Muv-luv BreakThrow 技術チートで変える未来   作:あるすとろめりあ改

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17『新型戦術機とB-TRON OS』 1984.06.20

1984年3月31日

兵庫県 神戸市 河崎重工業 神戸本社 

 

 

「次世代戦術機の開発、ですか」

 

 

 香りの良い緑茶を啜り、思わず眉間に皺が寄ってしまうのを自覚しながらも唸ってしまう。

 そんなこちらの態度を見て何か失態を冒してしまっただろうかと慌てた様子を見せる土肥さんと河崎重工の会長を申し訳なく思い、急いで訂正を入れる。

 

 

「ああ失礼、別に不快に思ったとかそういう訳ではないのです。河崎重工さんにはこれまでとてもお世話になりましたし、これからも良き関係を築いていきたいですからね、そのお申し出はお受けしようと思います」

「おお……ありがとうございます」

「しかし、何か思うところがある、ということかな?」

 

 

 安堵の表情を浮かべる会長の傍ら、表情が優れないのを察してか土肥さんは気遣う様にそんな言葉を投げ掛けてくれる。

 

 確かに、次世代戦術機の開発というテーマにおいて思うところがあるのは事実だ。

 これはどこまでも個人的な理由に基づくものなので語る必要はないのだが……しかし、土肥さんが態々気に掛けてくれているのを無下にすることもできない。

 

 小さく嘆息してから、その理由をポツポツと語る。

 

 

「まず、現行の技術では次世代戦術機に付与できる性能にどうしても制限が掛かってしまいます」

「ふむ……」

「そうですね、装甲は例のカグツチの量産体制は整いつつあるので問題なく採用できます。OFRPに関しましてもあと1,2年のスパンを必要としますが逆に言えば時間が解決します。ですが、問題はそれ以外が殆ど何も無いということです」

「その2つに関しては君は良くやっている……いや、むしろ出来すぎているぐらいだと思うが?」

「新素材の採用により機体の重量は80t程度に抑えられるでしょうから、跳躍ユニットの見直しで巡航速度は700km/h、最高速度は720km/h前後にできるとは思います……しかし、根本的な武装の火力不足が問題です」

「ん……ん?いや、今700km/hとか言わなかったか?」

「正直な話、現行の36mm砲と120mm砲を突き詰めても殆ど技術的な限界に達しているので、手を加えたところで抜本的な解決は難しいでしょうし……」

 

 

 基本的に、戦術機の携行武器のメインとも言える突撃砲は、給弾方法や形状の見直しが行われる事──日本帝国もいずれF2000とP90をミックスしたかの様なトンチキな形状を採用するが──はあっても新たな弾薬の開発などは殆どされない。

 単純に120mm砲で要塞級を撃破する事は可能であった為にそれ以上の威力は過剰であると判断されたのもあるし、更なる火力が必要とされた頃には電磁投射砲(レールガン)荷電粒子(ビーム)砲の開発が始まっていたという理由もあった。

 もちろん、どちらも技術的障壁が高すぎて今すぐに実用化するのは不可能であるが。

 

 一応、プランはある。

 バッテリーの半固体化に伴う容量増加や小型冷却装置、そして高温超伝導体を用いた超伝導電磁石を制作し、電磁投射砲(レールガン)ならぬ電磁投射砲(コイルガン)を作るという方法。

 レールガンを作れない訳では無いが……そうなると比較的小型で高出力の発電機、例えばMHD発電機関を設けるなどの工夫が必要になり、開発コストと期間は更に増大する。

 

 故に、今すぐに試作機を作れとなればそういった物を採用する事が出来ない。

 

 

「可能であれば、超伝導技術の確立を待って頂いてコイルガンかレールガンを開発してハイヴ攻略の……」

「ちょ、ちょっと待った恭太郎くん!!」

「はい?」

「誰もそこまで求めておらんよ!我々が求めているのは、出来れば米海軍のF-14の基本性能に匹敵するような戦術機であって……」

「ああ……F-14程度が基準であればそんなに難しい話ではありませんよ。というか、現時点で瑞鶴はF-14以上の性能を叩き出せている筈です」

 

 

 単純なスペックだけで言えば、今年1984年に配備される第2世代戦術機であるF-15C以上の性能を現在の瑞鶴は獲得している。

 

 

