岸辺露伴は走らない   作:ボンゴレパスタ

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岸辺露伴は戻らない3

 

 

 

 

一週間を繰り返している。

 

 

あまりにも奇妙で、俄かには信じがたい。それでもその事象は、確固たる事実として3人の目のまえに横たわっていた。ヘブンズドアーの能力を解かれ、目を覚ました亮人は、その上体を引き起こしながら露伴に尋ねた。

 

 

「……そ、それで露伴先生……信じていただけましたか?」

 

 

「さすがに……信じる他なさそうだ。それにしても、なんて厄介な……」

 

 

これまで幾度となく、常識では説明のつかない超常現象に出くわし、解決に助力してきた。スタンド能力によって話が亮人の与太話ではないことが判明した以上、とやかく問う気力はとうに失せていた。

 

 

亮人は露伴の言葉にほっとしたような様子をみせると、言葉を続けた。

 

 

「……信じてもらえてよかったです。ヘブンズ・ドアーで僕の記述を見たんですね?」

 

 

「あぁ。それで信じたよ……」

 

 

……って。

 

 

あれ?

 

 

ここで露伴の胸の内に、一つの。決して拭い去ることができない違和感と、恐怖が生じる。即ち亮人の今の発言に孕んでいる、その意味を理解したのだ。

 

 

「……おい。どうして君がヘブンズ・ドアーのことを知っているんだ?」

 

 

その言葉に、そばに控えていたルドルフの顔も青白く染め上げられる。どうやら彼女もこの恐ろしさを理解したようだ。

 

 

「……それは……まさか…」

 

 

「その通りです。僕がお二人とお話ししたのは、これが初めてじゃあないんです」

 

 

それが事実であるとするならば。この事象には自身のヘブンズ・ドアーの能力は通用しない。自身の能力にある程度の自信を抱き、そして露伴の能力の恐ろしさを十分に理解している2人にとっては、驚愕の出来事に他ならなかった。

 

 

「何回目なんだ。僕と君があったのは」

 

 

「話すことができたのは、2回目です。1度話すことができて事件の説明をしましたが解決には至りませんでした……」

 

 

なるほど。この1週間を繰り返していると聞いて、自身にヘブンズ・ドアーの能力を用いて「記憶を持ち越すことができる」と書けば自身も亮人のように記憶の持ち越しができるとばかり思っていたが、どうやらそれはできないようだ。

 

 

「そしたら、手間ではあるが今一度君の記述をもう一度見せてくれ。情報の洗い出しをしたい」

 

 

「……わかりました。またお願いします」

 

 

……また、か。

 

 

その言葉は、まるで氷のように凍てついた代物と化して露伴の首筋に宛がわれているかのようだった。今迄の行動も、そしてこれからの行動も。全ては徒労と化してしまうのか。その言葉に若干の苛立ちと焦りを感じつつ、露伴は亮人の顔に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これで粗方の情報は洗い出せた……かな」

 

 

外はすっかり暗くなってしまっている。机の上には亮人の記述に記載されていた今迄の1週間のループの情報がびっしりと書き込まれた紙の束で積み重ねられており、ホワイトボードには特に重要そうな情報が貼り出されていた。

 

 

その情報は膨大な量だったため、整理するのにここまで時間を要してしまった。ルドルフがいなければ、恐らく朝日が昇るまでかかっていた作業だろう。

 

 

「……前回の僕たちが掴んだ情報は、特になかったみたいだな」」

 

 

「はい……前回は僕のことを調査するのに時間を費やしてしまって……」

 

 

「いや、前回の情報をみたところ、一つ分かったことがある。つまり今回の騒動は、君が原因というわけじゃあない、ということだ」

 

 

「……?」

 

 

それは一体、どういうことだろうか。亮人が首を傾げると、その疑問に答えるために露伴は口を開いた。

 

 

