岸辺露伴は走らない   作:ボンゴレパスタ

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岸辺露伴は求めない1

 

 

 

新年が明けて早数日経過した昼下がり。正月ムードだった世間は、遅足ながらもいつも通りの日々に戻ろうとしていた。サラリーマンや学生は数日ぶりに自身の心身を拘束する会社や学校への道のりを、いつもより数倍重い足取りで、その雪に敷き詰められた道の中向かっていく。

 

 

M県S市、杜王町の一角にある一軒家では一人の男……岸辺露伴の姿があった。

 

 

この男には、世間一般が送るであろう休日だろうと祝日だろうと、そして正月だろうと関係なかった。この男にとって、漫画を描くことは「生きること」そのものであり、そこには日によってペンを止めるということは万が一にも起こらない。

 

 

そのはずだった。

 

 

「露伴先生、お茶を淹れたよ」

 

 

一心不乱にペンを取る露伴の背中に向かって、声を掛ける人物が一人。露伴はその声に目もくれず、背中越しに声を返した。

 

 

「あと1ページで終わる。ちょいと待っていてくれ」

 

 

そう言われた彼女は、お茶を淹れたティーカップの内の一つをそっと露伴の仕事机の上に置き、残りのカップとお盆をテーブルの上に置くと、露伴の後ろに設置された椅子に静かに腰かけた。

 

 

彼のために淹れたお茶も、いくら彼が俊敏にペンを走らせるとしても原稿を描き終えるころにはきっとぬるくなってしまうが、そんなことは大事な事じゃあない。彼のこの姿を独占できること。これが何よりの至福だった。

 

 

露伴がわざわざ海外から発注したという、豪華な造りの椅子に背中を預けると、彼女……シンボリルドルフは静かにお茶を啜った。

 

 

カリカリ、カリカリカリ……

 

 

室内には只々、露伴がペンを走らせる音だけが静かに響き渡る。ルドルフはそんな彼が集中力を削がれることがないように、その音をBGMにして静かに彼の仕事の様子を見守っていた。

 

 

有馬記念を終えて、卒業を待つのみとなった私は、例年に比べると随分と休暇の多い年末年始となった。最初は実家に帰ろうかとも思ったが、春から新たな生活を送る許可を得たこの家にお邪魔しようと思い、露伴にダメ元でそれを頼んだところ、メールで一言「了解した」と返ってきたので、その日のうちに荷物を纏めて露伴の家に向かって、長い休日を杜王町で過ごさせてもらっていた。

 

 

露伴先生と一緒に、そして時には一人で。杜王町やS市の中心を何度か出歩いた。広瀬康一君や山岸由花子さん、そして虹村億康君や東方仗助君といった新たな友人たちもできた。

 

 

杜王町の皆は口々に、「露伴先生に彼女ができるなんて」、「彼は付き合うなんてやめておけ」と言っていたが、異口同音な意見に思わず私も苦笑してしまった。

 

 

だが、ライバルが少ない分には全く問題ない。露伴先生の魅力に気付いているのは私だけで十分じゃあないか。仗助君と露伴先生が、仲が悪いと言うにはあまりにも殺伐とした空気が二人には流れていて少々気にはなったが、それに触れるのは聊か野暮というものだろう。

 

 

肝心なことはそんなことじゃあない。ルドルフの心は先程生徒会副会長としているナリタブライアンから来たメールのことで占められていた。

 

 

やがて5分ほど経過し、露伴は静かにペンを机に置いて腕を引き延ばしてストレッチすると、ルドルフが淹れたお茶を静かに啜った。

 

 

「美味いな……そういえば君はいつから学園に戻るんだ?」

 

 

「……明日には一度学園に戻るよ。生徒会の運営をブライアンに任せてしまっている。エアグルーヴがいない今、長い間私が学園を留守にするのは頂けないからね」

 

 

「……そうか。」

 

 

ルドルフは露伴の方をちらりと見る。彼は大方来週描く漫画のシナリオについて考えているのだろう。しかし、彼には私の要求を吞んでもらう必要がある。ルドルフは意を決すると、露伴に向かって口を開いた。

