魔法科高校のウイニングポスト! 作:京都府の南スラヴ人
放課後の事である。学校に提出するいくつかの書類が滞納していたことに気づいた継男は教室に残っていた。森崎と共にCADを受け取りに行った後、滞納している事を思い出したからである。森崎は呆れながら分かれ、北山光井ペア、それにクラスのマドンナ的存在たる司波深雪も先に帰っているが、まだクラスメイトは何人か残っている。
「なー、これ、どないしたらええんや?」
「えーっと、そこは……」
「自分の名前で良いんじゃなかったっけ?」
別に彼らは継男のそれに付き合っている訳ではない。放課後のおしゃべりが思いのほか長かったり、あるいは復習予習で残っているのだ
「終わったーーー!」
最後の書類を提出して、うんと背伸びする。別に1時間も経っていないがこの手の作業は何故か長く感じるものだ。
すわ帰ろうとすると、教室扉の前でクラスメイトら5,6人程度の人だかりができている。
何事か生じたか、と身構えるとこちらに視線を刺してきた。あまり良い色ではない。
「宇井保くん、お客さんだよ」
「客ぅ!?」
声色もどこか低かったので、思わず大声で返す。
今日の昼の事を思い返し、自らを軸としたトラブルが発生したのかと考え、圧をかけるという意味でどしどしと足音を強く鳴らしながら教室を出る。
「………あんたは?」
「ごめんなさいね。帰るところだったかしら」
所詮、互いに高校生に過ぎぬがどこか大人びた風から彼女が先輩だと気づいた。
ポニーテールがよく似合う美人さんは、京の昼休みのできごとを思い出させる。
剣道部の先輩―壬生紗耶香である。
なるほど、クラスメイトの怪訝な雰囲気は彼女の腕にあったかと合点がいった。
「私は壬生紗耶香」
「宇井保継男いいます」
「宇井保くんね。まず、今日のお昼、助けてくれてありがとう」
「え!? ああ、いやぁ、なんのことでっしゃろ」
「ふふ、とぼけなくても大丈夫よ。あなたがやったって気づいて……?」
何故、とぼけたのだろうと思ったが、彼が口に指を当て静かにするよう求めてきたからだ。
ひっそりと耳打ちするように顔を近づける
「そのことなんですけど、実はあの場面風紀委員の友達に見つかりましてな。なんや魔法の行使がどうのと面倒なことに少しなりましたんで、ちょっと大っぴらに言わんといてほしいんですわ」
「あぁ、そういう」
得心がいった紗耶香は、ポケットから彼の扇子と馬券を取り出した。
「じゃあ、これ、落ちてたわよ」
「あぁ、これはどうもありがとうございます」
「いいえ、気にしないで。それよりもこの後、時間あるかしら?」
「やー、特に用事は無いですけど」
「良かった! それじゃあ、お礼…じゃなかったわね。扇子を拾ってあげたお礼にちょっと奢って欲しいのだけど」
「えぇ! えぇ、えぇ、その程度でよろしければ!」
二科生の先輩に連れていかれる、という絵がクラスメイトの目を引くが、継男の屈託ない笑顔に、彼らは口を出す事もできなかった
食堂、食事をしている者は数名いるが恐らく明日の勧誘活動に向けて遅くまで残っているとかそういった事情であろう
「それじゃあ、私は紅茶にしよっかな」
「僕、お水」
頼んだものの金額の差は120円ほどである
空いたテーブルが多いので、やれ一科生だ二科生だのの争いはまず聞こえない
どうせなら外を見渡せるテーブルにしましょう、と継男が誘った
「なんだか雰囲気あるわね」
「良かったら、ええロケーションのビューレストランに案内しますけど」
「冗談よ」
壬生紗耶香は手ごたえをじわじわと感じつつあった。
彼女はただお礼を言いに来たわけでも、奢ってもらいに来たわけではない。
目の前の温厚そうな一科生の後輩に対して、イケると思いつつあった
「宇井保くん。改めて、お礼を言わせてもらうわ。昼休みの時、助けてくれてありがとう」
「……」
「大丈夫、さっき確認したから」
何せ森崎に迷惑をかけた一件である。
人の噂の伝導性の高さを恐れて、周囲を見渡すと、食堂で見る人影は自分たちぐらいだ。
大声でも話さない限り聞こえる事は無いだろう。
「やぁ、気にせんでください。思うところがありましたんで」
「おかげで、明日のデモンストレーションはそのまま進みそうだわ。当日に何も無ければ良いのだけれど」
