Muv-luv BreakThrow 技術チートで変える未来   作:あるすとろめりあ改

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※長くなったので分割します


48『理想の新幹線-1』 1989.11.29

1989年10月2日

東京都千代田区 霞が関

中央合同庁舎第3号館

 

 

「この度は急にお呼び立てしてしまい、申し訳ありません」

「いえいえ。こちらこそ榊さんの運輸大臣就任のご挨拶が遅れて申し訳ありません。これはつまらないものですが……」

「おお、神蔵(かぐら)ですか……」

 

 

 金閣寺や銀閣寺の御神酒も手掛ける、創業から約300年と京都市内において最古の歴史を誇る酒蔵の日本酒を手渡す。

 一時は、近年の京都における地下工事の影響で水質が著しく変化し、酒の味を維持できないと廃業も危ぶまれたが、何とか維持する事が叶い、こうして手に入ったという訳だ。

 歴史のある酒蔵でありながらも、度数が低く飲みやすいスパークリングの日本酒もラインナップにあり、また酒造や店舗に使う営業電力の6割を太陽光発電で賄っていたりと、案外と挑戦的だったりもする。

 

 

「大変結構な物を頂戴してしまって、誠に恐縮です」

「大臣になってから政務でご心労が絶えないでしょう、味は保証しますから暇を見つけて一服してください」

「ご配慮、痛み入ります…………さて、しかして僭越ながら本題の方に入らせて頂きたいと思います」

「はい、お願いします」

 

 

 そう、今日は遅めの大臣就任のお祝いに訪ねた訳では無い。

 数日前に彼の職務である運輸省のとある事業を助けて欲しいと要請があり、また此方としてもOFRPやカグツチの生産拠点を海外に移す際に協力してもらった恩義もある為、急いで馳せ参じたという訳だ。

 

 

「先刻にお伝えした通り、現在運輸省では国土防衛整備計画の施行の為に躍起となっております」

 

 

 国土防衛整備計画とは、BETAの日本本土侵攻時に備えての現代版列島改革、とでも言うべき政策である。

 具体的には全国の幹線道路や橋梁の補強工事を行い、荷重制限を引き上げたり、トンネル幅を14mに統一することで戦術機を輸送する自走整備支援担架のトレーラーが問題なく通過できる様に拡張し、琵琶湖を運河化して日本海側の若狭湾と太平洋側の伊勢湾との軍艦の動きをスムーズにする、といった陸海空の三方面に拡げた幅広い計画だ。

 またそのトンネルには自動隔壁や地下に備蓄庫を設け、更にトンネル内にBETAを引き込んだ上での自爆装置まで備えるという徹底ぶり。

 ちなみに、この道路の補強工事にあたっては耐久性の向上の為に従来のアスファルト舗装からUHPFRC(超高性能繊維補強コンクリート)による舗装へと改められ、高い靱性と強度を確保している。

 

 

「現在は北九州および中国地方を優先して道路整備が行われており、幸い税収が安定している事もあって工事も順調に進捗しています」

「しかし、問題が鉄道網……特に新幹線にあると?」

「ええ……BETAの本土侵攻時の予測コースとしては、朝鮮半島から日本海を渡り対馬海峡を介して佐世保・福岡・下関ラインからの南進する群体が主になると想定されています」

「つまり、光線(レーザー)属腫の出現に伴う航空路の制限下においては九州地方市民の疎開においても、兵站物資の輸送においても山陽新幹線が(かなめ)になる訳ですね」

「それだけではありません。もしも万が一にBETAの侵攻を許してしまい戦線が大阪、京都まで延びれば……首都機能と軍司令部を完全にここ東京へと移す必要が生じ、また兵員や物資の輸送および近畿地方の住民の迅速な疎開を実行する為には東海道新幹線もまた同様に重要となっていきます」

「なるほど……確かに、そうですね」

「しかし、それを踏まえると現行の100系新幹線による最高速度220km/hのひかり運行では山陽新幹線区間は約3時間20分、東海道新幹線区間では約3時間を要している……これを300km/h以上まで向上させて合計4時間半までの短縮を図りたいと我々は考えています」

「ふむ……」

 

 

