Muv-luv BreakThrow 技術チートで変える未来   作:あるすとろめりあ改

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40『インド・クリスマス戦役 -3-』 1988.12.24

1988年12月24日

インド ニューデリー基地 大講堂

 

 ニューデリー基地に着任するほぼ総ての人員が、この大講堂へと招集された。

 基本的に大講堂が使用されるような事柄、つまり式典や大きな発表等の際にはその内容というものは事前に通達されたり、何だかんだ耳に入ってくるものである。

 しかし、今回に至ってはそういった情報がまったく入ってこなかった訳で……それだけ緊急の事案である事の証左であり、大講堂には無言の緊張感で張り巡らされていた。

 

 

 

「昨日未明、チャンディーガル基地はBETAの襲撃を受けて壊滅した。死傷者は不明、生存者は現状で確認されているのは僅か数名のみである……」

 

 

 パウル・ラダビノッド副司令は重苦しい声で告げると、一瞬で動揺が走り破裂した様にざわめきが拡がる。

 通常であれば、上官からの言葉を遮る様な行為は咎められて然るべきであったが、この時ばかりはそれを制する余裕のある者はいなかった。

 チャンディガール基地といえば、ヒマラヤ山脈からインド平野部を防衛する重要拠点の一つであり、その規模はインド陸軍においても有数の物であり、つまり数千人の人員が一度で喪われたということ。

 その事実、その情報の衝撃が人から理性や冷静さというものを奪い去ったのだ。

 

 

「詳細はクマール少尉からお願いしたい……頼めるか?」

「……はい」

 

 

 チャンディガール基地の所属であり数少ない生還者であるドゥルーヴ・クマールが語るところによれば、何の前触れもなく基地の付近を震源とした地中振動をセンサーが観測。

 ヒマラヤ山脈というのは、インドプレートとユーラシアプレートがぶつかりあって形成されたという経緯からこの地域は地震が頻発するという特性がある為、当初は何時も通りの地震であると考えられていた。

 しかし、そんな楽観的な予想と裏腹に徐々に振動の規模は大きくなり……そして、BETAが地中より現れたのだ。

 

 

「それは……100mをゆうに超える巨体を持った新種のBETAで、イモムシの様な外観をしたそれは、巨大な口を開ける様にして中から大量のBETAを吐き出しました」

 

 

 その新種BETAから排出されたBETAの総数は旅団規模……数千に及ぶ大群が一斉にチャンディガール基地を襲撃した。

 もちろんそこには戦術機や戦車が連隊規模で配置されていたが、迎撃のために展開する前に突撃級や66mの巨躯を持つ要塞(フォート)級に蹂躙され、更には光線級によって通信機器も破壊された為に救援を呼ぶどころかその惨状を伝える手段さえ喪っていたのだ。

 結局、哨戒の為に戦術機に搭乗して出撃していたハヌマーン中隊、更に言えば新任衛士を含めた8人の活路を築く為に中隊を指揮していたヴァルマ大尉以下4名は光線級吶喊(レーザー・ヤークト)を敢行する為にBETA群のいる前へと出たことが確認されて以降…………行方不明である。

 

 

「すまない、ありがとうクマール少尉……聞いての通りだ。この基地──否、我がインドは未曾有の危機に瀕していると言えるだろう……!」

 

 

 ラダビノッド副司令の力強く響く言葉に、再び場の空気はシンと静寂に包まれ、視線が一点に集まる。

 

 

「我々の後方では、5億の国民が新たな地(インドネシア)へと渡る為に南進を続けている……それは決して望まれる船旅などでは無く、再び故郷であるインドの地を踏みしめる為の堅忍の志があるからに他ならない。今、そんな無辜の民達の命が脅かされんとしているのだ!」

 

 

 此処にいる者達の殆どは、当然ながらインド人である。

 副司令の語る5億人の中には、彼らの家族や友人、大切な人達が含まれており、無意識の内にその者達の顔が脳裏に浮かんでいた。

 そして同時に、その者達がBETAに喰らい尽くされてしまう姿も同時に思い浮かんでしまい、BETAに対する恐怖と怒りの感情が湧いていく。

 気が付けば、拳を硬く握りしめて下腿を叩く者や地団駄の如く足を強く床に振り下ろす者が現れていた。

 

 

「我々は軍人として国民を守る使命が、義務がある。厳しい戦いになるだろう、少なくない犠牲者も出よう……しかし、我々は此処で踏みとどまらなければならない!」

 

