岸辺露伴は走らない   作:ボンゴレパスタ

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岸辺露伴は調べない13

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウマ娘として、なすべきこと…?」

 

 

怒っているのか、それとも呆れているのか。何の感情の色もうかがい知ることができない、ただエアグルーヴが発したその一言を反芻させるかのように、ルドルフの一言が室内にこだまする。

 

 

「その通りです。私もはじめ、この世界に彼を…トレーナーを連れてくることができた時、私は舞い上がりそうな心地でした。愛する人が目の前にいる、そしてその肌に触れることができる。これがどれほど幸せなことか……」

 

 

「であれば、君のなすべきことは一つだろう…ッ。今すぐその手を放して、君は自分の大切なトレーナーを持って帰り、愛を確かめることだ!」

 

 

今まで色を窺い知れなかった彼女の顔から、突然感情が噴出する。それは即ち、隠し切れない動揺と混乱、そして焦り…様々な感情が綯交ぜとなったその声色を震わせながら、エアグルーヴの顔をにらみつける。

 

 

「…だからこそ。手に入る距離になってしまったからこそ、私は周りが…そして彼のこと自身を考えることさえもできなかった。本来愛しあうことは、二人の感情をもって初めて成立するというのに」

 

 

「そして私たちは、あろうことかウマ娘としての本分である「走る」ことすらも蔑ろにしてしまった。これは私たちウマ娘にとって怠惰であり、大きな罪です。そしてそれは…私たちを傍で見続けてくれていたトレーナーたちの想いさえも蔑ろにすることに他ならない」

 

 

「……」

 

 

エアグルーヴは静かに、そしてまるで許しを請うように基樹の方へと視線を向ける。その視線は、地面に屈し贖罪を願う罪人のそれであった。基樹はその言葉に唾を飲み込むと、それを見たエアグルーヴは再び言葉を続けた。

 

 

 

「……ごめんなさい。君のことを度外視して、気持ちを図れていなかった。許してくれとは言えない。基樹、君を元の世界に戻すことでその贖罪とさせてくれ」

 

 

そう言う彼女の脚は、目に分かるほど震えていた。言葉ではそれを明確に示し、態度で現したとしても、基樹から拒絶されることを明確に恐れている。

 

 

この学園に来てからの、彼女との日々を振り返る。果たして、僕は何をしていたのだろうか?彼女は変わろうと努力していた。必死に思い悩み、葛藤し、そして一つの答え…愛する者の想いを尊重するという選択をした。

 

 

……それなら僕は?

 

 

僕にできることは、一体なんだろうか?彼女が歩み寄ろうとしている中、僕はただそれに向き合おうとも逃げてばかりだった。

 

 

向き合わなければ。

 

 

彼女に、彼女に伝えなければ。

 

 

その瞬間、基樹が意を決し口を開こうとしたその瞬間。鋭い一言が飛び込んだ。

 

 

 

「……ふざけるな」

 

 

 

それは紛れもなく、皇帝・シンボリルドルフから発せられた言葉だった。その言葉に静かに彼女の方へと視線を向ける周囲をよそに、ルドルフはその抑えの利かなくなった想いを噴出させた。

 

 

「今さら善人ぶるつもりか!君だってシャカールたちからPCを取り上げるのに、加担しただろう!それを今さら……なにを都合よく!……それに「走る」ことがなんだって!?知ったことか、そんなことは!やっと会えたんだ…!ずっと画面の向こうで、私のことにすら気づいてもらえない……!そんな生活に戻るのはまっぴらだ!それにエアグルーヴ。もしも、もしも……君の言っていることを認めてしまったら……!」

 

 

 

それはもはや皇帝としての秩序も、暴君としての破滅さえもかなぐり捨てた、ただ一つ。愛する者に恋焦がれる年相応な少女の姿があった。

 

 

「カイチョー……」

 

 

「会長……」

 

 

周囲のウマ娘たちは、その様子に言葉を失っていた。もはや目のまえのウマ娘には、かつてその知性と大志、統率力を以てして学園を導いていた皇帝としての面影は完全に消失していた。

 

 

最早、振り下ろさんとしていた拳の力も、完全に逸していた。エアグルーヴはその手を離すと彼らを連れだって、そこをあとにしようとした。

 