 頭の中に浮かぶは異なる世界の未来で走る新幹線の姿。

 東海道新幹線および山陽新幹線区間において走る、ある意味では新幹線の完成形ともいえるN700S系。

 N700系やN700A系のマイナーチェンジと思われがちの車輌だが、2台を横並びにして見比べてみるだけでも前面から形状の相違点が見られる程度には様変わりしており、台車など中身に至ってはフルモデルチェンジと言っても差し支えない程度には別物だ。

 さて、そのN700S系の山陽新幹線区間における最高営業速度は300km/h、そして東海道新幹線区間では285km/hだ。

 つまり、1992年に300系が東海道新幹線区間にて270km/hを達成してから約30年が経過しても様々な要因によって15km/hの向上しか出来ていないことになる。

 

 

「…………正直なところ、東海道新幹線を300km/hまで向上させる事は技術的には可能です。しかし、NR(Nippon Railways)は企業経営的な目線から270km/h以上の向上は効果が薄い、そう応えるでしょう」

「おっしゃる通りです……」

 

 

 この世界でも、恐らく1992年から運行するであろう300系新幹線はそれまでの最高速度から50km/h向上させた270km/hで走り、更に新横浜から静岡県の駅を総て無視して名古屋、京都、新大阪と利用者の特に多い駅だけを結んだのぞみ運用を開始した。

 それで、それまでの最短ルートであった100系ひかり運用の所要時間である2時間50分から短縮できたのは20分程度の2時間30分。

 更に前述の285km/hで運行できるN700S系でも2時間20分が限界。

 恐らく、東海道新幹線区間を300km/hで走るN700S系のぞみがあったとしても、所要時間は2時間10〜15分といったところだろう。

 また300系新幹線は、確か試験時に325km/hに到達していたので、環境基準や安全基準を無視すれば最高速度325km/hで東京-大阪間を2時間弱で結ぶ……という事も不可能では無かった筈だ。

 

 しかし、そうはならなかった。ならなかったというか出来なかったんだけど。

 

 これは、300系新幹線を横側から見てみればその理由が一目瞭然。

 300系よりも後の、500系新幹線や700、N700系列と比較してみるともっとわかりやすいかもしれないが、300系新幹線は台車の車両装置等が野晒しになっており、空気が流入する形状になっている。

 更に先頭車両のノーズ、つまり鉄仮面の顎部分がレール面に近いせいで車両とレール間に圧力差が生じてしまい、言わば“浮く”のだ。

 まあ本当に浮いた訳ではないのだが、そのせいで後部車両と重心軸がズレることで内輪差が生まれてしまい、高速域での振動が尋常では無く乗り心地がかなり悪くなってしまった。

 これは270km/hの営業速度時でもそうなのだから、325km/hなんかで走らせていたら事故を起こしていただろう。

 “300系は軽量化のし過ぎで浮いた”と言っている者も一部にはいるが、それは嘘だ。もしも本当にそうなら500系やN700S系は空を飛んでしまっている事になる。

 

 同時期に開発された400系が試験時に345km/hを記録しているが、これは降り積もった雪を掻き分ける為の“ソリ”がある為にノーズがレールから離れていたことと、またこれも雪が台車や車体へ侵入しない様に側面にカバーが備えられていたからだ。

 

 まあ、つまり…………300系が270km/hまでしか出せないというのは、経済的効果が薄いというのもあるが、それよりも鉄技研や車輌製造に携わった企業の技術力不足という他にない。

 

 

「しかし、そこを何とか……須和さんのお智慧で何とか運行時間の短縮を達成できませんでしょうか……!」

「うーん、と、その…………」

 

 

 不可能とは言わない。

 それこそ、今ここにN700系新幹線の設計図を模倣して書き上げてしまえば、福岡〜東京を4時間半弱で結ぶ事は可能だろう。

 だが…………俺は、N700系の顔が嫌いだ。

 何ならE5系の方が嫌いだ。あののっぺりと広く長いノーズは受け付けない。

 カモノハシみたいで可愛いという意見もあるが……新幹線は、なんというか、やっぱりカワセミ(500系)だろう。

 まあ勿論500系もスピードを追求し過ぎで円筒形の車体としてしまった為に運用面で小さくない不都合が生じたが……でも格好いいじゃん?

