Muv-luv BreakThrow 技術チートで変える未来 作:あるすとろめりあ改
date:1983.10.13{edit:1984.07.01}
>徐々に外も肌寒くなってきた今日このごろ、ミノムシが越冬の為に糸を吐き出しはじめ、サンプルが日々納入されてくる。
>既に人工飼育と量産の体制の構築をはじめていて、年々とOFRPの生産量も増加する見込みだそう。
>自律稼動フレームの量産を賄える生産量に達するまで現在の規模では10年以上掛かる計算であるため、服飾やその他工業製品への応用によって宣伝を行い、全国に養蓑業者を増やすために尽力していると聞く。
>ミノムシと言うから何とも不思議な感覚があったが、考えてみれば古来より人類は同じ蛾の仲間である蚕から絹糸を採ってこれで服を作ったりとしていたのだよな。
>現状では落下テスト等しか行えていないが、その中でも高い耐久性能を見せている。
>実際のフレームの運用については全身にこのOFRPを張り巡らせた状態でテストしなければわからない、のだが……
>あの装甲のテストの結果を見てからだと、多分大丈夫なんじゃないかなと、根拠のない憶測がどうしても立ってしまう。
>そう言えば、あの新型装甲の名称は暫定的に『カグツチ』で決まりそうだ。
>日本神話に出てくる火の神であり、他に鍛冶や産業を宰る
>由来として須和恭太郎氏がプロメテウスという名称を呟いていたのを誰かが聞き、どうせなら日本らしい名称の方が良いだろうと言うことで付けられた。
>ただ、本人は『プロメテウスじゃなくてプロテウス……』などとボヤいていたが。
>個人的には、神話に肖るのであればヒヒイロカネの方がそれらしいと思うが、却下されてしまった。
>なんでも、武家の関わる事柄では“緋色”の様に色やそれを連想させる字を使うのはタブーとされているらしい。
>難儀なものだな。
date:1983.12.17{edit:1984.07.01}
>先日に漸く全身の自律稼動フレームを賄うだけのOFRPが納入され、フレームの全OFRP化が実現した。
>そして予てより調整を行っていたカグツチ装甲を瑞鶴に装着することで、OFRPフレームのテストが行える。
>もともと自律稼働フレームの採用により瑞鶴の総重量は戦術機としては非常に軽量な部類となる120t程度であったが、ついに100tを下回り98tという異常なまでの軽量化に成功した事になる。
>1月の総会にて彼は戦術機の重量を1/3にまで落としたいといった旨の発言をしていたが、この時点で原型である撃震からおおよそ1/2の重量にまで落とし込めたのだ。
>米軍の第2世代戦術機であると嘯くF-14トムキャットは、その設計コンセプトが須和恭太郎氏の一連の思想に近しく、機体の軽量化と重心の電子制御によりこれまでのF-4系列では不可能であった飛行中での方向転換や遮蔽物や障害物を脚部で蹴り上げることで水平方向へ跳躍するといった新しいマニューバ『三次元機動』などが可能になったと言うが、恐らく今の瑞鶴にもそれと同等かそれ以上の機動が可能だろう。
>まだ簡易的な試験しか行われていないが、それだけでもこの大幅な重量軽減と驚異的な衝撃吸収能力を持つOFRPのフレームによって、通常であれば大きな負荷と負担を強いる推進剤を使用しない自由落下における着地においても、フレームに歪みは検出されなかった。
>これは正確な計算ではないが──100mの高さから重量100tの物体が自由落下したとして、E=1/2MV²だから……その落下エネルギーは98MJということになる。
>そしてOFRPのタフネスが300MJ/m³以上なのだから、理論上ではこの程度の落下では全く問題ないということに。
>その要領で考えていくと、200tの物体が150km/hで衝突してきた時の運動エネルギーが約173MJだから……それを操縦している衛士への衝撃を無視すれば、フレーム自体は無傷である可能性が出てくるわけだ。
>つまりだ、これは勝手な願望と期待の押し付けではあるのだが……
>もしも、彼が何かしらの技術で衛士の搭乗する管制ユニットへの衝撃を遮断ないし大きく軽減する事が可能になれば……光線級と重光線級、そして要塞級以外のBETAは大きな驚異とならない、そんな世界を作ってしまうかもしれないという可能性がここにはあるということだ──
date:1984.02.20{edit:1984.07.01}
>年末年始を通しての試験が終了し、OFRPフレームとカグツチ装甲は戦術機の素材として適当、という結論が下された。
>現段階でその用途は戦術機のみであるが、いずれ防衛産業や一般市場にも2つの素材は浸透していくことになるだろう。
>そのための邦畿計画でもあるのだから。
