Muv-luv BreakThrow 技術チートで変える未来 作:あるすとろめりあ改
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これは、とある技師によって
東京のアドバイザーよりプラン変更の提案が届く。
従来のプランでは、当初より次世代戦術機としてのフレーム設計案であった。
しかし、フレーム完成後に稼働テストを行う上ではその外装である装甲や主機の新規設計および開発が必要となり、開発期間の長期化とそれに伴う開発費の高騰が懸念されていた。
新プランでは現行機である撃震や瑞鶴に用いる事ができるフレームとして再設計することで期間と費用の短縮を図るとのこと。
尚、開発チーム間における混同を避ける為に旧プランのフレームを甲型、新プランを乙型と仮称することに。
甲型から乙型への設計変更は主に肩関節、股関節が主であり差異は実に15%以下に留まる。
逆に言えば乙型から甲型への変更も非常に容易であり、共通パーツが85%を超える為、当初のコンセプトであるコスト削減は依然として達成可能である。
所長曰く一週間前にそれとなく瑞鶴の不満を愚痴っただけで特に何も要求してないのに数日で仕上げてきたという話なのだが…………本当にそんなことがあり得るのだろうか?
本日、油圧を完全に排した電動アクチュエーターの試験機が完成した。
乙型フレームのライトアームにあたる部分であり、手指のマニピュレータから上腕部分までに該当し、肩部は仮設的に既存の撃震の物を使用する。
この試験機は
電流圧の調整によるアナログ制御でのテストでは既存のアクチュエーターと遜色ない動きを見せていた。
問題発生。
原因自体は判明しており、端的に言えば制御プログラムの作り込み不足である。
例えば操縦桿を左に傾けたときに本来であれば『左に5°傾けた』という情報が
しかし、今回は『静止状態』から『左に傾けた』という情報の変化のみしか読み取れず、ライトアームの総ての構成パーツは全力で左方向へと動作してしまい、異常な回転数に電動機が耐えられず、破損した。
デジタルということは、最小単位は2進数における0と1であり、つまりONとOFFの2種類である。
逆に言えば、この振れ幅を事前に設定しておかねば0%と100%の2択という極端な状態になってしまうのだ。
プログラム言語についてのマニュアルはCPUと共に納入されているが、門外漢な我々からすればそれは複雑な暗号の乱数表と睨めっこしている様な気分であり、とても満足な物が構築出来そうにない。
やはり、コンピュータの専門家に委ねるべきだろうか?
ライトアーム修理完了。
本社を経由し、JECとの業務提携契約が締結された。
それに伴いJECのコンピュータ技術者が派遣され、本プロジェクトチームに合流。
直ぐに情報は共有され、プログラムの問題点などを報告。
JECの技術者達は暫くして『すぐにプログラムを構築する』と宣言、頼もしい限りだ。
制御プログラムが完成。
無事に操縦桿で動作させる事ができた。
このまま順調に推移すれば来年末までにはフレームが完成するかもしれない。
撃震が一機納入された。
この撃震の既存パーツを新造した電動パーツと置き換える事でフレームのテストを順次行う事ができる。
その為にはライトアーム以外の四肢を完成を待つ必要があるので、先に管制ユニットのアビオニクスを入れ替える工程から行う。
漸く、JECの者達と合同チームらしい働きができるだろう。
ライトレッグが完成。
ライトアームと同様のテストを実施、結果は良好。
管制ユニットに制御演算装置の組込みが完了。
ただし、安全性を確保する為に操作は有線による遠隔操作でのテストを行う。
レフトアームとレフトレッグが完成。
