〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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ちなみに作者の一番好きなワンピキャラは、シャンクスからロックスに変わりました。


第109話〝エドワード・ウィーブル〟

 新世界「スフィンクス」。

 怪物的な雷名を世界中に轟かせた伝説の大海賊〝白ひげ〟の故郷であるこの島で、クロエは一味を連れた「墓参り」を終えて村に滞在していた。

「ティーチと戦ったようだな、エース、マルコ」

「ああ…あんな決着になるとは思わなかったけどな」

「あのタイミングで奴さえ来なければ…だよい」

 おにぎりを頬ばるクロエの問いに、二人はそう返す。

 

 今から数週間前、ポートガス・D・エースと〝不死鳥〟マルコ率いる白ひげ海賊団の残党達は、勢力を拡大する黒ひげ海賊団との全面戦争を仕掛けた。

 両軍の総力戦となる程の大規模な戦いは、バナロ島の時とは比べ物にならない強さに成長していたエースの奮闘もあって拮抗していたものの、そこへ何と〝金獅子のシキ〟が自らの一味を連れて介入。双方に自身の傘下になるよう脅迫するが、二人はこれを拒否。まさかのエースとティーチの共闘となるも、かつてのフールシャウト島でのクロエとの戦いで「昔の感覚」を取り戻したシキの全力を前に敗走する結果となったのだ。

 世間では一連の抗争を〝落とし前戦争〟と呼んでおり、戦争の勝者となったシキはそれ以上の事はせずに撤退、ティーチは共闘のよしみとして「黒ひげ海賊団はスフィンクスには一切手を出さない」という誓約をエース達と交わすという、かなり複雑な結末に終わった。

 

「……シキの奴、本気で世界征服を目論んでるのか」

 クロエは呆れた笑みを浮かべる。

 ロジャーが生きてた頃から「支配」を掲げたシキ。フールシャウトでの死闘でもその信念は変わらず、そして今も諦めずあの手この手で成就せんと企んでいるらしい。

「……それより、こいつは何だ? エース、マルコ」

「知らねェよ!!」

「オヤジの実の息子だか何だかっつってたが……」

 丸太に腰掛けるクロエの前では、体の一部にツギハギの傷跡を持つ巨漢がボコボコの状態で倒れていた。

 

 その名は、エドワード・ウィーブル。

 頂上戦争後に王下七武海に加入した男で、何と()()エドワード・ニューゲートの「実の息子」であると豪語している海賊だ。

 ただし外見は三日月型の髭以外はほとんど似ておらず、性格も白ひげと違ってかなり短気であるが。

 

