Muv-luv BreakThrow 技術チートで変える未来   作:あるすとろめりあ改

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お久しぶりでございます


51『死と生の境界線』 1989.12.14

「が、っあああ?!」

 

 

 直ぐに磁気浮上式の管制ユニットが衝撃を打ち消し、OSの自動制御がバランサーで機体を立て直して衛士による操作の介入を受けずとも自ら着陸してくれた。

 当の自分はと言えば、身体と脳を無理矢理シェイクされた様な衝撃に悪態をつきながら、殆ど意地だけで操縦桿を握りしめるのが精一杯。

 慌てて状況を判断しようと周囲と計器を見渡し、突撃級の突進を脚部に喰らって吹き飛ばされてしまったことを理解する。

 どうやら今の一撃で右脚をやられてしまった様で、ステータスを参照すると機体のアイコンの左下方が赤と黄色で彩られていた。

 

 そして…………状況は最悪なことに、その一撃の隙で自身はBETAに隙間を埋められる様に囲まれてしまっている。

 

 

「くっ…………」

『隊長?!』

 

 

 出遅れていたハーティ7は機体を反転させてこちらの様子を伺ってくる。

 距離にして200m程度か、跳躍ユニットのジェット推進を用いれば一瞬で合流できるが──

 

 

「来るな、ハーティ7! 僚機と合流しろ!」

『な…………何をっ!?』

 

 

 その顔を見ずとも、こちらの命令に承服しかねるという感情がありありと伝わる声色が返ってきた。

 気持ちはわかる。もしも自分が彼と同じ立場であれば同様の反応を反射的に返していただろう。

 しかし、状況がそれを許してくれないこともまた事実だ。

 

 

「周りを見ろ、既に私はBETAに囲まれて袋小路だ」

 

 

 レーダーの反応頼りに言えば、既に小型級を含めて数百のBETAに囲まれてしまい自機の反応は真っ赤に染まってしまっている。

 正直な話、よほどのベテラン衛士でもなければこの様な状況において1機や2機の味方が増えたところで状況は好転しない。

 寧ろ、戦術的にみれば喪われる機体と衛士が増えるという事態になりかねないのだ。

 

 

「正直に言おう、貴様は足手まといだ」

『ッ────!』

「貴様の子守りをしながら離脱するのは現実的に不可能だ。それよりも日本の帝国軍(インペリアル・アーミー)も直に合流してくれる、そちらを待って私一人で粘る方がまだ建設的だ」

『しか、し…………了解……っ!』

 

 

 不承不承といった表情を一切隠すつもりも無い部下の返答に、自分は音を鳴らさないように努めて鼻から溜め息を漏らす。

 本音半分、部下の生存の優先を半分と言ったところだが。

 機械みたいに無機質で不気味な様相を呈して迫ってくるBETAは部下との歓談を何時までも待ってくれる筈も無いので、早く切り上げてしまいたい気持ちもあった。

 ハーティ7が跳躍ユニットの推進器に火を入れたのを確認してから、気持ちを臨戦態勢に整え直す。

 

 残弾確認。

 120mmは残り3発、弾種はAPCBHE。

 36mmは残弾212発。

 

 余りにも心許ない。

 こういう時は、さっさと撃ち切ってデッドウェイトになる前に棄ててしまう方が良い、というのが経験則だった。

 できるだけBETAの群れから距離を取りつつ77式近接戦闘長刀で少しでも数を削る。

 それが最善手……もとい、それぐらいしかまともな手段が無いとも言えるが。

 

 

「さぁ来い化け物ども…………悪いがこの命、そう安くは無いぞ!」

 

 

 躊躇うことなく120mm砲の残弾全てを叩き込んで要撃(グラップラー)級の死体の小連峰を作り出し、そこを縫うようにして西進する。

 その先に待ち構えるのは突撃(デストロイヤー)級と戦車(タンク)級が不気味にも有機的に蠢く雪崩。

 残った36mm砲で小型の戦車級を潰して道を作りながら、掻き分ける様に進んでいく。

 更にその先には、教本(セオリー)を無視した様な大型種と小型種が入り混じって隙間だらけの構成。

 無理やり転進してきた都合で隊列がグッチャグチャに崩れてしまっているのだろう。

 

 

「ええいっ…………ど、けぇ!邪魔、なんだよぉ!!」

 

 

 スッカラカンになった突撃砲を投棄し、77式近接戦闘長刀で戦車級や闘士(ウォーリアー)級を刈り取るかの如く薙ぎ払っていく。

 大型種は可能な限りは避け、側面からの攻撃に努めた。

 衝角や外殻などに叩きつけていたら如何に耐久性に優れる77式近接戦闘長刀と言えども途端に刃毀れして使い物にならなくなってしまうからだ。

 

