〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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おい、王直とガーリングこの野郎!!
……失礼しました。原作最新話チェックして、ちょっと荒ぶっちゃいました。
本作の王直は、エマを寵愛しているので彼女に嫌われない努力をしてます。


第105話〝海賊島提督〟

 「海賊島」ハチノス。

 かつて世界最強の海賊団と称されたロックス海賊団が結成されたこの島は、現在では〝五皇〟クロエ海賊団の重要な補給地となっている。

 つつけばすぐさま大勢の海賊(ハチ)が出てくる無法者の巣窟だが、彼らは皆クロエ海賊団に対して極めて友好的である。

 なぜなら――

『エマお嬢が帰ってきたぞーーー!!!』

「は~い♪」

 海賊達の声援を背中に受け、笑顔で応える副船長。

 伝説の女海賊・クロエの右腕として名を馳せるエマは、元締めである〝海賊教祖〟王直の義理の娘。30億越えの賞金首である上、王直自身から次期「海賊島提督」の座を薦められており、莫大な富と権力を約束されようとしているのだ。

「アイドルか何かか、お前は…」

「コネは万国共通だよ」

「現金な副船長だ」

 一味創立メンバーのクロエとラカムは、呆れ返った表情で肩をすくめる。

 するとそこへ、スーツ姿でコートを羽織ったしゃくれ男が、葉巻の紫煙を燻らせてやってきた。

「おお、帰ってきたのかエマ」

「マーロンさん!!」

 いかにもなギャング男は柔和な表情を見せ、エマは破顔した。

 

 男の名は、首領(ドン)・マーロン。

 西の海(ウエストブルー)〟出身のギャングで、あのロックス海賊団の古参メンバーであった実力者だ。

 

「マーロン……あの首領(ドン)・マーロンか!!」

「あ、そうか! クロエって花ノ国で育ったんだっけ?」

 珍しく驚くクロエに、エマはポンと手を鳴らした。

 クロエ自身どこで生まれたか本人も知らないが、育ったのは紛れもなく花ノ国のギャング「八宝水軍」の本拠地。そして花ノ国は〝西の海(ウエストブルー)〟にある国家。生まれ故郷で名を馳せた大物の名前ぐらい、知っていて当然と言えよう。

「〝神殺しのクロエ〟……暴れっぷりは度々耳にしてる。ロックスの野郎を思い出すな」

「同じ海の大先輩に顔を知ってもらえてるとは光栄だ」

「知らない方がおかしいってモンだ…。お前の悪行三昧はイカレてるとしか思えねェからな」

「それは褒め言葉として受け取ろう…!」

 クロエは挨拶代わりに覇王色を放つ。

 地面だけでなく島全体をビリビリと震わすそれを、マーロンは真っ向から受けながらも涼しい顔をしている。

 流石は伝説の世代だとクロエは舌を巻き、マーロンも彼女の覇王色が規格外の質と量であると目を見張った。

「…それで、私に用か? 首領(ドン)・マーロン」

「ああ…率直に言う。いい加減、エマをこの島の次期提督に――」

「貴様もか……」

 同郷の大先輩からも親友の提督継承を勧められ、クロエはウンザリとした顔をする。

 古今東西、なぜ王位の継承問題がややこしいのかが何となくわかる気がしてきた。

「私がこの島の提督の座に興味がないのは言うまでもないが……なぜそこまでエマに固執する? 伝説と呼ばれる海賊達はまだいるし、何ならシャンクスかバギーでもいいだろう」

「エマじゃなきゃダメなんだ。この島の奴らは愛嬌はねェし品もねェし、何より華がねェ」

「ほとんど老兵の愚痴じゃないか」

 クロエがツッコミを入れるが、マーロンは意に介さず話を続ける。

「ニューゲートがくたばって、新世界は荒れまくってる。〝黒ひげ〟の一味は勢力拡大、前半の海で調子に乗っていたガキ共も色んなナワバリで暴れてやがる……何人かはカイドウやリンリンの傘下に降ったようだが」