 

 ラダビノッド副司令も拳を振り上げて兵達を鼓舞する様に声のボルテージも上がり叫んでいた。

 それに呼応する様に興奮して雄叫びを上げる者は……流石に折檻されていたが、そういった事が自然発生する程の空気感が構築されていたのだ。

 

 

「そして、もう1つ…………今回のチャンディガール基地での悲劇を我々が知れたのは、(ひとえ)に遠く極東の地より訪れた日本人衛士のお蔭である」

 

 

 そうして視線を向けられた鵜飼中尉は、黙して背筋を正すのみで声は出さない。

 

 

「本来であれば、異国より遣わされた彼等に戦わせるのは筋違いというものだろう。だが、どうか…………戦う術のないインドの民を救うために、その力をお借り願えないだろうか……!」 

 

 

 帝国陸軍と帝国斯衛軍の軍人たちは、ラダビノッド副司令への敬礼でもってその返答とした。

 

 

 

 

 

 

 ────初陣。

 その言葉の重みを肌で感じた時には、確かに大きな不安を抱いて心臓が痛い程に叩き鳴り胃は捻られる様な痛みと息が出来なくなりそうな閉塞的な吐き気を覚えた。

 そんなドロドロとしたものに押しつぶされそうになりながらも嚮烏の管制ユニットに着座して、それから(すが)る様に隠し持って出てきたネックレスを取り出す。

 

 

「恭太郎さん……」

 

 

 椿の花を象ったガーネットのネックレス。

 それを手のひらの中に包み込みながら胸に当てて深呼吸をした。

 すると、摩訶不思議な事に先程まで胸の中を渦巻いていた重苦しい物が吐いた息と共にストンとどこかに去ってしまう。

 頭に疑問符を浮かべながら、先程まで確かにそこにあった物を取り出すかの様に思い出そうと試してみるが、掴まえようとする度にスルリと抜けてしまう川魚の如く、それはどこかへと消えてしまった様だ。

 

 

「……え?あれ?」

 

 

 余りにも拍子抜けで、何が何だか分からないまま背もたれは後退して仰向けになっていく。

 こんなに気が晴れているのならこのまま眠れてしまいそうだな、なんて考えが浮かんでしまう程には余裕があった。

 

 

「ふっ…………ふふ」

 

 

 自嘲気味に笑みが溢れてしまう。

 思っても見なかったが、案外と自分は(まじな)いや暗示というものが効きやすい質らしかった。

 流石にこのまま身に着けてしまうと軍規違反で咎められてしまうし、最悪没収されてしまうので、操縦の邪魔にならない事を確認してからカラビナに吊るしておく。 

 そうやって待機していると、管制塔から通信があった。

 

 

『管制塔よりスティール4へ、Runway 34B line up and wait(34番B滑走路で待機せよ)

「スティール4了解、34番B滑走路で待機する」

 

 

 カタパルト……とは言うが、ランディングギアのない戦術機をスムーズに発進させる為のただの軌道と鉄輪の付いた装置……に足を乗せ、跳躍ユニットのエンジンを始動させる。

 

 

『スティール4、Runway 34B,cleared for takeoff(34番B滑走路異常なし、発進を許可する)

 

 

 ジェットエンジンが規定の回転数に達したのを確認してから発進許可を合図に、ロケットエンジンを点火する。

 浮上した嚮烏は、航空機の様に大きな浮力が無い為に空に掴んで貰うのが少し難しいが……それでも、形状も推力も前世代機である瑞鶴より断然具合が良い。

 これでも末期のレシプロ戦闘機並の速度を叩き出すのだ。

 

 

『久賀、大丈夫か?』

「…………はい」

 

 

 スティール中隊の全員が発進し、飛びながら隊列を組んでいると中隊長である新庄大尉からプライベートチャンネルで声を掛けられる。

 斯衛軍はそのドクトリンも相俟って、1番前に出てその戦端を切り拓く役目を担う。

 更にその中で強襲前衛(ストライク・バンガード)と言えば一番槍……得物は槍ではないが……として真っ先に接敵し交戦する立場にある。

 それ故の恐怖と緊張だったのだが……やはり、無い。

 

 

「今は、落ち着いています」

『そうか……だが、無理はするなよ?』

「はい」

 

 

