(……………)
広大なスカイリムのとある場所で、ある人物が立ち悩んでいた。まだ他の地方に比べれば雪も少く比較的気温も高いその場所で、全身を鋼板の重装《スチールプレート》で包んだその男は俯いて何かしらの思考に耽っていた。彼の正体は山賊
それも一つの群れを統率する長、山賊長である。
彼の周囲には部下と思しき4人の山賊。彼らもまた山賊長と同様に思い悩んでいた。
おおよそ何かを深く考え没頭する、計略を緻密に張り巡らせる等とは無縁の印象を持たれている彼ら山賊だが、こんな状況になったのには理由がある。
簡潔に言ってしまえば彼ら5人は、住む場所を失ったのだ。
狩人の住処での略奪を終え、当面の食料と毛皮をたんまりと手に入れた山賊長とその一味
彼らは帰路に着いていた。目的地である自分たちの住処、(前の持ち主達が何らかの理由で捨て置いた)古びた砦が彼らの住処であった。
帰りの途中で空には既に日が登りかけていた。砦に戻ったら此度の略奪を祝って飲み明かすのだ。
狩人の住処に酒はあまり無かったが、砦に戻れば大量に蓄えてある。
そうこう考えて歩いているうちに自分たちの砦が見えてきた。
そのまま入り口である鉄柵のかかった正門付近まで近づく。
そこで先頭を行くこの山賊長が見張りをしている部下に合図を出してレバーを操作させ、鉄柵が開きその先の正門から帰還するという流れだ。
だがそうはならなかった。
「……ん?」
山賊長が合図を出そうとして不意に立ち止まった。
山賊長の優れた動体視力が視界の奥に写った何かを
こちらめがけて飛来する一つの点のような何かの軌道とその正体をハッキリと捉えたからである。
「ぬうっ」
瞬時に身を右側に引いて躱す。ついさっきまで山賊長が居た場所を風切り音を立てて通り過ぎ、地面に突き刺さったそれは弓によって放たれた鋼鉄の矢じりを持つ矢であった。
「離れろ!隠れるんだ!」
山賊長が大声を出して叫ぶ。その声を聞き、今度は明らかに自分達を狙ったであろう複数の矢が近くの地面に突き刺さった瞬間、状況を把握した4人の部下達は山賊長と一緒に後方の岩陰めがけて全力で駆け出した。
そうして現在に至る
今は砦から離れた場所の岩場に隠れている。ここなら矢は届かない。届いたとしても砦の方角から撃っても岩場に阻まれる。ひとまず安全を確保した山賊長は改めて状況を整理する。自分達の住処であるはずの砦からなぜ矢が飛んでくるのか、まさか帰るべき場所を間違えたわけあるまい。
(可能性は2つだ)
まず一つは留守の間に別の勢力に砦を占拠された
新たな住処を求めた自分たちと同じ山賊の集団。今起きている内戦に生じてこの地方を占領するための足がかりとするため古びた砦を再利用しようと計画した帝国軍、或いは反乱軍の軍隊。
あり得るとしたらこんな感じだろうか
(だがこの可能性は無い、砦を開けてから一日ほどしか経っていない、それにもし戦いで奪われたとしたら砦が綺麗過ぎる)
山賊長は確信を持ってそう考える。砦の周囲に戦闘の痕跡は無かった、飛び散った血痕や、あたりの地面が踏み荒らされた跡も、始末され外に運び出された手下達の死体の山も無かった。
それならばもう一つの可能性が正解だ。
初めから砦の中にいた何者かが砦内の実権を握り他の人間にこちらを攻撃するよう命令した。
つまり手下だった者の裏切り行為、反逆である。
(……………)
山賊長は考える これからどうするべきなのかを
いや、正確にはどのような行動に移るのかは既に決まっているのだが。
