Muv-luv BreakThrow 技術チートで変える未来 作:あるすとろめりあ改
23『管制ユニットを浮かす』 1985.11.30
1985年11月30日
京都帝国大学 邦畿計画事業室
そろそろと年末に差し掛かる今日この頃、恭太郎はPCに表示されるヤタガラスのデータを眺めながら思考を巡らせていた。
帝国陸軍はヤタガラスの現状の仕様をほぼそのままで採用する予定だが、帝国斯衛軍は若干の仕様変更を要求してきたので、その対応をしていたのだ。
「家格による色分けは、まぁ……うん。でも“帝国陸軍よりも高性能であること”って言うのは、何だかなぁ」
斯衛というか武家の病とでも言うのだろうか、帯刀や銃剣に固執したり瑞鶴の時もそうだが何かと帝国軍と張り合ってみせたり…………
しかも主機の性能向上では飽き足らず、機体の装甲各所にスーパーカーボン製のブレードを設ける様にという要求まで挙がってきている。
つまり、実質的に基本性能だけでいえば1980年代に武御雷を寄越せと言っている様なものだ。
なんとまあ、随分と時代を先取りした要求だこと。
「しかし……斯衛はよくこの発想に至ったものだな」
ブレードエッジ装甲だとかブレードベーン等々、各国やメーカー毎に様々な名称で呼ばれてはいるが、戦術機の装甲各所にスーパーカーボンの刃を設けてそれでBETAを切り裂くという発想は超至近距離での密集格闘戦が想定される国においては真剣に研究され、90年代後半から各国で実装され初めた。
実は、その始祖というか発想の大元になったとされる機体はかの有名なSu-27 ジュラーブリク……ではなく、イギリスのF-5 E ADV トーネード*1である。
このEとはEnglandのEであり、年代で言うと1982年に原型であるF-5 E IDSを改修する形で誕生している。
またADVとは
さて、それを踏まえた上でF-5 E ADVを見てみると、まず両腕に巨大な刃の付いた
近接戦闘に特化した武装としては日本の74式近接戦闘長刀や中華統一戦線などで用いられている77式近接戦闘長刀などが挙げられるが、切断する為の操縦技能の習得が困難であったり、マニピュレーターへの負荷が高いとして採用する国が少ない。
かと言って補助兵装であるナイフや短刀では戦車級以下の小型種ならばある程度の有効性があるが、要撃級以上の大型種を相手にするとなればリーチや威力の不足という問題が浮き彫りになっていく。
そこでイギリスの取った手段が、腕に突撃砲を握った状態を維持し、必要に応じて直ぐに近接格闘戦に移行する事が可能で、短刀以上のリーチを持つ刃としての近接固定兵装だった。
そしてそれをより小型かつ切断性能が高く、空力特性確保など汎用性の確保に成功した武装がブレードエッジ装甲、というわけだ。
そういう訳で、発想の根源自体が無い訳ではないのだが、まだソ連が肩部へのブレードベーンを採用していない事から実績も少なくマイナーな武装であり、よくこんなに早期から装備しようと画策したものだと素直に感心する。
恐らくだが、鳳翔周りの件も含めてイギリス軍と接触した際に、ヤタガラスのデータと引き換えに欧州連合の戦術機共同開発計画であるECTSF計画……つまり、EF-2000 ユーロファイターのデータを入手したのだろう。
この計画には当然イギリス軍も関わっているので、早期にF-5 E ADVにおける固定近接武装の実戦での有効性を認識し、それが必須の武装であると計画に盛り込まれたのは容易に想像できる。
そして、それを見た斯衛軍の戦術研究機関が『ウチにも必要だ』と見切り発車気味に要求してきたのだろう。
その証拠に要求仕様書におけるブレードエッジ装甲の定義は曖昧で、設置箇所やサイズ、形状についての指定が皆無だから、斯衛軍もコレがどんな兵装なのか理解が追いついていないという状況が透けて見える様だ。
まあ、こちらとしては既に答えを知っているので作れと言うのであれば作ってみせるが。