 

「……まて。誰が逃がすと言ったんだ?捕まえろ!一人のこらず、捕まえろ!」

 

 

 

その言葉に、もはや動き出そうとするウマ娘はいない。彼女たちは心の中で、エアグルーヴの言葉に納得してしまっていた。自分たちの走りを、そして成長を間近で見守っていたはずのトレーナーの心を裏切ってしまうことになる。その敢然たる事実の前に、ウマ娘たちの意思も完全に竜頭蛇尾となってしまっていた。

 

 

「今のあなたは、会長としての姿を見失ってしまっている……残念です。」

 

 

その視線には、明らかな悲しみが刻み付けられていた。エアグルーヴは最後にそうつぶやくと、露伴たちを連れ立ってそこを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に取り残されたのは、シンボリルドルフとその彼女の私欲によって言葉巧みに焚きつけられ、梯子を外されてしまったウマ娘たち。エアグルーヴが去り際に放った一言は、ルドルフの頭を擡げさせるには十分な威力だった。頭を下げるルドルフに、ブライアンは彼女らしからずおずおずと声をかけた。

 

 

 

「会長……」

 

 

「連れ戻せ」

 

 

「…もうそれくらいに…」

 

 

既にウマ娘たちの間には彼女たちを駆り立てていた衝動は完全に失速し、その間には疑念と困惑が広がっていた。本当にルドルフの言ったことは正しかったのか?自分たちがやろうとしていたことは正しかったのか?その疑念は波及的にひろがっていき、ウマ娘たちはその足を踏みとどまらせる。もはや冷静さを逸し、ひたすら意地と執念のみでつき進むことしかできなくなったルドルフの指示に付いていこうとするものはいなかった。

 

 

 

……これはまずい。

 

 

この状況になっても、こと彼女…ルドルフは未だ諦めていなかった。会長としての威厳、そしてウマ娘としてのあるべき姿を否定してしまった自分にはこれしかない。これを失ってしまえば、今の、今の私にはもう……

 

 

彼女たちを追跡するには、一人では足りない。

その執念を突き動かすためにも、ルドルフは彼女たちを追跡しなければならない。そしてそれには人手がいる。

 

 

「君たちは本当にそれでいいのか…?ここを逃せば、君たちは一生後悔の念を抱きながら生きていくことになる」

 

 

「……どういうこと、カイチョー?」

 

 

……食いついた。

 

 

ここまでくればこっちのものだ。会長という肩書を破り捨てた彼女ではあるが、そのカリスマ性が消失したわけではない。ルドルフはいつもの如く人々を勢い付かせ、その心を掌握さするために言葉を織りなしていく。

 

 

 

「もう一度言う。これは私たちの人生を賭けた局面だ。君たちの思い焦がれる人は、私たちが実在し、想っていることさえも知らない。私たちの存在を知りもせず、私たち以外の伴侶を見つけ、幸せな家庭を築き上げる!そんなこと、許していいのか!チャンスさえないんだぞ!私たちにははじめから!」

 

 

 

 

その言葉に、辺りには目に見えて動揺が広がっていく。彼女、唯一の正気に戻ったエアグルーヴとは異なり、彼女たちはそもそも意中の人間とは会ったことさえない。いくら彼女が苦悩し、苦渋の決断をしたところでその言葉は甘言一つであっという間に塗り替えられてしまう。

 

 

 

 

 

「君たちは、唯のゲームのキャラクターとしてしか認識されない!愛されることはおろか、愛していることを知られることもない!もしかしたら、君はトレーナーたちが愛する伴侶が慈しみながら日々を織りなしていくその様を、何もすることができずただ画面の向こうで指をくわえてみることしかできないんだぞ!」

 

 

 

 

とどのつまり、環境が異なる人間の言葉とは中々芯に届かないというのが現実なところである。エアグルーヴがどれほど思い悩み、苦渋の決断を下した身だったとしても、大多数のウマ娘たちはそもそも担当トレーナーに実際に会えたことすらない。ルドルフの言葉は、その境遇の彼女たちの心を的確に突き、そして刺激していく。

 

 

「一目会うだけでいい、それでいいじゃあないか!それだけでも!一言話すだけでも!その肌に触れるだけでいい!想いを伝えるだけで!」

 