「向こう10年程度は他国の追随を許さない性能に仕上げる事は可能ですが、やはりそれでは既存戦略の延長線上でしかなく──」

「わかった!わかったから!まずは多くを求めないで戦術機の開発を優先しよう!その後に超伝導でも核融合でも好きにして良いから!いいかな?!」

「え、ああ、はい。わかりました」

 

 

 あまりにも土肥さんの必死な様子に、思わずたじろいでしまう。

 周囲を見渡してみれば、依頼してきた会長さんは気が抜けた様に口と目を開けて呆けていたし、同行していた祐唯さんは顔を右手で覆って俯いていた。

 

 期待に添えないのは非常に申し訳ないのだが、だからこそあと3年くらい新型機の開発は待って貰いたかったのだ。

 それを必要な技術が揃ってない今、急ぎで作れとなればこの程度になってしまうのは仕方のないことだと承知して欲しいのだが……

 

 

「わかりました、一先ずは戦術機を完成させる事を優先しましょう」

「…………そうしてくれると、非常に助かるなぁ」

 

 

 こうして第2世代戦術機……とは名ばかりの、実質的な第3世代相当戦術機の開発がスタートした。

 

 

 

 

 

1984年5月6日

兵庫県 河崎重工 明石工場

 

 

 開発中の次世代戦術機の組み立てが完了したとの一報を受け、明石工場へと足を運ぶ。

 完成、とは言ってもまだテストを行っていない試作機の段階なので兵器としては未完成だ。

 しかし、それでも自分の設計した物がこうやって実際に形になるというのは非常に感慨深いものがある。

 

 

「しかし主任、こうして見ると些か小振りな機体なのですね」

「縦横のアスペクト比で生じるある種の錯覚ですよ。これでも瑞鶴とはそれほど全高は変わりませんから」

 

 

 新型機の全高は17.8mで、撃震の17.1mよりはやや高めだがF-15の18mというサイズ感に近く、F-14の19.3mや不知火の19.7mといった具合に大型機と呼ばれる機体と比較すると、17.3mで小型機とされるF-16やF-18*1と同じくらいの大きさとなっている。

 

 基本的に戦術機というのは、性能が高くなると大型化してしまう。

 例えばF-14ではAIM-54フェニックスミサイルを搭載することを前提としていたり第2世代戦術機のノウハウが確立していなかったという事情もあり機体が大型化してしまったという側面がある。

 この『装備が増えると重量が嵩む』、『重量が嵩むと航続距離が減る』、『減った航続距離を埋める為に燃料搭載量を増やす』、『燃料搭載量が増えると機体重量が更に嵩む』、『故に更なる推力か燃料を搭載するしかない』……というスパイラルの概念を増大係数(Growth Factor)と言い、F-14の設計者であるフランク・ハイネマン氏は随分と苦労させられたと言う。

 と言うのも米軍のドクトリンにおいては『近接戦闘はナンセンス』という思想があるので、1個中隊(12機)のF-14から放たれる計72発のフェニックスミサイルで旅団規模(3000~5000体)のBETAを撃滅させようというコンセプトの元、F-14にはミサイルキャリアとしての役割を担わせたかったからだ。

 

 まあしかし、ハイネマン氏はF-14の与えられた性能から鑑みるにどうみても中近距離での戦闘を重視していたのは明白だったし、結局は人工衛星や誘導装置の発展とともにF-14とフェニックスミサイルの優位性は失われ、退役に追い込まれてしまうのだが……

 

 それはさておき。

 異なる世界、航空機が発展した世界におけるハイネマン氏はシンプルで小型で軽量で、かつ信頼性の高い頑丈な構造の設計を追求しA-4 スカイホークという艦上攻撃機として傑作機を生み出したりしている。

 これの何が傑作かと言えば、12.2mという小さな体躯で4469kgという非常に軽量なボディに3720kgの兵装を積んで運用することが可能だったという点。

 重量積載比は驚異の83%で、後継機であるコルセアⅡやハリアーⅡが約60%だという事を踏まえれば、如何に小さな力持ちであったかが伺えるというものだ。

 

 今回、新型機に求めたのはこのA-4のコンセプトに近い。

 つまり、OFRPの採用で積載量などにも余裕を持たせることが可能なので、増大係数の観点から言っても機体を無闇に大きくして機体重量を増やす必要は無いのだ。

 だからと言って無条件に小型化してしまうと今度は大型種のBETAとの交戦において力負けしてしまったりと支障が生じるので、17~18m程度が戦術機としての優良なサイズであると考えている。