「――確かに、エマなら奴らを牽制できるだろうな。だがあの楽天家は私の副船長だ。旧縁の仲だとしても、あいつが受け入れない限りは私の海賊団から引き抜く事は許さん」

「……」

 クロエの返答に、マーロンは大きくため息を吐く。

「お前……自分の船から降りるのはそいつの自由ってスタンスじゃねェのか」

「自分の意思で船を降りる場合に限ってな。他人に言われたから降りました、で納得できるか」

「――おい、マーロン!! おれの娘が帰ってきたんだと何で言わねェ!!」

 そこへ、今度は顎下から脂肪で三段に弛んだ長い首と二股に割けた舌先が目立つ、大柄な老海賊が現れた。

 エマの育ての親にして師匠でもある、王直だ。

「お師匠!!」

「おお、我が娘よ!! 父が迎えに来たぞ!!」

「何が父だ、てめェこの野郎!! よく今でもそんな事言えるな!!」

 両手を広げてエマとの再会を喜ぶ王直に対し、マーロンは怒号と共に武装色の覇気を纏った足で彼のスネを蹴り上げた。

「いでェ!! マーロン、何すんだ!!」

()()()……!! 何をやらかしたか憶えてねェとは言わせねェぞ!?」

「何十年前の話だよ!!? アレは色々あったっつったろ!!!」

 マーロンに詰められる王直は、昔の事だろうと反論する。

 只事ではない様子に、コル寿郎が興味を持って尋ねた。

「王直と首領(ドン)・マーロン……ロックス海賊団の古参メンバーだな?」

「!! てめェ、確か元天竜人の…!!」

「いかにもそうだ。……二人共、もしや先々代アマゾン・リリー皇帝を賞品にしたゴッドバレーの〝人間狩り〟と関係があるのか?」

 コル寿郎の言葉に、王直は顔を強張らせる一方、首領(ドン)・マーロンは深く頷いた。

「こいつは当時の天竜人から島の宝だったシャクヤクを守れなかったのさ……!!」

「話を端折るな!! おれはエマを人質に取られたんだぞ!?」

「だとしてもその後のヘマは擁護できねェぞ……!! エマが作った隙を棒に振ったろうが!!」

「何をォ!?」

 互いに胸倉を掴み、いがみ合う伝説の海賊。

 すると、それを見かねたクロエが刀を振るって斬撃を飛ばし、二人を吹っ飛ばした。

「「ひでぶっ!!」」

「いい年した大先輩がわざわざ喚くな」

『うわァ……』

 容赦ないクロエに、クロエ海賊団だけでなくハチノスの海賊達もドン引きするのだった。

 

 

 ハチノスの中心と言える、ドクロ形の岩山。

 元は魚型の岩山だったが、海賊島を占拠したロックスが「見晴らしを良くしたい」という意向で穴を空けられた要塞だ。

 その岩山の内部に案内されたクロエ一行は、酒盛りがてら40年近く前のハチノスで起きた「ある事件」について当事者達から聞いていた。

「あのぼったくりバー、ここが第一号店だったのか」

「ああ。かつて海のアイドルだったシャクヤクは、当時の九蛇海賊団船長の座を引退したが、海軍や賞金稼ぎから身を守る為にハチノス暮らしを始めたのさ」

「おれ達も店を手伝ったな!!」

 あの頃のハチノスは天国だったと、王直とマーロンは顔を見合わせながら懐かしそうにする。

 この二人、仲が良いのか悪いのか……。

「そう言えばシャクヤクさん、今シャボンディ諸島でぼったくりバーやってるよ。レイリーさんと同棲してる」

「「何だと!!?」」

 骨付き肉を頬張るエマの爆弾発言に、二人は仰天する。

「レイリー……確かに妙にシャクヤクからアピールを受けてたが…!!」

「あの野郎、今度会ったらタダじゃおかねェ……!!」

 顔中に青筋を浮かべる二人の伝説に、クロエは「早く続きを言え」とガンを飛ばした。

「エマはおれが拾ってから、シャクヤクが面倒を見るようになった。住み込みのアルバイトみてェなノリだ」

「海じゃ一触即発だが、シャクヤクの酒場(バー)では一切の戦闘が禁止。シャクヤクはハチノスの法そのものであり宝だった。そこに加えて純真なチビのアルバイトが一緒に愛嬌振り撒いてるんだから、どいつもこいつも骨抜きよ」

