山賊略奪団   作:ポジョンボ

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逃げてみろよ 背中からブッスリ刺してやる

 

 

 

 

 この山賊団から抜け出して足を洗おう

 

 

            

まだ寒い5月の朝 とあるアルゴニアン(トカゲ姿の獣人)の山賊は自分に言い聞かせるように心の中でそう誓った。

 

 

この山賊団に入って既に少なくない月日が流れてしまったが、この山賊団で一生を過ごすつもりはない。いつ死ぬともわからぬこんな生活はもう辞めにするのだ。

 

 

 

 (俺がここにいるのは、何かの間違いなんだ)

 

 

 

彼がこうなった経緯は話せば長くなるだろう。だが何も山賊になりたくてなったわけではない、他の生き方が出来たならきっとそうしていた。

 

 

山賊を辞めてどうするのかのアテも無い。

悪名高いリフテン水産やウィンドヘルムの港で働くなんて選択肢も。

 

 

 

 (……子供の頃の自分はいつか凄いことが出来るんだって思ってた…勿論今更大層な何かを始めるつもりはない でも俺には…何か別の……もっとマシな人生が…)

 

 

椅子に座って下を向きながら、過去を思い出しているのか感傷に浸る。

 

 

やがて椅子から立ち上がったその顔には決意が浮かぶ。

 

 

 

 

 (よし ならまずは金が必要だ)

 

 

 

 

ただ抜け出すだけなら何てことは無い。

 

夜に自分に外の見張りの番が回ってきたら引き受けて、後は闇夜に紛れて立ち去ってしまえば良い。

交代の時間になる頃には既に自分はもういない。

 

 

その後は近くの村に入って新たな人生の準備をする。まずこの身なりを変えて、必要なものを揃え、宿に止まって疲れを癒そう。朝、目が覚めたら新たな人生の始まりさ。

 

そのために金がいる もっともそれだけが理由ではないが

 

 

アルゴニアン山賊にはある懸念があった。

 

 

 

何食わぬ顔で村に入ったとしても山賊だとバレなければ良い、何なら村に着く前に身なりを替えてなんてこと無い一般人のように振る舞えばいい。

 

 

だがもし村に駐留する衛兵達が自分の正体に気がついたら

 

顔は割れてないと思う、しかし良からぬ事が起こりうるのが人生というもの。

 

 

 

 (ボスが言っていた 衛兵共は怠け者ですっとろいが情報を伝達するのは早い、それに時折やたら勘がいい時があると…)

 

 

 (もしバレた時の衛兵共の台詞はきっとこうだ…「待てよ、お前を知っているぞ?お前は手配されていたんだ!さぁ一緒に来て罪を償え!」)

 

 

 

 

その場で罪に対する賞金が払えなければ、監獄に連れてかれて暫く日の目は拝めないだろう。

 

かと言って反抗などしようものなら殺される。衛兵とて暴れる酔っ払い程度ならともかく、山賊に暴れられて穏便に説得で済ませる気なんてない。

 

 

 

 

 (だが逆に言えば 金さえ払えたならば自由の身だ

しおらしい態度で罪を認めて金を払ってそれで終わり)

 

 

 

 

つまり万が一 衛兵共に感づかれたとき、そうするための金を持っておきたいのだ。

 

何なら人生をやり直す儀式として自分から自首してもいいくらいだ。

 

自分は街に押し入って市民を殺したことも、そんな蛮行に手を貸したこともない。

 

賞金は高くない きっと 恐らく

 

 

 

 (……少なくない額の金がいる)

 

 

 

そんな額を突然どう稼ぐのか?その疑問の答えは既に頭に浮かんでいる。

 

 

 

 (大変なリスクだがな…)

 

 

つまり住処にある金目の物を盗んでトンズラする。

 

 

 

 

法や人道なんて欠片も尊重しない連中が集まっている。

 

もしその中で勝手に持ち場を離れて逃げ出した奴がいたら?

 

笑われて馬鹿にされて お前みたいな弱虫はいてもいなくても変わりゃしねぇよ そう言って放って置かれるだろう

 

彼らの気分が良ければ多分そうなる。

 

 

 

ではもしも 自分達の金を盗んで逃げようとしたのがバレたらどうなる?

 

答えは言うまでも無い。

 

金のトラブルは仲間殺しの理由で最も多い物だ。

 

絶対にバレてはいけない。

 

アルゴニアンの山賊は歩きながら考える。

 

 

誰かから金をスリ取る?