当初の予定通り、撃震の四肢にこれらを換装を行う。
既存の胴部、腰部に残されている油圧やケーブルなどの旧アクチュエーターと装甲は撤去することで可能な限りの範囲で新フレームと近い状態にする。
問題発生。
我々は非常に大きな見落としをしていた事に今更ながら気が付く。
戦術機とは、そもそも2本の操縦桿では四肢の動きを細かく操作する事が不可能なので間接思考制御というシステムを用いて補完している。
細かい技術的機序は省くが、要するに筋電や脳波、視線などをモニタリングすることで『歩こうとしている』だとか『落ちている突撃砲を拾いたい』という搭乗者の思考を予測し、戦術機の繊細な動作に反映させているのだ。
しかし、旧来の間接思考制御システムは旧来の油圧等によるアナログ式アクチュエーターでの動作を前提としており、これをそのまま模倣してもデジタル制御による電動アクチュエーターには適用出来ない。
つまり、我々は0から戦術機の制御OSを創り出さなければならないということになる。
順調に思えた航路は、ここで深い暗礁に乗り上げてしまったのだ。
JECの技術者達が悲鳴を上げている。
彼ら曰く、JECはそもそも半導体とそれを組込んだ製品の設計、開発、販売を行う会社であり、その得意とするプログラムは汎用性に富んでいるという。
それは、応用が利くからこそ様々な機器に利用できるが故に、用途に特化したプログラムと比較すると非常に煩雑で複雑な文字列になってしまうらしい。
つまり、戦術機の様に高度で専門的な機械の塊を制御する為にはより複雑なものが要求される。
しかしそうなると、もはやプログラムの全容を把握するのは困難であり、不具合が生じてもどこに問題があるのか、それを特定するのに困難を極め、修正にも時間がかかる。
正直、これ以上は我々の手には負えないだろう。
一度所長に報告して継続の可否を問う必要がある。
少なくとも、撃震や瑞鶴のプログラムを構築した光菱の技術者の協力が必要だろう。
報告後、所長は何処かに電話を掛け始めた。
本社だろうか、それとも例のアドバイザーか?
所長が何かを持ってきた。
地図?の様な絵と文字が踊っている書面と、何かの設計図……回路基板?のものだとか。
それを渡されたJECは昨日までの絶望的な表情とは打って変わって、まるで鬼神の如く血走った目と奇声を挙げて何かを造りはじめた。
一体所長は何を持ってきたんだ?そして、何が起きていると言うんだ?
その紙を渡した所長は様子を見守る間もなくまた駆け出し、戻ってきたかと思えば、今度は数百枚にも及ぶ紙束の山を持ってきた。
今度は英数字の羅列が暴力的なまでに書き連ねられている。
ちらと横目に盗み見る限りでは何かの命令文で、つまりプログラムの類の様だが?
しかし、先日までブラウン管の中で踊っていた文字列よりも幾らか纏まりがある印象だ。
それでも文量が常軌を逸しているが。
再びJECの者達に見せると……また奇声を挙げた上に今度は万歳までしている始末だ。
何が彼らをそこまで駆り立て悦ばせるのか……あ、いや、悔しがっている?のか?わからん。
え、動いた?
え、歩いた?
間接思考制御のデジタル化に成功して、理論上ではもう既存の戦術機と同等かそれ以上に動かせるだって…………?
何故、昨日までは「もう駄目だ、お仕舞だ」という怨嗟の如し呻きで覆い尽くされ、この世の終いかと見間違う程の鬱屈していた現場が?
何故、たった一夜にして祭りでも始まったかと見紛う程までの喝采と称賛に満ち溢れた場に変貌しているのだ?
所長はチームが難局を脱した様子を見てホッとしたのか「アイツが夏休みで助かったな……」とかほざいている。
え?夏、休み?なに?何の話か?夏休みだと何が助かるというのだ???
