岸辺露伴は走らない   作:ボンゴレパスタ

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岸辺露伴は歩まない7

 

 

 

 

 

 

 

「君を助けに来た」

 

 

その張り詰めた空間には希望など介在する隙など微塵も感じられない…絶望と憎悪だけが飽和したその場所に放たれた一言。

 

 

「誰だアンタは?こっちは指導中なんだ…邪魔しないでいただきたい」

 

 

「こっちの世界の恭也君は随分と乱暴なんだな…まぁスカイ君の様子を見たらわかり切ったことだったが…」

 

 

睨みつける平行世界の恭也に対して、露伴は涼し気な…しかしその瞳の中に確かな激情を宿しながら彼の視線に返した。

 

 

「……どうしてですか?」

 

 

一体どうして。どうして彼は私のことを追ってきたのか。追ってきてほしくなかったのに。追ってほしくないから、何も言わずこの世界に帰ったというのに。その目に溢れんばかりの涙をためるスカイを見つめると、露伴は恭也の手を振り落としてスカイを立たせると、その場から立ち去ろうと試みた。

 

 

「おい…どこへいく…捕まえろ!」

 

 

平行世界の恭也の指示に従って、その傍に呆けていたウマ娘たちが一斉に彼らをとらえるために身構え、一斉に飛び交っていく…やがてその身体が一箇所に収束する。その瞬間彼女たちはまるで糸の切れたマリオネットのように力なくその場に倒れ込んだ。

 

 

「……は?」

 

 

平行世界の恭也は自身の理解の範疇を逸脱したその光景に素っ頓狂な声を捻り上げた。人間が力でウマ娘に到底敵うはずはない。それなのになんだこの光景は……捕らえにかかった数人のウマ娘が一瞬で無力化されてしまった。口をパクパクさせて立ち尽くす恭也を余所に、二人はその場を立ち去ろうとする。そして露伴は恭也の方を見やると、徐に口を開いた。

 

 

「………もう少し彼女のこと、見てやるんだったな。僕が言うのもなんだが、お前が彼女に向き合おうとせず、歩み寄らなかった結果がこれだ……お前はトレーナー失格だ」

 

 

露伴がそうセリフを吐き捨てると、震えている彼女を連れ立ってその場を後にする。スカイは去り際に彼に何か声を掛けようと立ち止まったが、やがてそのまま露伴に遅れを取らないように歩いて行った。後に一人で残された恭也はがっくりと地面に崩れ落ちると、その拳を天に付き上げて勢いよく地面に叩きつけた。

 

 

「ふざけるな……」

 

 

平行恭也の口から漏れ出た一言がその場に霧散する。僕が、トレーナー失格……?あいつは僕の傍から離れる…?そんなこと許してなるものか。必ずあいつを連れ戻さなければならない。叩きつけた手から皮膚が裂け、そこから血が垂れ流れている。彼は震える手でトランシーバーをつかみ取った。

 

 

絶対に逃してなるものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スカイは露伴の後を覚束ない足取りで付いていく。露伴はそんな彼女に視線を送ると一目の付かない場所へと移動すると彼女に休憩を取らせた。

 

 

「……それにしても物騒な連中だな。これが君たちの世界の常識なのかい?」

 

 

露伴の憎まれ口も、この場においてはその緊張を和らげる良い薬となる。スカイはようやく恐怖によって硬直していた自身の身体が解れてきたことを実感すると、露伴にお礼を言う為に彼の方へと向き直った。

 

 

「本当に……本当にありがとうございます。でもどうしてこの世界に……?」

 

 

「さっき奴にも言ったが、君が消えるのを防ぐためと言ってこの世界に戻ってきたといってもその環境自体が改善されているわけじゃあない。「人生も環境も自分次第」なんて無責任なことを言うやつもいるが、そこから抜け出すのには大きな苦労と犠牲が伴うってものさ。平行世界から戻ってきた君を、連中はおいそれと認めるわけがないだろうからな」