「副船長、アンタまさかその人誑しっぷりはシャクヤクから教わったのか?」

「ノーコメントで」

 王直とマーロンの証言から勘繰ったラカムは、苦笑いして誤魔化すエマを見て確信を得た。

「――そんな中、誘拐事件が起きた。コル寿郎の証言も含めれば、黒幕がマリージョアの豚共なのは言うまでもないが……王直、貴様弱みを握られたな?」

 クロエの指摘に、王直は苦い顔をした。

「そうだ……奴らは突然現れて、おれに取引を持ち掛けたのさ」

 

 

           *

 

 

 約40年前、ハチノス。

 この日、王直は夜中にある男と顔を合わせていた。

「ハハハ…!! まさか直々にハチノスに来るとはな。何が目的だ」

「……貴様に頼みがある。報酬はこれだ」

 王直の前に現れたのは、一人の騎士。

 三日月のような髪型と精悍な人相が目立つ金髪の男は、ドサッと麻袋を置くと、その袋の中から大量のカネが溢れ出した。

「うほっ!! スゲェ額!! 流石は世界貴族様だぜ」

「御託はいい。私の依頼は受けてもらう」

「ふ~ん……何をして欲しい?」

 王直が聞き返した、その時。

「アレ? お師匠、お友達?」

「なっ!? エマ、起きてたのか!?」

 物陰からヒョコッと現れた義理の娘に、王直は蒼褪めた。

 すると天竜人の騎士は、一瞬でエマの前に立って彼女を掴むと、腰に差した剣を抜いて喉元に突き付ける。

「ムグッ!?」

「エマ!! ――おい、そいつはおれの義娘(ガキ)だ!!! 手ェ出したらブチ殺すぞ!!!」

「それはいい事を聞いた…王直、私の望みは一つ。海賊島の宝を、このフィガーランド・ガーリングの新しい妻とする事。貴様が護衛を殺して誘き寄せ、私の元へ連れてこい。できなければ、お前の娘を()()()()()()!! サターン聖の実験台にするのも悪くない…いや、今度の大会の賞品か?」

「!!?」

 天竜人の騎士――ガーリングが突きつけた条件に、王直は絶句した。

 無法の海賊稼業をする王直にとって、エマは自分の命と同じくらいに大切な存在。容易く天秤に掛けられるはずもない。

 確かに儲け話は大好きではあるが、その為にエマを犠牲にする程腐っていない。しかし、拒否すればどうなるかは明白だ。

「選択肢は与えない……貴様は私に従うしかないのだ」

「この野郎……!! エマ、大丈夫だ、おれが何とか…」

「――おい、どこ行ったエマ!? シャクヤクが心配してんぞ!!」

 すると、シャクヤクの護衛当番であるマーロンが顔を出した。エマが戻ってこない事に不安を覚えた彼女に代わり、探しに現れたのだ。

 かなりマズい事態になったと、王直はマーロンの姿を見るなり叫んだ。

「マーロン!!! 戻れ!!!」

「あァ? ……!! おい、誰だてめェ――」

 

 ザシュッ!! キンッ…

 

「……迂闊な」

「マーロン!!」

「ムゥゥ!!」

 マーロンが銃を構えたと同時に、ガーリングが抜刀して一閃。逆袈裟に斬り伏せてしまった。

 交渉決裂だと、王直は戦闘態勢に移るが、さらに予想だにしない展開が。

「エマちゃん? どこ行ったの?」

「しまっ――」

「ほう、手間が省けたな…」

 エマだけでなくマーロンまでいなくなった事に気づいたシャクヤクが、自ら捜索に出向いてしまった。

 彼女を視界に捉えたガーリングはニヤリと笑うと、人質に取っていたエマを投げ捨ててシャクヤクを取り押さえた。

「うっ!!」

「成程、ロックスやロジャーが現を抜かすのも頷ける……」

 ガーリングはシャクヤクの首根っこを掴みながら不敵に笑い、唇を奪おうとする。

 しかし、血を流しながらもどうにかマーロンが立ち上がり、銃口をガーリングに向けた。

「てめェみてェなゴミクズが…ウチの宝を盗もうなんざ…100年(はえ)ェ……!!」

「殺す気で斬ったのだが……まァいい、次は王直ごと消す。そこの小娘は奴隷として一生私が飼ってやる」

 ガーリングはマーロンにトドメを刺そうと剣を構えた、その時だった。

 

「皆を傷つけるなァ~~~~~!!!」

 

 ドォン!! バリバリバリィッ!!

