Muv-luv BreakThrow 技術チートで変える未来   作:あるすとろめりあ改

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元々、感想は出来るだけ全員に返信しようとは心掛けてきました
ですが、ストーリー進行や技術ネタに抵触する感想、また原作が原作なだけに軍事や政治に関連するので些か過激だったりセンシティブな感想が散見されます
出来るだけ中道的に返信する様にはしていたのですが、難易度的にも気力的にも限界を感じてしまいました

ですので、今後は感想の返信の頻度が鈍ってしまうことをお詫び申し上げます。


Step up in the legendary
10『新天地にて』 1983.1.7


1983年1月7日

京都 下京区 京都駅

 

 

 夢の超特急と持て囃された0系新幹線に初めて乗ったが、3時間というのは思いの外に長く、退屈でさえあった。

 冷蔵冷凍技術が未発達であるが故に駅弁という概念が薄く、食堂車が連結されておりそこで食事を摂るという珍しい経験をしたが……

 この新幹線も1998年の日本本土侵攻の折に走るべき線路を喪い、疎開の為の最終列車を最後に廃止されてしまうのだと考えてしまうと、何とも言えない、感慨の様なものがある。

 いや、つまり、その様な悲劇的な未来が訪れない様にする為にあれやこれやと試行錯誤しているのだが。

 

 さて、そんなこんなで京都駅に着くと程なくして迎えの者に声を掛けられる。

 人相が予め知られていたのか、改札を抜け烏丸口から外へ出てほんの少しした所で名を呼び止められた。

 

 

「須和恭太郎様、でお間違いないでしょうか?」

「ああ、はい」

「ご当主様からの御命(ぎょめい)によりお迎えにあがりました。(わたくし)は運転手の矢口と申します」

 

 

 矢口と名乗った男の風貌は比較的若く見え、齢は30と少し程で、物静かな雰囲気ではあるが明朗さをどこか滲ませ、柱を立てたかの如くピンと張った背筋は誠実さが見て取れる。

 なるほど、これが武家に仕える所従(しょじゅう)と呼ばれる者なのかと、感慨の様なものを覚えた。

 

 

「此方へどうぞ、お座りください」

「あ、はい。では失礼します……」

 

 

 そうして導かれるままに乗せられた車は紅いセダンで、王冠の名を戴く富田自動車のクラウンかと思ったが、よく見ると同社製だがコレはマークIIという車種の様だ。

 

 正直、車には疎いので世間の噂程度にしか知らぬが、いわゆるこれが“ハイソカー”、つまり上流(High)階級の(society)(car)と呼ばれるものの1つで、テレビでも有名な女優やプロ野球選手なんかを起用したCMが連日流れている。

 連想されるイメージとしては白い車体色なのだが、これは紅というに相違ない赤色だった。

 車内もワインレッドの深みがある色合いに彩られたインテリアで、後部座席に座ると……なるほど、凄い弾力性というか厚みと柔らかさがあり、()()()という触れ込みには確かな説得力がある。

 厳密には上流階級“風”だと思うのだが、そこを指摘するのは不粋だろう。

 まあ、高級車であろう事は価格帯的にも間違いではあるまいし。

 

 そして10分少々、些かの緊張もあり二言三言の短い会話をしている間に車は久賀家屋敷の前へと至っていた。

 

 

「おぉ……」

 

 

 そこには、まさに武家()()ですと主張せんばかりに威圧感を覚える巨大な長屋門が待ち構えていた。

 巨大な木製の門扉にこそ時代を感じるものの、壁や屋根などは現代的にリフォームされており、インターホンもあれば金属製シャッターのガレージまで備えられていて、時代に則した改修が行われている。

 門の前に横付けする形で停車すると、中から女中と思われる人達が出てきて、車のドアを開けてくれた。

 

 

「須和様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」

 

 

 (いざな)われるままに門を抜けると、見事な庭園に出迎えられた。

 

 まず目を引くのはその庭の半分を占めるであろう横に伸びる広大な池で、中央には石が間隔的に配置された橋が掛けられており、更にその澄んだ水の中には様々な色の錦鯉が悠々と泳いでいる姿が見える。