 

 

「……そうですよね。私に居場所なんて……この世界に私の居場所は」

 

 

 

あの場から逃げて自由になることができた気がしたからといって、状況が好転したわけではない。やはり私に居場所なんてあるわけないがないのだ。そう肩を落とすスカイに対して露伴は徐に口を開き言葉を掛けた。

 

 

「確かに……確かに今僕は一歩踏み出すには苦労と犠牲が伴う、そう言った。正直に言ってしまえば、この世界の君の身の振り方まで世話をしてやれるわけじゃあない…だがそれはこう言い換えることもできる。その覚悟さえあれば……荒野へとその一歩を踏み出す覚悟さえあれば……道は開けるのさ」

 

 

「……!」

 

 

露伴の一言にスカイはその顔を上げる…しかしその瞬間、学園中にノイズ混じりの放送が響き渡った。

 

 

中等部3年〇組、セイウンスカイが「指導中」に逃亡…繰り返します。セイウンスカイが「指導中」に逃亡。委員の方々は発見次第拘束、指導室まで彼女を連行してください。

 

 

「……まったく、指導だの委員会だの穏やかじゃあないな…ここら辺を闇雲に逃げても仕方がないだろう。こうなったら一度元の世界に戻って何か策を考えよう」

 

 

「……!でも…」

 

 

「あぁ、確かにこれは応急処置だ。君は僕たちの世界に留まれるわけじゃあないし、あくまで何か打開策が浮かぶまでの時間稼ぎだ…だがこのまま指をくわえて奴らに捕まるよりマシじゃあないか?」

 

 

露伴はそう言うと、スカイに手を差し伸ばす。確かに彼の言う通りだ。このままここにいても、なにもしないままでは状況はなにもよくならないし、闇雲に逃げたところで捕まってしまうのが関の山だろう。スカイは露伴の提案に頷くと、彼の手を取った。

 

 

…まったく、もう2度と追いかけっこは懲り懲りだと思っていたんだがな。

 

 

露伴はそう心の中でつぶやくと、大樹の洞に向かって走り出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたぞ!」

 

 

迫ってくる追手をそのたびにヘブンズドアーの能力によって無力化しながら、二人は大樹の洞に向かって突き進んでいく。やがて目的地である大樹の洞まであと少しのところで二人の身体はぴたりと立ち止まった。

 

 

「……この数はさすがにヘブンズドアーじゃあ…」

 

 

目のまえには数十人の追手のウマ娘たちが立ちはだかっている。大樹の洞に向かうにはこの数の追手を搔い潜る必要があるが、目のまえにいるウマ娘たちの数を見れば、横にいる平行スカイのことを守りながら、そして自身の安全も確保しながら進むのには聊かその数は多すぎた。

 

 

 

「……まったく!」

 

 

考えても方法は他にない。露伴は平行スカイの手を引くと、一直線で追手に向かって突き進んでいく。標的がこちらに近づいてきたのをいいことに、追手は一斉に二人を取り押さえようと向かってくる…やがて露伴は自身に近づいてくるウマ娘たちに自身の能力であるヘブンズドアーを発動させて片っ端から無力化させていったが、それも多勢に無勢で追手に幾重もの列となって二人は取り囲まれてしまった。

 

 

「……なっ」

 

 

こうなってしまったらどうしようもないだろう。徐々に円を狭めていく追手を目のまえにして、二人はその逃亡劇の終わりを覚悟して瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうやらお困りのようだねぇ…手を貸そうじゃあないか」

 

 

追手たちが作った円の向こう側からそう言葉が聞こえてくると、突如円の向こうから缶のような物体が投げ込まれた。

 

 

…これは

 

 

缶を見た露伴は瞬時にそれを投げ込んだ人物が誰であるか、そして投げ込まれた物体がどのような代物かを判断するとスカイに被さり保護し、自身はその目を固く閉じた。

 

 