 そしてスティール中隊は予定会敵ポイントに到達する。

 遠目に、緑色の山脈が蠢き接近してくるのが写った。

 勿論それは自然の山等では無く、突撃(デストロイヤー)級の外殻に彩られた毒々しい緑と紫のコントラスト。

 全高16mの巨体が群がって列を作りながら押し寄せる様子はまるで山や大地そのものが動いているかの様な錯覚を起こす。

 

 

陣形(フォーメーション)楔参型(アローヘッド・スリー)!スティール4は先行して進路を切り拓け!……できるな?』

「了解……っ!」

 

 

 加速して接近する毎に、心中に揺蕩(たゆた)う感情は更に晴れやかで鮮明になっていく。

 アレは、人類を脅かす災厄ではあるが同時に決して自分を脅かす存在ではないという事が認識させられる。

 言わば、駆除しなければならない害虫と同じなのだと。

 

 

「スティール4、インレンジバンディット!エンゲージオフェンシブ!」

 

 

 両腕に据えられた74式近接戦闘長刀の刃を翼の如く左右に拡げながら、紅色に染め上げられた嚮烏は双眼の如くカメラ・アイを(きら)めかせながら文字通り翔び込んで往く。

 装甲が地面に接触しない僅かな隙間を縫う様な低高度を維持した匍匐飛行で疾駆し、刃を横に滑らせて突撃(デストロイヤー)級の柔い胴体の部分を一刀で斬り裂いた。

 半ばで斬り捨てられた突撃級はその場で伏して、後続の進行を阻む肉塊と成り果てる。

 

 加速した推進力を殺す為に長刀を地面に突き立てつつ、その反動で尻上がりになって前方に投げ出される勢いを殺さずに長刀を手放しながら転回(ハンドスプリング)の要領で脚部を前方に突き出して、着地。

 すぐに兵装担架のガンマウントを展開、今度は87式突撃砲を装備して、跳躍ユニットを僅かに吹かしながら回転する様にして周囲を囲むBETAに36mm弾を撃ち込む。

 

 

「邪魔……!」

 

 

 BETAがまともな隊列を組んでいる筈もなく、縦横無尽にバラバラと崩れて侵攻してきている。

 そのまま列に向かって撃っても射線が通らないので、屍となった突撃級の外殻を蹴って、側面に飛び込む。

 脇から掬う様に弾を注いで無力化し、今度はタイミングを合わせて生きているヤツの外殻を蹴って空中でターン、後方から0.4秒ほど連射して止めた。

 

 そうこうしている内に突撃級の波から抜け出して全ての突撃級が後面をこちらに向けている形となっていた。

 なればと、射程の届く限りの突撃級のケツに鉛玉をぶち込んでやる。

 キャニスター弾を持ち込まなかった事を悔やみつつ、気がつけば両手合わせて4000発、マガジン2つ分を撃ち尽くしていた。

 

 結果的には会敵した突撃級の半数にあたる200弱を単騎で潰した事になるが……もう少し、火力というか手数があればな、等と考えを巡らせながら置き去りにした長刀を回収する。

 

 

『何だ今の動きは……スティール4!無茶し過ぎだ!死ぬ気か?!』

「大丈夫です、恭── 嚮烏(きょうえん)ならこれくらい問題ありません」

『そういう事じゃ……貴様らは絶対に真似をするなよ?!』

『大尉、ハナから無理です』

『今の動きは既存のモーションパターンにありません。完全なマニュアル機動ですから、そもそも動かし方がわかりません』

『…………そうか』

「後ほど、ログを提出しますので……」

『久賀少尉、モーションパターンがあっても無理だ。普通の人間には目が2つしか付いていない』

「はい…………はい?」

 

 

 いや、私も人間だから目は2つしかないのだが……?

 

 

『陣形を鎚壱型(ハンマーヘッド・ワン)に切り替え、このまま推し進める……!』

『“了解!”』

『スティール4は……死なない程度に好きにしろ』

「了か……どういう、意味でしょうか?」

『どうせなら試験部隊らしく割り切って機体の限界性能を見極めるつもりで動かせ。私達では嚮烏の果てが見えないからな』

「……了解」

 

 

 なんとも釈然としないが、指示を得たからには従うしかない。

 もしや、少し気負い過ぎてしまっただろうか?