 故に真っ直ぐには進めず、ジグザグと這う様にして跳躍と着地を繰り返しながら離脱を目指すしかない。

 

 

「クソッ……くっ、そ!少しは数を減らしてみせろってんだよぉ!!」

 

 

 

 叩き上げの衛士として中隊長に任ぜられるだけの実力が、ヤダブ大尉には確かに備わっていた。

 しかし、さりとて、理不尽な物量の前には多勢に無勢。

 徐々に彼の機体を囲むBETAの密度は増し、その距離は詰められていく一方である。

 

 

「こんな所で、こんな所でえっ!!」

 

 

 左手にも短刀を携え、二刀流の構えを取りBETAを一体ずつ着実に刈り取っていく。

 だが、その間を割って入る様にして要撃級の衝角がType-86IN ガルラに叩き込まれる。

 幸いにして、その装甲は衝撃吸収に特化したカグツチであった為に一撃や二撃程度では大きなダメージは与えられない。

 だが、如何に堅牢な装甲を有していても無敵では無いのだ。

 力学的エネルギーという物理法則に逆らうことは叶わず、その重い攻撃を受け続ければ確実に装甲は削られていき、後退させられていく。

 そしてそれを避けようと跳躍をするが、その隙を貫かんと加速してきた突撃級に強襲され、機体は大きく吹き飛ばされてしまう。

 

 

「ぐっ、ぅおおおおッ?!」

 

 着地することすら許されす、衝突から宙に浮いてしまっている所に進撃を止めることの無い突撃級が追い討ちと言わんばかりに激突し、そのまま押し上げてられてしまう。

 突撃級に抱き着く様な恰好になってしまいながら、脱出を試みる、が。

 今度は背部から迫ってきた別個体の突撃級とで挟撃されてしまい、前後で押し潰されてしまう状態に。

 

 

「あ、が…………止め、っ────!」

 

 

 鳴り響くレッドアラートの不協和音が奏でる耳障りなコーラス。

 機体の損傷は大きく、けたたましくレッドアラートによる不協和音のコーラスが鬱陶しく鳴り響いている。

 苛立たしく滅茶苦茶に操縦桿を操作するが、明らかに反応が悪い。

 子供が悪態をつく様にガルラは長刀を突撃級の外殻に叩きつけるが、引き剥がせそうにもない。

 動きを止めたその姿に好機を見出したのか、小型種のBETA共も隙間を這うように群がってくる。

 

 

「ここまで、かっ……!」

 

 

 跳躍ユニットは殆ど破壊され、燃料も漏れ出している。

 もしも無理やり脱出しようとしても引火して自身が焼き殺されるのが関の山だろう。

 どう考えても、この様な状況下においては単騎で状況をひっくり返すことは叶いそうにも無い。

 

 

「ダーシャ……っ」

 

 

 救いを求めるかの様に婚約者の名を漏らしながらも、ヤダブ大尉はシートの左大腿下部の側面に秘匿されているスイッチに手を伸ばし、指でソレをなぞる。

 

 戦術機には、オプションとして腰部にS-11と呼ばれる爆弾を抱えている。

 これには小型戦術核兵器並の威力を有しており、戦術機から取り外して設置、起爆するという使用方法もあるが、基本的に自決用として運用されるのが常であった。

 現在、自機は多数のBETAに取り付かれている状態。

 もしもここで起爆させれば、数百のBETAを道連れにすることができるだろう。

 それは、しかし、BETAの総数から考えれば戦略的には何の価値も無い。

 だが、何もせずただBETAに喰い殺され死を待つぐらいであれば、いっそ……

 

 

「すまない、君を置いていく俺の不甲斐なさを…………許してくれっ!!」

 

 

 祈りと懺悔を済ませ、S-11の起爆スイッチを叩き割ることを決意した────まさにその瞬間だった。

 

 

『その機体はもう止まることができません。合図が来たら、機体を着陸させて逃げてください』

「っ……あ?!」

 

 

 翻訳機越しに伝えられる、不自然なヒンドゥー語。

 少し頭の中で逡巡させてから、それが脱出を促す味方の言葉である事に気が付く。

 幸いにも機能の生きている頭部のカメラを回すと、此方に接近してくる血の様な紅い機体が見えた。

 

 

『スティール4、エンゲージオフェンシブ』

 

 

 紅い機体、日本帝国斯衛軍のType-88 嚮烏はガルラを前方から押し潰そうしている突撃級を兵装担架にマウントされた突撃砲からの射撃を行いながら、降下してそのまま後方の突撃級も斬り刻みに掛かる。