辺りは鋭い閃光に包まれる。何の対策もせずにその光を見た追手たちは光が視界に触れた瞬間、刺激に耐え切れずにその場にしゃがみこんだ。

 

 

「……助かった」

 

 

露伴はスカイを起き上がらせると、円の外側からこちらを愉快そうに見つめる人物、アグネスタキオンに言葉を掛けると、タキオンはその視線に応えるように肩をすくめた。

 

「…さてさて、その様子じゃあ交渉は決裂したようだねぇ」

 

 

「……あぁ、仕方がない。一度戻って態勢を立て直そう」

 

 

蹲っているウマ娘たちを飛び越えて、二人はそのまま大樹の洞に向かおうとする。するとまた後方から新たな追手が迫ってきた。

 

 

「クッ…奴らに洞に入るのを見られるわけにはいかない」

 

 

洞に入っていくのを目撃されてしまうと、追手がこちらの世界にやってくる可能性が高い。それはなんとしても避けたい事態だ…タキオンはさきほどの閃光弾と似た形状をした缶を再び後方に投げると、今度はその缶から煙が射出すると辺りを途端に覆い始めた。

 

 

「さぁ!こっちだ!」

 

 

タキオンの声に従って、二人は急いでその声の方向へと向かっていく。あとは追手に追いつかれることなく洞にまでたどり着ければ、目下の目標は達成する。そのはずだった。

 

 

「あっ……!」

 

 

煙幕の海を抜ける直前、足元が良く見えないためスカイが足を躓き、地面に倒れ込んでしまう……急いで起き上がって走り出そうとしたその時、何者かが彼女に掴みかかってきた。

 

 

「逃亡者、確保しました!」

 

 

「……!」

 

 

恐らく追手と思われる自身を掴みかかった相手の声が辺りに響き渡る。

 

 

最早ここまでかと思った直後、突如誰かが前方から飛び出してきたかと思うとスカイの身体を拘束していた追手にぶつかり、スカイを掴めないように抑え込むと、その人物は彼女に向かって声を掛けた。

 

 

「逃げろ!」

 

 

その言葉に弾かれたように、スカイは現実へと引き戻されると急いで足を繰り出していく。そして煙を抜け、その先にある大樹の洞が視界に映ると彼女はその中に飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3度目の経験からか、もともと耐性が低かった自身の身体が慣れてきたからか、今回の平行世界への移動は意識を失うことなく移動することができた。

 

 

 

 

洞から飛び出してきた一同は無事にこの世界に戻ってこれたというひと時の喜びを噛み締めていた。

 

 

「ふぅむ……もう少し平行世界が如何なるものか、観察したかったところだが……まぁあのような状態では致し方ないか」

 

 

そうぶつぶつと呟きながら自身の心拍数をはじめとした自身のデータを事細かくメモに記載するタキオンを余所に、露伴は先程平行世界から生還を果たしたスカイに声を掛けた。

 

 

「……大丈夫か?平行スカイ君」

 

 

その言葉にスカイは首を縦に振ることで返事をする。とりあえずの目的を果たしたことに露伴は安堵すると、洞の傍に控えていたルドルフに声を掛けた。

 

 

「とりあえず色々あってな……スカイ君は連れ戻した。彼女の今後については追々話し合って……」

 

 

「…………さんは?」

 

 

そこまで言いかけた露伴の言葉を何者かが遮る…一同が声のする方向へと振り向くと、彼の言葉を遮ったのはこの世界で待機していたはずのセイウンスカイだというこに気が付いた。

 

 

「……?スカイ君?」

 

 

彼女の顔は見るからに青ざめ、意識はここにはないと周囲が感じるほどの様子だった。露伴が彼女に本来なんと言おうとしていたのか尋ねると、彼女は震える声を何とか紡ぎながら言葉を発した。

 

 

「……トレーナーさんは……?一緒に向こうの世界に行ったトレーナーさんはどこに行ったんですか?」

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