「やっぱそういうとこあるんですね」
「どうしても活動内容が重なるから、ね」
お互いに紅茶とお冷やを一啜りすると、会話が途切れた。
気まずい。ここで別れるには間が悪く、何かを切り出すにも何が良いのだ。
しかし、この場合壬生紗耶香にはそもそも目的があった。
二科生相手にも態度を崩さず、それでいてそれなりの実力を持っていそうな一科生を誘えたとなれば、剣道部の面々は喜ぶだろう。本当なら、一科生を相手にしても張り合える二科生が最高の理想なのだが。
勧誘期間はまだ始まっていない。しかし、個人的にお願いするぐらいなら大丈夫だろう。
部長の兄から聞いたという勧誘方法を今こそ試してみるべきだ。
「宇井保くん、その、きゅ、休日って何してるの?」
「あー、そうですなぁ」
少し噛んでしまったが、どうやら話は進むようだ。まずは趣味から話題を広げて共感し、そして誘う――この手法は、古くからあるそうだが現代でも通用する常套手段だと聞いた。
相手は同世代の少年。やったことはないにしても、聞いた事のある趣味だろう。
ジャンルはともかく音楽鑑賞だろうか、それともアニメーション、いや扇子の格調高さから能や歌舞伎といった具合かもしれない。自らもそれなりに女子高生をして、父母の厳格さからそういった高尚なものも多少の知識はある。
勧誘という初めての経験から紗耶香の体に冷や汗がへばりつきだしたが、継男の顔はこの短い間の中では見た事の無いほど楽しそうな笑顔であった。
「競馬してます」
「………競馬?」
やったことはないが、聞いた事のあるものであった。
2時間後
壬生紗耶香は正直うんざりしていた。目の前にいる昼休みの恩人が表情豊かなのと対照的にである。
「そこでなんと陣営は、BCやなくてJBCの方へ出走した訳です。ただこれはドバイプレミアムがどうのというより、そん時のアメリカ4冠馬の方を出したいという思惑がありまして……」
聞いた事もない単語が耳を過ぎ去るばかりであった。
インブリード、ニックス、トライアル、ミスタードロスペクター系など、その他にも色々聞いたが、とにかくカタカナが記憶に残っている。
魔法ではないのか?と思ったが、どうやら全て競馬用語らしいのだ。
最初こそ、考えて相槌を打っていたが、今ではひきつった笑顔で「そうなんだ」「すごいね」というばかりである。
「さて、遂に迎えた東京大賞典。そこでドバイプレミアムはなんと13馬身差という大差勝ちを収めて有終の美を……」
「う、宇井保くん! ちょっと申し訳ないんだけど…」
「ここから! ここからが良いとこなんです! 実はこの時、2歳馬にラボー系に繋がる馬が……」
言うまでも無いが、何度か話を断って勧誘の話を直にしようとしたのである。
しかし、彼の饒舌さがそれを上回った。お話を雑に聞いているのでうろ覚えだが、1976年から2095年に至る競馬史を語っているのだ。120年以上の歴史が剣道部の勧誘以上に、材料に事欠かないのは当然であろう。
ここは勇気を出すしかない。壬生紗耶香の瞳は少し揺らいだ。
「宇井保くん!」
「誰もが皐月賞を勝つとは思わず……はい?」
よし、何とか止めることができた、と紗耶香は安堵する
「実は今日誘ったのは、お願いがあっての事なの」
「お願い、ですか?」
趣味から話を広げて、なんて手段は思えば壬生紗耶香には合わない。
剣道小町だなんだと呼ばれているのだ。ここは面を打つように話を堂々と切り出すべきだ。
「宇井保くん……剣道部に入部してくれないかしら」
「剣道部?」
「宇井保くんも知っていると思うけど……一科生二科生の差は部活動にまで存在しているわ」
「えぇ、だからこそ昼間の一件があったんでしょう」
継男の顔つきも少し真面目な風になり、紗耶香は言葉をつづけた。
「私は、自分で言うのもなんだけど、剣道小町と呼ばれるほどに修練を重ねて、一昨年だけど剣道大会で2位になったこともあるわ」
「お見事」
「でも、この魔法科高校ではそれが評価されない……!」
紗耶香の顔に険が表れ始め、握る拳の力は見ていても強くなっていると分かる程である。
「私だけなら、それも我慢できる…! でも、非魔法競技というだけで、剣道部と剣術部の間に、いや非魔法競技全体にここまで差ができるのは我慢ならない!」
