Muv-luv BreakThrow 技術チートで変える未来   作:あるすとろめりあ改

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※2022年12月20日加筆

水素に関する話が長い、うんざりするという意見を頂いたので、そういった学校の授業的な話の部分は飛ばせる様に今後は工夫をしていきたいと思います
読みたい方は読んで下さい、というスタンスで

○最初の水素の話の要約
・水素はとても質量が軽い
・だから圧縮したり液化しないとたくさん貯蔵できない
・その為に色んな工夫が必要
水素の話を飛ばす



35『ハイドロゲンリアクター』 1987.12.12

1987年12月12日

京都帝国大学 邦畿計画事業室

 

 

 水素を大量に貯蔵するのは非常に困難だ、と言われてもピンと来ない者はそこそこにいるだろう。

まあ、少し長い話になるので聞き流してくれても構わない。(水素についての話を飛ばせます)

 地球上に存在する元素の中で水素はもっとも軽く小さく、気体である水素ガスは常温常圧の環境下においては1000リットル、つまり1m³の体積に僅か89.9g程しかなく密度が非常に小さい事がわかる。

 軽いに越した事はないのでは?という考えも浮かぶだろうが、ここで問題なのはエネルギー密度だ。

 身近なエネルギー源であるガソリンが8000~10000Wh/lという体積エネルギーを有しているが、これが水素ガスでは2~4Wh/lという数値になる。

 おおよそ水素はガソリンの1/3000の体積エネルギー密度であると認識して頂ければ良い。

 

 という事は水素には殆どエネルギーが無いのでは……?と誤解するのは早計だ。

 質量エネルギー密度を見てみるとガソリンが約12.5 kWh/kgであり、水素では約33.3 kWh/kgとなる。

 つまり質量、重さの観点からすると水素はガソリンの3倍近いエネルギーを有していることがわかる。

 だがここで水素の密度の低さが仇となる。

 ガソリンは1000リットルで783kgの質量があるが、水素は先ほど挙げた通り1000リットルで89.9g、つまり0.0899kgと、比較して約1/8700という圧倒的な密度の低さが目立つ。

 これは航空燃料もおおよそ変わらない事情であるから、つまり水素を有効に扱うにはその密度を圧縮する他に無いのだ。

 だから、例えば工業用の高圧水素では20MPa等の数値が見られると思うが、大気圧が0.1MPaなのでこれは200倍に水素を圧縮しているという事に。

 つまり体積が200倍になれば体積エネルギー密度も200倍、400~800Wh/lと上昇する訳だ。

 

 だが、高圧力で圧縮した水素を扱うのは非常に危険であるし、その圧力に耐えられる金属タンクが必要で重量が嵩む為に水素の軽量性が意味を為さなくなる。

 であれば、同じように水素の体積量を減らす手段としては液体水素というのがあって、これは水素の体積を800倍にまで圧縮する事が可能だ。

 しかし、水素ガスを液体水素にするには-252.6℃という超低温まで冷却する必要があり、更にその温度を維持し続けなければ気化してしまう。

 つまり貯蔵のためのコストが非常に高くなるということ。

 

 それともう一つ、吸蔵金属という物がある。

 これは有名どころで言えばパラジウム。

 パラジウムはその体積の1000倍以上の水素を吸着する作用があり、1kgのパラジウムに7gの水素を貯蔵することが出来る。

 数字だけ見ると随分少ないように感じるが、7gというのは80リットル分の水素であり、パラジウム1kg分の体積が約83cm³なので、そこに80000cm³分の水素を貯められるという様に視点を変えてみれば、実は体積比にすると大量の水素を貯蔵していることが分かるだろう。

 一辺が4.3cmの小さめのサイコロ程度のサイズで、常圧の気体状態にある水素は0.0073g程度の重さしか無いところ、質量にして約1/1000、体積にして約1/10まで凝縮しているのと同じなのだ。

 

 