 

興奮と共に、その要求も拡大していく。その拡大する想いは、醜悪な願望を覆い隠すその言葉は、既に尻すぼみと化していたウマ娘たちの想いを、そして執念を再燃させるにはあまりにも十分すぎる燃料だった。

 

 

「……」

 

 

「さぁ行くんだ!私たちの希望を!そして裏切り者を捕まえにいくんだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで……君は誰なんだい?」

 

 

文字通り救世主であるエアグルーヴの登場によってひとまず窮地を脱した一行は、あてもなく……先程の饐えた匂いを放つ一帯から少しでも遠ざかろうと足を繰り出していた。

 

 

露伴の視線はエアグルーヴのそばにいる男に注がれていた。その頬には手入れのされていないまばらな髭が浮いていて、手首には痛々しいあざが浮き上がっていた。男は申し訳なさそうにポリポリとその髭の浮いた頬を指でかきながら、徐に口を開いた。

 

 

「俺は穂積元博っていうんだ……元々杜王町でルポライターやってたんだけど、この世界につれてこられちまって。一応ゴールドシチーが担当だ」

 

 

「……君も相当苦労したんだな」

 

 

元博の様子を見つめたタキオンの言葉に、元博は静かに苦笑を浮かべる。基樹はその時、あの光景……初めてこの世界に連れてこられたことに気が付いた時に、シチーによって連行されていく彼の姿を思い出していた。あれから彼はずっと監禁状態にあったということだろう。

 

 

「……まぁ、なんていうか。もう君たちの計画?ってやつも終わりに近づいているんだろうが、ただ乗りしようかな、なんて」

 

 

「この時点で逃げようたって、一人も二人も変わらない。一緒に行こうじゃあないか。」

 

 

そう露伴が言葉を返すと、一同はそれぞれ走り始める。基樹の目に映った元博の表情には、何処か迷いがあるようにも見えた……それは自分と同じ悩み。この世界に連れてこられて、同じように悩んでいる僕にだからこそわかるこの痛みを、この人も抱えているんだ。

 

 

「あの……元博さん」

 

 

「んん?なんだ?アンタはそこのエアグルーヴさんのところの……」

 

 

その言葉に頷くと、基樹は徐に核心をつくように話題を切り出した。

 

 

「多分ですけど、元博さんも悩んでいると思うんです。僕は元の世界だとうだつの上がらない会社員で…この世界に来て大変なこともあったけど、同時に彼女に…エアグルーヴが本当に存在していることを知りました。そして彼女が僕を愛してくれているってことも」

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

「暴走してしまうことはありましたけど、それは僕たちが向き合ってこなかったことにも一因はあると思うんです。彼女たちに歩み寄ってもらうなら、僕たちも歩みよらなきゃって……ようやく気が付いたんです」

 

 

 

やはり元博自身にも、思うところはあったのだろう。やりばのなさそうに視線を下げる元博を見つめると、自身に言い聞かせるように基樹は言葉を続けた。

 

 

 

「……僕自身、まだ答えを出せていません。それでも、僕ももう逃げたくない……必ず結論を出します。元博さんも……どうか後悔がないように」

 

 

「あぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、後方から凄まじい勢いでウマ娘たちがこちらに向かってくる。

 

 

「どうやら皇帝殿は威厳を取り戻したようだねぇ」

 

 

再びその情念の炎に身を焦がす彼女たちは、その障壁となりうるエアグルーヴたちを捕まえようと躍起になって向かってくる。エアグルーヴはシャカールに振り向きつつ大きな声で尋ねた。

 

 

「AIソフトは解除できるのか!」

 

 

「やらなくちゃあならねーだろ!少し時間をくれ!」

 

 

「彼女が作戦の要だ!分かれて追手を拡散しよう!彼女を追手に捕まらないようにするんだ!」

 

 

エアグルーヴの提案に、一同は同意の意を示す。

やがて分かれ道がやってくると、それぞれが一人、また一人と脇道に移動してウマ娘たちをひきつけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて一つの道にそれた時、露伴は自身が作戦の最重要人物と言えるエアシャカールと一緒であることに気が付いた。

 

 

「さながら僕が君のSPってわけかい。ホイットニーヒューストンを警護するケビンコスナーって気分だね」

 