 

 しかし、そう我が儘を通す訳にもいかないだろう。

 運輸省とは言え、新幹線開発はNRが主動するものであり、最終決定もNRだろうしで、軍でも公でも無いのだからあまり無茶を押し付ける訳にもいかない。

 妥当なところは既に試作車両が製造されているであろう300系を改良するか、良くてN700S系に準じた設計にするか────

 

 

「お願いします!私の首を賭けても構いません!必要とあれば線形の悪い区間を引き直しても良い!何とぞ、今の日本に必要な理想の新幹線をっ!!」

 

 

 ────理想の、新幹線?

 それってつまり、僕の頭の中にある理想の新幹線を作っても良い……ってコト!?

 いや、そうだよね。だって線路を引き直しても良いって言っているぐらいなんだから。

 

 

「わかりました榊大臣……作ってみせましょう、理想の新幹線というヤツを」

「おお……よろしくお願い致します!」

 

 

 そうと決まれば早速考えてみますか……いっさいの妥協をしない、最強の新幹線を!

 

 

 

 

 

 

1989年11月29日

東京都千代田区 霞が関

中央合同庁舎第3号館

 

 

 

 再び訪れた運輸省、前回とは異なり大会議室には榊大臣の他にもNR東海、東日本、西日本、九州の4社の鉄道会社の他にも新幹線車両の製造に関わる鉄道総研や帝国車輌製造*1、そして河崎重工に常陸製作所*2の責任者や技術者が詰め掛けていた。

 今回の議題は言わずもがな、100系新幹線の後継車両についてである。

 

 

「榊大臣……以前にもお話した通り、300系は架線のAT饋電(きでん)方式への変更やATCシステムの2周波数化、線路のカント量増加等を施しても270km/hが限界です。それ以上は、乗客の安全が脅かされます」

「私も同意見です。既に300系は100系と比較して130t以上の軽量化が実現しており、これ以上の軽量化とモーターの高出力化による高速化は車体の横振りが大きくなってしまい、脱線の危険性が極めて高くなります」

 

 

 やはりと言うべきか、初手で反対意見を述べたのは NR東海と帝国車輌製造のニ社であった。

 社内では既に300系の先行試作車両の製造に取り掛かっているであろうから、まさに寝耳に水であったことは想像に難くない。

 更に言えば運輸省からの急な横槍は旧国鉄時代の態勢を彷彿とさせ、心象も良くないだろう。

 

 ただしNRとしては、国土防衛整備計画の最中で解体された旧国鉄の完全な民営化が行われなかった為に、事態をより厄介にさせているとも言えた。

 今回の様に国土防衛の観点から鉄道整備に関して制限や指示を行えば、鉄道会社経営の目線からすると不利益が生じる運用と運営が求められる様なケースが発生するのは火を見るより明らかであった為に、民間企業としてのNRだけでなく、資本出資に国と地方自治体を交えた第三セクター方式に落ち着いた。

 故に、国鉄時代と異なり直接的に国庫からの出資が行える様になった為、ある意味国鉄時代よりも運輸省および政府からの口出しが容易かつ強権的になったとも言えるのだ。

 

 

「うむ……それに関しては須和恭太郎氏からお話して頂こう。須和くん、お願い出来るかな?」

「はい。まず、NR東海さんの方で運用および整備が計画されている300系新幹線ですが……誠に勝手ながら白紙撤回させて頂きます」

 

 

 これがドラマやアニメなら、今頃心理描写として雷の落ちた映像とッガシャーン!とかいう金属塊でも落下した様な効果音が2,3回くらい背景で流れていたことだろう。

 反応は三者三様で、驚愕と困惑の表情を濫かべる者が大半で、榊大臣は厳格な態度を示す様に何時も通りの強面な無表情、そして河崎と常陸の面々は……やたらと神妙な雰囲気を醸し出していた。

 

 

「…………須和さん、私も技術者の端くれとして貴方の実績と高い技術力は評価します。しかし、貴方は飽くまでも戦術機の専門家だ。300系は日本の鉄道技術の(すい)を集めた設計で、そもそも300km/hや320km/hまで速度を向上させても精々──」

「私の提案する新型車輌の最高速度は380km/h。福岡から東京までを約3時間半で結ぶ予定です」

「数十ぷ──ふぇっ?」

「380km/h?!」

「さ、3時間半だって!?」

「何だと!?そこまでとは聞いていないぞ須和くんっ!」

 

 