 

 

「……時に露伴先生。一つ頼みがあるんだ。」

 

 

「……?」

 

 

露伴は顔を上げると、訝しげに彼女の方へと顔を向ける。そもそも彼女が頼みをするなんて物珍しいからだろう。そしてそのことが露伴の漫画家としての直感が働かせた。

 

 

「断る」

 

 

「えー――!」

 

 

驚きのあまりルドルフは思わず椅子から立ち上がる。理由も聞かずに断るなんて。抗議の声を上げようと口を開きかけたが、露伴はそれを手で制すると、言葉を続けた。

 

 

「……君が頼み事ってことは殆どないじゃあないか。つまりよほど面倒なことが起きて、それを助けて欲しいってことだろう?」

 

 

露伴の指摘は尤もだった。これは少々、否大分奇妙で複雑な事件であることに変わりはない。だからこそ、彼の力が必要なのだ。

 

 

「た、確かにこれは少々厄介な頼みだ。だが、これは本当に切実な頼みなんだッ!露伴先生!」

 

 

「断る!明後日から取材のために妖怪伝説の調査のために山に行くんだ!」

 

 

そう言いながら露伴はその場の議論から逃れるために部屋から立ち去ろうとする。何とかして、何とかして彼をこの場に留まらせなければ。ルドルフは焦って部屋の扉の前に回り込んで両手を広げて立ち塞がると、口を開いた。

 

 

「それよりも!それよりもきっと先生の漫画家としての琴線に触れる事件なんだ!頼む!」

 

 

その言葉に露伴はぴたりと立ち止まる。

 

 

「……おいおい。それをこの岸辺露伴の前で言って良いのかい?いいぜ、聞かせてくれよ」

 

 

占めた。やはり彼を立ち止まらせるにはこれしかなかった。露伴の様子を見て安心したルドルフは彼を見据えて言葉を続けた。

 

 

「……今朝、ブライアンからメールが届いたんだ。トレセン学園内で奇妙な事件が起きたと。」

 

 

「……ほう?それはどんな?」

 

 

「校舎の真ん中に大量に顔のないぬいぐるみや人形が設置されたり、イラストや落書きが設置されたり……そんな具合だ。警察も来て調査をしているが、全くと言って良いほど犯人に繋がる手がかりがないらしい。指紋一つも採集できないと」

 

 

「……うーむ」

 

 

「まだ被害者は出ていないが、このままでは学園の運営にも問題が出てしまう…頼む、露伴先生。警察がお手上げ状態な以上、頼れるのが君しかいないんだ」

 

 

 

「………」

 

 

 

露伴はその話をじっと聞きこんでいたが、やがて立ち上がるとルドルフをそっと退けると、部屋の外へと歩き出していった。

 

 

……ダメだったか。

 

 

露伴の興味をそそるようなものではなかったか。ガッカリと肩を落とすルドルフに向けて、露伴は部屋の外から声を掛けた。

 

 

 

「……おい。何をしているんだ。支度をして出るぞ」

 

 

 

「……え?」

 

 

突然の言葉に、ルドルフの目は大きく見開かれる。ルドルフはボストンバッグにカメラや画材、着替えを数着要領よく放り込むと、再度ルドルフに声を掛けた。

 

 

「……漫画のネタとしては短編にちょいと描けるかどうかのもんだが、まぁ及第点だ。さっさとその事件を解決して、妖怪伝説の調査に行かせてもらうよ。向かうは府中、トレセン学園だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新年が明けたトレセン学園。

東京の府中にも珍しく雪が降り、東北には劣るものの雪が薄く地面に降り積もっている。

 

 

タクシーから降りると、露伴はルドルフを連れ立ってトレセン学園の門の前に降り立った。

 

 

「……全く。有馬記念を終えてしばらく来ることはないと思っていたが」

 

 

「まぁまぁ。沈黙は金、雄弁は銀というじゃあないか。」

 

 