 

 そうして導き出されたのが17.8mという数字である。

 

 

「ナイフシースが下腿部の側面から伸びているというのも、あまり見ない配置ですが、これにも意味が?」

「ええ、寧ろなんで他国がコレをしないのか疑問なのですが」

 

 

 下腿部の中心からやや下側、そこから左右へ伸びる形で配置されたナイフシース。

 F-14等の米軍機では下腿から伸びた膝部で、F-4系列や日本をはじめとした中華、ソ連など極東のアジアから東欧にかけての機体は前腕部に設けられているのが普通で、主にこの2パターンしかない。

 しかし、俺から言わせれば膝部に大型のユニットを設けるというのは短刀の保持という観点では良い位置だが、歩行における重心移動で大きな負担の掛かる位置であり、かつ前方下部、つまり足元の視認性を悪くしてしまうし、前腕というのは近接戦闘においてBETAに接触する可能性の高い位置で、また短刀を保持する際に腕を反対側に伸ばすか、より複雑なサブアームの展開構造を必要とするので、これらは不適切な配置だ。

 

 だから下腿部の側面。

 ここであれば、まず腕を下ろしたホームポジョションの状態に、収納部から大腿の高さまで少しだけ上方向にアームを伸ばしてやれば直ぐに短刀を取得する事が可能な位置である。

 

 そして何より、これをウイング状に設ける事で戦術機が匍匐飛行(NOE)水平噴射跳躍(ホライゾナルブースト)といった低空飛行を行う際に揚力を稼ぐことで下半身側の飛行バランスを取ることに貢献してくれる。

 考えても見て欲しい、戦術機が飛行姿勢を取ると上半身と跳躍ユニットとでバランスを取る事になるので、推進力と揚力のない脚部は当然ながらぶら下がる様な格好となってしまうのだ。

 つまり、地面に対して垂直寄りの斜め方向になる訳だが、被弾面積や空気抵抗の観点からしても地面に対して平行で出来る限り前方向に機体を晒さない格好で跳んだ方が優れているのは言うまでもない。

 

 だから、下腿部に揚力を発生させられる翼を設けて出来る限り釣り合いが取れる様にすれば、自ずと巡航速度も向上するということ。

 伊達や酔狂でこんな所にナイフシースを設けたわけではないのだ。

 

 

「そういえば篁大尉、斯衛軍の将校は瑞鶴を見た時にツルの様だと表現したんでしたっけ」

「ええ、正確には折り鶴の如しですが。どうかされましたか?」

「いえね、瑞鶴が小綺麗なツルであるならば、この機体はさしずめカラスといったところかな、と思いまして」

「カラスですか、言われてみれば……」

 

 

 一般衛士向けの黒い瑞鶴を改修した影響なのか、新型機の配色も黒であり、それもあって余計にカラスを連想させた。

 

 

「ひとまず、ここで眺めていても進捗が早くなる訳でも無いので任せましょう。その間にやることがあります」

「なんでしょうか?」

「コンピュータ作りです」

 

 

 

 

 

1984年6月20日

東京府 東京帝国大学 理学部情報科学科

 

 

「失礼します、京都より参りました須和恭太郎です」

 

 

 研究室に入って集まるのは疑念の視線だった。

 日本でも随一の研究機関である東京帝国大学に高校生ぐらいの男児が急に入ってくれば当然ともいえるものだ。

 そして、その後ろから続く橙色の斯衛軍の制服を纏う男が表れると、今度は一転してギョッとした驚愕の表情に変わる。

 一体今から何が起こるというのか、そう言いたげであった。

 

 

「は、はい。坂本は私ですが……」

「ああ坂本さん、お会いできて光栄です。私は邦畿計画の主任を務めさせて頂いております須和恭太郎です」

 

 

 彼の名前は坂本弦。

 現在は東京帝国大学の理学部情報科学科で助手をしており、様々な分野に応用可能なコンピュータOSのTRONシリーズを手掛けた、その人である。

 

 

