Muv-luv BreakThrow 技術チートで変える未来   作:あるすとろめりあ改

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25『日米合同演習』 1986.06.17

1986年3月4日

東京府 国防省市ヶ谷庁舎 統合幕僚会議室

 

 

 国防省から召喚状が届き、何事かと内容を検めたところ6月に行われる日米合同演習におけるオブザーバーとして参加して欲しい、という旨であった。

 なるほど、もうそんな時分にまで至っていたのかと得心がいく。

 これは日本に純国産機ならぬ準国産機であるF-4J改 瑞鶴までしか開発されていなかった世界においては8月に執り行われていたが、どうやらそれは2ヶ月程度早まった様子。

 

 そもそも、この日米合同演習自体がアメリカのマクダエル・ドグラム社がF-15 イーグルを売り込む為のデモンストレーション的な意味合いが強く、昨年末からインド戦線においてヤタガラスによる大陸派兵が行われたという報から、予定を出来る限り繰り上げたのではないだろうか。

 そしてマクダエル・ドグラム社の判断としては、瑞鶴の開発から2,3年程度の開発期間でもって作られたヤタガラスの性能は高が知れており、充分に性能差を知らしめて完勝を飾ることが出来ると判断したのかもしれない。

 まあ飽くまでも状況からによる憶測でしかないが……当たらずも遠からずといったところだろう。

 

 

「我が海軍は横須賀から第1艦隊を派遣、この際に新設した第1航空艦隊より龍翔および第1戦術歩行戦闘隊を同行させ、米海軍の第8空母戦術機団より第84戦術歩行戦闘隊……通称、ジョリーロジャース隊との合同演習を予定しています」

「ふむ、新設部隊の練度は如何か?」

「第1戦術歩行戦闘隊は先日、イギリスへ派遣を行い空母における戦術機の運用教導を受け、更に三度の実戦を経験した現状における最精鋭部隊です。現状、運用ノウハウの構築中ではありますが、発艦から強襲揚陸、部隊展開までの一連の流れは可能です」

「わかりました、では細かい段取りの調整はお任せします」

 

 

 なんと、日米陸軍同士だけでなく海軍においても合同演習が同時期に行われる事が決まっていた。

 これに関しても、鳳翔級の竣工に伴い帝国海軍にどれほどの運用能力があるかを見極める為であろう事は明らかである。

 ユーラシア大陸への派兵において豊富な経験を持つジョリーロジャース隊とでは練度の違いは目に見えて差を付けられるだろうが、機体性能に関してはヤタガラスはF-14 トムキャットに後れを取らないばかりか殆ど凌駕しているので、恥を晒すことにはならないだろう。

 

 

「では、米陸軍のF-15Cとの模擬戦について話しておきたい。衛士は誰になる?」

「はっ、それにつきましてはヤタガラスの首席開発衛士(メイン・テストパイロット)である斯衛軍の巌谷榮二大尉とその部下であり同じく開発衛士を努めた横田薫少尉とでのエレメントを構成します」

 

 

 巌谷榮二の名を聞いて、思わず視線が上がってしまう。

 彼は、ほぼ旧式と化していた瑞鶴を駆ってF-15C イーグルに勝利を納めた、いわゆるイーグル・ショックの立役者であるその人であり、彼がF-15C イーグルと戦うことになるというのは何かしらの運命の様なものを感じずにはいられない。

 今回はヤタガラスの方が圧倒的に高性能である為にジャイアントキリングとはならないが、彼が戦術機を通して日本の技術の底力を知らしめる事になるのは同じだ。

 

 

「ヤタガラス設計開発主任の須和恭太郎氏にお聞きしたい事があるのですが」

「…………はい」

 

 

 半ば意識を飛ばしながら会議の内容に耳を傾けていたところに突然呼名があったので、反応に時間を要してしまう。

 居眠りをしていた訳ではないのだが、何となくそう思わられるのも恥ずべき事なので、何とか繕いながらゆっくりと視線を向けて応えた。

 

 

「貴方の見解として、F-15Cに対するヤタガラスの勝率は如何ほどでしょうか?」

「それは……勝ち方によりますね」

「勝ち方、ですか?」

「ええ、圧倒的に蹂躙するという展開は容易ですが、問題は辛勝したり互角の戦いを見せるという演出を望む場合は、現状においては困難です」

 

