Muv-luv BreakThrow 技術チートで変える未来   作:あるすとろめりあ改

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19『密談』 1984.10.15

1984年10月15日

東京府 港区 赤坂

 

 

 赤坂といえば高級料亭をイメージする者も少なくはないだろう。

 これは歴史や地理的に見ていくと、まず明治の頃に赤坂に帝国陸軍の駐屯地や斯衛軍の兵舎があったことが始まりとされる。

 その頃の日本といえば日露戦争において海ではバルチック艦隊を、陸ではコサック師団を討ち破り勝利に湧いていた頃で軍人たちの羽振りも良く、そんな彼らを相手にした料亭が続々と増えていった。

 更に赤坂からほど近い霞が関には国会議事堂をはじめとして官公庁舎が続々と建てられ、政治家もこの手の高級料亭を会食の場として利用するようになっていく。

 

 そして政治家と赤坂の二つを紐づけると『密談』というキーワードが自ずと連想されるが、これは料亭の特性が故と言えた。

 料亭は、大衆的な居酒屋や食堂と異なり客同士が対面せず個室で仕切られた空間でもてなす事を目的としている為、商談や密談に適した機密性を有していること。

 更に土地代や料理の質、花柳による接待などのサービスによって単価が非常に高く、その料金を回収する為にもいわゆる『一見さんお断り』が敷かれ、つまり身元の判らない者が入店することが適わないのでセキュリティ面でも優れていると言える。

 そういった理由が複合し、夜の赤坂は接待や密談といった目的で今日においても賑わいを見せているのだ。

 

 

「おう、待たせたね」

「おうおう遅かったじゃないの。もう先にやってるよ」

「軍は今や毎日大忙しよ。例のアレがあるからね」

「まあまあ、先に一杯やってくださいよ」

「そうだな。すまないね、私にもくれるかい?」

「はい、かしこまりました」

 

 

 そんな赤坂の高級料亭の一つに、初老から老齢に至る6人の男が集い芸者の接待を受けていた。

 彼らは財閥や軍、官僚のそれぞれ幹部連中であり、また東京帝国大学を卒業した同門でもあり、横の繋がりの深い者達である。

 こうやって時々集っては、情報交換などに興じては互いの親睦を深めているのだ。

 もちろん、国家公務員倫理法などの法的にも倫理的にも褒められた行為ではないが、彼らには一応『同門』という建前があり、危うい時などは金銭や情報などを渡すことでマスコミにお目溢しさせてきたという経緯がある。

 

 

「それでよぉ、軍部と言えばアレかい。やっぱり例の戦術機かい?」

「そうさね。しかし、軍を騒がしくしているのは戦術機そのものというよりも、それに衝き動かされた幕僚と国防省の鶴の一声さ」

「なんだってんだよ?」

「大陸派兵の大幅な繰り上げだよ」

 

 

 大陸派兵の一言に、男達は驚きを隠せない様子でざわめき立つ。

 つまり、これまでは本土侵攻に備える為の守勢が主だった軍部が攻勢に転じるというのだから、その影響は計り知れない。

 既に、彼らの頭の中では未来予想の演算が密かに始まっていた。

 

 

「それは、何時になるんだい?」

「先発隊が来年で、本格的な派兵が再来年になる」

「なんだい、本当に随分と急な話じゃないか?」

「アメリカのF-14とF-15のせいさ」

「と言うと?」

「やっこさん、積極的に第2世代戦術機として各国に売り込んでいてなぁ、勿論ウチにもロビー活動を……そんで、ソレに親米派や反国産派が乗り気になっちまったもんで、そいつらを抑える為にさっさと既成事実を作っちまいたいってことさ」

「なるほどねぇ」

 

 

 ここにいる者達はいわゆる国粋主義者であり、国産戦術機実現の為に尽力してきた訳であるから、日本の主力機としてF-14やF-15が採用されるのは避けたい、というのが共通認識であった。

 

 

「それで例のヤタガラスという訳かい」

「どうなのさ、例の子供が作ったって言うじゃないの?」

「総力戦研究所は『客観的にみてF-14及びF-15よりも明らかに高性能』って結論を出したよ。上が動き出したのもそれが決めてさ」

「なんだ、そんなに良いモノなのか?」

「光菱さんとしてはどうなの、河崎に出し抜かれたわけだろ?」

「正直、ウチの技師達はお手上げ降参って感じだね。前にフレームを弄ってみたけどてんで駄目でね、あと10年や20年は熟成させないとどうにか出来る代物じゃないんだと」

 

 

