Muv-luv BreakThrow 技術チートで変える未来   作:あるすとろめりあ改

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02『(はかりごと)(こしらえ)』 1981.10.22

 須和恭太郎はまず、己に授けられた知識について精査する事から始めた。

 

 主に戦術機技術に関する知識が豊富であるというのは深く思慮するまでもなく明らかなのだが、その分野は多岐にわたる。

 構造力学に流体力学、電気工学、推進工学、制御工学などなど……いずれも戦術機を設計、開発、生産する事において必要不可欠な分野であるが、同時にどれを取っても高度な専門分野であり1人の人間が1つの学問に専念して初めて専門家足り得る知識と経験を得られるものである。

 勿論、戦術機という1つの成果を追求する為には他分野の知識が必要となる事も多々あるので、実際に戦術機開発に携わる者はありとあらゆる分野に精通しているだろう。

 だが、それでもたった1人の人間が機体の外観から内部構造、機材の配置までも全て把握した上で詳細設計図を引く事が可能かと言えば────他ならぬ、恭太郎の中にある知識が否定してしまう始末だった。

 

 ここまでの短い分析で、まず知識の由来が単独の1人から流れてきたものでは無いという事は、推測ではあるがまず間違いないと断定できた。

 その知識量が異常であるのもそうだが、実際に戦術機の詳細設計図を引ける筈であるこの知識の持ち主が実在していたのだとしたら『1人で戦術機の設計を行う事は不可能』などと思考に至るわけが無いのだ。

 また、その裏付けになるであろう根拠の1つとして、帝国軍や斯衛軍で採用された戦術機だけでなく、アメリカやソ連に欧州連合軍、中華統一戦線などといった世界各国新旧の機体の情報が知識には内包されていたのがある。

 少なくとも、帝国でも斯衛でも採用実績の無いF5系列やF16系列機体の設計図を描ける日本人がいるとは到底思えなかった。

 

 更に、そういった技術的なものだけでは無く、他にも日本や世界でこれから起きる歴史……BETAの動向や各国での事件、衝突といったものにまで精通していた。

 そしてこれらの知識は無意識下で表在する事は無い。これは昨日まで恭太朗自身が有していた知識のソレと同じだが、逆に言えば意識しなければ該当する知識を引き出す事は出来ず、この知識の全容を把握し理解するのは不可能であろう。

 

 不可解に思ったのは記憶についてであった。

 これが複数の人から授けられた知識なのだとしたら、その人々の知識を形作るまでの軌跡となる記憶がポッカリと抜け落ちているのだ。

 知識群には出生や年齢、職業、家族構成といった様な個人の人格を形成し、自我を認識する上で必要な構成要素が単一のものしか存在せず、つまり“須和恭太郎”という自我の主観的感覚で言えば知識を獲得した今日と前日までとで殆ど齟齬が無いということ。

 

 一先ず、これが須和恭太郎が一夜にして獲得した知識……もとい、情報のおおまかな概要だった。

 

 

 

 

 

 

1981年10月22日

東京府中野区 区立中学校

 

 

 

 ぼんやりと授業の内容を聞き流しながら恭太郎はこれからの方針について検討を始めた。

 何もせずに普通の生活を送る、という選択肢は殆ど考慮するまでも無く排除されていた。

 15年もすればこの日本にもBETAの毒牙が届いてしまい、それは日本人としては当然ながら忌避すべき事である。

 現実問題、BETAが日本本土に上陸してしまうことは確実だとしても──台風という気象条件をどうにかすることは人類の叡智を結集しても不可能なのだから──その被害を最小限に食い止めたいというのは偽らざる気持ちだ。

 

 日本上陸における被害軽減の為には海上戦力を充実させ艦砲射撃を密にする必要があるから造船技術者にでもなるか?

 それ自体は知識的に不可能では無いが、一時凌ぎの対策に過ぎないだろう。

 別に艦砲射撃を軽視している訳では無い。面制圧の重要性は客観的に理解しているし、海上戦力の充実は地球で戦う上では必要不可欠ということは知っている。

 だが、何でも出来るというのであれば、もっと未来を見据えた上で方針を決めねばならない。

 