 その橋の周囲は池を裂く三角州の様になっているので、この屋敷の庭園が鴨川を模しているのだろうという事は、芸術的なセンスに疎い恭太郎といえども流石に気が付いた。

 家屋の縁も池に張り出す様な形になっており、縁の下が池の中にまで入り込んでいるのは、これもいわゆる鴨川の“川床”をイメージしているのだろう。

 今は冬真っ盛りで降り積もった雪で白く染め上げられてしまっているが、夏の青々とした姿であれば、また違った趣を見せてくれるのだろうと想像が膨らむ。

 

 この庭園をじっくりと観て過ごしたいという後ろ髪を引かれる様な想いがあったが、流石にそれは己の到着を待ってくれている家人に失礼も甚だしいので名残惜しいが女中さんに着いて行く事とする。

 そもそも、今でなくともまたの機会にこの庭園をじっくりと堪能する時間はあるのだからと、優先順位を見誤らない冷静さは流石に失っていなかった。

 

 

「すみません、こちらのお部屋で少々お待ちください」

 

 

 どうやら、この屋敷の主は急な電話の応対で席を外しているという。

 肯定すると女中さんが襖を開けてくれて、中には客間……ではなく、この場合はお座敷というのだったか、書院造の部屋が拡がっていた。

 中央には背が低く横に長い大きな机が置いてあり、その机を挟んで対面する様に座椅子が2つ既に並べられている。

 驚いたのは、その脇には大型のテレビが設置されている事だ。

 いや、しかしこの部屋の用途としては会議室として使う事もあるであろうから、これは別に場違いでも無いのかと思い直す。

 

 武家というのは旧い慣習に囚われた頑固で融通のきかない古典主義者達、という風潮が一般人にはどうしても根強い。

 これは制度や風習、思想などという面においてあながち間違ってないとも言えるのだが…………

 しかし、古い物に固執して例えば電気釜を使用せずに未だに釜戸でご飯を炊いている……といった印象があるとしたら、それは大きな間違いだ。

 こと、技術や文化においては寧ろ武家というのは新し物好きだったりする。

 例えば本来の未来における戦術機の武御雷で考えてみると、不知火をベースに開発されているが生産性や整備性といったものを犠牲にし、その当時の最高・最新鋭の技術を惜しげも無く導入して世界でもトップクラスの近接格闘戦性能を付与する事に成功した。

 その他にも、戦術機単騎でBETAの大量撃破が望める電磁投射砲(レールガン)というのも、斯衛軍は初期の段階から興味を示し試験を行っていた、という事実がある。

 この通り、最新鋭技術というものに非常に関心がある組織なのだ。

 

 だがまぁ……個人的に武御雷に対する美学というものは理解ができなくもないのだが、年産30機とかいう糞みたいな生産性を許容してしまうというのは非常に度し難い。

 なんだろう、これは武家に限らず日本人技術者の悪い癖なのだが、初めから完成品を造ろうとしてしまって後で帳尻を合わせようとか改良しようとかそういう発想が希薄なのだ。

 これが、実は更新が容易だという環境を整えてさえいればある程度の矯正は出来るのだが──

 

 そんな風に思考の渦に沈んでいたところで、奥の襖が開いた事に気がついた。

 

 

「すまない、待たせてしまったようだね。少し電話が長引いてしまってね」

 

 

 歳の頃は四十半ば程ぐらいで父と同じかそれより幾らか上だろうか。

 優しげな表情をしているが、その芯に武家らしい猛々しいものが潜んでいるのが感覚的に窺える。

 そしてこれもまた武家であると主張せんばかりに格好も和装であった。

 臙脂色の着物の上に藍色の羽織りを纏っており、全体的に落ち着いた色合いなのだが、内側の赤みの主張が少し強く感じられる。

 ゆっくりと部屋の中へと歩み寄り、対面側の座椅子に座った。

 

 

「はじめまして、私がこの家の当主である久賀雅匡(つねまさ)だ」

「あ──お初にお目に掛かります。須和恭太郎と申します」

「ああ、そんなに畏まらないでくれ」

 

 

 こちらの言動を制する様に手をパタパタさせながらそう言ってくるが、何事においても最低限の礼というものがある。

 武家や冠位という立場を抜きにしても彼は歳上なのだから敬うのは当然といえた。

 

 

「遠路遥々からよく来たね、冬の京都は寒かっただろう?」

「お気遣いありがとうございます。迎えをくださったお陰でとても快調です」

「それはよかった」

 

 