「前回の調査、短いながらも丹念に調べ上げられている。君の親族のことや君の部屋に至るまで……それこそ君の部屋まで入って調査が及んでいる……だな?」

 

 

「え、えぇ……」

 

 

「君に原因があるとしたら、この事象に巻き込まれてしまった、ということには少なくとも直近で何か「トリガー」となるようなことに起きてなくてはならない。」

 

 

「つまりそれがないってことは、亮人君自身が原因じゃあないと?」

 

 

ルドルフの問いに、露伴は首を縦に振る。神か妖怪といった類の何かが、無作為に亮人という人間を災厄の種に選んだ、という可能性もゼロというわけではないが……それはあくまで天文学的な可能性だ。有り得ないといっていいだろう。今はその最悪の可能性は考える必要はない……それがもしも正解だとするならば、もはやこのループを抜け出す方法がないということなのだから。

 

 

「だが、聊か君が無関係じゃあないってことは言えるだろう。」

 

 

「……と、言うと?」

 

 

「ループに巻き込まれたこの世界で、今のところ君だけが記憶の持ち超しができている……君自身に原因がないとしても、何か遠からずの縁が君にある、と考えるのが自然だろう」

 

 

そのことを考えれば、一番可能性として考えられるのは、亮人の周りにいる誰か。その誰かがもたらした奇怪な事象に、亮人が巻き込まれたとてみなすのが妥当だろう。

 

 

「また犯人捜しってことか……」

 

 

「確か、君はチームを請け負っていたな……?」

 

 

「ま、まさか……!チームの中に犯人がいるってことですか!?」

 

 

事件に多少なりとも亮人が巻き込まれているというならば、洗い出した相関図を鑑みても担当しているチームのウマ娘の誰かが原因を有しているとみていいはずだ。

 

 

「……今日はもう遅い。チームのウマ娘たちに話を聞くのは明日にしようか」

 

 

「幸い明日はチーム練習にしようと思っていたので……」

 

 

今日は02月11日……否、既に24時をまわってしまっているので、既に12日か。14日までがタイムリミットであるとするならば、タイムリミットまであと2日といったところか。

 

 

今回のループでは、解決に導くのは難しいかもしれない。

 

 

露伴は苛立ちげにため息を口から漏らすが、そのフラストレーションが軽減することはなかった。窓の外には曇る彼らの胸の内とは裏腹に、憎々しいほど澄んだ空に月が掲げられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

02/12

 

 

 

チーム・ベータ・ポエニーキス。

2年前に大森亮人の手によって設立されたチーム。トレセン学園にはリギルやスピカをはじめとした多くの強豪チームが軒を連ねているが、ここ最近その名は学園内外を問わず広く周知されるようになってきている。

 

 

 

自信がなさげには見えるこの男だが、案外トレーナーとしては優秀だったようだ。僕がトレーナーをしていた時には、ルドルフ一人が限界だったというのに。

 

 

「……今私のことについて、何か考えていなかったかい、露伴先生?」

 

 

「…なんのことだい?」

 

 

いい加減僕の心の中を読むのはやめてくれ、皇帝殿。露伴とルドルフの2人は昨日の話を受けて、亮人のチームのもとへと向かっていた。既に時刻は放課後だ……それは既に自分たちには猶予が残されていないことを示していた。

 

 

「チームのメンバーは全員で5人、だったな?」

 

 

「あぁ。そのうち1人は私の友人でね……っと。ここがベータ・ポエニーキスのミーティング部屋か」

 

 

チームには校舎の中とは別に、学園の広大な校庭の敷地の一角に、簡素ではあるが一棟のプレハブ小屋が宛がわれる。チームに所属するウマ娘たちは放課後の練習時間になると一度そこに集まり、チームトレーナーの指示を仰ぎ練習に打ち込むことになる。

 

 

視界には何棟かの横並びにされたプレハブ小屋が軒を連ねていた。

 

 

「チーム・ミラクにユプシロン、カノープス……いろいろな名前があるみたいだな」

 