「とは言え、あまり帝国軍仕様と乖離して欲しく無いんだけどな……」
武御雷は、不知火をベースに斯衛軍の要求仕様に合わせた改修機の様なものだが、ブレードエッジ装甲の採用に伴い装甲材やフレームの素材が変更され、刃の磨耗や劣化による研磨や交換の必要性から生産性と整備性を著しく悪くさせるという弊害を招いた。
では、その点も出来る限り改善してご覧にいれよう。
まず、フレームに関してはOFRPの自律稼動フレームで問題なし。
これは弾性や靱性に優れていてちょっとやそっとの無茶な機動をしても壊れやしない。
次に各所のブレードエッジの接続方法はレール方式とする。
いわゆる小銃のピカティニーレール等と類似した方式だ。
そんなモノで固定出来るのか?という疑問があるかもしれないが、ピカティニーレールにおいてはバヨネット用マウンタを介してナイフを装着可能だし、後のEF-2000の前腕のブレードエッジはレールで固定され、更にはそのレールに沿って前後に稼動する機構まで設けていた。
これを前腕だけでなく肩部、膝部、下腿部、前足部、踵部の全てにレールを設けて後付けで装着出来る様にする。
装甲の形状変更による接合部を設けない方式と比較すると、耐久性や重量増加というデメリットが生ずるが、たとえ戦闘中に破損してもサブアームで排除できるし、交換する際には装甲の脱着が必要ないので整備性にも寄与する。
「全身刃だらけにするなんて、本当に有効なんですか?コレ」
「…………」
何やらブレードエッジ装甲に苦言を呈している篁大尉だが、武御雷におけるブレードエッジ装甲の配置や形状を決して設計に大きく携わったのは他の誰でもない、彼なのだ。
まあそれはヤタガラスのない本来の世界における未来での話であるが。
何はともあれ、この改修案を提出して斯衛軍の依頼は完遂したのでブレードエッジの話は終了だ。
「さて、それでは……来年の制式採用に間に合う様にヤタガラスを完全国産化させますか」
「え?どういうことですか……?ヤタガラスは主任が総て設計して邦畿計画の技術で製造されましたよね?」
「いえ、一つだけライセンス生産に頼っているものがありました……管制ユニットです」
管制ユニット。
つまり、戦術機を操縦するためのコントロールユニットと脱出時用の強化外骨格、メインコンピュータなどを統合したコックピット・モジュールのことである。
この強化外骨格は機械化歩兵のパワードスーツとの差異として胸部から腹部にかけての前面装甲が排されている事以外は全く同一の物で、脱出時に戦車級以下の小型BETAと遭遇してもある程度応戦できるだけの戦闘力を有している。
この管制ユニットは米国のマーキン・ベルカー社が、機械化歩兵装甲はジネラル・エレクトロニクス社が開発、ライセンスを保有し、日本ではそれに基づくライセンス生産を行ってきた。
しかし、ヤタガラスを輸出していくとなると米国とは経済的に対立する関係になっていくことは必至だ。
あの国はこと貿易に関しては容赦ない制裁を行ってくることは歴史的にも明らかで、特に現在は日米貿易摩擦が真っ盛りの時期でもあり自動車産業において日本車の台頭からジネラル・モーターズ*2から大量の失業者が出たという影響もあったりでアメリカ世論は激しいジャパン・バッシングが盛んであり、スーパー301条を始めとした日本からの輸入には高い関税をかけ、逆にアメリカから日本への輸出は関税を撤廃させるなど、強い締め付けを行っていくことになる。
それはやがて日米ハイテク摩擦へと繋がっていき、JEC*3やコジマ*4のスーパーコンピュータを締め出したり、個人やデスクトップ端末向けにもナノソフト*5のOSを採用させる為にTRONの普及を妨害したりなど……そういう未来が待っているわけだ。
何が問題かと言えば、管制ユニットの国産化をしておかないと、何かしらのでっち上げの理由を挙げて『ライセンス契約違反だ!』と管制ユニットのライセンス生産の差し止めを強行されかねないということ。