そんな会話の応酬をしつつ門を潜ろうとすると、門の向こうから一人の人物が走り寄ってきた。

 

 

 

 

「お久しぶりです、露伴先生、そしてシンボリルドルフさん!」

 

 

その人物は露伴にとっては、幾度か学園に脚を運んだ際に取材の対応をしてもらったことがある。ルドルフにとって彼女は、学園のトップの右腕として、学園の運営を共にした同志といってもいいだろう。

 

 

「たづなさん。お久しぶりです。」

 

 

駿川たづな。トレセン学園理事長秘書である彼女は、ルドルフを見据えると静かに頭を下げる。やがて彼女の案内に従って学園の中へと歩みを進めていく。やがてとある場所でルドルフは立ち止まり露伴に声を掛けた。

 

 

「少し生徒会の皆に挨拶をしてこようと思う。お土産も渡さなくちゃあならないとね……すまないが先にたづなさんから事件の話を改めて聞いておいてくれないか?私からの又聞きでは伝え漏らしていることがあるかもしれない」

 

 

 

「あぁ、了解したよ」

 

 

 

ルドルフはそう言うと、校舎内に入り、そして階段を上がると生徒会室の方へと向かっていった。残された二人は顔を見合わせると、校舎の中には入らずに校舎の外をたづなの案内に従って歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪が敷き詰められたその校舎の外を、二人はゆっくりと歩みを進めていく。たづなはいつもと変わらない柔和な笑みを…そしてそこに少々の躊躇いを携えて、彼女は徐に口を開いた。

 

 

「露伴先生はあの事件のこと、ルドルフさんから聞いたんですよね?」

 

 

やはり学園の職員として、その事件は居心地の悪いものなのだろう。漫画家の興味が搔き立てられたここに来たと言うと不純な動機を彼女に伝えることは、聊か野暮というものだろう。

 

 

「……え、えぇ。まぁざっくりとは聞きましたよ。」

 

 

「そうしたらもう一度隈なく、ご説明します。始まりは…って」

 

 

口を開きかけたたづなの顔が、驚愕の表情が浮かび上がる。露伴は一体何事かと彼女の顔を凝視すると、たづなは震える手で露伴の肩越しのある方向へ指さした。

 

 

「ほら……あれです。」

 

 

たづなの手が、ある方向へと指さされる。訝し気にその方向へと首を向けた露伴は、それを目に止めると不快そうに顔を顰めた。

 

 

「……あれは」

 

 

それは、学園の校舎のある壁中に貼り付けられた、ポスターだった。ただのポスターと言っても、ただのポスターではない。それは1人のウマ娘の顔がイラストされているポスター…と言いたいところだが、そのポスターに描かれているウマ娘の顔は、何かマッキーペンのような黒のペンで乱雑に塗りつぶされていた。

 

 

 

 

 

ルドルフから聞いただけではどのようなものかは分からなかったが、たしかにこれは悪戯と呼ぶには少々タチが悪いだろう。ウマ娘が多くいるこの学園で、顔が黒く塗りつぶされたポスターや顔のない人形を設置するとは悪趣味もいいところだ。

 

 

そのような代物のポスターが、壁一面に不規則に貼り巡らされている。センセーショナルなその光景に、道行くウマ娘たちのその脚をとめて、自身のスマホでその様子の撮影に講じている。

 

 

カシャカシャ、カシャカシャカシャ……

 

 

耳障りなシャッター音が辺りにこだまする。たづなが彼女たちのもとへ走りより、早くこの場から立ち去るようにと指示を出している一方で、露伴はつかつかと壁に近づくと、その異様な状態の代物をしげしげと眺めた。

 

 

犯人は一体誰なのか。それは皆目見当がつかないが、この岸辺露伴の興味を引かせたことについては、賞賛に値すると言っていいだろう。自身の漫画のネタに入れても面白いエッセンスになるかもしれない。

 

 

露伴は壁の状態を留めておくために、カメラを取り出す。しかしそのカメラの電源ボタンをいくら押しても、カメラの液晶画面に光が灯ることはなかった。

 

 

「……チッ」

 

 

そういえば急いで出てきてしまったものだから、取材用のカメラの充電をしないままに来てしまった。いつもならしないであろうミスにやり場のない怒りをぶつけると、露伴は肩から掛けていたスケッチブックを取り出してすらすらとその目のまえの景色を写実的に描き移していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

…!