 

「……ンだそれ」

 

 

「……今度観てみるといいよ」

 

 

いずれにしても、彼女を敵の手に渡すわけにはいかない。幸い敵は後方にいないようだ…他の仲間たちがうまく誘導してくれていたらしい。

 

 

「シャカール!一番作業に適していて、敵からの追跡をかわせて落ち着いて作業できるところはどこだ!」

 

 

「なンちゅう無茶ぶりだ!そんなところあるわけねぇだろ…っていや」

 

 

「あるのか!?」

 

 

「一つだけある!旧校舎の屋上にいくぜ!あそこなら屋上への入口さえ塞げば、外部からの侵入を防げる!」

 

 

……そこを突破されれば、逃げ場がなくなってしまう。まさに背水の陣ともいえる場所となることに変わりはないが、もはやそこしか居場所がないとすれば、そこに向かうしかないだろう。

 

 

「行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やれやれ、一人になってしまったねぇ」

 

 

アグネスタキオンはそうぼやきながら足を繰り出す。固まっているより人を分散させることができ、また露伴たち人間と行動を共にして足を引っ張られるよりはマシと考えた方がいいだろう。

 

 

「さてさて、追手は……」

 

 

タキオンが後方を振り向くと、背後にはおびただしい数のウマ娘たちが自身をめがけて追いかけてきていた。

 

 

 

「……なるほど。ジャックポットは私ということかい」

 

 

 

「タキオン~~~~!」

 

 

「逃がしません……」

 

 

先頭には見慣れた姿…先程タキオンとひと悶着あったテイオーとカフェの姿があった。ここまで執念深いとはいやはや恐れ入った。この執念深さがレースで勝利する所以なのかねぇ、などと心の内に思いながら、タキオンは前方へと視線を戻し、足に力を送り込むとその速度を上昇させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……畜生」

 

 

 

監禁から解放されたというのに、今度は追いかけっこか。

元博は懸命に足を繰り出すが、およそ1週間もの間ほとんど足を繰り出すことができなかったため、その衰えを痛感していた。もつれそうな足を懸命に繰り出しながら、元博は校舎裏へと足を繰り出していく。

 

 

「……さっきそこに誰か入ったわ!」

 

 

後ろの方から、複数のウマ娘たちの声と足音が近づいてくる。その声色や荒々しい足音を聞けば、彼女たちの心理状態がどのようになっているかは想像に難くないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウマ娘たちが校舎裏へとなだれこんでくる。彼女たちはしきりに足を掻き、耳をハタハタと動かしながら周囲を隈なく見渡しながら前進していく。

 

 

「だれもいないわ!」

 

 

「あっちの方に逃げたんじゃあないの!」

 

 

ウマ娘たちは猛々しく声を張り上げながらその場を走り去っていく。やがてその場から足音が完全に消失すると、小山となっていた落ち葉の山から元博が姿を現した。

 

 

「……危なかった」

 

 

寸でのところでこの策を思いついたのは良かったが、もしもあのまま手放しに彼女たちに捕まってしまえば、どのような目に遭うかは想像に難くないだろう。疲労が蓄積された身体に、真綿に染みた水のように恐怖が浸透していく。

 

 

「……トレーナー?」

 

 

 

 

 

 

最悪だ。よりによって、今彼女に出会うことになるとは

 

 

「シチー……」

 

 

声のした方向を振り向くと、そこには今一番会いたくない人物…自身の担当ウマ娘であるゴールドシチーの姿があった。彼女の顔には、なぜここに元博がいるのかという動揺、そして彼が既に逃げようとしていたという絶望、そして焦りや怒り……様々な表情が綯交ぜとなってありありと刻み付けられていた。

 

 

「……アンタも、いなくなるの…?」

 

 

シチーの口から発せられた、その一言。その一言は、反対方向へと反射的に逃げ出そうと覚悟した元博をとどまらせるには十分だった。

 

 

どうやら基樹が言っていた決断の時とは、今この時を指すようだ。自身が無意識の内に目を逸らし続けてきたことへの清算が、その逃れられない運命が自身の足元に忍び寄っていくのを感じる。それでも今この場が審判の時であるというのならば、立ち向かうしかないということだろう。

 

 