 一番驚いていたのは、むしろ榊大臣であった。

 また、河崎重工と常陸製作所の技術者達は、耐えきれずに吹き出して笑いだしてしまう始末。

 そもそも、新型新幹線のスペックや仕様を今の今まで公開せずに今日この場で初めて明かすように提案してきたのは彼等だ。

 絶対に衝撃を受けて面白い反応をするだろうからそれを見たいとか言っていて……実際にその通りになったから、計画通りといったところか。

 説明する事柄が増えるから、此方としてはあまり好ましく無いのだけどな……

 

 

「設計限界としては500km/hまでは可能なのですが……流石にそこまでの速度ではレールと鉄輪の耐久性に問題が生じるのと物理的にカーブを曲がり切れないので、現実的な数値としました」

「現実的…………?」

「380km/hが…………?」

「ウソでしょ…………?」

 

 

 混乱から抜け出せないといった有り様であったが、それを解消する為にも説明を行わなければならないので無視をして続ける。

 

 

「さて、新幹線の速度向上を阻む要因は幾つかありますが、その1つとして特に東海道新幹線区間におけるカーブの多さと角度があります」

 

 

 東海道新幹線の開業は1964年の10月……そう、東京オリンピック開催の年であり、そのオリンピックが開催される前に何としても開業せんと急ピッチで整備したのだ。

 終戦から僅か14年後である1959年に着工して僅か5年での開業。

 その間に政治的な理由から停車駅の変更が求められ経路に変更があったり、当時の工事技術では高架化やトンネル掘削が不可能であった為に、どうしても迂回する為の急カーブが求められたり…………結果的に、当初の予定である最小曲線半径2500mという基準が守られなかった場所が幾つかある。

 例えば武蔵小杉付近では最小曲線半径600m、熱海駅でも1500mと新幹線としては異例の急カーブが求められ、ここでは110〜200km/hまでの減速を求められる始末。

 この2つは非常に極端な例だが、カーブが連続する場所が幾つもあったりする為に、新幹線の高速化は非常に困難となっている。

 

 

「そこで、新車両には車体傾斜装置を導入します」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 直進していた列車がカーブする時、慣性の法則に従って元々進んでいた直進方向に戻ろうとする遠心力が働いてしまう。

 すると、速度が速ければ速いほど列車にはカーブとは外側の方向に遠心力が働くので、脱線のリスクが高まり、高速化ができない事になる。

 なので、この遠心力を打ち消す為にカーブ区画では線路に傾斜角が設けられており、これをカントという。

 カントを設ける事でカーブを曲がる際の遠心力を打ち消す事が出来る様になるが、それにも限界がある。

 列車の運行速度が早くなればなるほどに外側への遠心力は強くなるのでカントの角度を深くしなければならなくなるが、今度は何かしらの要因でそのカントのある場所で緊急停車しなければならなくなった場合、遠心力は0になり列車は斜めに傾くことになるので、そのまま転覆してしまう危険がある。

 故にカント量は制限されており、つまり100km/hを超える様な高速度域にまで至ると、カントだけでは遠心力を打ち消す事が出来なくなってしまう。

 列車を低重心化することで転覆、脱線自体を防ぐ事は出来るが、遠心力は列車だけでなく車内にいる乗客にも掛かってくるので、壁に押し付けられたり通路側に弾き飛ばされてしまうことになる。

 カント量に制限があるのであれば、車体だけでも更に傾斜させて乗客に働く遠心力を打ち消したい……そういった発想から生まれたのが、車体傾斜装置だ。

 

 

「導入予定の車体傾斜装置につきましては、旧来の振り子方式や現在各所で研究されている空気ばね方式のどちらでもありません」

「どちらでも無いって……では、どうやって傾斜を?」

 

 

 振り子方式というのは、台車の部分にベアリングやコロを設けて車体を回転させるというもので、例えば車体がカントで右側に傾けば重心もそちらに寄るので同様に右側に傾くという仕組み。

 自然振り子式などは電子機器や特殊な機構が不要であるが、数十トンもある車体を傾斜させる為に装置が大型化してしまい、更にカーブが連続したりカーブを曲がり切って角度が正常になった時に揺り戻しが起こってしまい、横方向に激しく揺られてしまう事で乗客が乗り物酔いを起こしやすいというデメリットがある。