 光菱重工では現在、CFRP製の自律稼動フレームの生産を行っていた。

 作るだけであれば可能だが、しかしそれを改良したり新規設計するとなれば話は別。

 既に昨年にチャレンジはしていたが、結局戦闘機動時に耐久力不足で真っ二つに折れ曲がるという屈辱を経験している。

 故に、今は生産を請け負いながらその技術を吸収し、爪を研ぐ時期であると切り替えていた。

 

 

「それよりもあの少年、須和恭太郎の所在をそろそろ明らかにして欲しいもんだよ」

「所在?京都にいるんだろ?」

「そうじゃなくてさぁ、今は斯衛寄りの河崎重工寄りっていう曖昧な立ち位置だろ?流石に不平等というかさぁ、どっちつかずにいるならせめて明確に中立な立場に置いて貰いたいのよ」

「ウチでもあのまま斯衛軍の直属になってしまったら困るってんで何とかならんかねって動いてはいるんだけどね」

「何とかって、どうするんだよ」

「うーん……国防省か帝国参謀本部の直属か、もしくは政威大将軍の直属ってとこかね」

「将軍のトコに置いたら、結局斯衛に持ってかれるって事じゃないかい」

「あのね、一応名目上は政威大将軍は日本の政治を皇帝陛下から全権委任されているって事になっているから、内閣も国防省も城内省も同列に将軍様の配下ってことになるのよ」

 

 

 実態と法的な政治構造に乖離が生じているが、実質的に日本の国政の実権を握っているのは内閣総理大臣であるが、その任命権があるのは法的には政威大将軍であり、最悪の場合は皇帝陛下の名においてその地位を剥奪することも可能なのである。

 とは言え、日本帝国は民主政治を執っている立場上、政威大将軍による独裁的な政治は認められない……などの名目でその権力や権利が奪われ続け、現状では斯衛軍の総大将というのが世間における大筋での認識で、国政においては名誉職としての意味合いが強いのも事実だ。

 

 民主主義?帝国とは?という疑問も尤もだが。

 ややこしい事に民主主義が認められているのも皇帝陛下の命によるから複雑なのだ。

 

 

「まあ、斯衛も簡単には手放したくないだろうから、将軍の傍って言えば斯衛としては聞こえが良いだろうし、あとは外堀をちゃんと埋めて中立を確固とするってのが着地点だろうな」

「それじゃあ、仮に軍属になるとしてその子はどこの制服を着るんだい?」

「俺は遠目に見たことがあるが、まだ結構幼い顔立ちだったからなぁ、どっちの軍服も似合わなさそうだったよ」

「だぁーれがファッションの話をしろって言ったよアホが」

「はっはっはっ」

 

 

 公的な会談では無いが故に、時々話の腰が折れたり脱線したりしながらも砕けた表情で屈託のない声が飛び交う。

 そんな中、光菱重工の重役が思い出した様に口を開く。

 

 

「そうそう、そう言えば富嶽のトコだけどさ」

「ああ……連中、最近ではすっかりと影が薄くなっちまったな。それで?」

「河崎の明石工場に産業スパイを送りこんだんだってよ」

 

 

 くつくつと愉快そうに笑いながらそんなことを言い出す。

 彼が説明するまでもなく、ヤタガラスやそれに用いられている自律稼動フレームやカグツチ装甲といった最新鋭技術を盗み出す為に送り込まれたのはわかりきっていた。

 結局、富嶽重工はそれらの技術を盗み出す事には失敗したのだが──

 

 

「でもさ、結局のところ大陸派兵ってなったら富嶽でもヤタガラスは生産するんだろ?」

「そりゃあ勿論、派兵先発隊は戦術機1個大隊を送るからキッカリ3社で1個中隊12機を等分して発注するさ」

「なんだい、それじゃあ富嶽はお手付きをしただけってことじゃないか」

「しかも札を捲る前に見つかってるからな、マヌケな話だ」

 

 

 お粗末な話ではあるが、それだけ最新鋭技術に対する遅れを取り戻そうと必死であったのだろう。

 まあしかし、世界でも河崎と光菱しか保有していない技術をどこから持ってきたのかと問い詰められたらどうするつもりだったのか、など綻びも多々あるが。

 自分達で独自に見出したとでも言い切るつもりだったのだろうか、証拠がなければそれもまた手段ではあろうが、周囲から白い目で見られるのは習得に成功しても失敗しても同じこと。

 この産業スパイの情報は界隈の一部で既に流布しているから、富嶽重工との付き合いを警戒される様になるのは既に確定していた。

 

 