 まず第一の優先事項にすべきは世界中にG弾を投下するという自殺行為に等しい米国のトライデント作戦、そしてそれに付随するオルタネイティヴ第5計画の阻止である。

 第5計画の発動を阻止する為にはその前段階であるオルタネイティヴ第4計画の完遂を目指す必要があり、その内容としてはBETAの解析装置と思われる00ユニットなるものを開発した上で実際にハイヴ最深部へ侵攻しハイヴからBETA及びハイヴ攻略への足掛かりとなる情報を収集するという、1981年の現在において遂行中であるオルタネイティヴ第3計画をブラッシュアップさせたものであった。

 しかし、その要たる00ユニットなるものの正体はわからない。知識を総動員してもそれが何たるかが不明であり、00ユニットの開発を前倒しすると言った様なオルタネイティヴ第4計画への直接的な支援が現状では不可能である。

 なれば、それを間接的に後押しする為の施策…………結局のところ、ハイヴ攻略が必要になってくるという事は戦術機の充実、技術発展は必要だろう。

 

 そう、結局のところここに帰結するのだ。

 

 

「ともすれば、今から出来る事は何か…………」

 

 

 実行するための気力を養うには、その文句を実際に口から発言するのが有効である…………これも、かの知識が由来の情報であった。

 

 一先ず、進学進路は高専にする事とする。

 これはある種の保険的な側面でもあるのだが、高専生であれば基本的に工学系学会の学会員になる資格が得られるのだ。

 もちろん高専生における学会への加盟の目的は学習上における論文の閲覧やシンポジウムへの参加、見学というのが主なのだが…………常識や慣例的に許されるかという事情を脇に置けば、学会員である以上論文の寄稿が認められる。

 そうすれば、知識の一端を技術として世界へ羽ばたかせる事が出来るだろう。

 

 個人的な名誉だとか富だとか、そういったものには興味が無い。

 最悪、技術が何某かの教授やらエンジニアやらメーカーに盗られ喰い潰されてしまう様であっても、恭太郎にとっては些末であり容認できる事態であった。

 そうなったとしても技術が必要な場所に浸透するのであれば何も問題はないのだから。

 

 本当の最悪に最悪を重ねた状況に陥れば、技術情報だけを何としてでも流布し日本国外を問わずに米国だろうがソ連だろうが兎に角渡してしまい、それが具現化してしまえば良いのだ。

 それでもし日本が結果的に不利益を被ってしまったとしても…………本当に優先すべきなのは国よりもまずは世界を救うことなのだから、見る目がなかったと諦めてもらう他にない。

 

 

「おい須和、体調でも悪いのか?」

「ん……?」

 

 

 依然として考え事に耽っていると、それを案じた様子で声を掛けてきた者がいた。

 見ると同級生の山口が訝しげにこちらを覗いている。

 山口とは趣向だったり何かと共通項がある事もあり、比較的友好な仲を築かせて貰っていると思う。

 

 

「いや、悪い。ちょっと考え事をな」

「なら良いんだけどさ……次、移動教室だから準備しろよ?」

「ああ、そうか……ありがとう」

 

 

 このまま思考の海に沈んだままでいたとしたら、周囲に取り残された事にも気付かずに取り残されていたかもしれない。

 素直に礼を言い、山口に続いて席を立つことにする。

 

 

「あ────」

 

 

 その時、ふと思い付きがあった。

 悪巧みめいたものであったが、その企みには一考の余地がある様に思えたのだ。

 

 この山口という少年、元来の恭太郎と同様にこの時代においては珍しく戦術機を同好とする者であったが、彼の場合は父親が河崎重工のエンジニア、かつ戦術機製作部門の所属であるというキッカケがあり、恭太郎はそれを思い出していた。

 そして…………

 

 

「なあ山口、ちょっと良いか?」

「なんだよ?」

「今度さ、お前の親父さんと戦術機とか河崎重工……もとい、進路のことについて相談させて貰えないだろうか?」

「そっか、わかった。聞いてみるよ」

「本当か?ありがとう、助かるよ」

 

 

 その時の恭太郎の顔には、中々に良い笑顔が浮かんでいた。

 

 これの目的とする所は、 先程も思考で触れた情報の流布という手段の一環である。

 河崎重工と言えば77式戦術歩行戦闘機撃震のライセンス生産を請け負う企業で、光菱重工と富嶽重工と並ぶ日本三大重工業の1つだ。

 もちろんそんな山口の父親に進路の相談をするだけで終わらせるつもりは無い。その時に詳細設計図なり論文の体裁を取ったものを叩き付ける。

 それでどの様な反応が返ってくるのかは予想もつかないが、まあ、数打ちゃ当たるの精神でも何でもやるべきだろう。

 

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