Muv-luv BreakThrow 技術チートで変える未来   作:あるすとろめりあ改

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41『希望を運ぶシロナガスクジラ』 1989.1.20

1989年1月20日

京都帝国大学 邦畿計画事業室

 

 

 澪月さんを見送って3ヶ月が経った頃、富嶽重工からアポイントメントがあり話を聞く事になった。

 訪れたのは戦術機部門ではなく航空宇宙部門、それも珍しい事に航空機を担当する部署の者達が、である。

 

 光線(レーザー)級BETAの影響で爆撃機等の航空兵力が無力化されて久しいが、光線級吶喊(レーザーヤークト)を行う等して安全圏(周囲およそ半径200〜300km)を確保した上で爆撃機や戦闘ヘリを運用する事は可能である為、航空機の存在その物が途絶えた訳ではない。

 故に、富嶽に限らず航空機開発メーカーやその関連企業が未だに航空機の研究開発、および製造を続けていたのは知っていたが……

 

 

「本日は、是非須和先生のお知恵を拝借頂ければと思いまして。こちらです」

「拝見させて頂きます……これは、輸送機ですか」

 

 

 それは輸送機の設計図と計画概要だった。

 帝国陸軍からの打診による輸送機開発、要求仕様としては戦術機を2機搭載可能で航続距離は6000km以上、巡航速度はマッハ0.6(約740km/h)以上で離陸滑走距離は2500mまでに抑える様にと……

 戦術機、彩雲を基準に考えれば本体の乾燥重量と自走整備支援担架等の装備重量を鑑みた場合1機あたり100t、合計で200tはペイロードのマージンとして確保したいところ。

 

 これは、かなりの難題である。

 200tを越える積載量を誇る航空機と言えばあのAn-225 ムリヤか、若しくは珍妙な形状をした双胴機のストラトローンチぐらいなものだ。

 まあ後者に至っては、軌道エレベーターの建造が始まっているこの世界では考案すらされない可能性もあるが。

 

 

「こちらが設計図……全長70m越え、胴体幅も12mを越えていますね……」

「ええ、彩雲は陸送モードで幅8.1mになりますので貨物室内の幅は10mは確保したいと思いまして」

「そうですね……はい、なるほど」

 

 

 そうやって導き出された設計図の外観は、C-17輸送機やC-2輸送機のソレにどこか似ている。

 C-2は異なる世界の未来における河崎重工の設計によって産み出される訳なのだが、高翼配置や積載量、揚力の確保等を意識すると類似した形式になっていくのは必然とも言えた。

 

 

「しかし、問題は滑走距離が……離陸重量は500tを越えますので、どうしても3200mは必要になるという計算結果になってしまって……」

「なるほど」

 

 

 たとえば、先程の例にも出てきたAn-225 ムリヤは最大離陸重量である640t時の離陸滑走距離は3500m、世界最大の旅客機とされるA380は最大離陸重量560tで3470mが必要であるとされている為、3200mという数字は決して長過ぎるものではない。

 そもそも2500mという数値に拘っているのは、これがB737やB767といった中型旅客機を運行して国内線のみ就航している地方空港でも離陸出来る様に、ということなのだ。

 

 

「しかし、帝国軍が富嶽さんに輸送機の発注を行っていたとは……初耳でした」

「いえ、実はまだ打診の段階でして……」

「ふむ?」

 

 

 話によれば、帝国陸軍技術廠の中では大型輸送機が必要であると声高々に唱える派閥がいるのだが、正式に導入が国防省の見解として決定した訳ではなく、技術的に可能であると示す為の見せ札としての意味合いが強いらしい。

 つまり富嶽重工の提案に対して国防省や軍が宜しいと判断すればそのまま採用される運びという訳だ。

 更に言えばこれは先方の語る所によれば戦術機では河崎重工が、戦車などにおいては光菱が受注、ライセンスを取得している中で富嶽重工のみ軍需の大口契約が無く生産施設の空きも多かったが故に救済策として白羽の矢が立ったという事情もあるとのこと。

 故に、自律稼動フレームの際にもあったコンペティションの類は行われないのだと言う。 

 

 

「お願いします、今ならまだインド南部の空港は光線級の射程圏外ですから物資を送る事ができる……インドの避難民をインドネシアに退避されるのにも、船だけでは到底追いつけません……!」

「…………」

「これは社運を賭けたプロジェクトではありますが、その影響は我が社のみに限らず世界に及ぶと自負しております。一人でも多くの人命を救う為と思って、どうかお願いします……!」

「……少し考える時間を頂けますでしょうか?」

 

 

 その意義に関しては共感するところも多々あるし、運用上でも必要な場面というのは増えてくるだろう。

 だが、逆に言えばそうであるからこそ簡単に解答を出すことは出来ないと判断した。

 結果、昼休憩を挟むという形で1時間半ほどの時間を頂き、それから応えるという形にさせてもらった。

 

 

 

 

 

 

「さて……と」

 

 

