岸辺露伴は走らない   作:ボンゴレパスタ

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岸辺露伴は戻らない2

 

 

 

 

 

 

「はぁ?」

 

 

露伴の口から漏れ出た一言。それは彼の苛立ちと困惑を表すにはこの上ないものだった。露伴は目のまえにいる男のことを見据えると、顔をしかめたまま言葉を続けた。

 

 

「……すまない。今なんて?」

 

 

「で、ですから……僕はこの一週間を……」

 

 

「聞こえてはいたんだ。ただ言語としてじゃあなくて、文意を理解できなかったんだ。一週間を繰り返している?あまり人をバカにするのも大概にするんだな」

 

 

揶揄われている。そうとしか思えないような、あまりにも荒唐無稽な話だった。露伴は呆れたように目をぐるりとまわすと足早にその場を立ち去ろうと試みる。ルドルフに指示された仕事はまだまだ終わる量ではない。こんなところで見ず知らずの男の与太話に付き合っている余裕など、どこにもなかった。

 

 

「い、いや!からかっているわけじゃあないです!露伴先生の噂を聞いて、藁をも縋る気持ちで……!!」

 

 

岸辺露伴が、トレセン学園に蔓延る謎の解決に一役買っている。その噂話が出回っていることは知っていたが、まさかそれがこんな形で因果としてめぐってくるとは。

 

 

その目に涙を浮かべて、男は跪いて露伴に縋り付く。男の必死な様子を見れば、彼が自分を騙すために声を掛けたわけではないような気がしてきた。

 

 

やれやれ。

 

 

漫画家としての直感が、「このネタを逃すな」と告げている。そしてその直感に殉じて、この問題に首をつっこむことは、後々面倒なことに巻き込まれることになる。そのことも露伴は既に分かっていた。

 

 

それでもそれを見過ごすことができないのが、哀しきかな漫画家としての性だった。ため息を一ついて露伴は男を立たせると、彼に言葉を掛けた。

 

 

「……とりあえず。話だけでも聞いてやろう。付いてこい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

露伴は男を連れて、滞在中に宛がわれた部屋に向かう。部屋に到着し扉を開けると、そこには自身の担当ウマ娘、シンボリルドルフの姿があった。

 

 

「……おや、露伴先生。君が客人を連れてくるなんて珍しい。それに久しぶりだね、大森亮人トレーナー」

 

 

「あ、あぁ。久しぶりだね。ルドルフ」

 

 

「おや、君たちは顔見知りなのかい?」

 

 

大森亮人。どうやらそれが彼の名前のようだ。そして彼もいままでの面倒ごとの例にもれずにトレーナーらしい。確かによくみれば、彼のスーツの胸元には、その証であるトレーナーバッジが取り付けられている。

 

 

そしてルドルフは彼と面識があるとのことだが、一体何の繋がりなのだろうか。確か彼女は生徒会の会長として多くの人たちと関わってきているだろうが。露伴の心に沸いた疑念の答えは、意外にもすぐに返ってきた。

 

 

「彼はチームのトレーナーでね。私の友人が彼の担当なんだ」

 

 

なるほどこれで疑問は解消した。それにしても、このシンボリルドルフというウマ娘は私の心の中が読めるのだろうか。感心を通り越して、若干の不気味さすら感じる。

 

 

「もう君とも長い付き合いだからね」

 

 

ルドルフ、僕の心の中と会話をするんじゃあない。

 

 

「と、ところで。先程の相談なんですが……」

 

 

亮人は恐る恐る口を開く。露伴はルドルフとの応酬を済ませると、彼の方へと向き直る。今するべきことは夫婦漫才をルドルフと繰り広げることではない。今やるべきこと、それは……。

 

 

「……あぁ。相談、ね……ただ口は開かなくて構わないよ。直接のぞかせてもらうから。」

 

 

「……え?」

 

 

そう言うや否や、露伴は亮人の顔にそっと触れる……すると彼の顔から本を開いたようにページが出現し、彼はまるで糸が切れたマリオネットのようにその場に倒れこんだ。

 

 

「あぁ!露伴先生……!いきなり何を……!」

 

 

ヘブンズドアー。それは漫画家・岸辺露伴の能力であり、特別な才能そのものだ。対象が生きてきて見聞きした情報の全てを、ヘブンズドアーは赤裸々にする。

 

 

 

「説明はあとだ。こいつの話をいちいち聞くよりも、直接見てしまった方がわかりやすいというものさ」

 