 京の底冷えと言われるほど、京都は実際の気温よりもその体感温度が低い事で知られている。

 これは京都の地形が盆地であり、周囲の山から冷たい空気が流れ込んでくる事で足元に滞ってしまう事が原因だ。

 地域差もあるが、案外と京都は雪の降り積る地域だったりする。

 

 

「ここに来るまでにお庭を少しだけ拝見させて頂きました。こう言ったものには疎いので月並みですが……とても美しいものでした」

「ああ、あの庭は当家の数少ない自慢でね。夜に月を眺めながら1杯嗜むのも……ははは、まあ今日からこの家で過ごすのだから、いずれはそういう機会もあるだろうさ」

 

 

 そう、何を隠そう今日からこの屋敷の一室をお借りして住まわせて貰う事になっているのだ。

 久賀家に居候する事になるとは知らされていたのだが、まさか、こんな武家屋敷で寝泊まりする事になるとは、余りにも予想外であった。

 そもそも久賀家の武家社会においての立場だとか家格というものを知らなかったのだ。

 

 久賀家は譜代武家。それも、五摂家の縁戚だとか代々の側近だとかそういう立場にある家は特に有力武家と呼ばれ、冠位においても赤色を纏う事が許されているのだ。

 冠位とは日本史でも習うあの冠位十二階がベースになっていて、征威大将軍が頂点の紫、五摂家が青、有力譜代が赤、譜代が黄、そして一般武家が白……という具合の段階的な階級制度の記号化が成されている。

 これに、斯衛軍では元武家や一般からの志願兵に黒色が与えられたりするが……余談だな。

 

 

「失礼します……」

 

 

 話の途中、背後から声がしたかと思うと襖が開く。

 そこから入ってきたのは自分と同年代ぐらいの少女で、彼女はお盆にお茶を乗せて持ってきてくれた様だ。

 そして邪魔にならない様にと音を立てずにすっと横からお茶を座卓の上に差し出してくれる。

 

 

「ああ澪月(みづき)、お茶を持ってきてくれたんだね。ありがとう」

「いえ……」

「すまないけど、玫依(まい)も呼んできてくれるかい?」

「はい、わかりました」

 

 

 しばらくして、澪月と呼ばれた少女は彼女よりも幾らか幼い12,3程の少女を伴って部屋に戻ってきた。

 雰囲気というか顔立ちが似ているので恐らく2人は姉妹なのだろう。

 どちらも合成繊維の着物姿で、そういった類のものが普段着や部屋着として和装を常としている者達に重宝がられているとテレビで見たことがあったが……なるほど、こういう層に需要があるのか。

 などと関心をしていると雅匡さんが二人の紹介をしてきた。

 

 

「二人は私の娘でね、長女が澪月、次女が玫依という。二人とも、挨拶しなさい」

「はい、久賀澪月です」

「はじめまして、久賀玫依です。よろしくお願いします!」

 

 

 二人は一見して対称的であった。

 姉の澪月さんは口数が少なく静謐というか、何処か冷たさを滲ませる様な人柄で、逆に妹の玫依ちゃんは快活で天真爛漫といった様相だ。

 

 それに何とも……それも血の為せる神秘なのだろうか、三人とも非常に容姿が整っていた。

 皆、目鼻立ちや口元といった顔のパーツがハッキリとしており、その大きな瞳は揃って切れ長で、鋭く眩い眼光が三対の瞳が同時にこちらを差してくる。

 遠縁とはいえ、多少でも同じ血が流れていると言うのなら肖りたいものだが、残念ながら自分の眼はどちらかと言うと大きく丸みを帯びており柔らかいとか優しげだと称されることはあっても、武家らしい鋭さというものは持ち合わせていなかった。

 

 

「そういえばお父様、ヨネさんがそろそろお夕飯が出来るから茶の間にいらっしゃいと言ってたわ」

「おや……もうそんな時間か。わかった、もう少し恭太郎くんとお話をしてから追いかけるから二人は先に行ってなさい」

「はーい。それじゃあお姉様、行きましょう?」

「ええ」

 

 

 玫依ちゃんは我先にという勢いで座敷を飛び出して行き、対照的に澪月さんは襖の前で正座をして礼をしながら閉めていった。

 自身も三兄弟である為に兄弟における性格の違いなどは自覚するところもあるが、こうやって客観的に見ると微笑ましさを感じる。

 さてと、振り向き返し姿勢を直して再び雅匡さんと向き合う。

 

 

「さて、それじゃあこれからの恭太郎くんの事について少しだけ話しておこうか」

「はい、お願いします」

「まずは大学について、君には来年度の4月から京都帝大に編入してもらう事になっているんだけど……城内省と大学の理事会による話し合いの結果、君は履修の必要が無い、という結論に至った」

「は、えっ?どういうことですか?」

 

 

 履修とはつまり、その学部において必要な単位を踏まえて講義を選択するという、大学という最高学府で学ぶ上で必要なシステムの根幹ともいうべきものである。

 それが必要が無いというのは、果たして……?