 別室に移ってから、早速ラップトップを起動させて富嶽重工のエンジニアから先程見せてもらった設計図を思い起こしながら3DCADソフトに描画していく。

 まず基本的な航空機としての形状の設計は、中々に見事であると正直に思った。

 だが、それはあくまでも1990年前後の航空機を基準にした場合であり、恭太郎の有する知識を基準にすれば“古い”という考えが拭えない。

 

 

OFRP(有機繊維強化プラスチック)を多用して強度を上げつつ機体重量を軽くしようという発想は流石に富嶽重工らしくて見事……だけど比率が少ない」

 

 

 設計案にあるOFRPの使用率は3割弱、恐らくは一体成型にする事に対して不安を抱えていたのだろうか、それとも耐久性が未知数な素材を主材にする事に対しての躊躇いなのか、主翼と胴体部分には殆ど使用されていない。

 逆に言えば、1988年の時点で2000年頃に設計されたAn-225に次ぐ大きさを誇るA-380と同水準の割合で繊維複合材を採用しているのだから10年は未来を見ているとも言えるが。

 とは言え、ここで妥協や躊躇をしてもらっては困る。

 エンジンと翼の接合部や風を受ける翼の外縁部等を除いて機体を構成する7割はOFRPを採用して徹底的に軽量化を図る。

 OFRPはその強度がカーボンナノチューブに匹敵するが故に行える施策だ。

 

 

「主任、お食事をお持ちしました」

「ん……ああ、ありがとうございます」

 

 

 軽食としてサンドイッチとお茶を持ってきてくれたのは、秘書として情報省から派遣されてきている菊丸さんだった。

 情報省から……という事はつまり、彼女も諜報員であり外務二課所属で鎧衣さんの部下という訳だ。

 基本的な秘書としての役割の他に護衛としての任も務めており、このサンドイッチに至っても毒物が混入されない様にと彼女の手作りだったりする。

 

 

「…………えっと、失礼ながら、これは何をしているのでしょうか?」

「まあ、設計の見直しですかね、輸送機の」

「え……ついさっき、考える時間が欲しいと仰っていたと記憶しているのですが……?」

「ですから、設計をする時間が欲しいなと」

 

 

 会話を挟みながらも、手と頭は設計を続行する。

 

 さて、航空機が歩んできた歴史というのは、端的に言えば大気との戦いだ。

 古い設計、もしくは遷音速(M0.8~M1.2ぐらい)以上に達することが目的でない航空機の例えばルーフトップ翼等では、横から見た断面図としては前方の上部が膨らんだ形状をしている。

 これは、こうする事で翼の上部の気流が速くなり圧力が減る為、下部との圧力差によって押し上げられる様な力が発生し、つまり揚力を得やすいからだ。

 

 ところが、時速850kmを越えたあたりから翼の上面では気流速度が音速を越えてしまう事で境界層の剥離や衝撃波が発生する事で揚力を失い、操縦不能に陥ってしまうという問題があった。

 そこでドイツではこれを解決する為に翼平面形に後退角を付けた後退翼やデルタ翼を開発し、高速域での失速を減らす事に成功したが、今度は低速域での揚力不足が目立つ様になり、高揚力装置の導入や離陸時の加速が必要になる。

 これが、プロペラ機に比べてジェット機の離陸には時間がかかる、加速する必要があると言われる要因の一つである。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「しかし後退翼というのはですね、この通り翼端を支える物が無いので同じ長さの直線翼と比較すると剛性が著しく低いという弱点があるんです」

「いや、私に説明されても……」

「わかりませんか?では、模型で説明を──」

「違います。後退翼の仕組みぐらいならわかります」

「ああ、良かった。それでこの剛性を得るために後ろ側を埋めたのがデルタ翼な訳ですが、結局のところ翼のアスペクト比が小さくなってしまって揚力係数が小さいというのが弱点なんです」

 

 

 故に、後退角度を出来るだけ緩やかにした上で翼上面の衝撃波を抑える為にはどうすれば良いのか?という問題を解決するにあたって導き出された答えが翼断面、つまり横から見た翼の形状の変更だった。

 採用するのは当然としてスーパークリティカル翼。

 これは、翼の上面を滑らかにする事で衝撃波の発生位置を後縁部に受け流すことで抑制し、こうすることで超音速領域を広げて抗力の発生を緩やかにする事ができる。

 更に、後縁部を反り上がらせることで揚力を稼ぐこともできるのだ。

 実際にこの特性がある故にC-2輸送機でもスーパークリティカル翼が採用されている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ちなみに、ピーキー翼の一種であるリア・ローディング翼も類似した形状かつ同じ様な特性があるが、これは同様の目的をもって開発されたが故に形状が近似したという経緯があり、どちらが優れているかというのは一概には言えず、その航空機の形状やバランスによっても異なる。

 

 そしてもう一つ、主翼をOFRPにしたことで可能な翼端形状を採用する。

 それはウィングレットの一種で、主翼端に後退角を設けたレイクド・ウィングチップ。

 主翼の翼端というのは、気圧差によって翼端渦といって翼の下面から上面に向かって空気の渦が発生してしまい、これが翼から揚力を奪ってしまう。

 