 後れを取るまいと必死にやれるだけの事を為そうとしただけなのだが……

 

 

 

 

 

1988年12月24日

インド ハリヤナ州 旧カルナル近郊

 

 

「…………っ、キリがない!」

 

 

 けたたましい発砲音が空間を支配する戦場の中で、愚痴る様な投げっぱなしの声が漏れる傍から掻き消されていく。

 

 結局のところ、此処にあるのは終わりの見えないルーティンワークであった。

 撃って、斬って、倒して、踏み越えて、進んで……延々と続く繰り返し。

 勿論、簡単には集中力を乱すことなど無い様に訓練を重ねてきた訳なのだが……それでも、人としての、生物としての限界というものがある。

 単純作業に“慣れ”を見い出してしまった時、最大の油断と対応力の欠如を産むのだ。

 

 

『畜生!埒があかねぇや……!』

 

 

 焦燥感で湿った声にノイズが乗って聞こえる。

 視線を僅かに移せばそれは同隊の、滝崎少尉よりも更に数ヶ月任官の短い新任寄りの衛士から発せられたものだった。

 彼の駆る彩雲は何を思ったかロケットエンジンの噴射で急激に高度を上げて、空からBETAを狙い始めた。

 確かに、より高い位置に付けた方が射程は延び、視界も開けるので対BETA戦においても優位となる……だが、しかし────

 

 

光線(レーザー)、警報……?』

『バっ……!降りろ降りろ降りろっ!!』

『あ────』

 

 

 光が、突き刺さった。

 刹那の静寂と、閃光、熱が推進剤に引火して爆発する。

 パラパラと戦術機だった物の残骸が墜ちてきて……管制ユニットのあった辺りには何も無い。

 撃ち抜かれたんだ。

 何故かはわからないが、光線級BETAは的確に人の居る管制ユニットを狙い撃ちしてくる。

 

 

『仲村ぁ!?』

 

 

 加納中隊長の動揺する声。

 それが伝播したのか、隊員の何人かが視線をそちらの方向に機体を寄せたのが見えた。

 だが、それはまずい。

 殆どBETAに囲まれた状態、しかも陣形に穴が空いたとなれば綻びが生じるのが必至。

 案の定、背後から要撃級の衝角で突かれ、転倒する者が現れる。

 

 

『ぐああああっ?!』

『この、離れろ、やめろっ!!』

 

 

 1発や2発でやられる程彩雲の装甲は柔くない。

 しかし、跳躍ユニットや大腿部にはケロシン系の燃料が大量に搭載されており、構造上装甲を置けない接合部などはどうしても脆弱になってしまい……そこを連撃されれば、破壊されてしまう。

 

 そして懸念通り、押し倒される様にして複数の要撃級から揉みくちゃにされた彩雲の燃料が引火、周囲を巻き込みながら爆発した。

 

 

『く、っそが……!加納!立て直す為に一度退かせなきゃ駄目だこりゃ!要塞級も接近してる、今しかねえっ!!』

『んなこたぁわかってんだよ鵜飼!あと今は俺の方が階級が上なんだっての!!』

 

 

 しかし、一口に撤退すると言っても状況は決して容易では無かった。

 依然として周囲には大小のBETAが(ひし)めいており、脚部や跳躍ユニットを破損した僚機が3機。

 ベイルアウトして回収中に襲撃される危険性を考慮すれば、そのまま抱えて離脱した方がマシ。

 しかしそれでは確実にBETAの群集からの包囲網から抜け出せないだろう。

 

 

殿(しんがり)は俺がやる。加納は機動車隊を呼んだら破損機を抱えてさっさと離脱しろ』

『機動車?いや、しかし……』

『88式は戦術機よりも地面での小回りは断然良いし火力もある。この期を逃せば引き際が無くなるぞ、早くしろ!』

『だからぁ、命令するなっての!……陣形(フォーメーション)鎚参型(ハンマーヘッド・スリー)!ゴルフ3はゴルフ5と7が、ゴルフ9はゴルフ10と11がカバーしろ!』

『“了解!”』

 

 

 ハンマーで言うところの頭が分厚く柄の部分が短くなった陣形を取り、後退を始める。

 最後尾では鵜飼中尉が引き撃ちでBETAの動きを留めながら撤退の援護を行っており、滝崎は前で小型種の露払いを行って道を開けていく。

 少しずつ進んでいくが、手負いを抱えた状態ではスムーズにはいかず、後続の動きの滞りには憤りさえ感じた。

 

 

「くっ……あ、うっ……加納大尉!10時から2時方向にかけて距離5000弱に要塞級が3!横並びです!」

『なにっ?!』

 