「ウ~ン……おでよりつよい~…」

 完全に目を回して倒れているウィーブルを、無傷のクロエが見下ろす。

 これでもウィーブルは「強さだけなら若い頃の白ひげのよう」と称される程の戦闘能力を有しているらしいのだが……世界最強の女海賊との実力と経験値の差は歴然だった。

 すると、豹柄のコートを羽織った成金っぽい容姿の小柄な老婆――〝白ひげの愛人〟を自称するミス・バッキンがクロエに怒鳴りつけた。

「〝神殺しのクロエ〟!! よくもウィーブルをコテンパンに!!! アタシとニューゲートの愛の結晶を…!!!」

「分を弁えず私に喧嘩を売るからだ。教育はしっかりしろ、私だってヤマトの子育ては懇切丁寧にやったぞ」

「おめェの娘は義理だろうが!! アンタも血縁を疑ってんのかい!!?」

「そうは言ってないだろうが……」

 涙を流して喚くバッキンに、クロエが面倒臭そうな表情になる。

 それを眺めていたエース達やクロエ海賊団も半信半疑で、どうせ噓八百を並べているんだろうと呆れていた。

 しかし、エマだけは違った。

「えっとさ……私としてはワンチャンあると思うよ?」

『ハァ!!?』

「ああ、エマ!!! やっぱりアンタだけは疑わないと信じてたよ!!!」

 エマの言葉に誰もが驚愕し、バッキンは喜びの声を上げて抱き着いた。

 一体どういう事なのか尋ねると、エマはこう返した。

「白ひげのオヤジさんもバッキンガムさんも、ロックス海賊団の古参メンバーなんだよ。ロックスのお頭さんから聞いたから」

「オヤジとこのババアが仲間だったのか!!?」

 胡散臭い老婆と偉大な船長が同じ海賊団にいた事実に、エースは口をあんぐりと開け、他の面子も同様の反応を見せた。

「エマちゃん、本当にそういう関係だったの? この婆さんめっちゃ胡散臭いんだけど」

 クザンが尋ねると、エマは「十分あり得る」と断言した。

「バッキンガムさんは〝科学強盗〟。何らかの形で遺伝子を拝借したのかも。ベガパンクとも面識があったっぽいし」

「ああ、それなら血縁が同じっていう理屈は通るな」

 親友の説明に納得したクロエは、そういえばと何か思い出したように口を開いた。

「老いぼれ、ニューゲートの遺産とか何か言ってたな?」

「礼儀のなってない小娘だね!! エマを見習いな!!」

「やかましい。それより、ニューゲートは宝の取り分は全部仕送りとして故郷に送ってたから、手元には何もないとか言ってたぞ」

「ハァ!!?」

「貯金が趣味で、安物を好む奴だからな。良く言えば堅実、悪く言えばケチってところだ」

 クロエの証言に、バッキンは愕然とする。

 元ロジャー海賊団として、そして同じ五皇として海に君臨してきた彼女の発言の信憑性を考えれば、本当である可能性は高いだろう。

「誰よりも「家族」を欲していた海賊〝白ひげ〟にとって、家族という概念こそが莫大な遺産だったんだ。まさか、若い頃の元仲間に金銀財宝と勘違いされて狙われるとは、夢にも思ってなかったんだろうがな」

「あの時代の海賊(ひと)らしいね、全く!」

 顔を見合わせて大笑いするクロエとエマだが、バッキンとしては堪ったものではない。

 苦労して新世界を航海したのに、遺産の正体が目に見えない「絆」だとすれば、手に入れたくても手に入れられるわけがないのだから。

「うう……これじゃあ、アタシの長年の苦労が……」

「争いというものは、ほんの些細な行き違いや思い違いで起こるものじゃのし」

 パイプを咥えて紫煙を燻らせるナグリの言葉が、白ひげ遺産問題の全てな気がする一同だった。

 

 

 その後、意識を取り戻したウィーブルにクロエが事情を説明。

 バッキンの望みの物ではなかったものの、本人は今まで母に言われ敵視していたエース達こそが父親の真の遺産だと理解し、熱い涙を流した。

()ーたんの遺産がお前らなら、おでがお前らを守るんだど!!!」

「素の性格は確かにニューゲートに寄ってるな……」

「余計に血縁が本物の可能性が高まったね」

 呂律の悪さはともかく、誰かの為に見返りなく圧倒的な力を振るう点に関しては白ひげと酷似している。

 少なくとも、エース達に対する悪感情はなくなったようだ。根はいい奴なのかもしれない。

「とはいえ、これで人騒がせな遺産問題は解決ね」

「だが、あくまでも誤解が解けたのはこの二人だけ。巷はどうかは知らぬぞ? 世界政府や海軍もどう思ってるか…」

「まァ、部隊率いて()りに来るだろうな…」

 ステューシー、マクガイ、ドーマは冷静に遺産問題は解決したとは言い難いことを指摘する。

 それはクロエも同意見で、真実を知らずに遺産目当てで様々な勢力の人間がやってくる可能性が高いと予想された。

「まァ、七武海として〝火拳のエース〟の監視だって押し通せば問題ないだろうけど、伝説と呼ばれる海賊達はまだ多いよ。その中でもブランクの長い〝金獅子〟にこうも散々な目に遭うと、この先心配なんだけど?」

「うっ…」

 エマの厳しい一言に、エースが痛い所を突かれたような表情になる。

 しかし、それが現実だ。心技体を鍛え抜き覇気を極めれば「〝悪魔の実〟の上下関係」をひっくり返す事も可能であり、能力による攻撃を無効化する事もできる。ポテンシャルをいかに引き出せるか――それが覇者への道なのだ。

「覇気は認識してコントロールできてこその〝力〟だ。…努々忘れるな、エース」

「あ、ああ……」

 エースは心身に刻み込むように深く頷くと、クロエはウィーブルにも忠告した。

「ウィーブル。部外者の私が言うのもアレだが、完全な善意で言わせてもらう。……ニューゲートの敵討ちは()()やめておけ」

「え? おで、黒しげをぶっ殺したいんだど!?」

「その気持ちはわかるが、今はそれを押し殺して散り散りになった残党達をかき集めて兵力を増強しろ。この先、大海賊時代開幕直後の動乱を超える乱世になるかもしれない」

 