俯いていた顔を上げて部下達を見る。
腰に鋼鉄の剣を携えたカジート《猫の姿をした獣人》
背に矢筒と弓を背負ったウッドエルフ
腕を組んでいる屈強なオークの腰には斧がある
金髪の女ノルドは取り出したダガーを見つめている
先の略奪の為 たまたま引き連れていた4人の部下
しかしこの四人は山賊長自らが選んだ精鋭達
(丁度いい、コイツらも使おう)
(……………)
4人の山賊達は考える これからどうするべきなのかを
状況から砦が裏切りにより占拠されたと見て間違いないだろう。この場合どうするか、おおよその答えは2つだ。
一つは山賊長に指示を仰ぎついて行くこと
今ある住処と地位を諦めて別の場所で再起を図るか
砦に押し入って裏切り者を処刑、砦を取り戻すか
この男がどっちの選択を取るにせよ(山賊長の性格からして後者だろうが)今までと変わらずこの男に従うこと。
もう一つの選択肢は砦を占拠した人物、新しい群れの長に従い改めてあの群れの一員になること。
つまりこの場で山賊長を殺し、砦の連中に敵ではないと証明すること。
このまま砦に戻って改めて従うと訴えたとしても山賊長が生きている限り、彼と行動を共にしていた自分達は彼によって何かしらの計略を含められているのではないか
新たな群れに従うと言いながらその実彼らの長はまだあの男のままなのではないか
そのような勘ぐりをされる可能性がある
なので山賊長には死んでもらい、自分達のかつての忠誠が完全に終わりを告げたのだと証明しなければならないのだ。
しかしこれには問題がある。まず1つ目、己一人ではこの男を殺すことは不可能だと言うこと。自分が弱者などとは微塵も思わない。だがこの男は別だ、彼我の実力差までわからなくなるほど思い上がってはいない。
だが4人ならば殺せるだろう。
確かにこの男は強い、だが数による戦力の上昇というのは単純な加算ではない。ましてやここにいるのは実力者ばかりだ。しかしそれでも何人かは死ぬだろう。
つまりこのやり方にも問題がある。まずその死ぬであろう何人かの内に自分が入らない可能性はどこにもない。
何より他の三人が同じ選択を選ぶとも限らない。
もし一人でも山賊長の側についたら?それだけで力関係は逆転するだろう。何ならいざ実行に移せば自分以外の全員が山賊長の側だったなんて事が起こる可能性だってあり得るだろう。
決断は早いほうが良い 頭ではわかっていながら4人とも決めかねていた。
山賊長に付いていけばまず裏切り者共との戦闘になる
先の略奪の一員に選ばれなかったとはいえ砦の連中だって無力じゃない。何よりこちらよりも圧倒的に数で勝っている。
しかし山賊長を始末するという選択は言ってみれば
賭けだ それも外せば間違いなく死ぬ賭けだ。
「よぉし、決まった。付いてこいお前ら」
結局4人は山賊長から新たな指示が言い渡されるまでどうするか決めることは出来なかった。
「到着だ」
山賊長達はあれから岩場を盾にしながら更に後退、大きく遠回りをして見張りの目に映らぬように砦の背後に回り込んだ。砦の裏は当たり前だが堅牢な石の壁でできており、目立ったひび割れなどもなくよじ登ったりすることは不可能。ましてや飛び越えて超えるなど巨人でも無理だろう。
山賊長が両手斧を取り出し、砦の壁に軽くぶつけて音を鳴らし始めた。何度か鳴らしているとその音を聞きつけたのか屋外にある見張り塔の中にいた山賊が様子を見に来た。
(なんの音だ…こりゃあ…?)