「ええっと……つまり、今日はパラジウムに水素を貯蔵して供給源とする実験を行うと?」

「違います」

「それじゃあ、一体何をするんです?」

「先ほど挙げたパラジウム1kgで水素7gの貯蔵というのは、これが1kgあたりで、と考えるとやっぱり少ない訳ですよ」

「まあ、パラジウムで1kgって言ったら数百万円しますしね」

「コスト面もそうですが。つまりこれを数g程度で同等の性能の物を用意してしまえば……それこそkg単位の水素を手の平サイズに収められる可能性が出てきます」

「何でしょう、新元素でも開発するつもりですか?」

「そんな大それた事はしませんよ、ただの化学反応を利用してとある物質を作ります」

 

 

 その為に必要なのがMOFだ。

 MOF、金属有機構造体《Metal Organic Framework》というものがあり、これは金属イオンと有機化合物を錯体化する事で得られる材料だ。

 そう言われても?と疑問符しか浮かばなさそうなので、きちんと説明しよう。

 別に無理強いはしないが。(MOFについての話を飛ばせます)

 

 プラス、もしくはマイナスの電荷を帯びた金属のことを金属イオンと言い、金属イオンは基本的に単体で存在する事が出来ないので周囲の有機物と配位結合する性質がある。

 いわゆる錯体化や錯イオン化として高校の化学分野でも習うヤツだ。

 そして、この錯体化を起こす為に任意の有機化合物を置き、金属イオンと配位結合させていくのだが、有機化合物に配位子が複数ある場合、複数の金属イオンと配位結合する事ができる。

 こうして錯体化を繰り返していくと、いずれ綺麗な結晶構造を形成していき、MOFという多孔質材料になる。

 

 多孔質材としては活性炭やゼオライトが知られていて、これはフィルター等として脱色や脱臭、脱湿に使われる他に吸蔵や触媒として広く利用されている。

 MOFがその2つと異なるのは、金属イオンと有機化合物の組み合わせによって任意で構造や孔の大きさを設計できる点にある。

 更に、数千m²という広大な表面積を有していたり、圧力によって骨格を変化させる事で吸着していた物質を離したりする事が可能等、多くの性質を有している。

 

 MOFの用途としては、今回の目的である特定の元素や物質を貯蔵する為のストレージとしてだけでなく、他にもその性質を利用してフィルターとして利用することも可能だ。

 例えば、発電所の煙突や車のマフラーにMOFで作ったフィルターを挟んで温室効果ガスだけ排出しない様にしたり、特定の化合物をMOFに通して分離させるだとか、触媒の様な働きもする。

 

 

「つまり設計によっては常圧の時は孔が開いていて、加圧すると水素を吸着して逃さないと言った袋の様な構造とする事も可能です」

「ふむ……」

 

 

 ひとまず、大学にある設備で実験装置を造ってみるとしよう。

 

 

「はい、まずこちらに事前に作っておいた2種類のMOFがあります」

「…………何故、そんな料理番組みたいな語り口で?」 

 

 

 MOFを作る事自体は非常に容易で、金属イオンの溶液と有機化合物の溶液を混ぜ合わせるだけで良い。

 問題は、その金属イオンや有機化合物の種類、濃度などであり、目的とする能力を付与したMOFの設計さえ出来ていれば大量に生産する事も可能。

 

 

「こちらはマイクロゲルにMOFを充填した、マシュマロMOFとでも呼びましょうか。これをスターライト樹脂にMOFを充填した……プラスチックMOF?この2種類のMOFを使います」

 

 

 マシュマロMOFはその名の通りに非常に柔軟性に富み、触るとマシュマロの如くプヨプヨとした感触がある。

 MOFは製造した時点では粉末状であり賦形化……つまり、固形として成形するとその多孔質性が損なったり喪われてしまう。

 なので、この多孔質性を維持したまま賦形化する為にゲルに充填して固めてやる必要があるのだ。

 スターライト樹脂のプラスチックMOFは前述の通り多孔質性が損なわれるが、耐久性は抜群であり、また蓋としての役割に適している。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「さあ、それでは実験を始めましょう」

 

 

