Muv-luv BreakThrow 技術チートで変える未来   作:あるすとろめりあ改

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39『インド・クリスマス戦役 -2-』 1988.12.23

1988年12月23日

インド ハリヤナ州 旧アンバラ近郊

 

 匍匐飛行(NOE)で20分も進んだ頃にはその予兆が見え始めていた。

 ちょうどヒマラヤ山脈の方向から疾走してくる突撃(デストロイヤー)級の群集。

 その進路にある建築物や岩、木々といった障害物に対していっさい気にかける様子もなく20m近くに迫る巨体で踏み潰しながら猛進していく。

 その姿を発見した彩雲を駆る2人の衛士は低高度を維持したまま突撃(デストロイヤー)級の背後を取り、36mm砲弾で確実に仕留める。

 

 

「こちらアックス1!コード991発生!」

HQ(ヘッドクォーター)よりアックス1、コード991の発生を了解、詳細を伝えよ』

「旧アンバラ市街の付近までBETAが到達しているのを確認した!尚、チャンディガール基地のHQおよび周辺のCP(コマンドポスト)にも呼び掛けているが通信が繋がらない!」

『了解した、既にルディヤーナー基地からチャンディーガル基地に向けて戦術機大隊がスクランブルしている。両機は同隊が到着するまで周囲の状況を把握、可能であれば進軍するBETAの迎撃を行え』

「アックス1了解!」

「あ、アックス2了解!」

 

 

 彩雲は近くに後続がいないのを確認してからその場に着陸する。

 そうしてから、鵜飼は再びコンソールを起動して現在の位置関係を精査し始めた。

 ルディヤーナー基地からチャンディーガル基地までの距離が約80km、対して此処からの距離は約30km。

 地上を最速で駆け抜ける突撃級は時速170kmの快速、そして戦術機は平均的に時速500km程で巡航することができる……奇しくも、どちらも到達過程時間はおおよそ10分である。

 つまり、二人はルディヤーナー基地から発った戦術機大隊がチャンディーガル基地に到達する10分間までに漏れ出してきたBETA群を相手にすれば良い訳だ。

 と、言うのは容易いが……既に突撃級が先程この地点にまで到達していたと言うことは既に後続の要撃(グラップラー)級や戦車(タンク)級といったBETAの軍勢の大半を占める奴らがやって来るということ。

 正直なところ、こちらもニューデリー基地から援軍が欲しいところだが……既にその距離は200kmとかなり離れてしまっている。

 向こうは向こうで、BETAを押し止める為の防衛ラインを何処に構築するかとかで揉めているだろうから、ヘタに戦力を割けないというのは理解できた。

 できるが……現実的な話として厳しいな、というのが鵜飼の本音である。

 

 

「うぅむ……」

「どうしました、中尉?」

「いや、さっきの通信をキャッチしてからまだ30分も経っちゃいねぇ……つまり、チャンディーガルの基地が壊滅したのは1時間以内ってところだが……普通にBETAが攻めてきただけなら、ルディヤーナー基地に救援を要請する猶予ぐらいあった筈だろ?」

「ああ、確かに……」

「つまり、そんな暇も無いぐらいに一瞬で基地が壊滅した……もしくは通信施設が破壊されたってことだ」

「そんなこと、あり得るんですか……?」

「後者なら答えは割と簡単だ。基地のレーダーや通信用のアンテナってのは感度を良くする為に一番高い場所にある訳だからな」

「あっ、光線(レーザー)級……?!」

「そういうこった」

 

 

 人類がここまでBETAに一方的に敗走を繰り返している理由が、光線(レーザー)級という存在が故だった。

 光線(レーザー)級は戦術機や他の兵器を一瞬で貫く高出力レーザーを発射する個体で、その単純射程距離は200~300㎞と長く、更に『380㎞離れた高度1万mの飛翔体を的確に捕捉した』という事例からも伺える驚異的な照準能力を併せ持っており、人類は地上のみを這うBETAに対して有効な戦術であった航空兵力を無力化されてしまっている。

 しかし、正確な索敵・照準能力であるが故に、射線の途中に遮蔽物や味方であるBETAがあれば光線級はこれを敵と看做さず射撃をしてこない。

 これは先に光線級にロックオンされてから回避行動を取って身を隠しても同様であり、つまり地上から空へと比較的自由に三次元的な移動が可能な戦術機がBETAに対して有効な兵器である所以でもある。

 

 

「ですが、それこそ光線級の接近にギリギリまで気づかないなんて事ありえますか……?」

「さぁてな……どのみち通常じゃ考えらんねぇトラブルが起きたのは確かだ」

 

