中したのである。

 

「~~~~~~~っ!」

 

見えないがたんこぶができているのは間違いないだろう

いつものノリなら『何やっとんじゃワレぇごらぁ!』と森崎に突っかかるが、割っていける雰囲気ではない。

痛みに耐えつつ花壇から顔を覗かせると、事態は悪化していた

なんとどちらかというと大人しめだと思っていた光井ほのかが魔法を発動しかけていたのである。隣にいる北山雫も驚愕の表情である

気が動転でもしたのだろうか、流石にやばいと立ち上がりかけた刹那

 

「やめなさい!」

 

女性の声が聴覚を突き抜けた

七草真由美、そして渡辺摩利の登場である。面子が重すぎないかと思ったが、校内で自衛目的以外で魔法を使うという事自体が沙汰なのだ。出張ってきてもおかしな話ではない

仲裁する者としてこの上ない人物がでてきたわけであるが、双方の主張を聞く事は無い

問題なのは揉め事ではなく、なぜ魔法を使おうとしたのか、そしてそれがどの程度であったかである

ここにあってまたも司波の兄が前に出た

曰く「森崎で名高い早撃ちを見たかった。光井ほのかの魔法はただの閃光魔法」

もちろん、これをそのまま信じる程渡辺摩利も純粋ではないが、そこで七草真由美が間に入った。見学だと言うのなら仕方がない、次から気をつけるように、と

 

「司波達也、僕はお前を認めないからな」

 

捨て台詞吐かせたら一人前やな、と思いいよいよ花壇からのそりと立ち上がる

森崎の一団へと歩む中で、北山雫と目が合った

呆れたような目で継男を睨むが、まぁまぁと言わんばかりに笑顔で応える

 

森崎らに追いついた時にはすでに駅前である

相当、気が立っていたのか皆早足である

 

「ごめぇん、遅くなって。ようやく追いついたわ」

「継男」

「いやぁ、携帯変なとこに落ちとってさぁ。そや、森ちゃんこれ」

「え?」

 

特化型CADを森崎へと返すと、彼と言わず周囲のクラスメイトも目をわずかに見開いた。

千葉エリカに弾き飛ばされたと言うのは記憶に新しくて当然である。

 

「…すまないな」

「やー、変なとこ落ちとってさ。見覚えあるしお前のやんなぁ思て」

 

受け取ったCADを力強く握りしめるあたり、悔しさが滲みでているのだろう。

 

「ところで、みんなどないしたん? えらい、気が沈んでるようやけど」

「そ、それは……」

「…………」

 

俯く者、言葉に詰まる者、何であれ先ほどの醜態を自らあっけらかんと言えるほどの度胸は、森崎にしてもないようだ。

わざとらしく困ったような笑顔を見せた継男が口火を切った。

 

「おっしゃ、みんな焼肉食べに行こか!」

 

空気を読まない発言に周りがハッと継男の顔を見つめる。

先ほどとは違い、まるで人を安心させるような笑顔だ。

 

「……おっしゃ、みんな焼肉食べに行こか!」

「2回言わなくても良いよ」

「申し訳ないけど、正直今みんなで食べに行く気分じゃ」

「そういう時こそ、焼肉食べに行かなあかん!」

 

手に持っていた扇子で威勢よく空を切る

遠く関西から来たという話だが、ここまで図々しいものなのだろうか

 

「焼肉食べたら元気が出る! 今のみんなほんまに酷い顔やで。折角かっこいい制服着てんねんから、もっとパーっと行かんな!」

「お前みたいに図太くないんだよ」

「尚更悪い! これはもう焼肉フリータイムで行かなあかんな。ちょう待っとき」

 

携帯端末を取り出すと慣れた手つきで操作をする

 

「よっしゃ、みんな予約取れたで。これで行かんっちゅうわけにはいかんやろ」

「お前なぁ」

「それに……」

 

言葉をためることで周りの注目を集める。

その言葉は魔法の言葉。誰もが無碍にはできない言葉である

 

「奢ったるわ。ぜーんぶ、俺持ちやで」

 

 

 

八王子から些か離れて彼らは府中にいた。宇井保継男が予約したというなじみの焼肉屋で食事をするためである。

高級とは言い難いが、10~20人用の広い座敷もあり、彼らはそこに案内された。

広い座敷での食事と言うのが初めての者が幾人かおり、正直動揺している節すらある。

逆に言えば、先ほどの沈痛な面持ちは既になくなっていた。

 

「さぁ、皆さん! 良い肉をじゃんじゃん食べて、ぺちゃくちゃおしゃべりしましょう! 人の金で食う焼肉や! ぜーったい美味いでぇ!」

 