「それで、少年はそのことは?」

「さあねぇ、そこまでは知らんよ」

「薄情だねぇ」

「自分の孫でもあるまい、敵に塩を送ってやる義理はないよ。まあ、行く先が無いんなら引き取ってやりはするけどな」

「そうさね、米国企業に引き抜かれたらたまったモンじゃない」

「それがさ、案外海外でのウケはそこまで良く無いみたいなのよ」

「へぇ?そりゃまたどうして」

「そりゃあまだ実戦経験が無いから他国から見たらヤタガラスも須和恭太郎も無名だろうさ」

「そうか……そうしたら、須和恭太郎の名前はあんまり外には出さない様にした方が良いか」

「そんなこと出来るのかい?」

「完全な封鎖は無理さ、調べりゃわかるからな。だけどワンクッション挟んでやるだけで違うだろ、その間に向こうさんがやる気になったのを察知して対抗手段を取れるくらいの準備は整えて貰わにゃ」

「そうしたら、ウチも手を加えてやりますかね」

「おうおう、今度は手の平を返したみたいにお優しいことで」

「おたくも一枚噛んでおくのを勧めるよ、ヤタガラスの存在が外に知れ渡った頃には出遅れているかもしれんからな」

 

 

 なにも彼らは人情だけで須和恭太郎を助けてやろうと、そんなお優しい感情で言っている訳がなかった。

 ヤタガラスや周辺技術の圧倒的な性能を垣間見たもの達は、それに対して投資対象としての魅力を感じ、かつ正に金の卵を産む雌鳥とでも言うべき存在である須和恭太郎が海外に奪われた時の損害を考えた時のことを想定しているに過ぎない。

 それを直接手中に収められない歯がゆさこそあれど、現状における自陣営に想定される利益を考えれば盾の一つくらいは添えてやろうと考えられるくらいに彼らは古狸だったのだ。

 

 

「盛り上がっているところ申し訳ないが、大陸派兵はそんな簡単な話じゃないからな。準備が出来てないのはヤタガラスだけじゃないんだ」

「何か足りないってことか?」

「舟だよ」

「フネ……輸送艦か?」

「ああ。急に決まったことだからな、戦術機の輸送手段がまだ決まってない」

 

 

 戦術機を海の向こうに運ぶという労力は並大抵のことでは無い。

 100tを超える18m程度の大型機械、これはちょっとしたビルをそのまま運ぶのと同義である。

 アメリカやイギリスなどでは元々ジェット戦闘機や攻撃機用に造られていた航空母艦を改装した戦術機母艦が存在するが、日本は日米安保条約などの影響で戦艦を複数保有することが定められており、空母を建造して運用する余力がなかった。

 故に、日本における空母の歴史は1944年に竣工した雲龍型の葛城を最後に途絶えてしまっている。

 それも、復員輸送に使われた後に資源確保の為に解体されてしまったので、現在の日本は空母を1隻も保有していないのが現状だ。

 

 

「コンテナ船かタンカー船を流用するのが現実的か?」

「まあ、ただ運ぶだけならその辺が妥当か」

「しかし、これからも大陸に戦術機を大量に送るとなれば本格的に専門の空母と輸送艦は必要になってくるぞ」

「だが空母となれば製造だけでなく運用のノウハウも必要になってくる訳で、それを如何に手にするかが問題だ」

「アメリカは無理だろうな……」

「であれば、欧州連合か。しかし、クイーン・エリザベスやシャルル・ド・ゴールの設計図を渡してくれるだろうか?」

「何かしら交渉材料が無ければ無理だろうな」

「いやいや、気が早すぎるぞ。今考えるとしたら来年の先発隊を送り込むまでに間に合う艦のこさえ方だろう?」

 

 

 断っておくが、これは別に幕僚会議ではない。

 確かに幕僚に値する帝国軍人は居たが、あくまでも外部の酒の席であり、ここで何かしら話の方向性が定まったところでそれがそのまま軍の指針になるわけがなかった。

 しかしそれでも本気で議論を交わしてしまうのが、彼らの(さが)であると言えるだろう。

 

 

「先の戦争で我々が、やれ銃が足らぬ弾が足らぬと言うと『足らぬ足らぬは工夫が足らぬ』と怒られたもんだよなぁ」

「ああ……」

「知恵を出して何とかなればなるほど容易い時代ではなかったよ」

「それは今も同じさ」

「ま、知恵と工夫で国産戦術機をこさえてしまった子供がこの国にはいるらしいがね?」

「ははは、だったらいっそのこと彼にこの問題を宿題として提出してみてはどうだい?」

「案外、良い知恵を出してくれたりしてな」

 

 

 ただし、その議論の内容が真面目で現実を見据えたものであるとは限らないのだが──

 

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