〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

10 / 122
先程、「FILM RED」観たんですよ。
めっちゃくちゃ良かった!!
コビーの指揮もシャンクスの強さもスゴかったし、ラストの結末はビックリしましたし、興奮と感動が同時に殴り込んできたような感覚がしました。
また伏線出ちゃいましたけど。


第10話〝一度は許す女〟

 ロジャー海賊団に加入したクロエは、〝鬼の女中〟の二つ名で悪名を輝かせていった。

 クロエは一味の中では一番の新入りだが、実力は先に加入したバレットからダウンを取り、さらにロジャー相手に善戦するという規格外ぶり。一味の戦力として、海軍や海賊を次々と撃破していった。

 それに刺激を受けたのが、バレットだった。ロジャーに完敗しただけでなく、クロエにもダウンを取られたことで、負け越しの相手が二人もいてたまるかと鍛錬を重ね、さらに強さに磨きを上げた。

 二人の若き修羅を従えたロジャーは、破竹の勢いで海を駆けていく。 

 

 

           *

 

 

 空は晴天。

 海をさすらうオーロ・ジャクソン号にて、バレットは船首楼甲板で昼寝でもしようかと階段を上がった。

「……?」

 ふと、階段を登り切ったバレットは目を細めた。

 視線の先で、包帯で目を隠したクロエに、シャンクスとバギーが殴りかかっていたのだ。

「やああっ!」

「おりゃあっ!」

「甘い」

 

 バキィッ!

 

 クロエは同時攻撃をいなす。

 シャンクスとバギーは、互いのパンチを受けてすっ転んでしまった。

 仲間割れに見えそうな光景だが、強さの求道者であるバレットは、その意味をすぐ理解した。

「……見聞色の鍛錬か?」

「バレットか」

 素っ気無くも、どこか興味深そうに声をかけるバレット。

 クロエは目隠しを解き、それをコートに仕舞う。

「師匠のもとでやってた、見聞色の覇気の簡易的な修行法だ。感覚を超えた速さを捉えるためにな」

 クロエが実践していたのは、八宝水軍に身を置いていた頃にやった修行法だ。

 目隠しをして見聞色の覇気を発動しながら行動をすることで、その精度を高めるという荒業だ。何らかの要因で視覚を封じられても、見聞色を用いれば位置や距離、さらには地形を把握することができ、戦闘でも攻撃の出所や敵の所在を把握できる……という理屈だ。

 この鍛え方を年単位で継続したことにより、クロエの見聞色は少し先の未来をも視ることができる程の精度を誇るのだ。

「私は財宝や名声に興味はないからな、何かと時間ができる。その間にこうして短時間でも修行をしている」

「……そうか」

 暇さえあれば()()()己を鍛えるというクロエの習慣に、バレットは共感を覚えた。

 一人こそ最強――それがダグラス・バレットという男を支える信念。それと近いクロエの在り方に、バレットは若干の親近感が湧いた。

「クロエ……貴様の強さは、何の為にある?」

「随分と哲学的だな……」

 元軍人だからか? と口角を上げるクロエは、一呼吸置いてからバレットの問いに答えた。

「私の強さは、私自身の〝自由〟を守るためだ。お前の為の強さでも、ましてやロジャーの為の強さでもない。自分の強さを行使するのは自分自身だからな」

「……カハハハ……そうか」

 クロエの回答に、バレットは嬉し気に笑った。

 ――この女は、強さというモノを理解している。

「ただ……私の強さは最初っから一人で成してない」

「何だと?」

「私の強さは、師匠の教えが根幹にあるからな」

 水平線の彼方から昇り始める太陽を眺めながら語る。

 昇華・応用・発展……自らの能力(チカラ)を高めることは自力で出来る。しかし〝開花〟は他者からの刺激が無ければ成せない。クロエが強大な覇気を扱えるようになったのは、元を辿ればチンジャオとの修行の日々が実を結んだに過ぎない。