 初弾が突撃級に命中した瞬間、その外殻を貫き内部に浸透したのを確認した矢先に、前方にいた突撃級は電子レンジに放り込まれた生卵の如く沸騰する様に爆ぜてしまう。

 明らかに、自身が装備していた120mm弾の威力とは隔絶した破壊力を有していた。

 その状況に唖然としている間に、後方からガルラを押し上げていた突撃級も、まるで魚でも捌くかの様な滑らかで軽やかな動作で三枚に下ろしてしまい、漸く死のスクラップから解放されたことを認識する。

 

 

「おっ、ぁ…………お、ぉお……」

 

 

 薬物投与の効果が切れたのか、それとも死の恐怖からの解放による緊張の糸が切れたのか、手は震え喉からは言語を紡ぐこともままならず、機体もオートバランサーが遂にはまともに機能せずに横転してしまう。

 水中で溺れ悶え苦しんでいるかの様な窒息感、圧迫感。

 酸素を求めて口はパクパクと鯉の様に勝手に開閉してしまうし、両の手は救済を求めてデタラメに周囲の機器へアテもなく伸ばしてバタバタと叩く。

 それは殆ど無意識的で、頭の中の理性はそんな無意味な行動は止めろと言っているのに、身体は無視して動作を継続してしまっていた。

 

 

『道路を通しました。機体を捨てて逃げてください』

「ぁ…………べ、緊急脱出(ベイル・アウト)……っ!」

 

 

 辛うじて、その歪な翻訳音声に僅かな正気の残滓を呼び起こして貰う事に成功したヤダブ大尉は、脱出装置のレバーを力任せに引き寄せる事に成功すると、管制ユニットのロケットモーターが起動し機体から強制排出される。

 そのまま管制ユニットごと地面に叩き落され、這うようにして外へと抜け出す。

 

 

「ハッ、ぁ……ぁあ…………あ、ぁ?」

 

 

 しかし、大型種のBETAによる脅威が排除されたとは言え、この最前線においてはそれで命の保障が担保されることは決して無い。

 寧ろ、戦術機のセンサーでは捉えきれない小型種が無尽蔵に徘徊しており…………

 更に最悪なことに、特に闘士級BETAというのは対人感知能力が高く、こうして戦場のど真ん中に放り込まれた人間は、彼奴らの餌食になってしまうのが常であった。

 

 

「こ、っの……も、まだァ……っ!!」

 

 

 どうして脱出する時に冷静になって管制ユニットのフレームとして装備されている強化外骨格を装備して来なかったのだと自身の迂闊さを恨みながらも、標準装備の拳銃を取り出して構える。

 慌てて発砲し、直ぐに撃ち尽くす。

 ニ体の闘士級BETAの命を掠め取るが、まだまだおかわりは沢山あるぞと言わんばかりにゾロゾロと寄ってくるではないか。

 流石にこれは、悪運も尽きたか…………と、何度目かわからぬ死の受容と絶望のシャワーを心に浴びせ掛けたところで、今度は甲高いモーター音と重く鋭い銃撃音が耳を無遠慮に刺してきた。

 

 

『生存者確認!生存者確認!直ちに収容しろ!!』

「ああ、此方です!急いで車内に!」

「ぉ、おおっ…………?!」

 

 

 その正体は、巨大な八輪の装甲車両だった。

 36mm機関砲の斉射によって近隣の小型種は一掃され、更にそのまま減速する事なくヤダブ大尉とBETAの間に割って入る様に進むと、眼前で鮮やかかつ静かに停車してみせる。

 後にその車両の正式名称が88式共通戦術装輪車ということを知る事になるが、この時のヤダブ大尉はそれが日本帝国軍の装備であることも知らぬまま、その帝国陸軍兵に腕を掴まれ拉致される様に車内へと放り込まれる。

 直ぐに車内でバイタルサインを測定され、そのまま流れる様な動きで応急処置を済まされた頃になって、漸く冷静さを徐々に取り戻していった。

 

 

「あっ…………ありがとう、本当に……もう、駄目かと思った」

「頭を上げてください大尉。貴方の奮戦による時間稼ぎのお陰で我々は部隊を展開する事が叶い、今回の侵攻を喰い止める事ができたのです」

「今から念の為に鎮静剤を投与します。ミダゾラム生食溶液、2mg!」

「ミダゾラム生食溶液2mg、確認!」

「投与開始します!バイタル正常、波形サイナス!」

 

 

 腕の静脈から、冷たい液体が浸透してくる感覚の次に、思い出したかの様に強烈な疲労感と眠気が全身をタコ殴りにしてきたかと思えば、その強烈な脱力感に抗うことも叶わず、意識を手放していた。

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