 

『!!?』

 エマが絶叫すると同時に、彼女を中心に覇王色の覇気が暴発。

 大気を震わす程の覇気にガーリングは驚き、王直やマーロン、シャクヤクも瞠目した。

「――おい、何だ今の覇気は!?」

「誰の覇王色だ!?」

 見知らぬ者の覇王色の暴発のおかげか、静まっていたハチノスが一斉に騒ぎ出し、海賊達が続々と騒ぎ始める。

 一人の幼女に計画が破綻されようとしている現状に、ガーリングは怒りを滲ませた。

「っ……下界の小娘の分際で!!」

 

 ズバッ!!

 

「うああっ!!」

「エマちゃん!!」

「エマ!!」

 ガーリングが剣を振るった事で、エマの右頬に刀傷が走る。

 血を流し、倒れ込むエマを助けようとシャクヤクは抗うが、ガーリングは平然と彼女を拘束している。

「……まァいい、目的は果たした。行くぞ」

「おい、待て!!」

 王直は追おうとするが、ガーリングを庇うように二人の騎士が現れる。

 彼らもまた、天竜人なのだろう。

「私の事はいい!! エマちゃんを助けてあげて!!! …うっ!!」

「くどい!! 大人しく来い!!」

「「シャクヤクゥゥ!!」」

 そうして、ガーリング達はシャクヤクを連れ去ってしまった。

 

 

           *

 

 

「そしてそれからしばらく経ち、ゴッドバレーの〝人間狩り〟でシャクヤクが賞品として島にいる事がわかった。そこから先はまァ……説明する必要もねェか」

「お前のその頬の傷、そういう経緯だったのか…」

「……そう、これは私の罪なの」

 エマは右頬にできた刀傷に触れながら、悲痛な表情を浮かべる。

 あの日の夜、そしてゴッドバレー事件におけるロックス海賊団崩壊を境に、エマは無茶な鍛錬を始めるようになった。それはまるで自分に罰を与え続けるかのようで、自責の念に駆られながら気絶するまで鍛錬を止めない姿は見てられないものだったと、王直とマーロンは述懐する。

 自分が自由で在り続ける為に強さを求め鍛錬を始めたクロエと違い、幼少期のエマは「無力だった自分を断罪する為」に()()()()()()()()()()のだ。一種のサバイバーズ・ギルトに近い状態に陥ってたのだろう。

「非道な世界でガキが傷つく光景なんざ腐る程見たが……自分(てめェ)義娘(ガキ)が罪悪感で追い詰められるのは見るに堪えねェモンだった」

「エマは言わば、ロックス海賊団の忘れ形見だ。おれ達も年を取った……この島の為にも、エマがボスになってくれると安心する。お前はロックスみたいなロクでもない匂いがするしな」

「マーロンの言う通りだ」

「最後の一言が余計だ、老いぼれ共」

 親心を自ら台無しにする古参海賊に、クロエはジト目を向けるのだった。

 

 

