Muv-luv BreakThrow 技術チートで変える未来 作:あるすとろめりあ改
1986年10月18日
東京府 千代田区 市ヶ谷 帝国陸軍廠
「現在開発中の自走高射砲の採用を即刻取り止めろだと……?!」
レールガン搭載型の戦車を開発している中で、そう言えばと思い出した事があった。
来年、1987年には87式自走高射機関砲という装軌装甲車が制式採用、量産されて広く配備されるということを。
しかし、これをキャンセルして全く別系統の戦闘車両を開発、採用するべきだと帝国陸軍の幕僚に稟議書を提出し、87式自走高射機関砲の制式採用に待ったを掛けた。
そうしたら、案の定こうやって呼び出しを喰らったという訳だ。
「既に試作車両も完成し、あとは試験の終了を待つばかりなのだぞ!」
「ええ、ですからこれは指摘が遅すぎた自分の手落ちでもあるのですが……」
とは言え、87式自走高射機関砲が本格的に開発されていた頃には彩雲や鳳翔にかかりきりで、戦車を初めとした戦闘車両の開発に関わる余裕も権限も持ち合わせていなかったので、それは状況的に不可能だったのだが。
まあ、向こうからしたら『なんで今更?!』なのだろうが、こちらからすれば『なんでこんな物を採用しようとしてるの!?』といった心境であった。
「そもそもコレ、どう見ても対空砲じゃないですか。一体何を撃ち落とすつもりで?BETAは空を飛ばないんですよ?」
「その……ユーラシア大陸で高射砲がBETAの小型種に対して高い戦果を挙げたという報告が……」
「それは元々航空機を撃墜する為に数百台も生産していたゲパルト自走対空砲を遊ばせておくわけにはいかないからと駆逐戦車として改修したやつでしょ?何で初めから対空砲として開発しちゃうんですか?」
「…………」
87式自走高射機関砲の役目は小型種BETAの掃討である。
左右二門のエリコム社*1製90口径35㎜機関砲を装備し、それに挟まれる様にパルス・ドップラー方式の索敵レーダーやレーザー測遠機などが搭載されているが……確かに、これでBETAの姿は捉える事が出来よう。
ただし、配置している位置からして高迎角、つまり空中への索敵や照準は得意とするが、地上を這いずり回るBETAに対しては過剰というか……取り付けるべきセンサーが違うというか……
「74式戦車の車体を利用する筈が結局大型化して新造設計に、装甲は73式装甲車よりも薄いにも関わらず、重量38tに最高速度53km/hと74式戦車とほぼ同じ数値……こんなの運用して何の意味があるんですか?」
「むっ、むう……」
「これじゃあ元々1990年に配備予定だった元々の設計の新型戦車にも随伴できないじゃないですか。小型種のBETAを相手にするのなら自走式高射砲じゃなくて歩兵戦闘車の類を配備するべきでしょうに」
異なる世界では自衛隊と名を変えた帝国軍が89式装甲戦闘車という歩兵戦闘車を採用するのだが、この世界では87式を後生大事に改修しながら運用する方針を取ってしまい、89式装甲戦闘車は生み出されない。
53km/hという速度ではBETAに少しでも接近を許せば肉薄されてガブリと食い千切られてしまうし、そもそも後退行進射撃をしたとしても戦車級の方が足が速い。
違う、違うんだ、そうじゃないだろう。
「いいですか?別に各種レーダーやセンサーを搭載して偵察や索敵能力に特化させたり、35mm機関砲の手数を増やして弾幕を張るのが必ずしも全ての状況においてナンセンスという訳ではありません。問題なのは高射砲のみの仕様で量産しようとする事です」
「では、どうすれば良いと言うのだね?」
「状況に応じたオプションを選択可能なマルチプラットフォームとしてモジュール方式を採用した──」
「ま、まるちぷらっとふぉーむ?」
「つまりですね、まずは基本となる車両を用意します」
スクリーンには事前に用意していた資料を投映してその姿を見せる。
ベースになるのは装甲兵員輸送車の様な8輪の車輌。