 まず、真空断熱容器の中に用意したパーツを入れて、水素ガスを注入してから圧縮状態にする。

 容器の中は更に低温に冷やされ、高圧力と極低温状態から、水素ガスは液化していく。

 ここで狙い通りに、マシュマロMOFの内部に液化水素が染み込んでいき……水素を吸蔵している。

 それを確認してから容器の中に伸びている機械アームを操作してマシュマロMOFをプラスチックMOFの溝に填め、更にプラスチックMOFで蓋をする。

 そうして容器を減圧して水素を回収し、さながら密閉されたベーグルサンドの様だ。

 このベーグルサンドMOFの下に予め用意していた同サイズぐらいの、これもまたドーナツ型の装置をドッキングさせ、その周囲にDの字になっているコイルを接続していき、最後にカバーで閉じる。

 実験装置の完成だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「これは……何ですか?」

「んー、初めて作った物なのでまだ名前は無いんですよね……水素反応炉(Hydrogen reactor)とかですかね?」

 

 

 ハイドロゲンリアクターの仕組みはこうだ。

 まず、MOFによって水素が貯蔵されているが、既に常圧常温の環境下に晒しているので液化していた水素は気化し始めている筈だ。

 そこで、超電導コイルでこれを閉じ込めるという方法を用いる。

 超伝導コイルはDの字になっていて、ドーナツの円周を囲む様に配置されており、これが渦を巻く様に電場を形成し、プラズマ流体を循環させる。

 そしてMOFから漏れ出した水素はこのプラズマの流れに巻き込まれて同様に循環し、水素同士は衝突する事になるが、核融合を引き起こす程のエネルギーでは無いのでクーロンの法則によって反発しあって更に加速が増す。

 基本的にプラズマの電場に閉じ込められているので外に出ることは無いが、仮に漏れ出したとしてもそこには水素を吸着するMOFが待ち受けているので堰き止められ、結局外側に出口がないのでいずれは再びプラズマの渦の中に引き戻される。

 こうして殆ど最初に注入した水素を損失する事なくエネルギーを増加させていくサイクルを形成し、伴って温度は上昇していく。

 

 そして、このドーナツの底は熱伝導率の高い複合材で形成されており、下部のユニットにその温度を伝播させて回収する。

 下部のユニットには、流体金属が封入されており、上記のD型コイルはこのユニットも囲っているので流体金属は水素と同様の機序で渦を形成。

 そして、水素で加熱されたエネルギーは熱伝導体を通して液体金属を加熱する事でエントロピーが上昇。

 ここで、中央に設けられたMHD発電機でエントロピーを回収して発電する、と。

 

 この一連のシステムが、ハイドロゲンリアクターである。

 

 

「おぉ……何か凄そうですね」

「ま、本当に凄いかどうかは実際に試してみなければ判らないので動かしてみますか」

 

 

 流石に目の前で動作させて事故が起きてしまってはいけないので、きちんと実験室で行う。

 大学では人体に有害な作用を及ぼす可能性がある試料等の実験を行える試験設備が用意されており、C4爆弾が起爆された程度では周囲に被害が及ばない様になっている。

 超伝導状態にする為の冷凍機、遠隔起動装置、安全制御装置、観測装置等の接続を確認してからその場を離れて、遠隔操作でハイドロゲンリアクターを起動させた。

 数秒と経たない内にキーンという(つんざ)く様なコイル特有の音をマイクが拾ったが、やがて無音になり、徐々に穏やかな光を放ち始めた。

 

 

「赤く光ってますね……」

「水素と反応してプラズマが発光してるみたいですね。作動しているのが識別できるのは良いや」

 

 

 赤、というよりは薄紫色に近かったが、確かに発光している。 

 頃合いだろうと判断して発電量を観測する為に計器に目をやった。

 

 

「おや…………?」

「どうかしましたか?」

「いえね、発電量が1.31kWに達しているんですよ……」

「主任のやってる実験ってMW級の大容量ばかり扱かってるんで感覚が麻痺しそうですけど、こんな20cm足らずの小型の発電機でそれだけ出せていれば大健闘なのでは?」

「寧ろ健闘し過ぎているというか、想定外……あ、3kW、4……まだ上昇している?」

 

 

 結局、計器の数字は80kW程度で安定する。

 水素をぶつけた時の熱を回収する腹積もりだったので、精々数百Wが関の山であろうと予想していた。

 しかし、実際にはその数十倍の発電が行われており、既に投入したエネルギーを回収出来てしまう程だ。

 これをアップサイジングしてMOFの設計など効率を極めれば、従来よりもかなり小型のGW級発電機が作れてしまうのでは……?