 

 こちらの返答内容に対して、陸、海軍の将校達は疑問符を浮かべて互いを見合っていた。

 まあ、それを想定しての皮肉を込めた言い方だったのだから、この反応は当然だろう。

 だがその内容自体は誇張や威勢ではなく、事実を言ったまでであるのが問題といえば問題である。

 

 

「ヤタガラスの装甲材であるカグツチはF-15Cに用いられるスターライト樹脂を主材とした装甲と比較して5倍以上の防御性能を有しています。これは36mm砲弾に関してはほぼ無効化してしまう程であり、更にヤタガラスの機動性能から鑑みて被弾率も低く、誘導弾の使用が不可能である本演習においてF-15Cがヤタガラスに対して勝利するのは極めて困難であると言わざるを得ません」

「…………」

「よって、政治的配慮などからF-15Cの勝利という実績を欲するのであれば、演習前に統合仮想情報演習システム(JIVES)をハッキングし、無理やりヤタガラスの防御性能の数値をダウングレードさせる必要があります」

「待ってほしい須和主任、JIVESは米国の軍事機密の筈だ。そもそもハッキングなど可能なのか?」

「問題ありません。MGRCユニットの開発時に管制ユニットに関してはブラックボックスを含めて解析済みです」

 

 

 そこまで言い切ってしまえば、幕僚達は返す言葉もなくなりウンウンと唸り始める。

 何とも妙な話だが、勝つのは容易であるにも関わらず、程良く負けるとなればその塩梅の調節などで頭を悩ませることになるという事態に陥っていた。

 しばらく、密やかに耳打ちする様に語り合っていたが、次に口火を切ったのは統合幕僚長だった。

 

 

「…………最早、我々は米軍の顔色を伺って忖度をする時分ではない。一個の独立した軍隊として対等に渡り合うべきだろう」

 

 

 それは、もしかしたら日本帝国軍にとっての悲願や宿望であったのかもしれない。

 先の世界大戦で敗北し、安保理という重い枷を強いられ、そのドクトリンも大きく米軍に譲歩した形を取ってきた。

 しかし、日本帝国軍が守るべき国と民は日本そのものであり、決してアメリカの為の防波堤などではないのだから、いずれは三行半を突き付ける必要があって、それが今になっただけとも言える。

 

 

「アメリカとの政治的な軋轢(あつれき)は避けられないと考えますが、よろしいのでしょうか?」

「構わない。そもそも、軍部と外交政治は本来切り離すべきものだ。それで仮に外交的に報復をしてきたとしても、その様な小者を相手にするのは我々の仕事ではない」

「わかりました……それであれば、尚のこと勝ち方には拘るべきであると具申します」

「その勝ち方とは如何に?」

「はい、今回の合同演習ではいわゆる三本勝負となりますので────」

 

 

 

 

 

1986年6月17日

北海道 矢臼別演習場

 

 

「ハっ……これでは、まるで企業間の代理戦争だな」

 

 

 アメリカ太平洋陸軍の所属で、ハワイはフォート・シャフター基地からこの日米合同演習の為に派遣されたエドガー・バローズ大尉は資料を眺めながら思わず鼻を鳴らしてしまう。

 本演習においては、アメリカ側はマクダエル・ドグラム社の謹製で第2世代戦術機の雄であるF-15Cの性能を見せ付ける思惑があり、対して日本側はこれを期に新型機をお披露目してきた。

 資料によれば86式戦術歩行戦闘機 彩雲とは、もともとヤタガラスと称され昨年からインドやイギリスなどに派兵され実戦テストが行われていたらしい。

 

 

「なるほど、確かに見てくれは次世代機のソレだな」

 

 

 機体外観は第2世代戦術機とされるF-14 トムキャットおよびF-15C イーグルと同様にズングリムックリとしていたF4 ファントム等の第1世代戦術機と比較して人間により近いシャープなシルエットをしていた。

 骨格構造のみでバランスを取っていた第1世代機と異なり、第2世代機は運動性能を向上させる為に意図的に崩してある重心を電線とコンピュータ制御によるOBW(オペレーション・バイ・ワイヤ)によって機体のバランスが保たれている。

 つまりOBWやそれに準ずるシステムを部分的にでも再現、もしくは模倣できている事を意味し、日本の戦術機関連技術がソ連と同等のレベルにまで達している証拠であった。

 ほんの数年前まで、明らかに戦術機後進国であった日本がこの領域にまで達している事に対して、バローズは素直に感心する。

 