これだけでも車長、操縦者、砲手の3名と乗員12名まで搭乗可能な兵員輸送車としても使用できるが、前方にある機関室と操縦室を除いて後部の兵員室はモジュール式になっており、そのまま35mm機関砲やレーダー、通信機器などを載せて歩兵戦闘車や偵察及び索敵用車両とする事も出来ればモジュールを交換して指揮通信車、装甲救急車、自走迫撃砲、機動砲車両等々……様々なパターンで運用する事が可能となる。
また、120mm滑腔砲や将来的にはレールガンを搭載することで小型種だけでなく大型種への対応を可能とし、主力戦車よりも迅速な展開が可能な即応性の高い支援砲撃部隊を構成し、駆逐戦車や軽戦車の様な運用をすることも可能だ。
「ベースとなる兵員輸送車のスペックは全長7.8m、全幅3m、全高2.5m、重量12t、乗員3名までと兵員12名が乗車可能、整地での速度は約140km/h以上、水上では10〜15km/hで浮航可能、行動距離は1000km以上となっています」
「140km/h?!10トンを越える車両で!?」
「この装甲兵員輸送車は現在開発中の主力戦車とプラットフォームを共通化することで早期開発を目指すものですので3MW級の発電機が動力源であり、通常時はここから1MW分、1341馬力でモーターを回すので140km/hというのは乗員や車体の安全を考えた上での許容値の概算となります」
「つまり……140km/h以上での運用も理論上は可能だと言うのか?」
「緊急離脱時など限られた運用方法であれば可能です」
勿論、120mm滑腔砲などを装備すれば重量が嵩むので若干低速になる可能性があるなど飽くまでもカタログスペックではあるのだが。
またこれはエンジンや素材から概算したスペックである為に実際に評価試験用の車両を作ってみないと最高速度などは発覚しないという問題もある。
レールガンやレーダーの運用を考慮せずに速度に全振りし、車体の損耗を考えずに全力稼働させれば、あるいは200km/hぐらいは出そうなものだが、そこまで行くと振動だとか剛性やら別の問題が浮き彫りになりそうだ。
しかし本当の限界を目指したらどれほどのスピードになるのか……
一応、装輪というかタイヤを回して400km/hで走行が可能だという事はF1マシンが証明してはいるが、それは徹底的に軽量化した上で路面も最高の状態であることが前提だ。
しかしいずれは200km/hを気兼ねなく出せるレベルにしなければ、突撃級に追い掛けられた際に乗員もろともスクラップにされてしまうので、現状でも緊急離脱用として180km/hでテストしておくべきだろう。
もしもこれ以上を求めるつもりなら、それこそ空飛ぶ車でも作らねばならない。
「そして次に……これも主力戦車と共通しての技術投入ですが、戦術機で培われた技術を応用します」
「と、言うと?」
「はい、機関砲にせよ滑腔砲にせよ、射手も操縦室からの遠隔操作による無人砲塔を採用し、更に周囲の視界をカメラと各種センサーで捉え、その映像を網膜投影ディスプレイで360゜全周囲を捉えられる様にします」
と言うか、なんで1967年には網膜投影ディスプレイの技術が確立していたにも関わらず、それを戦術機にのみ投入してきたのかが本当に謎だったのだ。
確かに映像の処理や間接思考制御による画像の切り替えや照準などにコンピュータ処理を必要とし、半導体などによりある程度のコストは負担となるが……既に20年近く前に実用化したそれは、我々にとっては枯れた技術と言って差し支えない。
無人砲塔だって、戦術機なんてそもそも人の手どころか指を使わずに照準を合わせて引き金を引き、装填まで手元の操縦桿の操作で機械的に自動でこなし、ジャムったり不具合があってもサブアームの技術が確立しているので弾倉を排除したり、簡易的な修理を行えてしまう技術がそこにあるのだから、それを還元してはいけない理由がある訳がないだろうに。
なんだろう『戦車はかくあるべし』みたいな古い固定観念に思考が支配された派閥や勢力が軍に燻っていて、今回の87式自走高射機関砲もそういった輩の要求を通した形なのだろうか?