「シチー……話がある」

 

 

もう逃げたくない。自身の運命から、そして彼女から。

 

 

元博は意を決すると、静かに彼女の方へと歩み寄っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

神の悪戯か、それとも運命か。

基樹が無我夢中に校舎内を駆け巡っていた時、囮として自身の隣にいたのは自身の担当ウマ娘、エアグルーヴだった。

 

 

…僕もそうだ。

 

 

元博に講釈を垂れた自身だが、彼に掛けた言葉をなさなければならないのは紛れもなく自身の方だ。彼女は苦難を、その身を焦がしつくすほどの情念と、ウマ娘としての本懐……愛する者の想いを尊重するという信念の間で揺れ動き、こちらに歩み寄ってきてくれた。彼女は一度手にした宝物を、その檻籠の鍵を放ち大空に放つことを選択したのだ。

 

 

そんな彼女に、僕はなにもしてあげられていない。

 

 

そんなことを考えていると、後ろから追手が凄まじい勢いで走り寄ってくる。するとエアグルーヴと基樹は校庭の隅に付設された用具入れとなっている倉庫へと駆け込んでいく。

 

 

エアグルーヴは一足先にスピードを上げて倉庫へと駆け込むと、基樹の方へと手を伸ばした。

 

 

「捕まれ!」

 

 

その言葉に基樹はまっすぐ頷くと、倉庫から手を差し伸ばす彼女の手を取り、その中に飛び込む。そして倉庫の中にあったロッカーやボール籠、モップといった様々な用具を扉の前に積み上げて即席のバリケードとして設置していった。

 

 

 

扉の外から、無数の扉を叩く音が響き渡る。エアグルーヴと基樹は室内の中央へと引き下がると、ひとまず一息つこうと腰を下ろした。

 

 

「……」

 

 

室外の騒々しく行動を起こすウマ娘たちとは対照的に、室内には不自然な静寂が支配していた。しばらくそのような空気が流れたあと、その静寂を打ち破ったのは意外にもエアグルーヴからだった。

 

 

 

「……すまない」

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

「さきほどは勢いで言ってしまったかのように思えるからもしれないが、あれは本心だ。貴様を…いや、基樹をこの世界に連れ込んでしまったのは私のただのエゴに他ならない。こんなことになってしまって本当にすまない。」

 

 

その語気は明らかに不安で震えている。エアグルーヴは決断した。一つのことを捨て、ここに自身の信念に殉ずることを選択した。今度は自分の番だ。ここがまさに決断の時であるなら、僕も一歩前に踏み出さなければならない。

 

 

「エアグルーヴ」

 

 

 

 

「……?」

 

 

 

 

「……話があるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旧校舎の屋上へとたどり着いた露伴たちは、鎖やイスで屋上の扉を外部から侵入されないようにつなぎ止め、積み上げるとシャカールはPCを開き再びAIソフトを解除するために奮闘を始めた。

 

 

「……どうなんだ?」

 

 

露伴の問いかけに、シャカールは荒々しく髪を手で掻くと苛立たし気に声を発した。

 

 

「……クソッ!やっぱこいつは自分自身で進化し続けているッ!俺が当初開発したものとはもはや別物で、その知能も遥かに凌駕してる……!」

 

 

「…ダメなのか…?」

 

 

「諦めてどうすンだ漫画家先生よぉ!ギリギリまでやってみなきゃわからねぇじゃあねーか!」

 

 

その瞬間、旧校舎の上の空が不自然に歪みが生じると、そこからブラックホールのように黒い渦が徐々に広がっていく。

 

 

「……あ、あれは!」

 

 

 

「……多分こいつが並行世界への移動方法の糸口を掴み始めたンだ……まじでやべぇぞ、急がねぇと間に合わねぇ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは……」

 

 

 

 

 

ルドルフは旧校舎の頭上に突如発生した黒い渦を見上げていた。あれはおそらく、AIソフトがこの世界から向こうの世界への完全なアクセスを可能にする方法を見つけ始めたと言ったところだろう。もう少しで願いは成就する。もう少しで……

 

 

 

 

 

 

「……今行くよ、トレーナー君」

 

 

 

ルドルフは加虐的な笑みをその顔に張りつけると、旧校舎の方へと駆け出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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