>業界の叡智を結集させて一つの極地を作り出し、さらにそれを共有することで還元する。
>間違いなく、どちらも日本中で当たり前になった頃には世界の光景は一変していることだろう。
>このテストの最中、エンジニアの一人に「軍事機密として秘匿すべきなのでは?」と須和恭太郎氏に質問をしている者がいた。
>私としてもコレが海外に流出するのは恐ろしい事だから同意したい。
>しかし氏は「これはBETAの
>これも受け売りだが、須和恭太郎という人間の思考傾向はエンジニアや科学者というよりも、指揮官や経営者のものに近いという。
>前者は技術や製品という物を具現化する事に執着し、その実現性やコスト、営業の事なんて言うのは無視していて、寧ろ無知で無遠慮なところがある。
>そして後者は同じ道筋を見ている上で、採算だとか適切な人員配置だとかロードマップだとか、そういう物を重視する。
>彼のこれまでの行動を振り返ってみると、当初はある程度技術が成熟していた
>本命は間違いなくその性能を見る限り後者であり、もしも彼が根っからの技術者であればOFRPの開発だけに専念したいと考えただろう。
>しかし、彼は極めてリアリストで先見的な視野を有しているが故に、弱冠15歳の時点でCFRPという寄り道をしなければOFRPに辿り着けないと悟っていたのだ。
>どんなに画期的な発明であったとしても、それを実現する為には悲しいかな、資金や資源が必要になる。
>だから彼はデモンストレーションとして既知の技術であるCFRPを用いたフレームを作ることでその先にあるビジョンを示すことで邦畿計画というシステムを興させ、そしてそれが結実しつつあるということか。
>10代の少年がそんな事を考えなければならないという事に、世知辛さを痛感してしまうな……
date:1984.04.01{edit:1984.07.01}
>年度が始まってから早々、全体朝礼にて土肥所長から大々的な発表がなされた。
>なんと、邦畿計画で培われた技術をもって我々、河崎重工が独自に次世代型戦術機の試作を行うという。
>この発表に、私を含めたエンジニア達は湧いたが────
>何故か、須和恭太郎氏は些か浮かない顔をしていた。
date:1984.04.02{edit:1984.07.01}
>本当に一晩で設計図をかき上げてしまうところを見る事ができた。
>曰く、基礎であるフレームが既にあるので後は装甲の配置やレイアウトを考えるだけで戦術機の格好になるから設計は容易だとの事だが……まあ、もう今更か。
>機体の形状はF-14やMIG-27などの第2世代機の特徴と合致する細身のシルエット。
>特徴的だと思ったのは、65式近接戦闘短刀を収めるナイフシースはなんと下腿部に設けられていること。
>これまでの戦術機のナイフシースと言えば前腕か、F-14の様に膝にユニットが設けられているという2パターンしかなかった。
>下腿部に設けた理由として、前腕では武装変更時などに動きを阻害し、また膝では折角トップヘビーにした重心が釣り合いを取ってしまい、近接戦闘ではデッドウェイトになりかねないのだという。
>そして下腿部にある事で
>それで、私は航空機の水平尾翼を連想したのだが、航空機における主翼との揚力バランスを取る水平尾翼とはその仕組みが根本的に異なるらしい。
>代わりと言ってはなんだが、前腕部には翼の様な突起物が設けられているが、コレには短刀を収納したりという機能は無く、やはり跳躍時のバランス維持に用いられる。
>頭部にも通信アンテナを兼ねる翼状のパーツがあり、戦術機は人の形をしている為にどうしても頭部が真っ先に空気抵抗を受けるから、後ろにソレを受け流す形状にすることが肝要であるとも言っていた。
>説明されれば成る程という事ばかりであったが、その発想は思い浮かばなかったと言わんばかりの構造や形状の網羅であった。
>言い訳をさせて貰えば、我々が瑞鶴の開発を行っていた頃はF-4のデータしかなく、形状的にどんなものが最適かと模索している余裕が無かったのだ。
>いや、須和恭太郎氏はF-14が日の目を浴びる前には既に自律稼動フレームのレポートで第2世代戦術機の形状に至っていたと指摘されたら、返す言葉もないのだが。
date:1984.04.07{edit:1984.07.01}
>途轍も無い開発スピードで目まぐるしい毎日を送っている。
>現在、第2世代戦術機の試作機は新造した甲型OFRPフレームの物と瑞鶴に使用していた乙型OFRPフレームを甲型OFRPフレームに換装した物、更に既存のCFRP製の乙型フレームから甲型フレームに換装した物を用いた合計3機を同時並行で製造している。
>つまり、現在撃震や瑞鶴に用いられている乙型フレームを実際に甲型フレームに換装して実用に耐えうるかのテストを行う訳だ。