 

 (リスクが高すぎる ダメだ)

 

 

鍵の掛かった宝箱を開けて中身を持ち出す?

 

 (常に見張りが居るから近づくのは不可能)

 

 

誰かを殺して装備を売り飛ばす?

 

 (論外だな……いや、待てよ そうか)

 

 

 

妙案が舞い降りて、思わず顔を上げるといつの間にか連中が集まってよく飲み食いをしている広場に着いていた。

 

 

 (む…)

 

 

 

このまま突っ立ているのも妙なので近くのテーブルに座る

 

辺りには他の山賊がいる バレないように彼らの様子を盗み見た。

 

大半は他愛もない雑談に夢中だが、その中の数人の山賊に意識を向ける。

 

 

 

 

一人は椅子に座ってアルトワインを味わうカジートの山賊。

 

カジートという種族は大らかな性格で何処かゆったりとした者が多い。だからだろうか、他の種族から抜けている印象を持たれている。だが彼にそれは当て嵌まらない。

 

彼は実力もさることながら、注意深く辺りを観察し、いち早く危険を察知する能力に長けていた。

 

事実、カジートというだけで彼を間抜けと判断して金をくすねてやろうとした他の山賊が殺されるのを見たことがある。

 

 

 

 (他のカジートの印象とはまさに真逆……まるでノルドのウィザードだな)

 

 

今は勘の良いあの男に近づくのは危険だと認識を強める。

 

 

 

 

 

次に意識を向けたのは、隅で静かに矢の本数を数える、弓を背負ったウッドエルフの山賊。

 

彼はこの群れで随一の弓の使い手だ。狩猟を営むウッドエルフの印象に違わぬその姿、しかし並のウッドエルフなど及びもつかないその技量は正しく驚異的だ。

 

夜の暗闇の中で、馬に乗って逃げた旅人の頭を一発で射抜いたという話を聞いた事がある。

 

 

もし自分が逃亡を決行した時、その背中を奴が見つけたら

 

アルゴニアン山賊の背筋に嫌な寒気が走った。

 

 

 

 

 

 

次に注目したのは、腕を組んで壁に寄りかかるオークの山賊。腰には厳つい斧が下げられている。

 

屈強という言葉が相応しい彼は、他のオーク同様に優れた戦士だった。そして山賊達の間で人気の殴り合いによる賭け事で無敗を誇る偉丈夫だ。

 

無法者同士の殴り合いだ、暴走して武器を取り出すのも珍しく無い。

 

しかし彼はなんと武器を手に襲ってくる相手を、鉄の籠手を嵌めただけの素手で殴り殺してしまった。それも一方的に。

 

 

 

 (アイツと斬り合うなんて、トロールと殴り合う方がマシだ)

 

 

 

 

 

最後はテーブルの端に座って手にしたダガーを弄ぶノルドの山賊だ。

 

山賊にしては整った顔立ちの彼女は、しかしある意味前の3人よりも周りから畏怖されていた。

 

女というだけで彼女を非力だと侮辱する者、中には下卑た欲望の発露の標的とする者もいた

 

しかしそんなときほど探しても見つからない、そして暫く立った後、首を掻っ切られた愚者の死体がいつの間にか転がるのだ。それは一度や二度の事では無い。

 

 

 

全てを終えて安堵する自分、その背後にいつの間にか佇む彼女の姿、そんな光景を思い浮かべてまた寒気を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 (……もう良いだろう)

 

黙って席を立ち、寝床に向かう。

 

今の4人は群れの実力者、彼らを山賊長が率いれば例え残った山賊達全員を相手取っても勝利できるだろう。

 

 

 (なにも奴らと戦うわけじゃない 作戦は立てた、今は休んで隙を見て実行するだけだ…バレやしないさ)

 

 

   もしバレたら?