 

 

ルドルフの非難を涼しい顔で受け流し、露伴は倒れこんでいる亮人の傍にしゃがみ込み、ページに手を掛けた。

 

 

「どれどれ……大森亮人。29歳、男…身長176センチ、体重65キロ……こんなことはどうでもいいな。問題の箇所を……」

 

 

彼が生きてきた情報の全て。それをヘブンズドアーが全てを暴き出す。初めて見た景色や経験……そのすべてを。

 

 

そして、もしも彼の言った「1週間を繰り返している」ということが戯言ではないとするならば、きっとその記載された箇所がなされているはずだ。

 

 

パラ、パラパラ。

 

 

流し読みの要領で、露伴はページを捲る。やがて露伴の視線は、とある箇所によって止められることになった。

 

 

02/08

今日は仕事。来年度入るであろう生徒たちの入学資料を整理していた。きっと来年入るウマ娘たちの中にも、才能あふれる子たちがいるに違いない。選抜レースが今から楽しみだ。

 

 

この大森亮人という男、トレーナーとしては手本するべきような、熱意溢れる男のようだ。一般的に彼の年齢で複数のウマ娘を受け持つことは、異例中の異例であると言えるだろう。それだけ彼が仕事に対して熱心であり、ウマ娘に対して情熱を注いでいるということだ。

 

 

02/09

どうやら学園にあの有名な漫画家、岸辺露伴が来ているようだ。しばらく学園に滞在するようなので、機会があったら一目みたいものだ。ピンクダークの少年は大好きだし、自室には全巻、初版で揃えている。

 

 

なるほど、こいつは僕と、そして僕の作品のファンのようだ。目が覚めたら一筆サインでも書いてやるとするか。

 

 

ゴシップ記事を読むような感覚で、露伴は亮人の記述を読み進める。彼は至極普通な人生の記述…もっとも漫画家・岸辺露伴からいわせれば、「ネタ」がない記述であるとみなさざるを得なかったわけだが。

 

 

同じ要領で10、11日と読み進め、露伴は次のページを捲る。

 

 

02/12

今日は担当たちの合同レース。3月で卒業する子もいるため、このレースも彼女たちにとっては、このメンバーで行う残り少ないレースになることだろう。

  

 

 

 

ん……?

 

 

突如心に生じた違和感。何の変哲もない、前述の記載となんら変わらないはずの記述。それなのに何かが心の内に引っかかる。

 

 

「……!!」

 

 

その違和感の正体に気づいた露伴は亮人の記述から顔を上げると、ルドルフに声を掛けた。

 

 

「ルドルフ。今日は何日だ。」

 

 

「……?今日は2月11日だ。」

 

 

その答えに、露伴の背筋はぞっと凍り付く。

 

 

今日は2月11日。それなのに、記述には2月12日のものが加えられている。まるでその日を経験しているかのように、まるで当然のように加えられているその記述は、本来ありえない、未来の記述のものだった。

 

 

「ありえない……!これは……この記述はッ……!」

 

 

自身を襲う混乱と異常事態に、露伴は明らかに動揺していた。未来の記述を持っているということ。それが意味することとは一体何なのか。

 

 

……こいつは確か、繰り返していると言っていたな。

 

 

亮人から受けていたトラブルの相談。それはこの一週間を自身が繰り返し体験しているという突拍子のないものだった。

 

 

ページを急いで捲っていき、彼が繰り返している期間として言及していた最終日…2月14日の箇所にたどり着く。露伴は恐る恐る次のページに手を掛けた。

 

 

……岸辺露伴は恐怖していた。即ち目のまえに広がる異常事態に。そして同時に、これから起こるであろう出来事、その予想が当たっているとするならば、十中八九厄介なことになることを覚悟していた。

 

 

ペラ。

 

 

02月08日。

目の前の出来事を理解することができない。一体僕の身に何が起こったのか、わからない……既に体験した日を、まるでビデオの巻き戻しのように。このことはどうやら僕しか経験していないみたいだ。

 

 

……やはり。そうだったか。

 

 

この異常事態。どうやら本当に起こっている出来事のようだ。

 

 

露伴は小さくため息を零す。それはすなわち、これから関わるであろう厄介ごとに対する呆れ。そしてそれと向き合うことに腹をくくるためだった。露伴はすくっと立ち上がると、ルドルフに向き直った。

 

 

「どうやら少々……いや、やっかいなことになったぞ、ルドルフ。」

 

 

 

 

 

 

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