「………」
「でも、あなたが、一科生のあなたが入ってくれれば、これも変わるはず」
「僕は1-Aでも、その中での成績はあんまり良いとは言えないですよ」
「それでも…昼休みの魔法に私は助けられたわ」
「……それ持ち出すのはちょっとズルいっすよ」
「ごめんなさい」
照れる継男に、紗耶香は少し微笑んだ。しかし、顔から険が取れる様子はない
「今はまだお話の上でのことなんだけどね」
「はい」
「実は、非魔法系競技のクラブを集めて学校側に私たちの二科生の考えを学校側に伝えたいの。そこには剣道部も名を連ねているわ」
「ほう」
「宇井保くん、私にも剣道を歩んできた身として矜持があるわ。否定されたくないの。学校に、一科生二科生というルールに」
紗耶香が言いたい事はほぼ全て吐き出した。
彼も話を遮らずに聞いてくれて、どこかありがたく思う節がある。
後は、宇井保継男の返答次第だ。
「ええなぁ、そういうの」
「っ! じゃあ!」
「最低人気の馬とて、レースに出るという事は、1番人気の馬と同じだけ、勝つチャンスがある!」
「え……?」
また競馬の話か、とは思わなかった。
彼の目はこちらをちゃんと見て、いや見開いており、瞳の丸さを感じるその目にどこか圧倒されてしまう。
二科生の事を最低人気と例えられているのは引っかかるところであるが。
「穴馬が勝って大荒れすんのは競馬の華。部活連とは別の組織! 良いと思います!」
「なら、剣道部に!」
「でも、でも……」
今見せた威容が一気に萎んだ
肩を落とし、その表情からは申し訳なさが伝わってくる
「すんません。剣道部には入れません」
「………理由を聞いても?」
「壬生先輩らが新しい部活動の組織を作ろうとしてるように、僕も新しいクラブを立ち上げようと思ってるんです」
お互いに肩の力がすっと抜けたような気がした。
理由が理由だけに、紗耶香の顔は怒りにも悲しみにも転ばず、納得していた
「そうなんだ」
「すんません、でも、直にお誘いいただけたと言うのは本当に光栄なことやと思ってます」
「うぅん! 気にしないで! そういう事なら私も応援したい気分だから」
「ありがとうございます」
「でも……何部を作るのか聞いても良い?」
「もし剣道部との兼部でも構わないんで入部してくれるというなら、お教えできるんですけど」
「それは、できない、わ……申し訳ないけど」
「いやいや! それこそお気になさらず」
まさか自らが勧誘されるとは思っていなかっただけに、紗耶香は歯切れ悪く答えた
「部活動を立ち上げるってのは嘘じゃないわよね?」
「もし、これが嘘やったら、剣道部の皆さん連れてボコボコにしてください」
「ボコボコって」
紗耶香の顔に笑顔が浮かぶ
「あー、なんかスッキリしたわ。ごめんなさいね、気負わせるような事言っちゃって」
「いえ、何かやるにしてもやらかすにしても、茶々入れるほど野暮ちゃいますんで。応援してますよ」
「ありがとう。そう言ってくれるだけで充分ってことね」
お互いにコップからは飲み物は無くなっており、時計も18時を回っている。
窓から見える風景には陽の光もわずかに薄く残っているというので、そろそろ帰り時だろう。
しかし、今度は継男から話を切り出した。
「ですけど、こうしてお誘いを受けて、何も無しというのはお互いに後味が悪いと思います」
「いや、もう良いわよ。気にしなくって」
「そう言っていただくと嬉しいんですけど、壬生先輩にもあるように、これは僕の矜持というか、宇井保の嫡男としての心構えですわ」
「でも、入部はできないんじゃ」
「ですけど、支援はできます」
「支援?」
紗耶香はテーブルに身を乗り出す。
もしかしたら、勧誘は失敗したとしても、支援というのは美味しい話だ。聞き逃す理由がない。
「壬生先輩、僕の家…というより僕は資産を、銭をそれなりに持ってます」
「お金を?」
「そうですな。証拠ということで、こちらご覧ください」
「……っ! これって」
継男が端末を操作すると、見せられたのは電子通帳だ。
紗耶香が恐る恐るそれを手に取ると今まで見た事も無い0の数に、桁を何度も数え間違えてしまう。
「どうでしょう、信じてくれました?」
「……ええ。すっごく」
「それは良かった。ですけど、タダでとはいきません」