音のなる壁の方を覗き見ようとして 眉間に矢が深々と突き刺さり絶命した。体勢を崩し落下する死体が地面に激突し余計な音をたてる前に屈強なオークの山賊が受け止める。
事前の取り決め通り裏側に隠れているかもしれない山賊は誘き出し弓の名手であるウッドエルフの山賊がその技量を持ってこちらに気づく前に仕留める。
山賊長は何度か壁を軽く叩き、もう近くには自分達以外誰もいないことを確認した。
続いて部下の一人に指示を出す。
「おい、斧を貸せ」
その指示を受けたのはオークの山賊である。正直断れるものなら断りたかった。だがここで反抗して良いことなど一つもない。渋々といったなんとも言えぬ表情で山賊長に自分の斧を手渡した。
山賊長は斧に何かを結びつける、それは革紐を幾つも結びつけて一本のロープのようにした即席の縄だった。先の略奪の際に狩人達を殺して奪った革紐を使ったのだ。
それを山賊長は革紐の部分を持ち何度かぶんぶんと振り回し、その後それを頭上高くに振り上げる。斧が砦の壁を飛び越して落下の際に刃の部分が壁の取っ掛かりにガリッという音を立てて引っかかる。
即席の縄梯子の完成というわけだ。
「お前から行かしてやるよ」
山賊長がノルドの山賊の方を向いて言った。ノルドの山賊は複雑ななんとも言えない表情を浮かべるも渋々従う。行かしてやるとは言うが要するにこれは危険な役目を引き受けろという命令だ。だがこの状況で逆らっていいことなど無い。
縄梯子を登り切り最初に砦の中に侵入したノルドの山賊。
まず辺りを見渡して───
いつの間にかやってきてた別の山賊と目があった。
あっ という声が両者の口から出る。
仲間も呼ぼうとする山賊、しかし声を荒げるより前になんと辺りを窺う為にしゃがんだ隠密姿勢から前転による急接近で距離を詰めたノルド山賊がダガーを振るう。声の出かかった山賊の喉が切り裂かれた。
ゴボゴボと溺れるような音を鳴らし声を上げることなく倒れ伏した。
これには流石に肝を冷やしたノルド山賊。全身から汗が吹き出し鼓動が速まる。
辺りにもう危険が無いことを確認し、下の連中に合図を出す。
山賊長は全員が縄梯子を登りきったのを確認し移動を開始する。たどり着いたのはすぐそこにある見張り塔の内部、そこまで来ると山賊長が何を思ったのか床に引かれた絨毯を捲りだす。するとそこには下に降りるための横開きの扉が天窓のように取り付けられていた。
「秘密の通路…ってやつだよ。知ってたか?」
新たに判明した我が家の秘密に驚愕している4人の部下達にむけて、山賊長は振り向いて笑みを浮かべてそう言った。
次にカジートの山賊の方を向いてこう言った。
「鍵を開けろ」
そう言われてハッと我に返ったカジート山賊はすぐさま扉に近づき解錠を開始する。確かに秘密の通路に鍵もしていないなんてことは考えにくい。この中でなら自分は最も解錠が得意だ、こんな命令に備えて常にキーピックを携帯しているのだ。
そう思いながら解錠に取り掛かるのだが…なかなかどうして手強い錠だ。熟練者と言って良い自分の腕を持ってしてもすんなりとはいかない。
……もし自分がここでキーピックを使い切っても解錠出来ない、つまり失敗したら、この男は自分を殺すだろうか…ふと思いついた考えから横目で山賊長の方を見ても頭防具で表情は窺えない。変わりにその防具の無機質で冷たい金属の質感が、同じく無機質で冷たい 何の感情も移していない防具の下の山賊長の顔を幻視させた。
そこまで考えて、カジート山賊はその考えを振り払うように錠に向き合った。深呼吸をして落ち着いて解錠を進める。
ガチャリという音と共に解錠は成功した。
「お前らはここで待ってろ、なぁにすぐに終わる」
そう言って山賊長は解錠された扉を開け、備え付けられていた梯子を降りて砦の中に入っていった。
入った先に見えたのは通路とその先にある寝室だ。
ベットの周りのテーブルには高値の酒が
棚には貴重な傷や毒を癒やす錬金薬が
部屋の中で一際存在感を放つ巨大な宝箱には
さぞ素晴らしい何かが収められているのだろう。
ここはこの砦の主の部屋、つまり少し前までこの男の物だった部屋。頭防具の中でほくそ笑む山賊長。
部屋の奥の通路からこちらに向かってくる足音も勿論聞こえている。
現れたのは鋼鉄の重装を全身に着た一人の男性。
山賊長の着ているそれより強度は劣るが左手に持った帯鉄の盾も相まって堅牢な印象を見るものに与える。
男の顔は酷く満足げであった。まるで前々から計画してきた壮大な企みを完璧に実行し成功して見せたかのように。
しかしそれも部屋に向かう通路を阻んで佇む この場所の支配者だった男の姿を視界に収めるまで
驚愕、次に疑問、そして焦り、感情の波が男を支配した
「て、テメェなんで どうやって」
最後まで言い切る前に目の前の男が武器を抜いて走り寄ってきた。咄嗟に左手の盾を構えて迎え撃つ。
(疑問なんて後だ!まずはコイツの一撃を防ぐ!