 強さとは、他者からの刺激によって強大化していく――それが彼女の強さに対する想いだ。

「まあ、焦ることはない。世の中は一問一答じゃない。お前の求める答えが、一つとも限らないからな」

「……おれに指図するな」

 二歳年上の言葉に、バレットはぶっきらぼうな返事をした。

 が、その表情は満更ではなさそうで、嫌っている風は見せてない。

「スゲェな、クロエ! 船長や副船長はもっとスゲェけど!」

「私としては経歴が上のお前ら二人が弱いままなのが癪なんだが」

「雑魚がデカい態度してんじゃねェ」

「んだと!? そ、そりゃあ船長と戦った二人と比べりゃあさ、おれは、その……弱いけどよ……」

 元一人海賊の二人にバッサリ切り捨てられ、シャンクスはキャンキャン吠える。

 しかし弱い奴はこの海で生きていけないのが真理であり、シャンクス自身も強くなりたいという意思はあるので、段々トーンダウンして口ごもってしまう。

「戦場では強くない奴にいつまでも構ってられんぞ。私なんかお前ら二人と同じ年頃には、修行として敵船に丸腰で放り込まれたこともあったぞ?」

「よく死ななかったな!?」

「まあ、相応の覇気は会得してたからな」

 バギーにツッコまれながらも、クロエは二人に向き直る。

 そして、二人の目を見つめながら提案した。

「戦場で甘えられてはたまらんからな、私がお前ら二人を鍛えてやる。――のるか?」

「本当か!? ありがとな、クロエ!!」

「ちょ、おい! 何でおれまで!?」

「ロジャーの足手まといは御免なんだろう?」

 その言葉に、見習い二人は反応した。

 シャンクスとバギーは、ロジャーを尊敬しているし憧れてもいる。クロエはあくまでも上司、バレットに至ってはライバルに近い感覚で接しているが、まだ子供である二人にとっては父親にも等しい存在だ。そんなロジャーの足を自分達が引っ張り続けるのは、やはり我慢できるものではない。

 クロエの提案は、ロジャーの仲間としてならば受け入れる方がいい。どんなに辛い内容であっても。

「おれはやるぞ! クロエが腰抜かすくらい強くなってやる!」

「お、おれだって、はは派手に強くなってやるよ! か、覚悟しろ!」

 腹をくくったのか、シャンクスは鬼の女中(クロエ)に啖呵を切った。

 バギーはなぜか声と体を震わせているが、強気の態度を崩さない。

「……バレット、お前はどうする?」

「……フン」

 バレットはその場で胡坐を掻くと、両腕を組んだ。

 クロエから指南を受けるつもりはないが、鍛錬の一環として見取り稽古をするつもりのようだ。〝強さ〟に関連した物事には興味を持つのだろう。

「よし、早速始める。まずは貴様ら二人の基礎戦闘力を把握しておきたい」

 クロエは二人を見下ろし、目を細める。

 タフさやスタミナを始めとした素養、体に染みついた癖や覇気の〝色〟の得手不得手、技の熟練度……悪魔の実の能力を含めた総合戦闘力とは別に、素のポテンシャルがどこまで備わっているか。それを知ることは、戦闘力の底上げにおいて欠かせないことだ。

 そして、それを簡捷に把握する方法は、ただ一つのみ。

「――持ちうる力を全て使い、この私に刀を抜かせてみせろ」

「「ド、ドリョクシマス……」」

 

 ――チクショウ、最初っから困難極まりねェ!

 

 シャンクスとバギーは、クロエの鬼の如き修行に付き合わされることになるのであった……。

 

 

           *

 

 

 数時間後、シャンクスとバギーはボロボロの状態で寝そべっていた。

「いてて……」

「ば、化け物だ……」

 シャンクスは痛そうに頬をさすり、バギーは引き攣った声で呟いた。

 

 結果だけ言えば、二人はクロエから刀を抜かせることはできなかった。

 二人がかりで得物を振るって奮闘したが、全ての攻撃を捌かれてしまい、覇気を込めたビンタでギッタンギッタンにされた。グーじゃないあたりは、多少は手加減してくれたつもりなのだろう。

 一応クロエからは「必要最低限の基礎はできてる」と評価してくれたが、大物達と()り合ってきた彼女としては落第点だろう。

 