>換装自体は既に問題なく完了しており、甲型フレームのテストも順調に進んでいる。
>あとは、神鋼製鉄所から装甲が届き次第テストを行うのだが、未だカグツチ装甲は誕生したばかりの新技術である為にラインも無く、その製造には時間を要する。
>だが少なくとも5月になるまでには納入を間に合わせるとの事だから、6月中には試作機を完成させる事ができるとは思う。
date:1984.04.20{edit:1984.07.01}
>暗いニュースが飛び込む。
>戦線は比較的膠着しており、1981年のフィンランドのロヴァニエミを最後にハイヴが建造されることは無かったが、先日イラクのアンバールに新たなハイヴの建造が確認されたという。
>これにより中東の戦線は大きく後退を強いられ、更にイラク、イラン、クウェートといった豊富な石油資源を持つ国が陥落した事により将来の石油資源の枯渇という問題に人類は直面した。
>須和恭太郎氏もその事について大きな懸念を抱いており、いずれは戦術機の推進システムに関しても大きな見直しが必要になるだろうという見解を示した。
>しかし、石油やガソリンの代替となりそうな物というのも中々に難しいだろう。
>まさか松根油や海水からの人造石油ではなかろうかと聞いてみたが『何時の時代の話ですか』と笑いながら一蹴されてしまった。
>どちらも先の大戦では結局使い物にならなかった上に人造石油に関しては真っ赤な嘘だった訳だが……
>だが、須和恭太郎氏の口から人造石油を作れるぞという言葉が飛び出してきたら、コロっと信じてしまうだろうなという奇妙な自信がある。
>いや、そんな自信があっても困るのだが……
date:1984.05.06{edit:1984.07.01}
>ついに第2世代戦術機の試作機の組み立てが完了した。
>その姿に関して須和恭太郎氏が『カラスみたいだ』という一言を漏らしたらしいが、周りの者にしかと聞いていた者がおり、この機体の仮称は『ヤタガラス』になっていた。
>なるほど八咫烏かと、妙に納得してしまう。
>八咫烏と言えば日本創生の神話に登場するカラスであり、初代皇帝を熊野から大和へと道案内した導きの神である。
>特に日本書紀では主神である天照大御神から遣わされており、太陽の化身とされることも。
>つまり、この戦術機を『ヤタガラス』とするのは、戦場で衛士や兵達を導いて欲しいという願と共に、須和恭太郎氏に対して八咫烏の霊験や加護があらん事と肖る意味が込められていると言える。
>10代の少年に救いを求めるというのも、何とも悲しく愚かしい話ではあるのだが──
date:1984.06.26{edit:1984.07.01}
>戦術機においても大きなニュースがあった。
>米国のマクダエル・ドグラム社で開発されていた新型戦術機のF-15がロールアウトされ、米軍に配備されたのだ。
>このF-15というのがF-14で見出された第2世代戦術機の設計思想を更にブラッシュアップさせた機体で、凄まじい運動性と機動性を有しているという。
>既に各国はこのF-15を採用せんが為に米国と交渉を始めているそうだが……
>F-15の性能の如何によっては、帝国軍はそちらに懸想して国産機開発の話は絶ち消えてしまうかもしれない。
>我々に出来る事はヤタガラスのテストを行い完璧な状態で送り出してやる事だが……不安は増すばかりである。
>こんな時に限って須和恭太郎氏は明石にも京都にもいないが、どうやらJECと東京で何かを作っているらしい。
date:1984.06.29
>須和恭太郎氏が大量に何かを持ち込んできた。
>大型の物が一つと、人が抱えられる程度の箱型の機械、そして小型のモニターがトラックの荷台いっぱいに。
>その正体は新素材の半導体を使ったスーパーコンピュータと、デスクの上に置いて使うパーソナルコンピュータ、通称パソコンだという。
>そういった類のコンピュータは既に明石工場にもあり、何度か使った事はあるが……それらとは少し勝手が違うらしい。
>これからの時代、特に精度が要求される工業分野ではコンピュータの使用が必須になるとのこと。
>そして、ありとあらゆる情報を電子化、共有化することで作業効率の向上を図っていく必要があると豪語した。
>また、個人のメモや落書きなんかも電子化するようにとのお達しまで出される。
>そんなわけで、何時もは手書きで書いていたこの日誌もこうしてパソコンのキーボードと画面とを繰り返し睨めっこしながら書いている。
>場合によっては他者に閲覧される事もあるというが……
>私の日誌はどちらかと言うと備忘録や個人的な日誌としての意味合いが強いからあまり見られたくはないのが本音だ。
>一応、パスワードで鍵をする事で他者が閲覧しようとする時には隠すことは出来るそうなので、それを行っておくことにしよう。