 

 ほぼ進路の直上をまるで塞ぐかの様に巨体を揺らしながら接近してくる要塞級の姿があった。

 最悪なことに、後方からも少し遠いが別の個体の要塞級が迫ってきており、挟み撃ちにされてしまう格好だ。

 結局、撤退するには要塞級を退かさなければならないが……正直、3体もの要塞級を相手にできるかが定かではない。

 こちらの部隊のコンディションが万全であればいざ知らず、現在は仲間を2人失った上に中破した2機を抱えて移動している状態であり、牽引している僚機はまともに照準するのでも一苦労。

 そんな状態で切り抜けることができるのか?

 一抹の不安が脳裏を過ぎる……

 

 

『後先考えるな!120mmで接合部だけを狙えっ!』

「了解……っ!」

 

 

 突撃砲を構えて、とにかく細かい照準は無視して発射する。

 要塞級は全身を硬い殻で包んでおり、たとえ120mmでAPFSDS弾と言えども基本的には阻まれてしまって無力だ。

 故に、その巨体を動かす為の可動域を確保する為に比較的柔くなっている関節の接合部に120mm弾を、もしくは至難の業ではあるが、長刀の刃をそこに突き入れるしか撃破する方法は無い。

 そんな命を棄てかねない蛮勇は持ち合わせていないが……!

 

 

「ダメだ、クソ……角度が!」

 

 

 その唯一の弱点である接合部は、側面からであれば容易に捉えられるのだが、正面からは拝むことが出来ない構造になっている。

 つまり、多少の距離を開けた上に接近する為にこちらを正面に向けている時には弾丸が届かないという訳だ。

 

 だから、その為には多少跳んで要塞級の側面に回り込まなければならない。

 

 

『待て滝崎!逸るなっ!』

「え…………?」

 

 

 高度は40m程度、かなり低高度な筈なのに光線警報が視覚と聴覚を慌ただしく赤色いっぱいに警告してくる。

 予備照射が前方の方から、要塞級の陰に潜れていたのだろうか?

 慌てて高度を下げようにも目の前には要塞級もいて────

 

 

『世話が焼けるなぁ、この野郎っ!』

 

 

 浮遊感というか、落下の感覚。

 見れば、下腿を鵜飼中尉の機体が掴んで引き摺り降ろしてくれている姿が視界の端に映った。

 跳躍ユニットの出力をゼロに落として、高度を下げようと足掻く。

 高度はガクっと下がって、元から比較的低高度だったこともあってすぐに地面に尻餅をつく形になる。

 

 嫌な音がした。

 助けてくれた鵜飼中尉の彩雲の跳躍ユニットに光線が被弾して、空中でのバランスを欠いていた。

 それでもフラフラとしながら着地しようと揺らめいていた所に、要塞級の50mまで延長する尾に穿かれて──ハエ叩きされた小虫の様に、呆気なく彩雲は墜ちる。

 

 

「鵜飼中尉っ!?う、ぁ…………何でっ!俺なんかを?!」

『落ちつけ滝崎っ!お前までやられるぞ!!』

「っ…………くそおおおおっ!!」

 

 

 喉が張り裂けそうに成る程に叫ぶが、朽ちた彩雲からは無情にも言葉は返ってこない。

 あり得ない…………そのあり得ないが、目の前に転がっている。

 

 ストン、と。

 グチャグチャになっていた頭が、水で洗い流されたみたいにスッキリとしてしまう。

 打たれた、という確信。

 

 衛士を保護する強化装備には、極度の興奮や恐慌状態等の強い精神の乱れを抑制する為の戦術薬物が搭載されており、圧力注射によって即座に投与される。

 今は、鎮静剤を中隊長が選択したのだろう。

 

 そうだ、気持ちを切り替えなければならない。

 自分やゴルフ中隊の生き残り達と共に、基地に帰還しなければ鵜飼中尉や仲村のことを弔ってやることもできないのだから。

 

 機体は、動く。

 まだ戦えるが……こんな、要塞級が目の前に3体もいて、後ろから100を越える大型種が追ってきていて……果たして帰れるのだろうか?