 

「しかし、日本も運が悪いですね。まるで制式採用にぶつけられたかの様にイーグルと直接比較させられるだなんて」

「…………そうだな」

 

 

 だからこそ、これが企業──マクダエル・ドグラム社の思惑が透けて見えてしまうのだ。

 日本の新型機、彩雲に対して中央アジアや西ヨーロッパの幾つかの国は既に興味を示し、採用を検討した交渉が行われているらしい。

 つまり、それは顧客が減ることを意味し、F-15Cがようやく不具合の修正が完遂し量産設備も整い始め、これから売り出しの攻勢を仕掛けようという時に日本の戦術機が出てきたとなれば、まあ良い感情を抱く訳もなく。

 であればその新型機を当て馬にしてF-15Cの高性能さを宣伝し、その採用予定国にも売り込んでやろうという算段ということだろう。

 アメリカ人である俺からすれば、ご愁傷様という他に無いのだが。

 

 

「だが、俺達はそんな日本の事情を汲んで手加減してやる必要はないぞ」

「わかってますよ。それに、日本人に土を付けられたって知ったら基地司令達にドヤされるでしょうしね」

「そうだな……」

 

 

 フォート・シャフター基地はハワイ州のオワフ島にあり、つまりその昔に日本による真珠湾攻撃を受けた地である。

 その現基地司令を含め、古老達の中には真珠湾攻撃を経験した者達もおり、彼らは生粋の日本嫌いとして有名だ。

 故に、今回の演習に送り出される際にも、それはそれは()()()祝辞が密やかに送られる事となった。

 最早45年も前の事ではあるのだが、人の怨嗟というものはそれ程にまで根深いものらしい。

 

 

「まあ、しかし俺達は外野の事情なんて気にせずにいつも通りにやるだけさ」

「はい、そうですね」

 

 

 演習の開始時刻は、徐々に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 矢臼別演習場は北海道の根釧台地の南にある広大な土地に設けられているだけあって国内最大面積を誇るが、演習場のフィールドにおける最長距離はおよそ20km程度である。

 また戦術機のレーダーの探知距離はおよそ100kmにも及ぶ為、主機や電源を落としたステルス・モードにした状態で演習場に設けられた模擬の市街地に身を隠さない限りお互いの位置は基本的に筒抜けである。

 そして、位置の捕捉という観点において同条件であれば、戦術機は航空機と同様により高速かつ高高度に陣取った者が優位となり、そのことを熟知していたバローズ大尉はスタートダッシュから加速と上昇を開始していた。

 F-15Cの優れた上昇能力を発揮して、30秒を経過する頃には既に高度1000mに達しており、この時点で彩雲の上を取っただろうと確信めいた思考が脳裏を過ぎる。

 しかし、そんな儚い思いはレーダーを見た瞬間に真実を告げられ、一瞬で裏切られてしまう。

 

 

「馬鹿な……速すぎる……?!」

 

 

 レーダーに表示された彩雲の高度は既に1500mを越えており、当然ながら速度もF-15Cより優速でより早くこちら側に接近していることを示していた。

 嘘だ、と悪態をつきたい気分に苛まれるが、レーダーや計器が嘘をつく筈もなく、ただ敵機が接近しているという事実を告げるのみである。

 

 だが、経験豊富なバローズ大尉はそこで思考を切り替える事に成功していた。

 上昇性能や加速性能が高いという事は、それ即ち機体重量がF-15Cよりも軽く、装甲が脆弱であるという事に他ならない。

 エンジン出力が優れている可能性は確かに否定できないが、それでも100tを大きく超える重量を有する戦術機を持ち上げる為のエンジンともなれば限度がある。

 故に、かつて第二次世界大戦において日本がゼロ・ファイターという装甲を犠牲に徹底的な軽量化を図ることで優れた速度や上昇力、格闘戦性能を持った機体を繰り出してきたことで、大戦初期においては苦戦を強いられたという話があるが……恐らく、彩雲という戦術機も同様の工夫が施されているのだろう。