 

 

尚更のこと緊張感と警戒心が向上してきた頃、何かがこちらに向かって接近してきているのをレーダーが捉えた。

 どうやらそれは戦術機の様で……IFF(敵味方識別装置)を参照すると、Type-86IN ガルラとF-4IN ファントムの混成部隊だった。

 先程までレーダーに引っ掛からなかった事を鑑みるに、ここまで主脚走行(ラン)で移動していたのだろうか。

 その姿を網膜投影ディスプレイで光学的に捉えてから、鵜飼は通信を繋ぐ。

 

 

「こちら日本帝国陸軍所属、ニューデリー基地から来た哨戒部隊だ。そちらの所属は?」

『インド陸軍、チャンディーガル基地所属のハヌマーン中隊です……!』

「やはりチャンディーガル基地か……お前が中隊長か?」

『いえ……中隊長および先任の衛士は光線級吶喊(レーザー・ヤークト)を敢行する為に前へ……自分は、新任の衛士達を後方に下げる様に命じられて……』

「そうか……誇れ、悔やむな。貴様は上官の命を違わず果たしたのだ。何も命を賭すことだけが兵の誉れではない」

『はい……ありがとうございます!』

 

 

 滝崎は鵜飼がこんな一端の衛士の如く振る舞いが出来たのかと目を白黒させながら黙って見届けていた。

 ハヌマーン中隊を預かるクマール少尉は後方に展開したCPを仲介してニューデリー基地に報告を行い、ひとまず防衛線の構築が完了するまで彩雲と共にその場で待機する様にと命を受ける。

 

 曰く、この旧アンバラ近郊に第一防衛線として構築するための足掛かりとしてBETAの進撃を阻めとのこと。

 戦力としては彩雲の2機と合流したType-86IN ガルラが3機、そしてF-4IN ファントム5機を加えた合計10機によって構成された即席のアックス中隊。

 たったこれだけで数千と迫りくるであろうBETAからこの場を守り抜けというのだから、無茶を言ってくれるものだ。

 

 

「再編するぞ。ガルラに乗っている奴はアックス3からアックス5、あとの奴等はそのままアックス10まで番号を振るぞ」

『アックス3、了解!』

『アックス4了解!』

 

 

 鵜飼の操作によりそれぞれアックス中隊としての番号が割り振られ、その受領を復唱で返答していく。

 堂々としたものだと、改めて滝崎は感心する。

 中尉という階級からして中隊指揮の経験はあるのだろうが、鵜飼のイメージは小隊長のモノだった。

 しかし、たった今合流したばかりの8人の装備やコンディションを一斉に確認したかと思えば矢継ぎ早に指示を飛ばして行く姿は明らかに一朝一夕の浅いものではないのは明らかだ。

 何か問題を起こして今のウチの部隊に転がり込んできたという話だが……

 

 

「アックス3、お前は長刀を背負ってるな。前衛はできるか?」

『はい、ポジションは強襲前衛(ストライク・バンガード)です!』

「よし。中隊の定数を満たしてねぇからあえて定型の陣形は組まない!アックス2とアックス3は俺に着いて前衛に!アックス4からアックス10は後衛だ!余裕があれば俺達の援護をしろ!」

『了解!……まさか、ヤタガラスと隊列を組める日が来るとは思ってませんでしたよ』

 

 

 Type-86IN ガルラは型番が共通する事からもわかる通り、Type-86 彩雲の派生機だ。

 インド陸軍のドクトリンに合わせて頭部センサーガードのゴーグルが二重になっていたり、運動性能よりも機動力に重きが置かれている為に跳躍ユニットの翼がやや大型化している等の細かな差異こそあれ、基本設計を共有した兄弟機であり当然ながら性能も殆ど同等。

 故に、この様な超変則的な編成であっても両機間における連携は比較的容易であった。

 とは言え、どちらも所属する軍と国が異なる為に、実際に連携することは稀である。

 

 

「いいか?自分が生き延びる事を最優先にしろ!帰る事にだけを考えて全霊を注げ!絶対に死ぬんじゃねぇぞ!人間、生きてりゃ何とかなるからな!」

 

 

 絶対に死ぬなとは、無茶な事を言う。

 どこぞの鬼軍曹だったか、その偉人の類は仲間に死ぬことを禁じて必ず生きろと命令をしたというが……

 