 

 せっかく落ち着いた心が、もうこんな短期間で再びざわめく。

 背筋や腹部に冷たい物を感じながらも立ち上がらせる。

 結局、要塞級には攻撃を与える事ができなくて無傷のままだった。

 残弾の少ない突撃砲を破棄して、長刀を両手で構えた。

 

 せめて1体だけでも、刺し違えてでも…………

 

 

『こちら帝国斯衛軍スティール中隊、貴君らの撤退を支援する』

 

 

 そんな決意を打ち砕くかの如く、側面からジェットエンジンの噴射音と通信の声が耳に入ってくる。

 無意識に視線を向けると、12機の彩雲が接近して…………いや、彩雲ではなかった。

 

 88式戦術歩行戦闘機、嚮烏。

 帝国斯衛軍で制式採用されたばかりの彩雲の改修機で、彩色の他に頭部の形状や装甲の形状に僅かな差異が見られる。

 

 

『すまない……支援、感謝する』

『気にするな。陣形、菱壱型(ダイヤモンド・ワン)!彩雲を囲いながら安全区域まで届けるぞ!スティール4は…………もう良い、好きにやれ』

『了解』

 

 

光線級を優先して排除しつつ、斯衛軍の嚮烏がゴルフ中隊の残存9機を菱形で囲う様にして布陣する。

 しかし、そんな中で1機だけ突出して要塞級に向かう機体があった。

 赤い機体色の、つまりは高位武家の駆る嚮烏。

 その家格だの身分がどうだので操縦技能が変わるとは到底思えないのだが……確かに、周囲の白や黄色の嚮烏と比較して動きが良いのは明確だった。

 

 

「疾い……っ!」

 

 

 尾部から伸びる鞭状の衝角を容易く回避すると、そのまま要塞級の腹部に滑り込む様にしながら身体を捻って側面へと抜け出しつつ、その勢いのまま長刀を滑り込ませて接合部を斬ってしまう。

 崩れ落ちるその個体には目もくれず、次と狙いを定めた要塞級に接近しつつ、もう片方の方に突撃砲の砲口を向けて120mm、APCBCHE弾をこれまた的確に関節接合部に着弾させると、その内部まで浸透した弾丸が爆ぜて要塞級の身体は面白い様に千切れた。

 しかし、最初の要塞級の身体から抜け出す時に高度を上げてしまった為に、嚮烏の胸部に光線の予備照射が差し込む。

 

 

「まずい……光線級がまだ!」

 

 

 ところが、空中で更に加速した嚮烏は照射を逸らす為に要塞級の身体の背後へと沈み込んでこれをやり過ごした。

 そして回避機動だけで終わらせる事なく、そこから八の字を描く様にして両脚部をそれぞれ斬り落として行き、更にコレも見えていたと言うのだろうか、今さっき嚮烏を狙った光線級にも36mm弾を食らわせて無力化する。

 

 結局、2分と経たずに3体の要塞級を、まさか単騎で撃滅してしまったのだ。

 

 

「これが、斯衛軍…………」

 

 

 政威大将軍の名の下に帝都を守護する精鋭部隊。

 彩雲と嚮烏はカタログスペックでも実際の性能でも大きな差は無い。

 つまり、要塞級を瞬殺できた要因は、単純にあの赤い嚮烏を操る衛士の技量が優れていたということだ。

 

 

『あれが、斯衛軍のエースという訳か』

『あー、うむ……そうだな、今日はそのエース様の初陣ということになる。良ければ祝ってやってくれ』

『そうか、初陣………………は?初陣?』

『ああ』

『初めての実戦で、アレなのか?』 

『そうだ』

『………………』

『勘違いしてくれるなよ、アイツが特殊なだけだ』

『そりゃあ……あんなのが何人もいたら人類は今頃BETAを宇宙に押し返しているだろうさ』

『違いない』

 

 

 加納中隊長と、斯衛軍の指揮官が何やら談笑していた。

 しかし、耳に入ってきても内容が頭の中にまったく入って来ない。

 それよりも何よりも、吐き気とよく分からない不快感で息が荒くなって、頭がボウっとしてくる。

 多分、抑制剤の副作用と元からの精神的な負荷が悪い

具合に重なっているのだろう。

 

 早く、帰って、今はもう眠ってしまいたい……

 

 





本作品において戦闘シーンの描写が少ないのは、単純に私が書ける戦闘シーンのバリエーションが少ないから
例えば、元になるアニメとか特撮があったとして、その戦闘シーンを小説化して文章に直せ、とかなら幾らでも出来るんですが……
1から考えて文字に書き起こすとなると、これが難しい

という言い訳でした
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