Muv-luv BreakThrow 技術チートで変える未来   作:あるすとろめりあ改

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Knowledge by our future
01『滅びの悪夢』 1981.10.22


 

 ──まるで餓鬼だ。

 どこか曖昧な意識の中でふとそんな言葉が過ぎった。

 返り血で染め上げられた様な紅い体色に人の頭蓋など容易く噛み砕くと示すかの如く巨大な顎門を持ち、身体は四足で支えられ獣の様に駆けるが、そこに人の上半身が無理やり貼り合わせたみたいに首と二本の上肢が前へと伸びている。

 

 そんな怪物が、群れを為していた。

 十や二十ではきかない、百以上の群衆がまるで紅い津波の様になってこちらへ押し寄せてくる。

 よく見ればその後続にはさらなる軍勢が連なり迫ってきていた。 

 

 人体をバラバラに繋ぎ合わせた様な歪な白いもの

 紅や白色のそれよりも大きくてヤドカリの如く頑強な前腕を振り回すもの

 不気味な緑色の甲羅を掲げ遮る物を総て圧し潰し蹂躙せんとばかりに地響きを鳴らしながら直進するもの

 果てにはまるで軍艦に脚をくっつけて無理やり地を這わせているかのような巨体を持つものまでいる始末だ。

 

 初見である筈のその百鬼夜行の正体を何故か知っている。

 

 

 Beings of the

 Extra

 Terrestrial origin which is

 Adversary of human race 

 

 

 人類に敵対的な地球外起源種────BETA

 

 彼奴らの辿る先は、文字通り蹂躙され何も残らなかった。

 草木は枯れ、水は干上がり、生きとし生けるものは虫の一匹さえ生存が許されない不毛の大地へと……

 人類はその侵略者に対してそれこそ命を賭して奮闘し抗った。

 しかし……BETAの最大の武器はその物量にあったのだ。

 敵襲で知らされる数で数万や数十万などというのは珍しくもない。

 その総数は億か兆か……そしてその数は尚も増え続けていることだろう。

 

 

 そんなBETAに対して人類の反抗の要たるものが戦術歩行戦闘機……通称、戦術機だ。

 18~20m程度の巨体をもつロボット兵器であり、二脚で自重を支え、二腕で武器を携え、腰部に備えられた跳躍ユニットによって空をも翔ける。

 巨砲を撃ち、刀で斬り裂き、盾で防ぎ……人の溢れんばかりの怒りを、意志を、BETAを屠らんと増幅させ穿つ具現機の様な存在。

 

 …………確かに、その存在によって人類の延命は適った。

 飽くまでもそれは延命であり──絶やすには、未だ、届かない。

 

 

 そうして人類は過ちを犯す。

 

 2004年2月22日、人類は母なる大地たる地球に叡智の矛を突き刺した。

 BETA由来のグレイ11という物質の性質を利用した兵器であるG弾を大量にユーラシア大陸へ投下したのだ。

 G弾は爆心地を中心に重力崩壊を招き、その爆発に巻き込まれた物質は全てがナノレベルまで崩壊する。

 確かにそれはBETAを噛み砕き、その基地たるハイヴを破壊せしめるに至った。 

 

 だがその由来はBETAの持ち込んだ物。

 我々にとっては言わば借り物の力に過ぎなかったのだ。

 

 空の上から眺めた時には、傷付く母星に悲嘆し涙を流していたがその実態と結果を知る由もなかった。

 

 地の上で目の当たりにした時、初めてその過ちに気が付いた。

 

 つまり、BETAは何かしらの手段、対策を講じる事でG弾への耐性を獲得したのだ。

 数年は沈黙し仮初めの平和を謳歌していた人類圏に……まるで地獄の門が解き放たれるかの如く再び地下深くより這い出た。

 しかしその頃の人類は、地球は自らが落としたG弾の影響で深く傷付いていた。

 G弾による重力異常は依然として残り、人類の生活可能圏は著しく減少。

 人類は残された数少ない大地で踏み留まり最期まで抵抗を重ねたが…………やがて、詰んだ。

 

 資源の枯渇だ。

 そもそも、十全な状態でBETAに挑んでも負け戦続きだったのだから、深傷を負った状態でどうして勝てようか? 