 また、ジャイロセンサーなどを搭載した制御振り子方式では、傾斜させる区間を予めプログラミングしておく事で不必要かつ激しい揺れを無くすことができるが、装置が更に大型かつ複雑化してしまう。

 

 そして空気ばね方式は振り子方式と比較して非常に単純な構造で、台車の左右に設置された空気ばねを上下させることで車体を傾斜させている。

 整備性も良く、車体傾斜だけでなく本来の空気ばねの役目である衝撃の吸収やカーブにおける鉄輪と線路のアタック角度を適切に調節する機能も併用することが出来、メリットは非常に大きい。

 反面デメリットとしては、油圧等では無くポンプやコンプレッサー等で膨らませて空気圧を調整するので即応性にやや難があり、また傾斜角も振り子方式と比較すると浅いものとなる。

 

 今回は、さきほど述べた通りにどちらとも異なる方式を採用するのだが。

 

 

「まず台車をですが、300系では空気ばねと円筒積層ゴムを使用したボルスタレス台車を採用予定と思われますが、新車両ではマグレブボルスタ方式台車を採用します」

「マグレブ……」

「つまり、超伝導電磁石を使用した磁気浮上式の台車です。これは既に86式戦術管制ユニットで採用されているものとほぼ同じ機構になります」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ボルスタ方式だとかボルスタレスという言葉が飛び出すが、ボルスタというのは枕梁(まくらばり)のことで、これは車体と台車を連結させ、車体の重量と台車の回転を受け止める機能を持っている。

 非常に頑丈な造りとなっているが横揺れに弱く、台車の回転を受け止める為に強い摩擦を生じる部分であるのと、重量が嵩むという問題点がある。

 

 ボルスタレス台車というのはこのボルスタを省いて、空気ばねだけで車体を支えて上下の揺れと衝撃を吸収し、回転軸と横への揺れは車体から伸びた棒とそれを受け止めるZリンクと呼ばれる牽引装置で吸収する方式のこと。

 ボルスタ方式と比べて簡素で非常に軽量という大きなメリットがある反面、どうしても横揺れには弱いので急カーブが連続する様な線形や勾配の激しい山間部の路線では扱いが難しくなってしまう。

 

 さて、空気ばねという単語と説明から、前述の空気ばね方式車体傾斜装置とボルスタレス台車は共存するのでは?と考えられるかもしれない。

 これは正解で、そもそも空気ばね方式車体傾斜装置というのは、このボルスタレス台車で用いられている空気ばねの技術の応用によって考案された機構なのだ。

 

 マグレブボルスタ方式も同様に、車体傾斜装置と車体の重量を支える機構の両方の機能を兼ね備えている。

 

 

「まず、ボルスタの左右方向に超伝導電磁石を設置して車体を支え、車体の高さを常に一定に保ちつつ走行することが可能になり、更には車体と台車の間にも超伝導電磁石を設置し、こちらは線路から台車に伝わる衝撃を吸収しつつ車体を傾斜をさせます」

 

 

 つまり、リニアモーターカーの機構を簡略化したものを車体と台車の間に設置してしまった、という理解でよろしい。

 そして、左右方向の磁石とは別に車体の下に設置した磁石で車体を傾斜させるのだが、この部分も従来の車体傾斜装置と大きく異なる。

 通常、振り子方式にせよ空気ばね方式にせよ車体の角度というのはカントと垂直か、若しくは更に深い角度にしか傾斜しない。

 しかしマグレブ方式であれば、台車部分だけカントに対して垂直にしつつ、遠心力に関しては左右方向に設置した磁石で打ち消し、かつ車体の角度は縦軸の磁石で地面に対して垂直にしつつ車体と台車の重心を適切に調節することが出来る様になる。

 これにより、従来よりもカント量を増やしつつも乗り心地も列車の重心も最適化することが出来るので最小曲線半径2000m弱程度までであれば減速することなく走行することができる。

 

 熱海駅等は駅であるからカントを設ける訳にもいかず減速が強いられるが……こういう場所に関しては無理矢理にでも高架化して線形を改良するしかない。

 

 

「さて、このマグレブボルスタ方式台車が新型車輌において一番大掛かりな装置と言えますが、まだまだ他にも沢山盛り込んでおりますが…………ここで一旦休憩を挟みましょう」

 

 

*1
日本車両製造

*2
日立製作所

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