 確かに、彩雲などの昨今の新兵装の充実により人類は死ににくくなった。

 しかしそれでも年間における衛士の死傷者率は4割……今この場にいる4人はもしかしたら生きて帰れないかもしれないのだ。

 頭の中ではそういう消極的な考えをせずに戦いに集中しろと言われているのは理解していたが……それでも、どうしても悪い方に志向が傾いてしまう悪い癖がある。

 

 

 

「おら、ぼさっとしてんな!行列のお出ましだ!」

「っ……!」

 

 

 視界いっぱいに(ひし)めく緋色と、そこに交じるモノクロの大波。

 36mm砲弾で列に穴を開けて、そこに無理やり身体を捻じ込んで長刀を滑らせる。

 何故、BETAの血液は人と同じ色をしているのだろうか、(おぞ)ましいったらありゃしない。

 血飛沫が彩雲の黒い装甲を染め上げていくが、激しく動作させればある程度は飛び散る。

 それに、どうせ掃除するのは整備兵の役目だ。

 

 己の長刀の届かない範囲、とくに背後には後方からガルラの援護で弾丸が撒かれていく。

 危なげない、正確な援護射撃だ。

 お陰でこっちは割と余裕をもって要撃級の衝角を捌きながら刃を柔い部分に通すことが出来る。

 実は何発か肩の辺りに攻撃を貰っているのだが……彩雲の装甲はビクともしない。

 それでもきちんとOSからは警告を喰らうのであまり良い気分ではないが。

 

 

「アックス2!あんまり装甲を過信するなよ!ダメージは入ってんだからな!」

「はっ、はい!」

「アックス7は離れ過ぎだ!動けないか?アックス5、お前から寄ってやれ」

『了解……!』

「アックス6と10!一緒にリロードするな!エレメントで片方ずつ、もう片方は援護しろっ!」

『あ、あっ!すみません!!』

 

 

 鵜飼は何個目玉が付いているのだと言わんばかりに、自身の一番前で斬り込みながら次々に指示を飛ばしている。

 なんでこの人、こんなに出来るのに……

 真面目にやってたら今頃、佐官になって大隊の指揮をやっていてもおかしく無いだろうさ。

 と言うか、本来なら部隊のド真ん中に位置する迎撃後衛(ガン・インターセプター)の筈なのに、何故か日頃から突撃前衛(ストーム・バンガード)やってます!と言わんばかりの動きをしているのだが、やはり馬鹿なのだろうか?

 

 

「アックス1よりHQ!流石に数が多過ぎる!支援砲撃は出来ないのか?!」

『HQよりアックス1へ、機動戦闘車の配置が完了している。小規模かつタイムラグがあるが、可能だ』

「おーけい、そしたら今の俺の位置から北方1000に出来るだけ拡めにバラ撒いてくれや」

『了解。なお、この支援砲撃を合図に中隊は後方のCPまで撤退せよ』

「後方?どこまで?」

『ああ、すまない。国道44号線沿い、旧サモーカーにCPが設営された』

「ん……随分と下がるな、了解」

 

 

 前衛に出ていた3機も長刀を収めて突撃砲で露払いをしながら後退を開始する。

 鈍足なF-4を先頭に、それを追い掛けながらBETAを少しでも停滞させる為に死体の山を築きながら。

 そして要請から数十秒程で、支援砲撃が飛んできた。

 頭上から飛来した弾頭は、BETAの群へと着弾する数M上空で突如爆散し、光の棘が突き刺さっていく。

 その火力は凄まじく、一部の要撃級を除いて殆どのBETAは赤いミンチの塊と化していた。

 

 

『クラスター弾?いや、それにしては威力が……』

『アレは戦艦からの砲撃?』

『そんな訳無いだろ!ここは内陸の奥の方なんだぞ?!』

「あれは日本(ウチ)から持ちこんで来た玩具の1つで戦闘車……つまり、自走砲からの支援砲撃だ」

『嘘……それであの威力……?!』

 

 

 今年から採用された共通戦術装輪車と称される装甲車は、上物を取り換える事で様々な任務に対応することが可能だ。

 指揮車になったり救急車になったり……今のは、どうやらレールガンを乗っけているヤツから撃ち込まれた支援砲撃らしかった。

 最大有効射程は200kmにまで及び、初速はマッハ8、しかも砲弾は新型炸薬を採用しており従来の物と比較して2.5倍の威力があると言う。

 最早ここまで来るとSFの領域だな…… 

 

 

「おし…………さっさとずらかるぞ!」

 

 

 こうして、俺達のBETAとの本格的な戦争の火蓋は切られた────

 

 

 

 

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