 

 

背後から突然、突き刺さるような視線を感じる。スケッチブックを閉じてその視線の方向へと首を向けると、そこにはたづなが懸命に立ち退かせようとしているウマ娘や職員たちの集団の中に、こちらをじっと見つめる視線があった。

 

 

……放火犯は現場に戻ってくると言う。この壁を拵えた人物ではないにしても、もしかしたら何か重要なことを知っているかもしれない。

 

 

その人物は、露伴がこちらを振り返ったことを確認すると、足早にその人混みを抜けて遠くへと走り去ろうとしていった。

 

 

「おい!アンタ!」

 

 

露伴は急いで立ち上がり人混みから離れていくその人物を追おうとしたが、現場を取り巻いていた野次ウマの人混みに邪魔されてしまい、その間に人物はあっという間に立ち去って行ってしまった。

 

 

「……クソッ」

 

 

 

何とかして人混みから抜けた露伴だったが、既に相手は遥か遠くへと走り去り、小さな背中も曲がり角によって見えなくなってしまっていた。これでは今から走ったところで奴に追いつくことができる可能性は低いだろう。

 

 

ドサッ。

 

 

人混みを掻き分けて不審な人物を追ったために、肩に掛けていたスケッチブックが肩から外れて地面に落ちる。スケッチブックの中には破いて描いてしまっていたものがあったため、その内の数枚はスケッチブックの挟んでいた表紙から外れて地面にするりと滑り落ちてしまった。

 

 

今日は厄日だな。

 

 

露伴はため息を一つつくと、その場にしゃがみこんでスケッチブックと散乱した紙を拾い始めた。すると群衆の中にいた内の1人のウマ娘が足元に落ちた紙を拾い上げ、その紙に描かれているイラストに目を向けると、瞬く間に感嘆の声を上げた。

 

 

「すっげー!」

 

 

露伴は一体何事かと首を上げると、そこには一人のウマ娘の姿があった。彼女は自身のスケッチブックの紙を、目を輝かせて見つめていた。

 

 

「えーと…君は」

 

 

露伴は急いで落ちていた紙を拾い上げて、目のまえのウマ娘に声を掛けようとする。しかしそのウマ娘はイラストをみつめたその輝いていた瞳を今度は露伴に向けると、彼の言葉にかぶせ気味に口を開いた。

 

 

「……これ!おっさんが描いたのか!」

 

 

…おっさん?

 

 

その言葉に露伴の身体はぴたりと停止する。このガキ、今僕の事をおっさんといったのか?冗談じゃあないぞ。僕はまだおっさんと呼ばれるような年じゃあない。

 

 

文句の一つでも言ってやろうかと口を開きかけたが、その目を輝かせている少女を見て露伴はそれをあと一歩のところでふみとどまった。

 

 

「あ、あぁ。そうだ…僕は漫画家だ」

 

 

「えぇ!すっげー!漫画家先生なのかよー!名前、なんて言うんだ?」

 

 

良い反応だ。初対面で年上に対して敬語を使わないという点では少々頂けないが、それを面と向かって指摘するほど僕は子供じゃあない。マナー違反をその場で指摘すること自体がそもそも一番のマナー違反、それが鉄則だ。

 

 

「岸辺露伴だ」

 

 

「えぇ!あのピンクダークの少年の!」

 

 

これは更に良い反応。僕の代表作を知っていて、この反応。差し詰め僕の漫画のファンといったところだろう。ファンというのならば、話は別だ。今までの無礼慇懃な態度も可愛いものに思えてくる。

 

 

……だが。

 

 

「……オレ、アンタの漫画のファンだったんだ!」

 

 

……は?