そして機械化歩兵装甲も管制ユニットとセットでの運用なので、こちらも着手する必要があるという訳で。
「機械化歩兵に関しては、現行の技術ではあまり弄れません……精々、自律稼動フレームで得られた技術を反映してフレーム強度や出力を向上させる程度ですね」
「主任って、技術が既存のものから劇的に進化していないと許せない変な拘りがありますよね。リアリストなのかロマンチストなのか時々わからなくなります」
「ですが管制ユニットに関しては、超伝導コイルが製造出来るようになった今だからこそ可能になった機構を採用できます……!」
「はいはい、そういう前置きをする時は何か凄いのが飛び出すんですよね。わかってますよ?」
「名付けるならば、
「マグレク……はぁ、なるほど?」
篁大尉の理解が追いついていない様なので、説明を行う。
まず、管制ユニット自体を超伝導コイルで浮上させる。
これはつまりリニア方式であり、リニアモーターカーが空中に浮遊しているのと同じ原理だ。
そしてこの浮遊率をコンピュータでリアルタイムに制御することで衝撃や加速による負荷、つまりGを軽減させることで衛士の負担を軽減するというもの。
更に、これに加えて座席の角度を可能な限り180°に近づけ……つまり、殆ど仰向けの様な形で搭乗する方式とする。
その理由としては、やはりGを軽減する為の手段であるからだ。
そもそもGによる弊害というのは、血流が足元に集中してしまい、逆に脳への血流が低下することで脳の機能が低下してしまいブラックアウト、つまり気絶してしまう事である。
その為、これまで足を締め上げる事で下肢への血流を抑制してブラックアウトを防ぐ耐Gスーツなどが開発され、その発展型がつまり衛士の強化装備な訳だ。
そして、脳と心臓の高さが同じであればより脳に多くの血液を供給できる為に座席を後退させた方が耐Gの観点では有効であることは知られており、例えばこれは別の世界……空に戦闘機が飛んでいる世界での話だが、F-16戦闘機ではリクライニング角度を30°、F-2支援戦闘機では25°と固定しているが、ここまで倒すと全く後退させていない状態と比較して約1Gを低減させることができる。
だったら仰向けにしてしまえば……とはならないのは、そこまで倒してしまえば前方が見えないという当たり前の問題に直面するからだ────それが戦闘機や航空機であれば、の話だが。
戦術機においては、網膜投影ディスプレイによって機体外の状況を視認している訳であり、つまり例え衛士の本来の視界の先が天井であったとしても、網膜投影で戦術機の頭部カメラからの視界を網膜に映し出せば衛士の目から視える光景は同様に機体の前方ということになる。
そもそも、現在においても本来の衛士の前方にあるのは管制ユニットの壁であり、網膜投影ディスプレイで機体の外を映し出しているのだから、やっている事自体はそう大きく変わらない。
そして、更に前述のリニアによる磁気浮上の機構と組み合わせることで角度調整を可能とし、例えば角度を固定してしまうと戦術機が前傾姿勢で跳躍した時に衛士は直立した時と同様に地面に対して垂直の角度になってしまうが、これを調整して戦術機が直立している時と同様に地面に対して平行の仰向けの角度にする事ができる。
つまり、戦術機にどんな無茶な機動をさせても衛士の負荷が一番少ない状態に調整することが可能で、従来であれば衛士の頭部が下に向いてしまう為に困難とされた逆さま状態での落下機動を描いたままの射撃……なんて芸当が、訓練の浅い新任衛士でも可能になるということ。
「ええ……これ、凄いことじゃないですか?」
「凄いことですよ。しかもこれなら、例えば突撃級の突進を機体が防ぎきった上で、その衝撃をリニアである程度打ち消すことが出来るので、よほど当たりどころや状況が悪くなければ圧死することはありえません」