 そこで、揚力の上昇に合わせて翼が上半角に“しならせる”事で直進性を向上させる。

 つまり揚力のない離陸時は真っ直ぐな羽が飛び立つとV字に反り上がる訳だ。

 これは勿論一体成型で強度のあるOFRPだからこそ可能で、荷重を減らして主翼を薄くする事ができる。

 更に翼端に後退角を付けることで翼端の面積を小さくして翼端渦を抑制。

 この2つの構造を合わせたのがレイクド・ウィングチップで、B787やA330-neo等に採用されている機構だ。

 

 

「つまり、揚力に逆らわずに翼の形を外側に反らす事で翼への負担を減らしつつ上から押さえつけられる力を減らす事で結果的に揚力を増やす構造ってことですね」

「へぇ……よく考えられてますね」

 

 

 あとは、エンジンそのものを新しい物に変えてしまえば……An-225ムリヤを実質的に凌駕する輸送機を造ることも夢ではない。

 

 

 

 

 

 

「という訳で、これが御社の設計を活かしつつ改良を加えた輸送機の設計案ですね」

 

 

 平面図は紙に印刷しつつ、完成予想図としては3DCGでタブレット端末に描画しつつ富嶽重工の者達に提示する。

 しかし、それを見た二人は目を白黒させながら視線を行ったり来たりさせており、混乱している様子だった。

 

 

「え……あの、考えるって……設計図を、だったのですか?」

「私はてっきり、今回の話を承諾して頂けるかを判断する時間かと……」

「いやぁ、流石にその程度の判断に1時間も掛けたりしませんよ」

「はぁ、そうですか……」

 

 

 まあ、とは言えこの航空機にあのエンジンとその為の動力源を採用するかには……少し躊躇いを見せたのは事実だが。

 コイツがインドに飛んでいってくれるのなら問題無いだろう。

 

 

「ご覧の通り、翼の形状に関しては大きく変更しましたが、胴体部分は貨物室のサイズに対して適した設計であると判断したので殆ど手を加えていません」

「翼は確かに凄く反り返っていて何とも言えませんが……それより、このエンジンは……?」

「プロペラが2つ付いて……もしや、これはターボプロップエンジンなのですか?」

「いえ、これはターボプロップエンジンとターボファンエンジンの中間と言いますか、オープンローターやプロップファンエンジンと呼ばれている物です」

 

 

 外観としては従来のターボファンエンジンと比べると、ファンを覆っていたカバーが取り払われている為、プロペラの様にファンが剥き出しになっている。

 更に、その後方にも二重反転プロペラの如く、前面のファンとは逆方向に沿った羽根が同様に並んでいるが、こちらは回転しない整流する可変ピッチ・ステーターで、二重反転プロペラとは少々構造や仕組みが異なる。

 

 これは、ファンを覆うカバーを排除する事で空気の流入量を増やしエンジンの効率化を図る物で、従来のターボファンエンジンのバイパス比が高効率の物で10:1程度だったが、オープンローターエンジンでは70:1という異次元の効率を誇る。

 

 

「更に、このエンジンは先日発表させて頂いたフューエルレスエンジンの機構を採用……つまり、完全電動化して推進剤は使用しません」

「ほはっ……?」

「エンジンの動力源としてはハイドロゲンリアクターとSMESを搭載します。こちらに搭載する大型ハイドロゲンリアクターの出力は400MW……単純な出力で言えばAn-225ムリヤの41.6万馬力を超えていますね」

「しかし、それだけの大出力となれば発電機とその燃料の重量が嵩むのでは?」

「いえ、400MWのハイドロゲンリアクターの重量は80t程度なので航空用燃料を満載するよりずっと軽いです。あと、リアクター自体は燃料が不要なので理論上の航続距離は無限になります」

「そうですかー、航続距離が無限に…………はい?」

「まあ、そうは言ってもパイロットの食料や飲料は必要なので空中給油ならぬ空中給食が必要になりますがね、ハハハ……」

 

 

 ジョークのつもりで言ったのだが、スベってしまっただろうか……ポカンと口を半開きにしたままリアクションを取ってくれない。

 まあいいか、説明を続けるとしよう。

 

 

「素材と構造の見直しで輸送機の空虚重量は140tまで軽量化できました。これに燃料代わりのハイドロゲンリアクターとSMESを搭載しても重量は230tでムリヤより軽く、200tを積んでも離陸重量は430tなのでB747-400にギチギチまで詰め込んだのとそう変わらないですね」

 

 

 これで、更にエンジン出力が圧倒的に上がっているので離陸滑走距離は2500mを下回る筈だ。

 こればかりは、実際に計算していないので予測でしかないが。

 

 

「これなら帝国軍も文句はつけないでしょう。必要な素材や人材、技術はこちらから提供します。さあ、造りますよ?」

「は、はい…………」





☆今回の話の概略

富嶽「輸送機を造りたいです」
恭太郎「確かに必要だね」
本心(澪月さん、向こうのご飯が不味いって言ってたから新しい合成食品が出来るまでは産地直送できる様に輸送機を造らなきゃ。それならハイドロゲンリアクターを使うのも吝かでない)

完全に私情で仕事しました
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