 その夜、ハチノスは宴の熱気に包まれていた。

 海賊は「飲む・打つ・買う」が大好きな性分が多いが、クロエ海賊団は比較的真面目な連中ばかりで、「買う」事に関してはほとんど興味がない。

 だが、船員同士でゲームや賭け事に興じる事は結構多く、実は打つ事に関しては強い一味でもあったりする。

「コール」

「……ロイヤル、ストレートフラッシュ…」

 不敵な笑みを浮かべるクロエに、マーロンは咥えていた葉巻をポロリと落として愕然とする。

「また私の勝ちだな、首領(ドン)・マーロン。これで3連勝だ」

「だァァァァ!! チキショー!!! もう一戦だ!!!」

「いいぞ、伝説の世代。頑張れ頑張れ」

 頭を抱える大御所ギャングに、観戦していた海賊達は大爆笑。

 そんな中、エマは小声でクロエに耳打ちした。

「ねェ、クロエってポーカー初めてでしょ…? いくらルールを丁寧に聞いたからって、マーロンさん結構強いよ…?」

「未来視を使ってるからな」

「イカサマしてるの!?」

「見聞色の覇気を使ってはいけないなどとは一言も言ってないからな。マーロンも見聞色を使ってたとしても、私には及ばん」

 小声で返すクロエに、エマは絶句。

 鍛え抜いた見聞色の覇気をギャンブルにフル活用するという、イカサマ師もドン引きの恐ろしくえげつない離れ業だ。

 もっとも「ゲーム中にイカサマを絶対してはいけない」と誰も公言していないので、こればかりは仕方ない。

「それよりも向こうも盛り上がってるぞ」

「!」

 クロエが示した方向には、コル寿郎が王直と対峙して「ライアーズ・ダイス」の賭け事に興じていた。

 ライアーズ・ダイスは各プレイヤーが5個のサイコロを振り、自分だけが見えるようにしながら、全員のダイスの中に特定の目がいくつあるかを宣言していくハッタリと推理が中心の賭け事である。

「3が四つ」

「クク……温室育ちめ。そんなに負けるのが怖いか? 4が三つ」

「余は賭け事に勝敗はこだわらない。天竜人も海賊も、このテーブルの前では誰であろうと一介のプレイヤーに過ぎない……平等な場の駆け引き程、心躍るものはない」

 海賊になった元世界貴族の主張に、王直は意外な表情をした。

 賭け事に興じる大抵の者は勝つ事にこだわるが、コル寿郎は違う。勝ちも負けも楽しむ生粋の遊び人であり、純粋に駆け引きを楽しみたいタイプなのだ。

「それと卿も海賊島の提督らしく、大博打に出ていいんじゃないか? 5が五つ」

「ぬぐっ…!!」

 挑発する王直を煽り返すコル寿郎。

 口元を歪ませる海賊島の元締めは、壺の中のサイコロの出目――5の目が三つと6の目が二つ――を確認しつつ、騙しにかかる。

「残念だがお前はおれに負ける運命だ、6の目が三つ!!」

「運命は自分で切り開くものだろう。6が四つ!」

「お前の運命はおれが握ってんだ!! 6が五つ!!!」

「〝嘘つき(ライアー)〟」

 その宣言に、海賊達はどよめいた。

 ライアーズ・ダイスはプレイヤーの宣言を否定すると、全員の壺をオープンにし、それぞれの出目と宣言を確認する。王直の宣言をコル寿郎は否定したので、ここで出目を確認するのだ。宣言した出目の個数より全員分の個数が少なかった場合は個数を宣言していたプレイヤーが負け、逆に全員分の個数が多かった場合は宣言を否定したプレイヤーが負ける。

 二人が壺を開けると、コル寿郎の壺のサイコロの目に6の目はなかった。コル寿郎の勝ちだ。

「信じられねェ…!!」

「提督がハメられた…!?」

「あんなガキに…!?」

 海賊島の無法者達は、元締めが見事にハメられた事に動揺を隠せない。

「……随分と…できるじゃねェか……」

「聖地に居た頃、父の奴隷であった海賊から色々と教わってな。よくその男と賭け事に興じていた。クロエ達のマリージョア襲撃の折、余がフィッシャー・タイガーの奴隷解放を手助けして以来は音信不通だが」

『お前とんでもねェ事してるな!!?』

 コル寿郎の告白に、ハチノスの海賊達は総ツッコミした。

 

 

 そんなこんなで酒と肴が進み、クロエ海賊団だけでなくハチノスの海賊達も酔い潰れていった。王直やマーロンも今はイビキをかいて爆睡中だ。

「寝ちゃったね」

「そっとしておいてやれ」

 ドクロの岩山の頂上で、夜の潮風を浴びながら胡坐を掻いて酒を飲むクロエとエマ。

 喧騒が静まり返った海賊島の上に昇る月は、雲に遮られることなく眩く輝いている。

「ねェ、クロエ」

「何だ」

「……海賊島のボスの継承、私やろうかなって思うんだ」

 エマが零した決意表明に、クロエは片眉を上げた。

「……また急な話だな」

「これから先、私達の活動は新世界中心になるよ? 白ひげ海賊団が崩壊した今、名実共に世界最強の海賊団になっちゃったんだ、海の覇権争いに否が応でも巻き込まれる」

 エマの言葉に、クロエは目を細める。

 〝白ひげ〟を倒した台風の目〝黒ひげ〟。超新星と謳われたキッドやロー達。新時代の海賊達がロックス海賊団・ロジャー海賊団出身の大海賊を相手に勢力争いを繰り広げる中、クロエ海賊団も間違いなく海賊達から狙われる。