 

「……カノープスには後でこの「打倒スピカ」の横断幕を下げるように言っておかなければいけないな」

 

 

横並びの小屋の横を歩いていく2人……その並びの一番奥に、彼のチーム「ベータ・ポエニーキス」の小屋はあった。

 

 

……ここか。

 

 

露伴は小屋の戸を3度、小気味良く叩く。するとすぐに扉を開かれ、部屋の中から亮人が姿を現した。

 

 

「露伴先生!ようこそいらっしゃいました……!」

 

 

「御託はいいから早く部屋の中に入れてくれないか。君のチームのウマ娘たちにはやいとこ会わせてくれないか?」

 

 

「は、はい……すぐに……」

 

 

亮人はすぐに大きく扉を引き開け、2人を迎え入れる。露伴とルドルフが室内に入ったことを確認すると、亮人はあらかじめ室内にいたウマ娘たちに言葉をかけた。

 

 

「……というわけでみんな!この人が僕の言っていた露伴先生だ!みんなに話を聞きたいそうだから、協力を頼みたい!」

 

 

室内には先客……つまり彼のチームに所属するウマ娘たちの姿があった。彼女たちは室内に足を踏み入れた露伴たちの姿を認めると、思い思いの反応を見せた。

 

 

「おぉ~トレーナーさん……この人が、あの有名な『ピンクダークの少年』の作者の……」

 

 

「お久しぶりの、ルドルフ会長……!熱愛が噂される露伴先生とご一緒で……!!ンンッ……眼福……ッ!」

 

 

「あれ、ルドルフ。戻ってきたんだ」

 

 

「……」

 

 

それぞれの反応をみつめた露伴は、それに反応するよりも先に、一番自分たちに近い席で言葉を発さず、にやにやとこちらを見つめるウマ娘に顔を向けた。

 

 

「久しぶりだな……タキオン君」

 

 

「あぁ……久しぶりだねぇ、露伴先生」

 

「アグネス……タキオン……」

 

 

ルドルフは彼女の姿に、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべていた。当の本人……幾度となく学園やこの世界で起きた事件を解決に導いてきた狂気の実験ウマ娘、アグネスタキオンの姿がそこにあった。タキオンはルドルフの様子を見ると、ますます愉快そうに口角を引き上げた。

 

 

「やぁ、元会長殿に懐かしの露伴先生。また会えてうれしいよ」

 

 

「君、チームを見つけたんだな」

 

 

「おかげ様でねぇ。同室のデジタル君の紹介でお世話になっているんだ……普段はチームのミーティングなんかには出ないんだが、君たちが会いに来ると聞いてねぇ。」

 

 

昨日、亮人の記録を読んだ時にわかったことではあったが、改めてタキオンが担当をみつけて遂にデビューにまでこぎ着けたことは、彼女を知る2人にとってはいささか驚きの事実だった。

 

 

「と、とにかく。改めてチームのメンバーを紹介させてください!アグネスタキオンに、アグネスデジタル、そしてナイスネイチャ。ミスターシービーにナリタタイシンです!」

 

 

「……ところで露伴先生。君がこんなところにわざわざ顔を出すということは何か厄介ごとなんだろう?」

 

 

紹介を早々に、タキオンはその濁った目に幾分かの力を蓄えながら口を開く。岸辺露伴がトレセン学園に来たということ。それ即ち災いに見舞われることをタキオンはジンクスとみなしているのだろう。

 

 

 

 

心外ではあるが、残念ながらそのジンクスに漏れなく今回も当てはまっている。露伴はその言葉を受けると、真剣な表情で言葉を返した。

 

 

「あぁ……君たちには伝えておかなければならないんだ。」

 

 

「……?」

 

 

一同の視線が来客者である露伴に注がれる。露伴は室内にいる一同を見据えると、徐に口を開いた。

 

 

「……実は、この一週間。ずっと僕たちは繰り返しているんだ。」

 

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