 そんな事が脳裏を過ぎりながらも、この様な結果を伴った理由を考察する。

 

 

「まさか…………」

「え?」

「いえ、これはきちんと検証してみない事には確証を得られませんが……極々小規模に、核融合反応が起きている可能性が……」

「…………核融合って、あの核融合ですか?」

「ええ、でもあり得なくは無いんです。量子力学におけるトンネル効果が生じていれば」

 

 

 水素やヘリウムによる核融合反応を引き起こすには、1億2000万℃という計り知れない超高温状態にする必要がある。

 しかし、太陽はその中心温度は1500万℃であるが、核融合反応によって発熱し燃焼しているのは既知の事実だ。

 では何故その様な事になっているのか、それはトンネル効果によるものだ。

 古典物理学では、1500万℃の環境下で水素と水素が衝突してもその原子核は接触せず、クーロンの法則に伴って反発してしまう。

 しかし、量子力学の観点からすると、極々低確率……1/10³⁰(100穣分の1)でこのクーロン障壁をすり抜けて核融合反応を引き起こす事があるということが判明している。

 太陽には膨大な量の水素があるので、この試行回数もそれだけ増えるので実際に1秒間に核融合反応が起きる確率は自ずと引き上がる。

 

 つまり、このハイドロゲンリアクターにおける水素を凝縮した環境は、太陽のそれと酷似していると言えなくも無い。

 

 

 

「プラズマと言っても1万度前後、核融合反応が起きる確率はグーゴル(10¹⁰⁰)以下だろうに……いや、それでも0では無いから引き当てる可能性はあるとも言うべきか」

 

 

 何せビッグバンが引き起こされる確率が1/10²⁴だというのだから、それよりも文字通り天文学的に低い確率をこのハイドロゲンリアクターは引き当てた可能性があるのだ。

 

 

「ううん……とりあえずこの炉は停止できないな……もしかしたら核融合反応以外の何か不確定要素でこうなっている可能性もあるわけだから……」

 

 

 再現実験を行わない事には只の仮説の域を出ないので、ひとまずこの貴重な炉はこのまま稼動させ続ける事にして、複数の炉を作ってみるしかない。

 核融合反応にせよ、それ以外の要因にしろ、これに再現性があれば……人類はBETAに勝てる希望が明確に見えてくる。

 兎も角、ここでじっとしている場合ではない────

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 その後の実験から判明した事実のみを列記しよう。

 

 まず、ハイドロゲンリアクターで起きていた現象は間違いなく核融合反応だった。

 そしてこれは、その後に製造した同型の物でも、より大型のハイドロゲンリアクターでも同様に核融合反応が起こり、もちろん大型の物ではより大電力が発揮されている。

 

 しかし……このハイドロゲンリアクターの設計をそのまま他者が再現して造っても、核融合反応は起きなかった。

 これは、オートメーション化して総ての行程を機械に行わせたとしても、エンターキーを自身で押した場合は核融合反応の生じるハイドロゲンリアクターが製造され、逆に他者が押した場合は非効率な発電機が作られるのみであった為、須和恭太郎という人物が何かしらの介入をしなければ起こり得ない事が判明。

 その事実に薄ら寒い物を感じ、とりあえずは『特別な工程があるが、それを公開する危険性を考慮して現在は秘匿する』と誤魔化す事に。

 

 

「いったい、何の因果が関与しているって言うんだ────?」




ハイドロゲンリアクターって、つまりアークリアクターのパクr【検閲済】



愛が重なった先に運命があるのか

運命に導かれて愛が紡がれるのか

卵と鶏の因果を識る雛は何処に

交錯し絡み合う想いの綾に恭太郎は惑わされる

次回『愛憎』

愛が焦がす炎の匂いが染み付いてむせる


なんてね。
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