店員からメニューと注文端末を貰って来た継男が入室すると、にわかにクラスメイト達が色めきたつ。

それぞれにメニューと注文用の端末が配られると、今まで魔法がどうのと喋っていた会話は自然と目の前のメニューを介した会話になる

 

「俺、こういうとこ初めてだ。とりあえずカルビ1人前っと…」

「おーおー、そんな遠慮したらあかんって、ほら特上カルビの方頼み」

「え、でも、結構高いよ。これ」

「こういう時でもないと食えへんやろ? 遠慮しない遠慮しない!」

「ジンギスカンとかもあるんだ。ちょっと興味ある」

「あー、ごめんやけど、それやめといた方がええで。なんというか、ほんまもんのジンギスカンというか。結構匂いキツめやし、ジンギスカン初心者……いや、にわかジンギスカン! にわかジンギスカン好きが頼むのはちょっとハードル高いで」

「にわかジンギスカン好きって」

「希少部位のやつ頼んでみよう」

 

各人の席を回ってあれこれと話をすると、継男は女性陣が陣取るテーブルへと向かった

何やら申し訳なさそうな面持ちである

 

「やー、ごめんな焼肉屋で。フレンチとかイタリアンの方が良かったやろ?」

「今更、気にしないわよ。今日はやけ食い!」

「制服に匂いついちゃうねこれ」

「………ほんまごめんなぁ」

 

もう少し考えて店選べばと思ったが、彼女の言う通り今更である。

気を使わないよりかはマシだったようで、女性陣もそれぞれに注文を始めていた

継男が自分の席に戻ると、森崎が近づいてきた

 

「流石は宇井保の嫡男だな」

「こういう場は主催の身として盛り上げんとなぁ」

「お疲れ、ほら」

「おぉ、おぉ、これはこれは」

 

瓶で来たオレンジジュースをグラスにとくとくと注ぐ

ジュースの色味が相まってまるでビールのように見えるのが様になっていた

また席を立ちあがると今度は継男が各人のグラスにジュースを注いで回った

様々なパーティに参加した経験が活きていると言える

 

「ささ、皆さん飲んで飲んで」

「宇井保くんなんか慣れてるよね。大人びてるというか」

「親から社交界での付き合いがどうのと色々付き合わされたからなぁ」

「社交界って…マジにお坊ちゃまなんだ」

「これからもご贔屓に、へへ」

 

ここにいる面々の内も何人かはパーティというものへの出席経験はあるのだが、宇井保継男はその中でも場数が違ったと言える。

幼い頃より、アメリカのブリーダーたちや欧州の貴族貴婦人たちやドバイの王族たちとあれこれやり取りした経験は彼ぐらいのものだ

 

焼肉パーティは盛況成功の内に終わった。総額15万は軽く超えた焼肉パーティである。

中でも、一番盛り上がったのは余興と称して開かれた王様ゲームである

どれだけ逆立ちしてもまだまだ高校生で、それもまだ会ったばかりの面子なのでキスといった踏み込んだ命令こそなかったが、ドリンクサーバーの飲み物全部混ぜたものを飲むという命令があった

誰が命令したかよりも、誰がそれを甘受したかにご注目していただきたい。彼である

 

「お、おええええええ」

「吐くなよ」

 

他のクラスメイトがそれぞれ帰る中、森崎駿は継男の肩を支えながら彼の家へと向かっていた

府中に居を構えるとはこいつらしいと内心呟く

支えられているというように彼の顔は蒼白に近く、正直酔っ払いと言われても納得されるであろう

 

「あいつら、ああいうのは、小学生の内に、克服しとけよ」

「飲む方が大概なんだよ」

 

森崎も疲れているようで継男の恨みつらみを適当に返している

先ほどの焼肉パーティでは彼も笑顔であったが、全てが終わると忌まわしくも思い出すのは校門での一幕だ

二科生たちにCADを弾かれ、あろうことか庇われた

肩で支える幼馴染も、とぼけてこそいたが、どうせどこかで隠れて見ていたのだろうと推察する

昔からこういう奴だったな、と思い出に浸り束の間

森崎駿はぼんやりとしていた疑問を吐き出した

 

「なぁ、継男。お前は二科生をどう思う?」

「ちょ、今、喋らんといて、マジ、なんか喉、キそう」

 

聞くだけ無駄だったかと、住宅街のほんのりとした夜景を見上げる

継男が住まうというタワーマンションまであと少しだ

 




これクロスオーバーいけるやろと思ってしまいました。
原作読みながらとはいえ、魔法云々の設定に、キャラの口調がとにかく心配。

6月8日記、時系列で盛大にガバが発見しましたので冒頭部分を修正しました。
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