 

 

 (…いいや、そんなこと考えるな)

 

 

嫌な想像を振り払い、寝床に向かって歩く その途中で

 

全身を玉鋼の重装備で包んだ人物とすれ違う。

 

 

 「ボ…ボス……!」

 

 

 「おう」

 

軽い返事を返すこの男はこの群れの長である山賊長だ。

 

無法者の群れを畏怖により統治するこの場所の王。

 

紙を千切るかのように人体を破壊する彼の両手斧が視界に入る。

聞いた話では敵の首を切り落とす事に執着を持っているらしい、この山賊長の両手斧が。

 

 

前に向かって歩いてくる山賊長。

 

 

 (何を取り乱す…!今、恐れる必要はないだろう…)

 

軽い会釈をして横を通り過ぎるアルゴニアン山賊。

 

 

 

 

 

 

  逃げてみろよ 背中からブッスリ刺してやる

 

 

 

 

 

その瞬間、全身が凍りついた。

 

暫く呼吸も忘れて立ち止まる 振り返って既に遠くにいる山賊長を見たとき、ようやくそれが不安と迷いが生んだ幻聴だと気付いて胸を撫で下ろす。

 

深呼吸をして、寝床に向かってまた歩きだす。

 

 

 (もう決めたことだ…辞めるつもりはない)

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

 

 

 

 

 「おい、次はお前の番だぞ」

 

 

決行のチャンスは意外と早くにやって来た。

 

 

 「分かった、すぐ行く」

 

 

努めて冷静に、何てこと無い様に答える。

 

住処にしている鉱山の入口の扉を開け、外に出る。

 

辺りには運び出した鉱石をその場でインゴットに変える為の溶鉱炉が一つ、それの他には何も無い。

 

見張りもやはり自分一人だけだ。

 

辺りを見渡して万が一にも他の山賊がいないかを確認する。

 

誰もいないことがわかると、もう稼働していない溶鉱炉の中に手を突っ込んで何かを引きずり出す。

 

それは鋼鉄の剣や斧、盾や大きくない防具等の装備品だ。

 

 

アルゴニアン山賊が盗んだのは、山賊達が予備に持っていた元は略奪品の装備達だ。

 

半ば捨て置かれ、宝箱の中のお宝やポケットの中のゴールドに比べれば誰も気にしていない。 

 

事実、このように誰にも気付かれずに移動させることができた。

 

それなりの数が揃っているこれらを質に入れれば、少なくない金になるだろう。

 

木っ端山賊の懸賞金くらいなら払ってもまだ残るくらいに。

 

 

着てる装備の下に隠してた袋にそれらの装備を詰める。

 

そしてもう一度、自分以外誰もいないことを確認して

 

アルゴニアンの山賊は静かにその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「上手くいったな…!」

 

 

 

アルゴニアンの山賊は成功を確信していた。

 

後ろから追いかけてきてないか何度も確認しながら街道を歩いて、もうすぐ近くの村に着く。この橋を渡りきれば見えてくるはずだ。

 

これでようやく人生をやり直せる。

 

まずは身なりを整えよう、この装備を売って真っ当な服を買おう。

 

そして薪割りでもして真っ当に金を稼いで、いつか何処かに自分の店でも持って真っ当に暮らそう。

 

 

月明かりに照らされた、青白い石橋を渡りながらそう考える。

 

 

 

 (俺の人生はこれから…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さぁて、金目の物を出しな でなきゃ魚みたいにハラワタ掻っ捌いてやる!」

 

 

 

一人の刃物を持った男がそう言って詰め寄ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 (…………これが因果ってやつか)

 

 

男のつけてる装備はチグハグで統一されてない。だがどれもマトモに金を払って買った物じゃ無い事はわかる。

 

群れから逃げて山賊を辞めようとしている自分が、あと少しの所で盗賊の標的にされるなんて。

 

 

 (おかしな話だな…)

 

 

 

 「黙ってたって何処にも行かねぇぞ!さぁ金を寄越せ!」

 

 

男が吠える。

 

 

 

 「…死にたくなきゃ失せろ」

 

 

 

僅かな望みに掛けて凄んでみる。

 

 

 

 「努力は認めるが、まるで怖くないぞ 最後の警告だ!金目の物を出せ!」

 

 

 

 (やっぱり駄目か…)

 

 

 

 

これは恐らく神が与えた罰か、或いは試練か アルゴニアンの山賊はそう思えてきた。

 

何の代償も払わずに過去を無かった事には出来ない。

 

なら甘んじて受けてやる。

 

 

 

 

 「金を渡すくらいなら死んでやる!!」

 

 

 「なら望み通りそうしてやるよ!」

 

 

朝日が登り始めたスカイリムの何処か、村に続く石橋の上で人知れず戦いが始まった。

 

 

 

 

 「さぁ!言った通りにその腹を……ぐわっ!」

 

 