これで撃震の部品点数はゼロになり、完全に乙型フレームのみで機体が構成された。
テセウスの船という思考実験があるが、議論を交わすまでもなく撃震から完全なる別物に仕上がっている。
しかし、本当の勝負はここからだ。
まだ形が整っただけで完成には到っていない。
ここからテストをしていく度に浮かび上がってくる問題点を洗い出し、その修正を続けていくことで漸く完成と言える状態になる。
ここまでは正直、手渡された設計図を元に言われるがまま組み立てただけに過ぎない。
音楽で喩えるならば、設計者は指揮者で俺達は調律師だ。
演奏家である衛士達の手へと渡った頃には
これからは、我々も忙しくなるだろう。
帝国陸軍本土軍第3師団からテストパイロットを務める衛士が派遣されてきた。
当初、そのベテラン衛士達は「なんだ、まるで骸骨じゃないか」と苦言を呈していたが、実際に乙型フレームに搭乗すると口を揃えて「軽い。まるで自分の身体を動かしているかの如く素早い反応と即応性で操縦桿が吸い付いてくるかの様な感覚だ」と高評価。
こちらも仕事なので問題点や不満点の洗い出しを行わければならない……が。
機体の損傷は無し、ソフトウェアにもエラーは検出されず、衛士からは「装甲が無いのは流石に不安だ」という声のみ。
装甲については現在試験に利用した撃震の装甲を剥がし、フレームにアタッチメントを咬ませた上で装着する事になる。
喩えるなら、乙型フレームが骨や筋肉であり、アタッチメントが皮膚、そして装甲が鎧となる。
甲型フレームに至っては装甲に皮膚と鎧の役目を担わせるのでアタッチメントは必要ないが……これは、元々自律稼働フレームでの使用を想定されていない装甲を使用するための措置だ。
兎も角、フレーム単体での修正点は出てこなかったので装甲を付与した上での修正を行うことになるだろう。
雨天時のテストを実施。
防水性に問題なし。
アタッチメントと装甲の装着が完了。
これで外観上では撃震との差異は無くなった。
これより撃震との比較試験および各種装備、跳躍ユニット使用時の問題点の洗い出しを行う。
○
本日をもって全試験項目の完遂を確認した。
破損、不具合、修正点なし。
これにて自律稼働フレームのフェイズ1全項目が終了。
お疲れさまでした。
いや、おかしいだろ?
これでは、我々は設計図通りに組み立てただけではないか。
我々の仕事は戦術機の開発ではなく等身大のプラモデルを制作することだったとでも言うのか???
というか、所長の個人的な知り合いだとかいうアドバイザーとは何者なのだ?
ハードウェアにおいては結果的に設計図の段階で完璧といえる完成度であったし、ソフトウェアにおいても一晩で解決されてしまった。
というか、戦術機のOSを0から作り上げたのに等しいとJECは言っていたぞ?
これは……そう、アドバイザーというのは特定の個人を表す言葉では無いのだろう。
そもそもこれほどの技術力があるのなら撃震か、もしくは直近の瑞鶴の開発に参加している筈だ。
参加していないのは、瑞鶴に自律稼働フレームが使用されていないという事実が証明している。
では、何故彼らは瑞鶴の開発に関われなかったのか?
恐らくは、彼らが何かしらの政治的背景や立場から参加できない状態にあるのだろう。
例えば、学閥。
未だに京都帝国大学や東京帝国大学出身者が優遇され東北帝国大学や名古屋帝国大学などは蔑ろにされる事が大いにあると聞く。
それが、私立大学であれば尚更であろう。
私立大学で教鞭を執る者、私設の研究所や中小企業で働く技術者など…………。
それらの者の
そうであれば、自律稼働フレームの開発者は我々河崎重工ではない。
我々はただの協力者に過ぎないのだ。
願わくば、彼らアドバイザー達が日の目を見る表舞台に立ち、日本の技術のさらなる発展に寄与できる立場に躍り出て欲しい。
彼らが影に徹するのは日本の…………いや世界、人類にとっての損失に他ならないのだから。
なお、この日誌は今日においては日本の国産戦術機開発史における現場の貴重な一幕を知れる資料の一つとして公開されている。
『アドバイザー』が示す人物というのは、ご多分に漏れず
それは、しかし常識的に考えれば当然の発想であり、筆者の想像力不足であると責める事は出来ない。
むしろ
次回、解答編(主人公目線)
★小ネタ
本日誌における天気の記載は気象庁にある実際の神戸気象台のデータを参照したものです
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