date:1984.07.02
>昨日はこのパソコンの扱いに慣れる為にも今までの日誌を全部打ち込むという作業を行った。
>そうやって使い倒す中で、このパソコンの扱いやすさを痛感することとなった。
>まず、インターフェースが全て絵やアイコンで表示されている。
>これまでのコンピュータは全部が文字だけで構成されていて、しかも基本的に英語で記されていたので必要な情報を参照する為にも操作をするにも労力を強いられていた。
>しかし、このコンピュータはデータの種類がアイコンで分類されていて分かりやすいし、どの部分に収容されているかも視覚的に理解することが出来、更に大半の操作がマウスと呼ばれるコントロール装置で行うことが出来るので本当に使いやすい。
>しかも操作や説明が日本語で表示されるので、今行っている作業がどういったものなのかを把握するのも容易だ。
>これはJECのエンジニアに聞いたのだが、このパソコンに使われているOSの名称をB-TRONと言うが、その開発は東京帝国大学理学部の一人の助手が構想し、試作していたものだという。
>試作というだけあって、まだ実用に耐える段階に至っていなかったのだが、須和恭太郎氏が見出して現在のこの段階まで一人でプログラムを組んで作り上げてしまったらしい。
>まぁ……戦術機のOSを一晩で紙に書いて遠隔で作らせてしまう様な人なんだから、パソコンのOSぐらいお手の物といったところだろうさ。
>更に、彼はこのコンピュータ同士を遠隔地とも結んで例えばこの兵庫にあるコンピュータと東京の企業にあるコンピュータとでリアルタイムにデータのやり取りやコミュニケーションが行える様にしたいとのこと。
>そう語るからにはそれは遠い未来の話では無いのだろうが……まさか、電話や無線が発明されてから100年程度でここまで進化してしまうとは、ヴェルとヘルツは想像もしていなかっただろうな。
>その内、電話を無線化して手のひらサイズにしたり、このパソコンも持ち運べる程度にまで小型化してしまったりするんじゃなかろうか?
date:1984.07.18
>本日、ヤタガラス3機の全試験項目が総て終了。
>試験に参加した斯衛軍の衛士からの評価も上々で、とても素直で操縦しやすいとお墨付きを貰った。
>あらゆる数値において自律稼働フレームを搭載した撃震と瑞鶴を凌駕する機体には仕上がったが……
>懸念すべきはやはり、F-15の存在だ。
>これが斯衛相手であれば、邦畿計画の縁もあってある程度の妥協が許されそうだが、未だ瑞鶴が制式採用されてから2年という短いスパンで新型機を採用することは不可能だろう。
>つまりヤタガラスを採用するとすれば帝国軍の方なのだが……どうだろう、一筋縄ではいかない気がする。
>何かしらの形でF-15との性能比較が行えれば良いのだが──
○
1984年8月10日
兵庫県 河崎重工 明石工場
男はそこまでデータを閲覧しながら嘆息した。
期待していた、設計図だとか試験データといった類はこのコンピュータには記録されていなかったからだ。
用意していたIDとパスワードはあと2つ、そのどちらかに記録されている事を祈るばかりだが──
「おーいアンタ、こんな時間に何をやっているんだ?」
「っ──?!」
突然、部屋を懐中電灯で照らされた。
どうやら守衛が巡回でこの部屋にやって来たらしい。
消灯している時間にモニターの光が灯っていれば怪しんで見に来るか、という単純な問題に気付けなかった自分の浅はかさに苛立ちながら、男は近くにあった物を兎に角デタラメに守衛に向かって投げつける。
そうして怯んだ隙に、男は窓を無理やり開け放つと、その枠に足を突っ込んだ。
「ゲ、おい!ここは4階……っ!」
守衛が声を荒らげるが、しかし追い詰められた男は聞き耳を持たんと言わんばかりに窓から外へと文字通り飛び出してしまう。
慌てて守衛はその窓から外を覗き込むと、器用なことに転がりこみながら落下の衝撃を殺す様に着地した男はそのまま立ち上がり、闇夜の中へと駆け出していく。
逃げられた!と思い至った頃には、既に男の姿は消えていた。
「マジか、産業スパイってやつかよ……」
守衛はしばらく呆然と黒い虚空を眺めていたが、はたと気づいて守衛室へと駆け出す。
このまま放置する訳にもいかないし、そもそもあの男は少なくとも不法侵入を行った犯罪者であるから、通報しなければならない。
まだ、携帯電話というものは一般的ではない時代の話である。
今日は速瀬中尉こと君望でヒロインの一角である速瀬水月の誕生日です。
というニュースをtwitterで見かけてから漸く、ヒロインの一人である澪月と名前の音が被っていることに気が付きました。
まあ、この名前にも意味があるので今更変えませんけど……