 

 白ひげ海賊団残党及びウィーブル親子と別れ、クロエ海賊団はスフィンクスを出航した。

 オーロ・ジャクソン号の甲板では、クロエが欄干で頬杖をついて酒の入った瓢箪を傾け、コル寿郎が煙管を吹かし、クザンがシェリー酒を呷っていた。

「乱世、か。今以上に世界が荒れると?」

「こないだの徴兵で世界中の加盟国の防衛力が弱体化したんだぞ? 革命しやすい状況になった上、海賊からすれば侵略し放題だ。〝神の騎士団〟の動きも気になるしな」

「確かになァ…」

 クロエの言葉に、クザンは難しい顔で同意した。

 彼女の言う徴兵とは、サカズキ新体制の海軍本部の戦力を強化する施策「世界徴兵」である。

 先の頂上戦争による甚大な損耗に加えて大将が二人も欠員となった上、白ひげという抑止力を失った新世界は力を付けた新世代の海賊達が暴れ回り、革命軍も活発化してきた事で、世界政府は危機感を募らせていた。

 そこで新元帥であるサカズキは、世界中の加盟国から優秀な人材を募って大量に確保し、兵力不足になっている海軍本部の人員の穴埋めを画策。これにより新たに〝藤虎〟イッショウと〝緑牛〟アラマキの二人が大将に特任され、海軍は以前より強力な軍隊になったのだという。

「下界には大将を任せられるような強者が一般人に紛れているのか」

「マジかよ、そんな奴ら在野で眠ってるのか……」

 コル寿郎とクザンは唸るように驚くが、クロエはその徴兵制が仇となると予測している。

 世界中から猛者を募ったのはいいものの、それは世界政府加盟国の国防を担っていた兵士を引き抜いたという事であり、各国の戦力は必然的に低下している。その隙を見て革命軍や海賊が多く現れれば、自国の軍事力だけでは抑え切れなくなるのは明白だ。

「私としてはどうでもいい話だが……軍子達も黙ってないだろう。今の私達にとって一番厄介な敵だからな」

「五老星のおじじ様達も本格的に動くとなると……世界規模の大戦もあり得るな。真の王もどんな下知を下すか……」

「世界の均衡が大きく揺らいでるのは間違いねェな」

 クロエの推測に、コル寿郎とクザンも不穏な空気を感じ取る。

 その時、見張り台にいたデラクアヒと(アー)(オー)が叫んだ。

「敵船だどォ~~~!!」

「海軍だァ!!」

 その報せに、船内は慌ただしくなり、エマ達は甲板に集結した。

 クロエは瓢箪の中の酒を飲み干すと、バリバリと覇王色の覇気を発し始めた。

「誰が乗ってる?」

「軍艦が二隻!!」

「それも……ガープとゼファーだ!!!」

『ハァ!!?』

 まさかの二人の出現に、皆が耳を疑った。

 老いたとは言えど、ゴールド・ロジャーの時代を生き抜いた百戦錬磨の伝説の海兵二人が相手となれば、クロエ海賊団も無傷では済まない。

 いや、それ以前に気になる事が一つ。

「アレ!? ガープって引退したんじゃなかったっけ!?」

「……クザンを連れ戻す為に、私に戦争を仕掛けるって事か」

「マジかよ!?」

 エマが困惑する横で、クロエが睨むようにクザンを見る。

 その気配に気づいたクザンは冷や汗をかいて困惑すると、ラカムが詰め寄った。

「おいクザン! お前、ガープとゼファーとはどういう関係だった」

「え? あ、いや…おれァガープさんの一番弟子で、ゼファー先生からは真面目な優等生呼ばわりされてただけだが……」

『絶対お前が目的だろ!!!』

 ラカム達からの総ツッコミに、クザンは頭を抱えた。

 すると、軍艦の方から伝説達の声がメガホン越しに響いた。

《おい、クザン!! 今からお前の根性をこの黒腕で叩き直してやる!!!》

《こちらガープ、こちらガープ!! 〝黒ひげ〟よりはマシじゃが、海賊になるのは許さんぞォ!!! すぐ戻ってこないとお仕置きの〝拳骨衝突(ギャラクシーインパクト)〟じゃからな!!!》