申し訳ないが、今のこの世界にサボタージュや宗教的な感傷に浸ってロボットアニメにでも出てくる様な“やられ役”などを作っている余裕など無いのだ。
「勿論、今から開発をやり直すとなれば来年には間に合わず順調にいっても再来年の1988年に採用という形になるとは思いますが、それでもトータルの運用コストやパフォーマンスは自走高射機関砲よりも圧倒的に改善できると自信を持って断言できます。私はこの一連のシステムを共通戦術装輪車として提案させて頂きます!」
まあ、もしもこれでも何かしら文句を言ってくる者がいるとしても彩雲の実績と技術に裏打ちされた理論武装で徹底的に論破させてもらう。
そもそも、87式自走高射機関砲は搭載しているレーダーの都合で90式主力戦車よりも調達価格が約2倍も高いというバグっているとしか思えない仕様なので、本当にどうしようもない。
こちとら、共通戦術装輪車はベースとなる兵員輸送車だけで言えば現状でも90式主力戦車の1/10、数百両単位での量産化や海外輸出が為されれば更に安くできる。
仮に120mm滑空砲を砲台と車両の合計で勘定しても90式主力戦車の半分程度で調達できるから、明らかにどちらの方が優れているかは一目瞭然だ。
もしもそれでもと言い訳をしてくる様なら、明日にでも第二の人生へシフトするべきだと教育してさしあげる所存である。
○
1986年11月26日
青森県 東通村 猿ヶ森砂丘 下北試験場
本州の最北端部に位置する下北半島の海沿いには太平洋から流れてきた砂が堆積して出来た日本最大の砂丘がある。
砂丘と言えば鳥取砂丘が有名だが、この猿ヶ森砂丘は帝国軍の施設である下北試験場があるため一般人の立ち入りが禁じられていることもあり知名度が低い。
その面積は鳥取砂丘の約5倍に相当する約3500haであり、海岸に沿って南北に17kmにも及ぶ広大な砂の世界を形成していた。
そして、そんな猿ヶ森砂丘に設けられた日本帝国軍の兵器の性能をテストする下北試験場に持ち込まれたのは、遂に完成したレールガンの試作型。
まだ砲塔の形になっておらずレールにカバーを設けただけといった具合であるが、これでも試射をするには充分な状態に仕上がっている。
「MHDジェネレーターの出力安定、2.8MW以上で推移してます!」
「SMES正常に稼動!蓄電量は97、98……100kWhを突破、安全装置起動しました!」
「回転機構正常……ヨシ!」
持ち込まれたレールガンの各パーツのテストが行われ試射の瞬間を待つ。
テストを終えたパーツを組み立て、その上で正しく通電されているかなど念入りに確認作業が着々と進んでいった。
そして遂にその時がくる。
『これより電磁投射砲の試射を行う!速やかに安全区画まで退避せよ!』
『射線の安全を確認、ヨシ!通電開始……発射!』
けたたましく鳴り響くサイレンに続いて、空気の塊が弾けた様な音とともに銃口から煙が吹き出し、同時に砲弾が発射された。
やがで電磁力で加速した弾丸は容易く音の壁を突き破り、そして数km先に用意されていた25mmと58mmの装甲板を貫き、次の重巡洋艦用であった127mm装甲板に阻まれ、地に墜ちる。
試験用に製造された10kgの徹甲弾モドキはローレンツ力による加速で単純な運動エネルギー量は重巡洋艦にて運用されている50口径20cmと同等の数値を叩き出すので、駆逐艦や軽巡洋艦の装甲を貫通するのは想定内であった。
この20cm砲というのは支援艦砲射撃としては戦艦のソレに次ぐ威力と射程を誇るので現在でも戦艦を保有しない国家における最高火力として主流であり、それを120mmという戦車や駆逐艦の砲並のサイズで叩き出すというのは大きな意味合いがある。
とは言え、レールガンのメリットというのは現状においては威力よりも射程距離にあり、何せそういった艦砲の類と比較しても3倍近くの初速なのでその射程距離は100〜200kmにもおよぶ。
間をとって150kmとして考えてみると、例えば現在、大阪湾・伊勢湾・敦賀湾から琵琶湖を結ぶ為の浚渫工事を行い琵琶湖運河を通す計画があるが、その琵琶湖から撃ち出すと淡路島が射程圏内となり、もしも仮にBETA群が淡路市や洲本市にまで侵攻したとしても神戸、堺、有田へと渡海をする前に面制圧射撃を加える事が可能となる。
これはつまり、重光線級の射程距離が約100km程度なので、理論上の話ではあるが遮蔽物や地形の起伏が殆ど無い更地が数百kmに亘って続く砂漠や平野の様な場所にBETA群があったとしても、アウトレンジから光線級の反撃を恐れずに一方的に砲撃をする事も可能ということ。
