Muv-luv BreakThrow 技術チートで変える未来   作:あるすとろめりあ改

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42『未来に射つしだす光』 1989.6.11

1989年4月2日

京都帝国大学 邦畿計画事業室

 

 

 

「半導体製造やカグツチの鋳造等によって我が国の工業分野におけるレーザー加工技術のレベルはこの数年で飛躍的に向上しました……そこで、我々邦畿計画では今年度より次の一歩へと踏み出します」

 

 

 大型の画面を備えた有機ELディスプレイにはありとあらゆる企業からの出席者の顔が並べ揃えられる様に表示されていく。

 既にインターネットは日本中に張り巡らされ、邦畿計画への参加企業も全国規模となり、関西近郊の事を表す“邦畿”という名はそぐわない物となっていた。

 とは言え、今更名前を変えるといっても相応しいものが早々と出てくる訳でもなし、変えたら変えたらで手続的にも手間が増えるのでおいそれと変えるつもりは無いが。

 

 

『次の一歩とは、いったい……?』

「3Dプリンターの高機能化による製造の効率化と高度化です」

 

 

 3Dプリンター。

 コンピュータ上の設計図たる3次元の立体モデルデータを元に、金属や合成樹脂などの素材を積層し立体物を造形する事ができる機械のこと。

 この世界では1960年代頃にはロケットの部品を生成する為に試験され初め、現在では戦術機や航空機等の製造現場の一部で利用されている。

 だが未だに技術的に未熟な部分も多々あり、装甲等の大型パーツや高精度が求められる関節やセンサー等には利用出来ていない。

 

 

「この計画は3段階のフェイズに分けて進行して行きます。まずはフェイズ1、現行の軍需産業分野における主要マテリアルであるOFRPとカグツチの製造技術の確立を行います」

 

 

 どちらも複合材料である為、自動制御に委ねる3Dプリンターにおいては高難易度な素材である。

 だからこそ、半導体製造による高精度なレーザー制御技術の発展を待つ必要があった訳だ。

 現在においては、試作実験段階ではあるが32nmのCPUを作り出すレベルにまで至っており、それに伴い3Dプリンターを制御するコンピュータの性能も向上している事から、近い将来には求める精度の達成が可能であると判断した。

 

 3Dプリンターの造形方式は幾つか種類があるが、DED(指向性エネルギー堆積法(Directed Energy Deposition))方式を採用する。

 これは粉末やワイヤー等の素材を噴射しながらレーザーやビーム等の熱源を照射して加熱・溶融・固定化していくものだ。

 この方式では製造する物によって噴射する素材の量や角度を調整する事が可能であり、異種素材を組み合わせた加工もでき、更に言えば磨耗や破損した部品の修繕等にも利用できる。

 そして3Dプリンターそのものの規模にも寄るが大型の部品を製造するのにも適した方式で、カグツチの様な装甲材にはうってつけだ。 

 

 つまるところこれは、新たな3Dプリンターの開発と言い換えても良い。

 

 

「フェイズ2は3Dプリンターと併せて組み立ての為の工作機械をオートメーション化して前線に配備することを目指します……とは言え、このフェイズ2の達成には10年以上は必要だとは思いますが」

 

 

 フェイズ2の目標は、最低限として戦術機として成立する部品群の70%以上を1つのシステムで完結させる事にある。

 センサーや光学機器、超精密パーツ等の3Dプリンターによる自動製造化は中々に困難であるが、これを従来の製造方法と組み合わせたり、もしくは既製品を利用することで一つのラインとして構築する。

 そうして彩雲や嚮烏、もしくはその後継機を一つのユニットで自動製造可能にしつつそれを空輸もしくは水運できるサイズにまで落とし込む。

 

 

『戦術機の製造を1つのユニットに、というのは分からなくもないのですが……何故、前線基地に配備する必要があるのですか?』

「さきほど述べた通り、DED方式の3Dプリンターは修復にも利用できますし……その特性上、材料さえ揃えば通常の工場とは異なり新たにラインを整備せずとも新製品を造ることも出来ます」

『ふむ……?』

「つまり、例えばカグツチやOFRPのより良い組成や素材の組み合わせが見つかった場合……それが研究室レベルの物でも一瞬でデータを転送して前線の現場で実地試験が行えます。更に、それが最良であると判断されれば即座に全世界で同時に量産を開始することも可能になります」

『あ──っ?!』

 

 

 勿論、きちんと設備の整った生産拠点での方が精度の良い物が作れるのは当然だ。

 しかし、その現在の手法の問題点の一つとして、新たな仕様が生まれた時に製造ラインを一度止めてから機材などを刷新した上で構築し直さなければならないと言うのがある。

 3Dプリンターであれば、設計の為のデータさえ入れ替えてしまえばそれで良いし、そのデータもいずれは衛星通信で遠隔的に転送することが出来るようになる。

 更に前線におけるメリットとしては、製造を行ってからその搬入を待つというタイムラグを撤廃出来るので、必要な物を必要なだけ即座に生産可能というのは消耗の激しい前線であるからこそ大きい。