「それ殺しに来てませんかねェ!!?」

 恩人達の殺意の高さに、クザンは逃げたくなった。

 確かに、二人の言う通り海軍に戻るのも選択肢としてはアリだし、クロエも脱退自体はちゃんと教えてさえくれればいいとも言っていた。だがサカズキの下にいられないのは紛れもない本心だし、何よりやりたいようにやる気ではいてもガープとゼファーとの抗争は避けたいのも本音だ。

 しかし現実は非情であり、クザンの願いを聞き入れなかった。

「クザン、海を凍らせろ!! 総員、出撃準備!!!」

『ハァ!!?』

 やはりと言うべきか、クロエは何の躊躇いもなく迎撃を選択。

 覇気を漲らせて戦う気満々の船長の姿に、一味の面々は唖然とした。

「あー、もう!! こうなったら沈めて奪えェ~~~!!!」

 とうとうエマもヤケクソになり、戦闘は避けられないと悟った一味の面々は各々の得物を構えて覇気を纏い始める。

「……おれ、乗る船間違えたかな……」

「諦めろ大将殿…今夜は奢るぜ」

 海軍から「最大の汚点」とまで言われたガスパーデに、優しく肩を叩かれて慰められるクザンであった……。

 

 

           *

 

 

 その頃、新世界カライ・バリ島。

 新たに王下七武海に加入した〝千両道化のバギー〟率いるバギー海賊団は、思わぬ人物を出迎えていた。

「おい、何であいつがここに……!?」

「やっぱり、キャプテン・バギーを頼ってきたんじゃあ……」

「流石だぜ、おれ達のキャプテン・バギーは!!」

 海賊達は、突如現れた生ける伝説を見て興奮していた。

 バギーにとっては年上のちょっと怖い兄貴分であり、世間にとっては全てを破壊する災厄の類である、ロジャーとクロエ以外の呼びかけに応じる事のない無頼漢――〝鬼の跡目〟ダグラス・バレットだ。

「政府の狗とは随分と出世したな、赤っ鼻」

「誰が真っ赤な血に染まった鼻だァ!! ……じゃねェよ!! 何の用なんだよ、バレット!!」

「んなもん決まってんだろ」

 バレットは碧眼で弟分を見据え、ある話を持ち掛けた。

 

「おれと手を組め、赤っ鼻」

 

「――はいィィィィ!!?」

 想像だにしない内容に、バギーは目玉が飛び出る程に驚いた。

 極端な個人主義者で誰の仲間にもなりそうにない男が、同じ船の乗組員だったとはいえ同盟の提案をしてきたのだ。

「な、何でまた一体……どういう風のフンドシで……?」

「吹き回しだよ、バギー」

 狼狽しきっているバギーに、アルビダは呆れたように肩を竦めた。

「おれの最強への野望の為だ。てめェが〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟について知ってるとホラを吹きゃあ、この海のあらゆる強者達がてめェの首を獲りに来る。それをおれが皆殺しにすりゃあ、世界最強になれる」

「ワー、スバラシイアイデアデスネー…」

 そんなヤバい計画に巻き込むなと、バギーは泣きたくなった。

 しかし、ふと彼は思った。

(待てよ? もしバレットと手を組めば、万が一にも七武海の地位を剥奪されても海軍はおいそれと手出しできなくなるぞ……!)

 自分一人を捕らえる為にバスターコールが発令したという伝説を持つバレットの強さは、海賊達の頂点である五皇に匹敵する。

 それ程の凄腕の猛者が後ろ盾となってくれれば、海軍と世界政府は迂闊に攻め滅ぼそうとしないだろう。バレットの戦闘狂ぶりを考えれば、戦争になったら海軍の方が不利になる。そんな博打のような戦いを、仕掛ける余裕はないはずだ。

 バギーはそう考え、ニヤリと笑みを浮かべて承諾した。

「その話乗ったぜ、バレット!!!」

「フン、最初からそのつもりだったろうが」

 調子のいいバギーに、バレットは仏頂面で溜め息をつくのだった。




次回から新章突入になります。
世界の王がついに動き出す…!
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