それから…それから)
それ以上先に思考を続けるのは不可能だった なぜなら山賊長が振り下ろした両手斧が鉄帯の盾にぶち当たり
男の左腕を帯鉄の盾とともに両断したからだ。
男の絶叫が砦に響き渡った。男の思考は今や痛みと恐怖で塗り潰され泣きじゃくる子供のように蹲っていた。
男は知らなかった あの秘密の通路の事は勿論
山賊長のクマの頭蓋すら容易く叩き割る剛腕ぶりを
そしてそれが山賊長の腕防具と金とルビーのネックレス(胴防具に隠されて見えないそれ)に掛けられた付呪という魔法に連なる技法により数段威力を増していることも
元々はとあるキャラバンが保有していた目玉商品だったそれら(勿論丁重に金を払って手に入れたわけではない)を身に着け強化された山賊長の振るう両手斧を防ぐには、相当熟達した盾の技量か、余程強固に加工された盾が必要だろう。
この男にはそのどちらも無かったのだ。
「 まっ 」
男に歩み寄った山賊長が、男が何か言おうとしているのを無視して両手斧を振り下ろし、男の首を切り落とす。
それは正しく処刑と呼ぶに相応しい光景だった。
「おうお前ら!終わったぞ!降りてこい」
隠し扉の奥から聞こえる声に従い4人の部下達が部屋に入ってくる。
それと同時に男の叫び声を聞いた砦の山賊達も到着する。
お互いが山賊長と男の死体を挟んで対面する。
片方は驚愕のあまり硬直し
片方はなんてことないように平然としていた。
「広場に野郎共を全員集めろ!今すぐにだ!」
山賊長が声高らかに命令を下した。
広場に集められた砦の山賊達
彼らの間には緊張が走っていた。その理由は今、砦のバルコニーに立ち彼ら見下ろす一人の男。
「野郎共!なぜ集められたのかわかっているか?」
バルコニーに立ちその男の言葉を聞いて
ある者は小さく肩を跳ね上がらせ
ある者は背中にじわりと嫌な汗をかいた
「今日、俺達の仲間であった一人の男が死んだ!
だがそれは仕方のないことだった!何故ならソイツは
ミスを犯したからだ!許されないミスをな!!」
「ソイツの最後の言葉を教えてやる!「テメェなんで どうやって」…テメェだと?……そうじゃねぇ」
そう言ってその男は広場に何かを放り投げた。
地面に落ちて何度か跳ねて転がったそれは切り落とされた人の生首だった。ついさっきまで新しくここの支配者になったはずの男の生首だった。
あたりから息を呑む声が聞こえてくる
「ボ、ボス…」
広場にいた一人がそう呟いた。それはバルコニーに立つ男に対してか、いま広場の山賊達の足元を転がるこの男に対して言われた言葉なのかはわからない。
だがバルコニーに立つ男はその呟きに反応した。
「そうだ!!それだ!お前達が俺を呼ぶときはなんて呼ぶのが正解だ!?テメェじゃあねぇぞ!さぁどう呼ぶべきなんだ!?」
広場に一瞬の静寂が満ちる。
「ボ…ボスだ」
また広場の誰かが呟いた。
「そのとおりだ!!ボスさ!俺を呼ぶときは何時だってそうさ!俺のことはただボスと!!そう呼ぶのさ!わかったか野郎共!!」
その声のあまりの迫力か、そこに込められた熱量に当てられてか
広場に感嘆の声が徐々に拡がっていく。やがてそれらは大きくなり雄叫びのような歓声へと変わった。
遂には広場にいる全員がボスと叫びバルコニーに立つ男、山賊長のことを称えている。
そこにはもう足元に転がる生首のことは記憶にない。
「「「ボス!ボス!!ワアアアア!!!」」」
「そうだ!ここのボスは俺だ!俺だけがボスだ!!覚えておけ!!」
「「「ウオオオオオオオ!!」」」
「またあんな口の聞き方をしたら、ソイツを殺してやる!!」
歓声は更に大きくなり、砦の山賊は夜が更けるまで
自分達の王の帰還を称えて飲み明かした。