 それでも人類は矜恃か意地か抵抗を続け、そして恐らくは──一人として残らず散ったのだろう。

 

 

 

 人類の歩みは、そこで完全に途絶える。

 

 それは、母なる地球を離れ遥か彼方の星系へと旅立った者達も例外では無く、BETAの魔の手は────

 

 

 

 

 

 

1981年10月22日

東京府中野区 須和家

 

 

「…………」

 

 

 目を醒ますとそこは慣れ親しんだ寝室だった。

 二段ベッドの下側──三男である自分は上段で寝る権利は得られなかった──から慎重に側面へと回り込み身体を抜け出す。

 昨年の夏頃から身長が著しく伸び始め、ベッド上で無防備に座位を取ろうものなら途端に上段の板に頭が衝突し、朝方にソレをやれば上段に寝る兄を起こしてしまい大目玉を食らうのは必至だったが、勝手知ったるなんとやらですんなりベッドから降ろし、身体を延ばした。

 

 部屋の壁に掛けられた時計に視線をやれば、針は6時15分を指している。

 既に部活動も引退し早朝から学校へ向かう用事も無い。

 贅沢にもう一時間ばかりの惰眠をむさぼる事が出来る────とは、いかなかった。

 

 

「ふむ…………」

 

 

 恭太郎は先刻までみていた夢の内容を反芻する。

 

 否、ソレは夢では無い。

 睡眠中に蓄積された膨大な情報を脳が処理しその断片を無意識下で映像化したものが夢であるのならばソレは夢であると言えたが、しかしソレが(うつつ)ではなく(うつつ)であると何故か確信できた。

 夢であれば『奇妙で奇っ怪な夢をみたものだ』で終わるのだが…………

 その“夢”というものを契機にありとあらゆるものが変わった──いや、獲てしまったと言うべきだろうか?

 

 長兄から譲り受けた勉強机の前に座り、棚に挟まれた雑紙の一枚と鉛筆を取り出す。

 そうして紙に描かれたのは、本来であればそこに描画することさえ不可能な代物であった。

 それは82式戦術歩行戦闘機、瑞鶴の外観。

 現在、世界での主流であるF4 ファントム、およびその日本仕様であるF4J 激震の改修機であり、主に武家によって組織されている斯衛軍専用機として再設計された機体……と、なる予定である。

 名の通りその機体が配備開始されるのは1982年。つまり来年の出来事だ。

 

 では、何故そんなものを一介の中学生である恭太郎が描けたのか?

 それこそが、アレが夢でないと断じる事ができる根拠である。

 今の恭太郎の頭の中には様々な知識が踊っていた。

 しかも生半可なものではない。

 ただ未来の戦術機の外観を知っている程度であれば預言者モドキか良くて三流軍事スパイと掃き捨てられるだろうが、その知識には機体の詳細設計図まで事細かに記憶されている。

 実際、描いた瑞鶴の腕の隣に関節部の設計が如何に撃震から改良されたかを図にすることが出来た。

 更に今は何となしに瑞鶴としたが、まだ整理が覚束ない故に限界こそ知れぬが凡そ2020年代に配備される戦術機にまで及ぶようだ。

 

 

「しかし、何故こんなものが俺に……?」

 

 

 小さく呟いてみるが、当然その答えは返ってこない。

 どうしてこんなものが一夜にして頭の中に入ってきたのだろうか?何処から?誰のが?何の為に?

 思考を巡らせ浅く知識を探ってもとんとわからぬ。

 

 しかし、とある考えがふと恭太郎の脳裏に浮かんだ時、不安が大きく感情を占める中でも得も言われぬ好奇心と興味、そしてどこか使命感の様なものを抱かずにはいられなかった。

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