 ちなみにクロエは今、バレットと殴り合いを繰り広げている。

「バレットも強いけど、クロエも強いんだな……」

「何言ってんだ素っ頓狂が!! (つえ)ェなんてレベルじゃねェぞ!!」

「わははは、随分と派手にやられたな」

 そこへ、途中から二人の修行を見ていたロジャーが笑いながら歩み寄る。

 そしてポンッと優しく頭に手を乗せると、二人に問い掛けた。

「バレットとクロエはどうだ?」

 随分とざっくりとした質問に、顔を見合わせる。

 どうだなんて言われても、どう答えていいかわからないが、シャンクスは口を開いた。

「バレットは……クロエと接する時は、何か嬉しそうな顔をしてます」

「ほう。で、クロエは?」

「クロエは……意外と仲間想いな気がします」

 その言葉を聞き、ロジャーは豪快に笑った。

 まるで宴の時のように、心底面白そうに笑ってから、一言言った。

「――クロエがいる限り、バレットは問題ねェな」

 組手をする二人の新入りを、ロジャーは見つめながら酒を煽った。

 

 バレットには、強さと想いを受け止める存在はいるが、どこかしら共有する点を持つ〝理解者〟が必要だった。特に年の近い人間で、強者以外に興味を持たないバレットを惹きつける人間だ。

 その役割を自然と担うようになったのが、クロエだ。彼女は海のように気まぐれな性分だが、強さに対する思想が似通っており、一人海賊であったこともあって共感する点がちらほらある。

 

 バレットにとってクロエは()()()()()()()()()()」で、たとえ不本意に自分が死んでもクロエが代わって受け止めてくれる……ロジャーはそう確信していた。

 そして、二人が袂を分かつことのないように――

「シャンクス、バギー。二人の傍にいてやれ」

「え?」

「せ、船長!?」

「時間ならいくらでも掛けろ。この船に乗っている間は命を預けあう仲間だって教えてやれ」

 ニカッと笑いながら、ロジャーは船内へと戻っていった。

 船長の意味を少し考えてから、シャンクスはバギーに問い掛けた。

「……バギー。バレットとクロエ、どっちがいい?」

「どっちもヤベェだろありゃあ!」

 

 

           *

 

 

 その日の夜。

 クロエは浴室でシャワーを浴び終え、鏡を見ながら髪を結んでいた。

「……世話の焼ける弟達を持ったな」

 外が騒がしい中、着替えながら一人呟く。

 シャンクス、バギー、バレット……イタズラっ子二名と戦闘狂一名という濃すぎる面子だが、クロエから見れば手のかかる弟といった印象だ。

 前世は妹がいたが、家族関係が冷え切っていた上に妹も性悪だったため、下の子にはあまりいい印象はない。が、少なからず前世と比べれば遥かにマシだった。

「……弟、か……」

 着替えを終え、クロエは目を細める。

 前世の妹の件があり、異性の兄弟に対する憧れはあった。今世では血のつながりは無いが、あの三人と絡んでいると面白そうだとは思っている。あの赤組は何かと鬱陶しいし、元軍人はすぐ決闘を申し込んだりしてくるが、性根は曲がってないので気に入ってはいるのだ。

 ――オイタが過ぎれば、男だから遠慮せず実力行使できるし。

「……まあ、どうとでもなるか」

 コートを羽織り、腰に刀を差して浴室を出ると……。

「おう、やっと出たか」

 目の前にひげ面の男――ロジャーが立っていた。

 彼はクロエの肩に手を回すと、甲板へと連れてった。

「ロジャー、何のマネだ」

「お前とバレットの歓迎会やってんだよ」

「ハァ……」

 道理で騒がしいわけだ、とクロエは納得した。

 前に所属していた八宝水軍は、花ノ国の戦力という一面もあって、宴は控え目な方だった。それに対してロジャー海賊団は、宴はド派手に催し大騒ぎする、八宝水軍とは正反対の性質の海賊だ。