「はぁ…………でも、やっぱりコレくらいの事をしないと仕事をしたって思えないって、主任も難儀ですね」
しかも、ベイルアウト時にもリニアモーターやコイルガンの応用で管制ユニットを加速して射出させる機構を盛り込むことも可能だ。
とは言え、勿論のことデメリットも存在する。
まず、基本姿勢では衛士が向いている方向は頭上であるにも関わらず網膜に映し出されるのは戦術機のカメラから見ての前方になる訳で、つまり感覚のズレが生じる事になる。
訓練である程度は養えるが、それでも従来よりも高い空間認識能力が必要になり、その誤差を上手く処理出来ない者は所謂3D酔いを引き起こす。
まあ、網膜投影ディスプレイで脳はかなり欺瞞されるだろうし、余程の影響が出れば薬剤の投与で抑制されるのだろうが……
正直、副作用や後遺症の観点からしてもあまり衛士への薬剤投与は推奨したくない。
出来るだけ感覚の齟齬が生じない様に網膜投影ディスプレイのUIにも手を加える必要があるだろう。
「そういう訳で、ハードウェアだけでなくソフトウェアも大きく手を加える事になるので一朝一夕で作れるものではありません……何とか来年の制式採用までには間に合わせますが」
「また忙しくなりますね……私は構わないのですが、主任ってプライベートの時間とかあるんですか?」
「ありますよ?今年は休日を利用して自動車免許も取れましたし」
「いつの間に……車も購入したんですか?」
「いえ、まだ欲しい車が販売されていなくて…………自分で設計してメーカーに造ってもらうのもアリですかね?」
「どうして仕事を増やそうとするんですか?!」
「いや、半分冗談ですよ……ある程度の技術は提供しますけど、車の進化というのも見守りたいですし」
「はぁ…………」
遠田技研のレジェンドも検討したのだが、まだボディの剛性における技術が未熟でガタガタなのがネックで……デザインは好きなんだが。
結局、車造りでは信頼性の高い富田自動車*6が安定か。
光菱や富嶽の傘下の車も悪くないのだが……これは富田にも言えることだが、面白い車は80年代後期から90年代にかけて出てくるので、まだどこも早熟といった印象。
それに名車と呼ばれるものを多く造るのは富田の印象がどうしても強い。
まあだから、車の購入はもう少し時を置いてからにしたい。
さっきも言った通り、来年の1986年に販売する車で乗ってみたいものがあるし。
「主任も10代らしく、もっと趣味を持つとか遊びに行くとかしておいた方が良いと思いますよ」
「遊び、ですか……」
そう言えば、来年の6月の誕生日を迎えれば俺も二十歳になる。
つまり来年が成人式な訳だが……
あまり、自分が酒を嗜んだりディスコでユーロビートをBGMに踊るといった姿が想像できない。
だから遊べと言われても────
「まあ、自分にとってはコレが遊びみたいなものですから」
「世界中のエンジニアに喧嘩を売ってますか?」
管制ユニットについての説明が文書で伝わりきらないと考え、図解にしてみました
尚、私は普段から絵を描かない為に非常に拙いイラストになっていることをご了承ください
↓従来型管制ユニット
【挿絵表示】
従来型では、戦術機のフレームに固定されているので、機体が前屈みになれば衛士も一緒に前屈みの角度になります
↓MGRCユニット
【挿絵表示】
しかし新型の管制ユニットは、リニア方式で浮遊しているので、ユニットの角度は常に一定です
そして可能な限り仰向けの姿勢になるような座席になっているので、前屈みになっても後方宙返りをしても衛士は常に仰向けで上方を向いている事になります
ちなみに、元ネタは当然の如くガンダムのリニアシートですが
リニアシートといえば、ユニコーンガンダムはデストロイモード変形時にリニアシートも変形しますが、あの時ってちゃんとGを軽減するために座席がリクライニングしてるんですよね。細かい!