更に、技術発展により高電流もしくは高磁界のレールガンが製造されれば更に射程距離を伸ばすことも可能で、理論値ではあるが500kmという、航空機か人工衛星による観測がなければまともに射撃もままならない遠距離に砲弾を飛ばす様なことも…………当分未来の話ではあるが。
『続いて連射試験を開始します……!』
レールガンにおける連射の問題としては、砲身の加熱と摩擦による損耗というのが永遠の課題であると言える。
その為、砲身の冷却が必須になるのだが……つまり冷却が完了するまで次弾を発射することが適わず、これを無視して無理やり連射をすればレールが融解して発射そのものが不可能になってしまう。
それを解決する為に、幾つかの工夫をレールに盛り込んだ。
まずは材質。基本的に電気抵抗値と導電率、せん断応力等の観点から銅が選択されるケースが殆どだが、融点は1084.5℃で200℃を超えたあたりから軟化しやすい性質があり、基本的に数回撃ったら使い物にならなくなる。
そこで、3407℃と金属の中で最も高い融点を持つタングステンとの合金を用いることで耐熱性と低エロージョン化を実現することが出来た。
更にレールの形状を8角柱とし、これを一射毎に回転させて現れた新たな面を導電面とし、撃ち終えた面は冷却するという回転方式を採用。
これはガトリングなどの多砲身回転機銃の様でもあり、レールガンの砲身というのは2つのレールで構成されているという違いはあるものの、砲身1つ1つの発射間隔を長くすることで砲身の加熱を抑制するという意味では同様の発想であると言えなくもない。
また、これを応用して新たな給弾機構を設けた。
面の縁に突起物を設けることで、水車の羽根が回転によって水を持ち上げるがの如く、弾丸をレールの下に置くとこの突起物がクレーンで挟みこむ様にして持ち上げ、ちょうどレールの間に配置されてそのまま電流を流せば撃ち出せる形になる。
つまり、給弾の仕組みは砲というよりも拳銃やアサルトライフル等に類似した機構と言えるだろう。
火薬の力で発射する旧来の砲と異なりハンマーやストライカーという機構が不要なので下方から給弾する事が出来れば省スペース化にも繋がり、長砲身にしやすいというメリットもある。
「発射の間隔が随分と短いですね……」
「銅タングステンを電流が進む速度は約1000km/sですからね、装填も簡易な仕組みですし、理論上では現状でも1分間に80発は撃てますが……問題は給電の方でしてね」
「ああ、確かレールガンは1発あたりの消費電力がとんでもないんでしたっけ?」
「一発あたり30MWぐらいです。満充電で14発程度、満充電するまでに約3分必要なので……まあ実質的に連射はできませんね、一発撃つのに5秒程度かけていれば給電は追いつく計算ですが」
「という事は1分間に20発……いや、それでも駆逐艦に搭載されている12.7cm砲と同じぐらいの速射性能って考えたら必要充分なのでは?」
「それがですね、艦載するとなると話が別になるんですよ」
「なんですかその……苦笑と悪巧みが混在したみたいな変な笑顔は」
「船ならば鳳翔にも搭載した80MW出力の大型MHDジェネレーターを搭載できるので、一秒間で2.7発分の給電が可能、つまり砲身の寿命を考慮しなければ80発/分というカタログスペックを発揮できてしまうんですよ」
「ああ……それはそれは」
「これが砲身の問題さえ解決してしまえば200発/分とかも可能になってしまいます」
「それって過剰性能なのでは……?」
「ええ、まあそうですけどね。でも、もしもBETAのいない世界でこんなミサイル並の射程と速度を連射出来る砲があったら戦艦や空母の不要論が出かねないって考えたら面白くないですか?」
「うわぁ……」
まあ、何はともあれこれで戦車に搭載する分には充分なレールガンがほぼ完成したと言っても良い。
あとはコレに合わせて新砲弾を開発したり、実際に搭載するための砲塔なども合わせて造る必要があるが。
どんなに開発が遅延したとしても1990年には間に合うし、早ければ共通戦術装輪車と共に1988年に採用に漕ぎ着けられるかもしれない。
SMESの開発が思いのほか早く済んでレールガンそのものの実現化が早まったのは僥倖だ。
これを多少小口径化して戦術機が装備できる様にできれば……かなり戦況を人類にとって優位にできるだろう。