 対してF-15CはF-4から圧倒的な軽量化に成功しているものの、装甲材の進歩に伴いほぼ同等の防御性能を有しており、非常にバランスの良い設計が為された機体である。

 つまり、勝負は突撃砲の有効射程である3kmを切った距離に達した時であり、撃ち合いになればF-15Cが競り勝てる筈だ。

 

 バローズ大尉は僚機を駆る部下にその情報を告げ、鼓舞することにした。

 

 

「いいか?だから、焦らずにじっくりと相手を照準に捉えることを考えるんだ」

『了解っ!』

 

 

 無線からは部下の勇ましい声が響き、画面に投影される表情も焦りが滲み出たものから凛々しいものへと変じる。

 内心、バローズ大尉もその様子に励まされながらレーダーを執拗に睨む。

 こうなれば、相手よりも先に有効打となり得る初撃を如何に与えるかが重要であり、その為には常に相手の位置を捕捉し続ける必要があった。

 

 そして遂に、戦術機のカメラが直接その姿を捉えられる距離にまで接近する────!

 

 

「捉えたっ!!」

 

 

 速度的な不利を補う為には、まず相手の動きを阻害して減速させる必要がある。

 まずは手始めにと、初弾に銃弾が広い範囲に拡散するキャニスター弾を装填した左腕側に装備された突撃砲で照準し……トリガーを引く。

 120mm口径の銃口から解き放たれた弾丸は空中で炸裂、無数の弾子が解き放たれ降り注ぐ様に彩雲を襲う。

 

 だが、逸るばかりに距離を詰めきる前に撃ったからか、敵機の彩雲に気にした様子もなく、速度を維持したまま接近していた。

 

 

「ちっ……!」

 

 

 軽く舌打ちをしながら武装を36mm砲に切り替え、今度はこちらで弾幕を張るように両手から突撃砲で連射を始める。

 しかし、彩雲はバレルロールする様に機体を軽やかに横回転させてこれを避けきってしまう。

 それではと、左右で全く違う方向に射線を向けながら弾丸をバラ撒く様にして彩雲の動きを制限し、僚機の120mmで葬る作戦を実施。

 

 

「な──っ!?」

 

 

 ところが彩雲は予想以上の運動性でこの銃弾の雨を逃げ切ってしまい、尚も接近を続ける。

 このまま互いに接近を続ければヘッドオンし、やがて前進したまますれ違う事になるだろう。

 であれば、そのすれ違いざまに機体を反転させて、その一瞬の隙に撃ち込めれば……!

 向こうの1番機も同様に考えているのか直進を続け、そして僚機は回り込むようにターンの機動に入った。

 バローズ大尉も部下に指示を入れ、速度が遅くなるターンの瞬間を狙われない様にしつつ隙あらば敵機を狙い撃つ為の援護に入らせる。

 

 だが、次の瞬間──接近していた筈の敵機はまさかの急減速を行い、まるで後ろに倒れ込む様に姿勢を崩しながら突撃砲の銃口をこちらに向け、そして弾は発射される。

 その様な無茶な機動を行っているにも関わらず高度は維持したままであり、そして接近を試みる為に最大速度で進んでいたバローズ大尉は回避する手段を持たず、むしろ弾丸に己から向かっていく様な格好となってしまい、吸い込まれるかの如く着弾してしまう。

 

 そして視界は暗転し、表示されるのは『DESTROYED』……撃墜を表す文字のみであった。

 

 

「は…………?」

 

 

 今起こった事態を認識しつつも、それが理解できぬとばかりに言葉が口から漏れる。

 

 万が一にも想定していなかった敗北の事実に、ただただ呆然とするばかりであった。

 

 

 

 

 

 

「意外と大した事ないなぁ、イーグルっていうのも」

 

 

 対して、彩雲を駆る巌谷榮二大尉は余裕綽々といった風の口振りであった。

 実際、彩雲の性能にしても、巌谷大尉の身体的な負担にしてもまだまだ大いに余裕があり、先程の戦闘にしても小手調べといった程度の心持ちで挑んでいた程だ。

 実は初撃のキャニスター弾こそ被弾していたが……カグツチ装甲に阻まれ、ダメージは殆どゼロといって差し支えなかった。

 

 

「さて横田、切り替えていくぞ」

『はい、大尉』

「やっこさん達はさっきの戦いで彩雲の機動力に参っちまった筈だ。ともすれば、その機動力を発揮できない場所……つまり、遮蔽物に囲まれた市街地に陣を構える筈だ」

『そうですね、まさか同じ轍を踏む様な事はしないでしょうし』

「ああ。だからこそ俺達は────」

 