 

 

その瞬間、その場の空気が氷点下まで凍り付く。能天気な彼女もさすがにその場の空気の異質さに何事かと露伴の顔を見上げると、そこには空気と同じく、氷のように張りついた表情の露伴の姿がそこにあった。

 

 

「……ひっ」

 

 

突然襲い掛かった恐怖に、思わず彼女は後ずさる。そんな彼女を露とも気にせずに、露伴はうめくように口を蠢かした。

 

 

「おいおいおいおい……おいおいおいおいおいおいおい。だった…?君は今、「僕の漫画のファンだった」、そういったのか…?」

 

 

それは露伴にとっての地雷…下手をしたら漫画を読んだことがない、と言われるよりも遥かに屈辱的な、怒りを禁じえない言葉だった。

 

 

どうしてこいつが僕の漫画のファンじゃあなくなったのか。それを知るためにこいつの頭を覗いてやろうか。幸い周りにいた奴らも騒動にひと段落が着き、いなくなっている。今ならこいつの頭を見ても不審に思われることはないだろう。

 

 

「……露伴先生」

 

 

そんなある種、暴走した露伴にストップを掛ける一言。自身の興奮と怒りが水を掛けられ、いくらか冷静さを取り戻していく。露伴はその声を発した人物の方を向くと、溜息を一つついて言葉を口にした。

 

 

「ルドルフ…」

 

 

「……君のことは大好きだが、そこは頂けないな。仮にも私はまだこの学園の生徒会長。あまり生徒を怖がらせるのはやめてやってほしい。彼女はまだ、中等部なんだ」

 

 

彼女に嗜まれ、露伴はその空に差し出した手をゆっくりと降ろす。彼が大人しく言ったことに従ったことを確認すると、ルドルフは柔和な笑みを露伴に浮かべ、そして一人困惑している彼女へ顔を向けた。

 

 

「……君、すまなかったな。彼は少々、純粋なところがあるんだ。君は確か、ウオッカ君だったね?」

 

 

ウオッカと呼ばれた少女は背中をしゃんと伸ばすと、ルドルフの方へ顔を向けた。

 

 

「……そうっす!お久しぶりっす、ルドルフ先輩!」

 

 

一生徒の名前と顔をいちいち覚えているとはいやはや恐れ入るが、ルドルフは一度見た人間の顔と名前は決して忘れないという。凄い能力だと露伴が内心感心している一方で、ルドルフとウオッカは二人で会話を繰り広げていた。

 

 

「あぁ。今日トレセン学園に戻ってきたんだ。少々問題が校内で発生したと聞いてね。私はまだトレセン学園の生徒会長だ。問題が起こってそれを放り出すわけにもいかないじゃあないか。」

 

 

「あぁ。あの壁の……今校内外でちょっとした騒ぎになってるんスよ。そういえば、会長は今日学園に戻ってきたって……実家に帰ってたんスか?」

 

 

「いや、M県で年越ししていたよ。露伴先生の家で…」

 

 

「え!二人で!?二人で家にいるなんて……いるなんて……!ブーッ!!」

 

 

 

 

その途端、ウオッカの様子がおかしくなる。彼女の顔は急に紅潮し、その大きな目と口をわなわなと震わせながら二人を交互に見やったが、やがてその鼻から鼻血を噴き出すと、目を回してその場に倒れ込んでしまった。

 

 

「……え?」

 

 

 

突然の事態に困惑する二人。実を言うとこのウオッカという少女、恋愛といったことにはてんで疎く、恋愛ドラマでカップル役の俳優二人が手をつないだだけでも直視できずに鼻血を出してしまうようなウマ娘である。年上のウマ娘であるルドルフが、異性の家で二人きりで年越しをしたという事実は、彼女の脆弱な恋愛キャパシティーをパンクさせるには十分すぎるものだった。

 

 

なんとも騒がしいトレセン学園の日常に、露伴とルドルフは久方ぶりにこの騒がしくも奇妙な日常に戻ってきたことを実感したのだった。

 

 

 

 

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