「そりゃそうよね」
銭の話となって無条件で融通してくれるわけがないのは当然の道理だ。
世の中には30億を無利子でポンと貸してくれるような人もいるらしいが、少なくとも彼はそうではなかった。
「そんな小難しいもんちゃいますけど、もし剣道部が1カ月以内に実力をお見せいただければ、いくつか寄付させていただきます」
「私だけじゃなくて、あくまで剣道部って枠での実力ね」
「そうです」
「例えばだけど、なにをすれば良いの?」
「それは、ご自身らで考えてください」
意地悪な答えであったが、彼の笑顔に毒気はなかった。
先ほど魅せられたあの財産から貰える寄付の額を考えると、むしろ良い謎解きのようなものだ。
話を了承した二人は、ようやく食堂を出て校門、そして駅へと向かう。
「宇井保くんって、実家は何してるの?」
「馬主です。オーナーブリーダーってやつですわ」
「あぁ、それで」
あれほどの資産をこの齢で持つには、何らかの家業があってのことであろう。
そう思えば、あの2時間にわたる競馬概論Iは納得できるものであった。全く理解できなかったが。
「それじゃ、ここでお別れっすね。クラブ勧誘頑張ってください」
「ありがとう。あなたも立ち上げ頑張ってね」
「ありがとうございます」
キャビネットに同乗することもできたが、別れるには良いタイミングであった。
翌日のことである。
部活動勧誘期間が始まったことで第一高校の雰囲気は浮足立っていた。
ありとあらゆる部活動がこれだ!と思った1年生に声をかけては、腕を引っ張り、無理な勧誘をしている。
「なんでついてくるんだよ!」
「部活動には参加したくないけど、ぶらぶらしてるだけで誘われるんやで? それやったら風紀委員と一緒におった方が無理な勧誘にも巻き込まれんやろ」
「押しに弱い性分でも無いだろうに」
「断られた時のしゅん……とした顔に弱いの」
森崎駿はいらだっているように見えるが、少なくとも二科生でありながら風紀委員となった奴を鑑みると、継男は良い吐き出し先であった
何はともあれ、風紀委員の腕章にCADを提げる事が許されていると言うのは、認められているようで、心強い気分である。
「にしても、お祭り騒ぎやな」
「部活動それぞれの大会もそうだが、九校戦にも絡んでくるからな。どこも必死さ」
「もうちょっとのんびりしたらええのに」
「前々から気になってんたんだが、本当に部活動を立ち上げるのか?」
「おう、折角学びの環境が整ってるとこなんやし、それに授業で競馬のことなんか教えてくれへんしなぁ」
当たり前だろ、とツっこむがこの幼馴染の日頃の口ぶりから納得する自分がいるのも事実だ。
しかし、彼の言う通り風紀委員の腕章は効果を発揮していた。二人が通る道で勧誘の声が小さくなったり、1年生への囲みが散り散りになったりとしたのだ。
日頃から仏頂面の森崎駿の後ろに、背丈は同じ程とはいえ口やかましい関西弁の男子というのが知らず知らずのうちに圧を醸し出していたのだ
「さっきの凄かったよな……」
「二科生の風紀委員なんてのが凄いけど、それで剣術部の連中倒したんだもんな」
すれ違いざまに聞こえた先輩たちの会話。
まるでこちらに伝えているかのように聞こえるのは被害妄想だろう。
案の定、事が起きてしまったかと他人事のように考える継男に対して、森崎の表情がにわかに怒りの色を覚え始める。
二科生の風紀委員、というワードが発端であろう。
「めっちゃ怒ってるやん」
「どうしてアイツが……」
継男のからかいを余所に、森崎は怒りのあまり悩み込んでいたように見える。
高校生だというのにそこらの人間よりも誇り高く、そしてそれに見合うだけの魔法を磨いてきたことを継男は多少知っている。
良い感じに歪んできたが、思いつめる事でもないだろうと思った継男は、彼の目前で猫だましを食らわせた。
「っ、なにを」
「もっと気ぃ張ろうや。高校生やねんからさ」
ハッとしたというわけでもないが、思考が切り替わったようである
「気にするな」と言わない辺り、継男は森崎を理解していると言えば良いのか、それとも無頓着なだけなのかは、森崎駿がどう解釈するかであろう。
「しかし、剣道部と剣術部か…」
「まぁ、一つの諍いなくして、はいおしまいとはならんわな」