 

 ──敢えて敵の狙い通りに動く。

 

 これは、彩雲の設計者である須和恭太郎氏からの要求でもあった。

 

 

《今回の演習においてはセオリー通りに、そして正面突破で相手を降してください。戦略的には愚策な手段を敢えて選ぶことで性能の優位性を顕示する訳ですね》

 

 

 つまり、相手にハンデを与えるかの如く自分にとっては不利な立場に身を置いた上で勝利することで、相手のプライドをズタズタに切り裂いてやろうという腹積もりだ。

 実に意地の悪いやり方であったが、かつて米国に渡った折に、現地の米軍衛士に散々可愛がられ弄ばれた経験のある巌谷大尉にとっては己の過去の屈辱を晴らす機会でもあり、個人的な感情としては非常に愉快であった。

 

 

水平噴射跳躍(ホライゾナルブースト)で一気に相手の懐に飛び込むぞ、続けっ!」

『了解っ!』

 

 

 200m弱の高度を維持したまま彩雲は優れた加速性能を活かして一気に目標の市街地へと距離を詰める。

 まさか、悠長に相手が潜れる時間を与える筈もなく、見敵必殺と言わんばかりにレーダーに目を光らせて索敵を行う。

 果たして、単騎のF-15Cがビルの合間を縫う様にNOE(匍匐飛行)で接近していた。

 

 

「ありゃあ囮だな……」

 

 

 単騎のみでの突出はあからさまな陽動であった。

 僚機はビルの影に潜伏してこちらを奇襲するつもりか?

 ならば、その陽動すらままならないという事実を叩きつけてやるまでだ。

 

 

「ヴァンキッシュ2、急降下斬撃を敢行したまま追い詰めて仕留めろ!俺は索敵を続ける!」

『ヴァンキッシュ2了解!』

 

 

 ヴァンキッシュ2、横田は命令の通り兵装担架から長刀を選択し装備すると、ビル郡の中へ飛び降りる様に高度を一気に落とした。

 それに気付いたF-15Cは迎撃しようと突撃砲を構え銃撃を行うが、彩雲は横に逸れる機動を織り交ぜる事でビルを盾にし、被弾することもなく詰め寄る様に接近していく。

 流石にマズいと判断したか、急遽浮上し一気にその場を離れようとロケットエンジンを点火して後退する。

 

 しかし、その逃亡を許すほど彩雲の性能は甘くない。

 F-15Cはロケットエンジンで一瞬の加速を得られたが、彩雲はジェットエンジンによる巡航速度で700km/hを越える。

 やがてその速度差は埋められるどころか圧倒され、ガラ空きの背中を晒すことに。

 そして容赦の無い袈裟斬りの一閃──JIVESに表示される仮想のエフェクト上においてF-15Cは真っ二つに両断され、切り落とされた上半身が地面に到達する前に爆発し、その爆炎が彩雲を包み込んでいた。

 

 

「さぁて、隊長機の方はどこに…………むっ?」

 

 

 突然のロックオン警報。

 しかし、敵機の姿はレーダーで捉えられない。

 ロックオンされた位置から逆探で相手の位置を捕捉すると……それは、上空からであった。

 

 

「空…………なるほど、よくやるっ!!」

 

 

 隊長機の方のF-15Cは高度を稼いだ上で跳躍ユニットの主機を切ってレーダーの反応を掻き消した上で、自由落下によって接近していたのだ。

 戦術機は翼状パーツによってある程度の揚力を得られるとは言え、それは機体を支える程ではない為、殆ど墜落しているような状態である筈。

 ソレをやってのけてしまう判断力と胆力に思わず巌谷大尉は唸ってしまう。

 

 

「だが、しかしっ!!」

 

 

 巌谷大尉も兵装担架から長刀を起こしてそれを掴み取ると、ロケットエンジンを始動して急上昇を試みる。

 既に上空のF-15Cの両腕からは36mm砲弾が発射され、文字通りスコールの如く降り注いでいたが全く意に介す様子は無い。

 先程の戦いを反転させたかの様に彩雲に弾丸が次々と突き刺さるが────彩雲はその総てを弾き返してしまった。

 それは非常に単純な話で、バローズ大尉の目論見と異なりType-86 彩雲は彼らの知るF-4 ファントム以上の装甲を有していたが故に、この様な芸当が出来てしまったのだ。