 

 

「最終フェイズではこれを軌道エレベーターで宇宙まで上げて再突入型駆逐艦(HSST)や再突入カーゴや補給コンテナ、それに搭載する補給物資も可能な限り宇宙で製造できる様にする事を目指します」

『それこそ何故でしょうか?軌道エレベーターが利用できる様になれば宇宙にて3Dプリンターで製造する際のエネルギーコストよりも、地上で製造してから宇宙に運び上げて組み立てした方がトータルのコストは低くなる筈では?』

「これは地上におけるBETAとの戦いだけでなく、その先の未来における月や火星のハイヴを攻略する為の施策です。宇宙空間で使用する兵器を大気の豊富な重力下で試験しても仕方無いですからね、最適化の為の試行錯誤を行うにも大気圏外での製造技術の確立が必要不可欠になります」

 

 

 地上にオリジナルハイヴの素になるであろう着陸ユニットは中国の喀什(カシュガル)とカナダのアサバスカに落着した経緯があり……後者は核の炎で焼かれたが……また先日には対宇宙全周防衛拠点兵器群(SHADOW)による攻撃によって軌道修正されたとされるが、要するに月にあるハイヴを潰さぬ限りまた新たな着陸ユニットが飛来してオリジナルハイヴと同様の物が建造される可能性は排除できない。

 よって、地上にあるBETAとハイヴを総て一掃する計画を立てつつ、同時に視点を宇宙にも向けて並行で対策していく必要がある訳だ。

 

 

「もちろん、3Dプリンターの発展の先にあるモノとして、製造できるのは兵器などの工業製品だけでなく食料品や医薬品、その他を作り出す事も可能になります」

 

 

 だからこそ、今回の会合において招待した企業の中には和華食品*1やホーム食品*2などの食品加工メーカーに、ウマミ*3や芙蓉フィルム*4、竹井製薬*5といった製薬、印刷、化学物質研究に長けた顔ぶれもある。

 

 更に3Dプリンターによる食肉製造技術の確立と同時進行でこれらの企業には遺伝子組み換えによる水耕栽培など、土に頼らない野菜の生産技術の開発を目指す。

 ユーラシア大陸の土壌の殆どはBETAによって汚染されてしまった為にその除染には時間が掛かるし、そもそもハイヴを潰してBETAの脅威が一掃されなければそれも望めない。

 そして、勿論それは宇宙においても同様。

 作物を育てる為の土はそれこそ大量に必要だし、そもそも地球と同様の環境条件を作り出す事も至難の業だ。

 そこで無重力や低重力の環境下でも食料を確保する技術は、月や火星のBETAと戦うにしてもその後の宇宙開発の再開をするにしても必要不可欠になってくる。

 

 まあ、食料については……正直なところ、現状に合成食について現場というか澪月さんからの不評と実際に取り寄せてみて食してみたら想像以上に酷い有り様だったので早急な改善が必要だなと思ったのが事実なのだが。

 

 かなりの長丁場になるのは確実だが、しかしこれが実現できるぐらいでなければ……BETAの圧倒的な物量に対処することが出来ないだろう。

 

 

 

 

 

 

1989年6月11日

青森県 東通村 猿ヶ森砂丘 下北試験場

 

 

 その様相は、やはり3年前にレールガンの試射が行われた時に酷似していた。

 違いとしては、動力源がMHDジェネレーターからハイドロゲンリアクターに置き換わったのと、砲身長は短いものの砲台自体はレールガンのそれよりも大型化していること。

 また、コンデンサーの役目を果たすSMESもより大きな、つまり大容量の物が運び込まれていた。

 

 

「粒子収束器テスト完了……!」

「レーザー照射装置も問題ありません!」

「リアクター、SMES共に既定値で推移」

「各モニタリング正常値、接続も正常です」

 

 

 各所から飛んでくる声を無言で頷きながら受け止めて、その時を待つ。

 

 恭太郎にとっての技術開発というのは、基本的には解答ありきでその逆算から道筋を辿る方法を組み立てるといった形であった。

 しかし、今回の実験に関しては知識を総動員した仮説から基づく新規の物であり、かならず成功するという確証が得られない為に、不安と期待の入り混じった心境に浸る。

 というか、本来の実験や技術開発というのは答え合わせではなくそういう類のものなのだが……

 

 

『これより試射を行う!総員、安全区画まで退避せよ!』

 

 

 サイレンと警告の声がスピーカー越しに轟き、蜘蛛の子を散らす様にその場にいた者達はその場を駆けて離れていく。

 そして次の号令で、発射。

 