 しかもクロエ海賊団は「〝ロード歴史の本文(ポーネグリフ)〟の写し全部」と「ラフテルの永久指針(エターナルポース)」という、世界中のあらゆる勢力が無視できない伝説級のお宝を修学旅行のお土産感覚で持っている。存在がバレたら一大事なのだ。

「ロックスのお頭さんやロジャー船長が生きてた頃の海とはもう違うんだ。この島を拠点にして〝巨大な争い〟に備えないと」

「む……」

 クロエは親友の言葉に唸った。

 〝白ひげ〟が世を去った事で世界は殺気立ち、勢力図は現在進行形で塗り替えられ、保たれていた均衡は破られた。すでに黒ひげ海賊団は白ひげのナワバリの大半を征圧し、彼の友人であるネプチューンが統治する魚人島はビッグ・マム海賊団の庇護下。百獣海賊団も傘下の拡大に勤しんでいる。

 今までは孤高の少数精鋭を貫いてきたクロエ海賊団も、自ずと海の皇帝に相応しい勢力を持つ事を考えなければならない時期に迫られているのだ。

「そういう意味では、海賊島(ハチノス)は保有している兵力もナワバリとしての価値も申し分ない…という事か?」

「この島には金鉱脈がまだあるから、カネには困らないよ。それにこのハチノスを率先して襲撃する奴はそうはいない…支配下に置こうと島に近付けば、あっという間に身ぐるみを剝がされちゃうからね」

 それが、ハチノスをナワバリにする最大の利点だった。

 五皇のような巨大勢力が組織を維持するには、相応の物資や資金が必要不可欠となる。故にナワバリとなった島々からみかじめ料や陸でなければ手に入らない物資を供給してもらい、海賊稼業を送るのだ。

 その中でもハチノスは、金鉱脈開発による莫大な富、そして次から次へと海賊が湧き出てくる無尽蔵とも言える兵力を有する。それをクロエ海賊団はエマが海賊島のボスになる事で何のリスクも伴う事なく手中に収められるので、他の大海賊だけでなく世界政府の各戦力に対する牽制という意味でも非常に都合が良い。

「……放置しても侵攻を受けない領海、か」

「まあ、本音を言うと故郷同然のハチノスを誰にも奪われたくないだけなんだけどさ」

 アハハ…と笑うエマに、クロエは溜め息を吐いた。

「ハァ……わかった。ここは私が折れよう。()()()()()支障が無いからな。しかし海賊島提督と私の右腕……二足の草鞋は大変じゃないか?」

「どっちもやるよ。私だってクロエと一緒に暴れたいからさ」

「全く、お前という奴は……」

 クロエは呆れた笑みを浮かべ、グラスに手作りのコーヒーリキュールを注ぐ。

「〝海賊島提督〟エマ・グラニュエールの誕生に、親友の私からプレゼントだ」

「これからもお手柔らかにお願いします、海の女王様」

 琥珀の瞳とライトグレーの瞳が重なり合い、口角を上げる。

 煌々と輝く月の下で、二人の女大海賊は乾杯した。

 

 

 翌日、エマは改めて王直に海賊島提督の継承を了承する旨を口伝。

 それを知った王直は感極まって号泣、マーロンも目頭を熱くさせ、海賊達は沸き立ち、早速エマの海賊島提督就任式を盛大に執り行った。

 なお、式の最中に王直は海賊島()()の座にちゃっかり就任する事を宣言し、クロエに「義理の娘の晴れ舞台を台無しにするな」と蹴り飛ばされたという。




というわけで、海賊島の一件でした。

本作ではマーロンは生存ルートで、彼の出番がもっと見たかった作者の身勝手です。情報次第では凶君も出せたらなと思ってます。ちなみにエマの銃の扱いは、マーロンから教わってます。
王直も、エマの育て親になってるからか原作と性格が多少異なります。ロックス海賊団の結成直後までは原作通りですが、エマを拾ってからはメンバーの誰かを嵌める事はやめてます。しばらくは周囲から「このバカどうした」という視線が突き刺さってたようですが。

そしてエマの右頬の切り傷は、ガーリングによって付けられたものと判明。
シャクヤク誘拐事件は、本作ではガーリングが直接海賊島に乗り込んだ事になってます。とんでもないバタフライエフェクトですね。
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