「剣道部も剣道部だよ。魔法を使わない剣技だけの部活動を、どうして魔法科高校でやるんだか」
「ええ事聞いたわ。その言葉、近いうちに度肝抜かせたるわ」
「どういう……はぁ」
嫌な笑顔だ。競馬狂がレース前や競馬新聞を読みながら見せるアレだ。
こうなった継男はどうしようもないことを森崎は知っているので、言葉も返さない。
立ち上げるという部活動が何をするかはおおよその見当はついている。その方面の事をやるのだろう。この『魔法』科高校で
魔法師の端くれとして、本来なら怒鳴り声の一つでもあげるのだが、継男が、いや宇井保家の家業と付き合いがある以上、ため息で済ませるしかできないのだ。
「壬生さんが桐原さん倒したのもすごかったよなぁ」
「私も剣道やってみようかなぁ」
またも会話が聞こえてくるが、この道は恐らくそういうルートなのだろう。
「壬生先輩ってほんまに凄い人やねんな」
「知り合いなのか?」
「そういう森ちゃんは?」
「名前だけしか知らない。一昨年の大会で良い成績残してたってぐらいかな」
「そう言うてたなぁ」
「言うてた、って。誰から聞いたんだ?」
「壬生先輩本人から」
「は? なんで?」
「昨日の昼休み、助けたって女子生徒が壬生先輩やったんよ。そんで昨日放課後、森ちゃんちょうど帰ったあたりで、俺んとこ来てな? お礼に奢ったってん」
森崎は驚かなかった。むしろ、そういう事だったかと落ち着いていた。
「となると、デモンストレーションの順番が変わっていたら今聞こえてきた騒動も
無かったってわけか」
「いやぁ、俺も一科生二科生の云々が部活動にまで響いてるとは思わんかったわ。となると、昨日の事が無くても起きてたんちゃう?」
「それもそうだな」
ここに至って、森崎はつい先日のことを思い出した
ドリンク全混ぜジュースで飲み潰れた時に、はぐらかされたあの疑問を今聞いてみようと思ったのだ。
「なぁ、継男」
「うん?」
「お前、一科生二科生っていうのを、何と言うか、どう思う?」
「そやなぁ……」
珍しくもないが、思案中の表情を見つめてしまう。
「部活動に限って言うなら、俺に頭下げに来ればええと思う」
「……その心は?」
「どういう諍いかは各部活動によりけりとしても、要は銭の問題やろ。それやったら俺に一声かけてくれたら、限りはあるけど出せるもん出せるで? 現に、それで一つ話つけてるしな」
「昨日の壬生先輩か」
「そや。尤も、まだ話しただけやから、具体的な金策はなぁんも無いんやけどな」
その話も気になるが、森崎が気にしているのはもっと根本的なところであった
恐らく、それを聴いて自分の認識が改まると言うのは無いが、彼の価値観からして一科生二科生という分別はどう映っているのか、という興味がないではないのだ
「そういうのじゃなくてだな、継男。一科生二科生の『制度』について、どう思うんだ」
「俺に言わせれば……」
制度という言葉を強調したおかげか、継男は即答した
「(馬が合わない、ってやつなんだろうな)」
下校の途上、森崎は昼間に言われた幼馴染の言葉を思い出していた。
怒っている訳では無いのだが、どこか足取りが力んでいる。
結局、思っていた通り認識が改まったということはない。一科生は一科生で、二科生は二科生だ。
宇井保継男という男の認識も改まる事は無いだろう。もう出来上がっていると言っても良いかもしれない。
それだけにあの答えがどうにも頭に残っている。即答しなければ考えがまとまっていないとこもあるかな、と思えるのだが。
そう、別にお互いの価値観に何ら変化はないのだ。それにこれまで通りの付き合いから、あの答えも想像の範囲内だなとすら思う。
どうせ明日からまた競馬の話題で絡まれて、あれこれと付き合わざるを得ないんだ。忘れな草がどうのとか言っていたな。たまには出馬表ぐらい見ておくか。
一晩寝れば、あの言葉も忘れてしまうだろう。そう思い、最後に彼の声付きで反芻した。
『俺に言わせれば、花も草も、お馬のおやつになればええんや』
正直、変なプロットになってると思うのと、森崎くんちょっと大人びてない?って自覚はあります。あと、競馬方面の知識も怪しい&自信ないとこある……。
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