「それで、私にどのようなご要件で……?」

「はい、坂本さんが先日発表されていたOSのTRON、あれをJECから発売するPCに採用したいと考えておりまして」

「え……いや、すみません。PC用のB-TRONはまだ構想段階で完成していないんです」

「でも、カーネルはある程度はありますよね?」

「まあ……いずれはI-TRONとの統合を検討しているのでB-TRON専用という訳ではありませんが」

「見せて貰ってもよろしいですか?」

「構いませんけど……」

 

 

 不承不承といった様子で見せてもらったモニターには、一見すると文字の羅列が踊っている。

 見る限り、確かにOSの根幹を成すカーネルはある程度構築されているが、ハードウェアを動かす為のドライバやB-TRONの目指しているパソコンの動作を視覚的にわかり易く表示してくれるGUIが殆ど手付かずの状態だった。

 

 

「なるほど……それで、GUIに使う画像の素材ってありますか?」

「はい、こちらにありますが」

「ああ、それなら大丈夫ですね」

「何がですか?」

「ちょっと今からOSを作りますね」

「はい…………はい?なんですって?」

 

 

 材料は揃っているのだから、後はこれを使って組み立てをするだけだ。

 GUIのデザインも既に坂本氏がTRON構想発表の時に出しているものがあるので、それに倣えば良い。

 

 shellに多少手を加えて日本語を認識出来る様に……精度は少し妥協して後で盛ろう。

 ハードウェアはCPUやメモリ、補助記憶装置にキーボードやマウスなどの入力装置が最低限使える様にして、後で必要になったら追加すれば良いだろう。

 

 

「は?メモリ不足?そうか、このPCだと1MBぐらいしか無いから……いや、だったら構造を単純化して300kbぐらいで最低限動く様にしちゃえば良いのか。ココとココを統合して、だったらカーネルを少し弄るしかないな。うん、これで良しと」

「…………」

「メディア再生機能があまりにも貧弱だけど、ハードの都合上仕方ないか。これは実機で弄るとして……んじゃアプリケーションも最低限作っとくか」

「指の動きが見えねぇ……」

「というか、今何をしているのかわかんない……」

「キーボードってあんなゼンマイみたいな小気味良い音が鳴るもんだったんだな……」

 

 

 4時間ぐらいは要しただろうか、かなり時間を掛けてしまったが漸く動かせるレベルのOSには仕上がった。

 

 

「それで、形になったB-TRONがココにあるわけなんですが」

「はぁ、そうですね……」

「改めて、坂本さんこのB-TRONをJECのPCに採用させては頂けないでしょうか?」

「いや、もうこれ、私のじゃなくて貴方が作ったOSだと思うんですが?」

 

 

 権利がどうので一悶着があったが、粘り強い交渉の末、何とかB-TRONの使用を許諾して貰う事ができた。

 

 何故ここまでB-TRONに拘るのかと言えば、B-TRONというGUIとしての使い易さもあるが、それと同じ祖を持つ組み込み向けのリアルタイムカーネルであるI-TRONの方が重要だったりする。

 I-TRONは組み込み向け、つまり家電や医療機器、人工衛星に工業機械と幅広く応用が利くOSなのだが、この世界ではB-TRONもI-TRONも趨勢を占めることなく、歴史の中に葬り去られてしまう。

 というのも、この世界における工業分野の第一優先は対BETAが根幹にあり、そういった軍事面の技術の多くの特許は米国企業が占有しているのが実態で、兵器製造の工作機械やソフトウェアも米国の匙加減1つで供給が途絶えてしまうという事実がある。

 故に、戦術機を製造するための工作機械や部品、管制ユニットなどを含めた包括ライセンスの契約条件として米国産OSの使用が義務付けられ、TRONシリーズは途絶えてしまったという歴史がある。

 

 これが国産機を開発、製造する上で大きな足枷になるのは言うまでもない。

 国産のハードウェアとソフトウェアのみで戦術機が構築できることを証明し、その技術の系譜を築きあげておく必要がある。

 

 だから、多少強引でもその芽が出た時点で簡単には摘めない若木の状態にまで押し上げ、大樹になるように保護しなければならない。

 それが邦畿計画の役目の一つだと俺は思っている。

 

 

「では試作品の一つをこちらの研究室にも贈らせていただきますので」

「ああ、もう好きにしてください。本当に……」

*1
マブラヴの世界では攻撃機としての役目を担っていないのでF/A-18ではなくF-18が正しい

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