 光が────閃く。

 

 ターゲットとして用意されていたカグツチの装甲板に照射されたその光は、容易く1枚目は溶かし尽くしてしまい、2,3枚目も溶かしながら穴を穿って貫通し、そして4枚目は後方に設置された装甲板を巻き込んで吹き飛ばされてしまった。

 熱から開放された装甲板が大気によって強制的に冷却される音と、後方の装甲板とぶつかって鋭く弾かれた音とがだけ響いて、暫く人の声は遠ざかる。

 

 

「あ──れ、冷却機構は正常に機能しています……!」

「砲身ダメージ軽微、そのまま射撃可能」

「リアクター、SMES、その他電気系統も異常なし!」 

 

 

 一人が発声の仕方を思い出したかの様に漏らすと、集団的に金縛りが解けた様に報告が降り注ぐ。

 恭太郎はと言えば、一先ず想定どおりの結果が出たことに安堵していた。

 

 

「これが荷電粒子砲、さすがの威力ですね」

 

 

 例の如く隣にいる篁大尉は、案外と淡々とした反応を見せていた。

 本人曰く、慣れたとのこと。

 常識を持ち出すほうが非常識なのだと気がついてからは、身構えない様になって精神的に楽になったとか。

 

 

「とは言ってもまだまだ試作、ここからダウンサイジングしないと実用化できないのですがね」

「現状でも、形を整えたら艦載できそうですけどね?」

「この荷電粒子砲は、その特性上真っ直ぐにしか弾道を描かないので……射程を稼げない上に連射できないと考えたら、艦載砲としては電磁投射砲(レールガン)の方が適当なんですよ」

 

 

 荷電粒子砲。

 ビーム砲としてSFではお馴染みの兵器であるが、実現するのは困難だとされてきた。

 その理由として、まずビームを発射するのが難しい。

 荷電と言うぐらいだから、+もしくは−の電荷を持った粒子を撃ち出す訳だが、同じ電荷を持った粒子は反発し合って拡散してしまう。

 更に大気による減衰や地球の磁場の影響を受けるので、そのまま荷電粒子を放出してもすぐに減衰と湾曲をしてしまうので真っ直ぐに撃ち出すこと自体が困難だ。

 

 なので、少し工夫が必要である。

 

 

「この荷電粒子砲は少し回りくどい方法を使っていますが──」

 

 

 まず、大気を吸い上げてMOF(金属有機構造体)で窒素だけを抽出する。

 窒素にマイクロ波を照射して電荷を整えたらチャンバーに送り込み、反発し合う窒素イオンを超伝導磁石で収束。

 つまり、大気中から弾丸を作り出している様なものだ。

 

 この窒素の弾丸に高出力低パルスレーザーを断続的に照射し続けて加速させていくが、超伝導磁石で固定化しているのでまだ撃ち出されない。

 最後に、より高出力な連続波レーザーを照射すると共に磁束を解除して同時に発射。

 結果、窒素イオンは凝縮した上で、レーザーと同時に発射することで光子による拘束を行い、粒子の拡散を防ぐという訳だ。

 

 粒子加速器による物とは異なり、亜光速にも程遠い初速ではあるが、コレはレーザー砲を兼ねているので目標には先により高速なレーザーが照射されて表面を溶かす。

 そうやって堅い表面を脆弱にした上で高圧縮かつ高熱の状態で加速された窒素イオンの塊が放り込まれ、衝突する事で対象の原子核を破壊、マイナスの電荷を吸収して超酸化を引き起こし、更に電磁波を放出することで内部から電子レンジ状態になって物質は沸騰、融解する。

 

 ハイドロゲンリアクターとSMESとMOFがなければ完成しない、インチキめいた兵器である。

 

 

「レーザーもビームもいずれは大気中で減衰してしまうので射程距離が短い……なので、戦術機の装備にするのが望ましいでしょう」

「しかし……現状でかなりの大規模な設備が必要ですが、小型化できるのですか……?」

「やってやれない事は無いのですが……それを量産化するとなるとピースが足りないんですよね」

 

 

 一応、10MW級のレーザー砲としても使用可能で、そちらの小型化はそこまで困難ではないし、こちらなら連射ができる。

 荷電粒子砲の方は射程もより短く、SMESへの給電に加えて収束と加速完了までにある程度の時間を要するので連射がきかないので使い分けが必要になっていく。

 

 

「とりあえずは、通常技術ベースでどこまで小型化できるかを試みるしかできませんね……」

 

 

 最悪は、コストを完全に度外視すればG元素が無くとも出来るかもしれないが……

*1
日清食品

*2
ハウス食品

*3
味の素株式会社

*4
富士フィルム

*5
武田製薬

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