 

 そして、奇襲に失敗したF-15Cに為す術はなく……対照的に上昇してくる彩雲は昇龍の如く長刀の刃を軌道に乗せF-15Cの装甲へと滑らせていく。

 僚機の姿をなぞるかの如く、管制ユニットのある腹部辺りで両断され、こちらも同様に爆発。

 しかし、実際には衝撃を吸収する模擬戦用カバーで保護された長刀でぶつけられたのみであり、そのまま自動操縦に移行してF-15Cは着陸していった。

 

 

「これで二丁あがり、ってな!」

 

 

 

 

 

 

 それから3戦目も行われたが、結果は惨憺たる有り様であった。

 再び市街地での戦闘になったが、今度は彩雲の堅牢な装甲で悠々と近付き、それに対してF-15Cも突撃砲で応戦をするが、36mmは先程と同様に弾き返され、120mmでのAPFSDS弾でようやく装甲の一部を穿つ事に成功するが貫通するには至らず、余裕綽々と言わんばかりにゆっくりとした動作で装備した65式近接短刀によって、まるで獲物を解体するかの如く動作で四肢を断たれ、そしてトドメに管制ユニットを突き刺され終了。

 

 結果、F-15Cは一矢を報いる間もなく彩雲から終始一方的に蹂躙されるのみで日米合同演習は幕を閉じることに。

 当初こそは怒りや悲観の絶叫をあげていた米軍関係者達も、2戦目が終了した頃から魂が抜けた様に目は虚ろになり、あくびの様な発声しか出来なくなっていた。

 

 対して、帝国軍側と言えば、まさにお祭り状態であった。

 一部ではどこから持ち出してきたのか、酒瓶を開けて呑みだしたり振る舞う者まで現れる程の熱狂ぶりであったが、誰もそれを咎める事もなく、いつの間にか半数が赤ら顔になっている始末。

 そして、この日米合同演習の取材に来ていた新聞社やテレビ局の記者達は今回の功労者である二人の衛士を囲んで嵐の様な取材が行われている。

 

 

「今のお気持ちは如何ですか?」

「あー……はい、関係各所の皆様方のご尽力のおかげであり、感謝の極みであります」

 

 

 巌谷大尉は記者の質問に対して無難な回答をする。

 内心では非常に気分が高揚していたのだが、それを表情や態度に漏らすような事はしなかった。

 それは武家としての誇りか、はたまた斯衛軍人としての矜恃だろうか、己を律することでカメラには清廉な姿が写し出される。

 

 しかし、彼の部下もまた同様であるかは、また別の話であった。

 

 

「横田少尉、何か米軍に対して一言ありますか?」

「そうですね……我らに勝る米軍機は無し!と言ったところでしょうか」

 

 

 その事に巌谷大尉が気付いた時には既に手遅れであった。

 この若い、20歳を越えたばかりの若者にとって劇的な勝利に酔い、持て囃され賞賛されるこの状況において己の感情を抑えろと言う方が酷であったかもしれない。

 しかし、捉え方次第によっては宣戦布告ともとられかねない発言を黙って見過ごす事は出来なかった。

 

 

「おま、馬鹿……もう少し言葉を選べよ?!」

「も、申し訳ありません大尉!!」

 

 

 だが1度口から零れ落ちてしまった言葉を引っ込める事は出来ない。

 

 結局、その言葉は新聞記事として記録に残り、そして何故か紆余曲折を経て尾ヒレが着いた先にて発言したのは巌谷大尉であるという風説が誤解されたまま広まってしまう事になるが、それはまた別の話である。





当初の予定では、三本勝負の初戦だけ圧倒的に勝って、あとは態と負けるというのを想定していたのですが、書いている途中に「別に米軍に忖度する必要なくね?」と私の心の中に棲む悪魔が統合幕僚長に囁いたので、こんな事になりました

「我らに勝る米軍機は無し」というセリフには元ネタがあります
第二次世界大戦の末期に日本帝国海軍が艦載偵察機として開発した彩雲が、偵察中に敵機に捕捉されて追撃されながらもそれを振り切った際に「我ニ追イツク敵機(グラマンとも言われる)無シ」という電信を送ったという逸話から
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