 

 

「うん、君は受講を希望する講義があればそれを自由に受けて構わないけど、その単位を取得する為の出席数や試験というものを充たす必要はない。極端な話、君が在籍しているという事実さえあれば良いということだ」

「はぁ……」

「我々、つまり城内省が君に望んでいるのは 邦畿(ほうき)計画の遂行だ」

「ほうき、計画……ですか?」

「詳細についてはこの冊子に纏めてあるから後で時間がある時に精読してもらいたい」

 

 

 渡されたのは、A4サイズでワープロによって打ち出されたと思われる装飾性の皆無な実直で無味乾燥な活字のみで構成された冊子だった。

 題は確かに【邦畿計画】とある。

 邦畿とは、近畿や関西圏を意味する言葉であり、つまりここ京都を中心とした首都圏一円のことだ。

 

「僕も君のレポートを読ませて貰ったが、君が言うに国産戦術機を開発する上で必要なものとして、その性能を担保する為の技術を向上させる為には、その基礎たる技術の研究や発展が必要不可欠、ということだったね?」

「はい、その通りです」

「邦畿計画とは、その為に必要な土台作りの為の制度だ」

 

 

 この邦畿計画というのは、京都、大阪、兵庫、奈良、滋賀、和歌山といった関西を拠点とする企業や教育機関の垣根を越えて連携する事を目的とした一大プロジェクトのことである。

 例えば、跳躍ユニットの新規開発を行うとなれば様々な企業の技術が必要になる。

 兵庫を拠点とする河崎重工を初めとして、住吉精密工業、太河精機といったジェットエンジンの製造や金属加工を得意とする企業を招致し、更に部材の基礎研究を行っている京都帝大、大阪帝大、近大、神戸、立命館、摂南……といった機械工学の分野の教育機関にも声を掛け、技術や情報の交流、共有を行っていく。

 跳躍ユニット、という1つの目的が据えられた場合、それに関する情報は包み隠さず計画に参加する団体に公開され、また逆に好きに引き出す事も可能で、必要とあれば人材の交換や出向といった形で人員も流動させる。

 そして培われた技術や情報は邦畿計画にてアーカイブ化され、後のプロジェクト発足時にもこれに新しく参加する者が自由に引き出せる状態を構築するのだ。

 

 こうすることで、技術的なブラッシュアップが見込めるだけでなく、参加する団体の基礎的な工業力や技術力、生産力の底上げが図られるのだ。

 更にここに銀行や証券、投資会社を呼び込む事で金融、経済的なアンプル剤としての役目も果たす。

 

 そんな壮大な計画であるが……なんと要のリーダー役として、その実効支配権が委ねられるのが須和恭太郎、つまり自分のことであるというのだ。

 

 

「つまり、君は大学を拠点として使って欲しいという意向だね」

「はぁ……なんでしょう、話が大きくなり過ぎて実感が湧かないと言いますか……」

「まああまり深く考えずに、取り敢えずは失敗を恐れずにやりたいことをやりなさいな、そのフォローをするのが我々大人の役目なのだからね」

 

 

 頼もしい言葉を耳に挟みながら、頂いた冊子をペラペラと捲ってみる。

 その終盤には現状で参加を表明した企業の名と担当者、及びその連絡先が記載されており、今この瞬間からでも何かを始められる準備は既に整っている様子だ。

 これは随分と用意の宜しい事で、と企業の羅列を眺めていると、東亜紡や帝セラといった超巨大企業の名前まで連なっていた。

 

 

 既に、恭太郎の頭の中では次のステップへの道筋が構築され始めていたのだ────




★企業名小ネタ

住吉精密工業→住友精密工業
大河精機→小川精機

東亜紡→東洋紡
帝セラ→京セラ


次回はお待たせしました、新たな技術チートのお時間です……!
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