 また、厳格なチンジャオの下にいたため、クロエは静かに酒を飲むのを好む。騒がしいことを忌み嫌ってはいないが、一人酒の方が気楽なのだ。

 ゆえに「私は別に結構だ」と肩に回された手を払おうとしたが、ロジャーの手は吸いついたように離れなかった。

「お前はもうおれの船員だろ?」

 その一言に、クロエは溜め息を吐いた。

 それを言われれば、従う他ない。自分はロジャーに負けたのだ。負けた人間は勝った人間に従うのが道理だ。

 渋々といった様子でドアを開け、甲板に出た。

「野郎共! 真打の登場だぞォ!」

 船長が声高に叫ぶと、わあっと場が湧いた。

 待ってましたと言わんばかりだ。

「……バレット?」

「……」

 その中には、バレットもいた。

 彼もクロエのように渋々といった様子であり、どうやらロジャーと同じ目に遭ったらしい。

「こっち! こっち来てこの酒飲んでみろよ!」

「この肉も食ってみろって! 超美味いぞ!」

「……」

「ほら、呼ばれてるぞ。行って来い」

 ロジャーに促され、クロエは面倒臭そうに宴の席に混ざった。

 そしておもむろにシャンクスから渡された串の肉を、パクリと一口。

 何度か噛むと、わずかに違和感を覚え……。

「――っ!?」

 刹那、クロエの舌が焼けるように痛み、全身から汗が吹き出し、目からは涙が溢れた。

 激辛の肉だったのだ。

『ギャハハハハハハハハッ!!!』

 皆が大口を開けて笑い、膝やテーブルを叩いた。あのバレットも、そっぽを向いてはいるが肩を震わせている。

 特にシャンクスとバギーは、一際大きな声で笑い、涙目で腹を抱えていた。どうやら二人が仕掛けたようだ。

 ――入浴したばかりなのに、やってくれたな!!

 まんまとハメられ、一気にムカつきが頂点に達したクロエは、覇王色で主犯格二人を黙らせようとするが、口内に全神経を持っていかれているせいで集中できず、ただただ涙目で睨みつけるしかなかった。

「わはははは! やられたな、クロエ!」

「ったく……すまんな、新人歓迎の恒例なんだ」

 やりすぎだと肩を竦め、水の入ったコップをクロエに渡すレイリー。

 警戒しつつもクロエは一口飲み、ただの水だと確認すると一気に飲み干すと、シャンクスが申し訳なさそうにコップを差し出した。

「ゴメン、やりすぎた……」

「……」

 シュン……と落ち込んだ様子のシャンクスに、さすがのクロエも困った。

 いくら一端の海賊と言えど、相手は子供だ。この程度のことで手を上げる程、クロエは短気ではない。

 反省しているならいいか、と思いながらコップを受け取って一口。

「ブホォッ!? ゴホッ、ゴホッ!!」

「ダハハハハハ!! 引っ掛かった、引っ掛かった!!」

 何とシャンクスが差し出したのは、海水だった。

 あまりのしょっぱさに盛大に吹き出したクロエに、再び船員(クルー)達はドッと湧いた。

 ただ、シャンクスは失念していた。クロエは()()()()()()だということを。

「……シャンクス、私から提案がある」

 ビリッ……と空気を震わせながら、クロエは告げた。

「明日からの鍛錬は幼少期の私と同じ内容にする」

「すいませんでしたーーーーっ!!!」

 半殺しにされる未来を察してキレイな土下座を披露したシャンクスに、周りはさらに大きな声で爆笑したのだった。




今後、クロエはシャンクス達とよく絡むようになりますが、ロジャー海賊団のメンバーから見たクロエの印象は以下の通りです。

ロジャー…ウチの紅一点!
レイリー達…筋金入りのじゃじゃ馬。人の下に付けるタイプじゃない。
バレット…性格の甘い女だが、その〝強さ〟は一目置いている。
シャンクス…強くてカッコイイ姉貴分。修行は厳しいけど信頼できる仲間。
バギー…頼もしいけど、それ以上に怖い。敵じゃなくてよかった。


ちなみにクロエのイメージCVは、作者としては田中敦子さんです。

次に戦う相手は誰がいい?

  • 白ひげ海賊団
  • 金獅子海賊団
  • ビッグ・マム海賊団
  • 百獣海賊団
  • 海軍
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。