ダガーを手に相手を切り裂いてやろうと走り寄る盗賊、その体が突然炎に包まれる。 

 

堪らずに怯む盗賊 そしてその炎はアルゴニアンの手から放たれていた。

 

 

それは破壊魔法という戦うための魔法の一つ、と言っても才能のあるものなら誰に教えられずとも使え、凡人であっても魔術の書を読んで練習をすれば習得できる下級の物。

 

 

しかし肉を焦がし、鎧越しにでも痛手となる破壊魔法の性質はしっかりと持ち合わせている。

 

 

 

 「このまま丸焦げにしてやる!」

 

 

歯をむき出しにした顔付きで勇ましく吠えるアルゴニアン。

 

しかし盗賊も黙ってはいない。

 

 

 「舐めるな!こんなもん!」

 

 

炎に焼かれるのも構わずに接近してダガーを振り回す。

 

それはアルゴニアンの腕や脇腹を切り裂いて、辺りに血が飛び散った。

 

 

 

 「ぐっ…」

 

 

お互い傷が着くのも構わずに攻撃を続ける。

 

しかし先に攻撃を辞めたのはアルゴニアンの方だった。

 

 

自分の血に濡れたその姿で後ろに倒れかける様にふらつきながら盗賊から何とか距離を取った。

 

 

 

 「お前は終わりだ!死ね!」

 

 

すぐに盗賊がダガーを振り上げて飛び掛かる。

 

 

 「……させるか…」

 

 

振り下ろされた盗賊のダガーが切り裂いた ただしアルゴニアンでは無く、アルゴニアンが盾として構えた袋を。

 

 

 

 「何…!?」

 

 

 

切り裂かれた袋から幾つかの武器がこぼれ落ちる。

 

アルゴニアンはその一つの剣を拾い上げ、動揺した盗賊の腹を斬りつけた。

 

 

 

 「あぐぅ…」

 

 

うめき声を上げて石橋の手すりに寄りかかる盗賊。

 

 

 

 「こ…この野郎…!」

 

 

しかしまだ余力があるのか、怒りに満ちた目をアルゴニアンに向ける。

 

今度こそ仕留めてやると立ち上がろうとした瞬間、視界が何かで埋まる そして頭部に強い衝撃を感じて大きく仰け反った。

 

 

アルゴニアンは持っていた袋を使って盗賊を殴打したのだ。

 

装備を詰め込まれ、かなりの重量になったそれは辺りに武器を散らばらせながらも盗賊を吹き飛ばした。

 

 

そのまま悲鳴を上げながら橋の下の渓流に落ちていく盗賊。

 

 

しかし悲劇が起きた 血を流し力が抜けた腕で振った為、装備の入った袋は手から抜けていき、盗賊と共に渓流に落ちていってしまった。

 

 

 

 

その後

 

 

 

 

橋の上で床に腰掛けるアルゴニアン 体は血塗れだが、種族としての特性か、もう傷が塞がりかけていた。

 

 

 

 

 

 「どっちみち一文無しか…」

 

 

そう呟いたアルゴニアン。だがその心中は意外にも穏やかだ。

 

 

構うもんか、初めからやり直してやる。何も無い処から。

 

そう思って立ち上がる、その顔は晴れやかだ。

 

そして新たな人生の一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 「待てよ?お前を知っているぞ」

 

 

 

 「……………………」

 

 

後ろから聞こえてきた声に振り返る 話し掛けてきた人物は、頂点の尖った独特の形の頭防具をしている。

 

鎧と木盾に書かれているのはこの地方の要塞を表す紋章だ。

 

つまり街の衛兵である。

 

 

 

 「お前…山賊だな 前にお前らが砦を占拠していた時、お前が見張りに付いているのを見たことがあるんだ」

 

 

 「………………」

 

 

 「お前らアルゴニアンは角だの模様だので、よく見れば見分けが付きやすいからな 覚えていたよ」

 

 

 「………………」

 

 

 「お前は手配されているんだ、さぁ一緒に来て罪を償え」

 

 

 

 「………………………」

 

 

何の代償もなく過去を無かった事には出来ない。

 

心の中でそんな言葉が響いた。

 

しばし無言だったアルゴニアンは溜め息を一つ吐いて答えた。

 

 

 

 

 

 「わかった 降参だ、監獄へ連れて行け」

 

 

 

 「懸命だな 暫く日の光は拝めないぞ」

 

 

 

 

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