〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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ついに第三章になり、110話目にもなりました。
読んでくださってる皆様方、今後ともよろしくお願いいたします。

そういえばクロエの異世界生活も面白いなと思ってたんですけど、本作を更新すればする程彼女は他作品に向いてない気がしてきました……。
彼女、自分の強さと弱さと想いを真っ向から受け止められる人間…というかロジャー以外の人間の命令は聞かないので。
鬼滅の刃だったらお館様や無惨様でも制御不能だし、呪術廻戦だったら上層部滅ぼしそうだし。
あ、でも姉貴分気質なので炭治郎達や虎杖達の面倒見はよさそう。


第3章 神との決戦
第110話〝クロエの時代〟


 この世界の海の覇権は、時代によって移り変わってきた。

 

 今から40年程前はロックス・D・ジーベックが率いる「ロックス海賊団」が世界を震撼させ、崩壊後はゴール・D・ロジャーが前人未到の〝偉大なる航路(グランドライン)〟制覇を成し遂げて海の覇者となった。

 その後、ロジャーが生まれ故郷である〝東の海(イーストブルー)〟のローグタウンで処刑され、大海賊時代が始まってからは、彼の最大のライバルであった〝白ひげ〟エドワード・ニューゲートが海の王者となった。

 そして、その白ひげも2年前のマリンフォード頂上戦争にて戦死。死の間際にロジャーが手に入れたとされる〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟の実在を世界に知らしめ、更なる動乱の時代へと進んだ。

 

 そんな白ひげ亡き後の現在の大海賊時代の頂点こそ、30年近く前のロジャー全盛期に〝神殺し〟の異名を持つ一匹狼の女海賊として台頭し、後に彼の部下となって猛威を振るった女海賊――〝鬼の女中〟クロエ・D・リードだ。

 気の向くままに暴れ世界的な事件を引き起こしながらその名を轟かせる彼女は、「ロックス」「ロジャー」の二つの伝説の系譜を継ぐ強豪海賊団を率い、新世界の海に君臨している。 

 

 大海賊時代開幕後、海に跋扈する伝説と呼ばれる海賊達の頂点は、白ひげからクロエに代替わりしたのである。

 

 

           *

 

 

 新世界、ウォーランド王国。

 世間では「エルバフ」と広く知られる世界一の強国に、世界最強の女の海賊団が上陸していた。

「ここがエルバフか……」

「何て壮大な……!」

「ルイ・アーノートの「ブラッグメン」の記述通り、何て神秘的な土地だ…」

「ムチゴロウやケロジイにも見せたかった……」

 言葉では正しく表すのが難しい絶景に、思わず感嘆の声を漏らす。

 すると、案内役である巨人族の女性――リプリーが朗らかに笑った。

「クロエちゃんが来るの待ってたのよ!! ヤルル様がどうしても会いたいって言ってたしね!!」

「ヤルル様? この国の王か?」

「巨人族の長老よ。この国の王は不在のはず」

「……どうやら、相当ややこしいようだな」

 王位継承問題が複雑化していると察し、クロエは頭を掻く。

 すると、こちらへ向かってくる気配を感じ、その方向へ顔を向けた。

「……ただのやんちゃ坊主か、戦士の血が騒いだか……」

「クロエ」

「お前達は手を出すな、私が相手する」

 クロエはコートをなびかせ、愛刀の柄に手を掛ける。

 少し待つと、ピンク色の髪の毛で兜を身に付けている巨人族の少年が、木製の剣を両手で構えて襲い掛かった。

「見つけたぞ、〝鬼の女中〟ーーっ!!!」

「コロン!!」

 

 ギィン!

 

 クロエは微動だにせずに抜刀し、片手持ちで巨人族の少年――コロンの渾身の一撃を受け止める。

「うっ…!?」

「私に刀を抜かせるとは、中々骨のある小僧だ」

 そう微笑みながら、クロエは覇王色の覇気を放出。

 その〝圧〟によってコロンは吹き飛ばされたが、すぐさま起き上がって目を輝かせた。

「スッゲェ~~!!! これが〝世界最強の女〟!!!」

「コロン!! いきなり戦うのはダメだよ!! でも筋はいいよ!!」

「えへへ!! だって母ちゃん、おれ会いたかったんだもん!! シャンクスの姉ちゃんなんだぜ!?」

『母ちゃん!?』

 リプリーに諫められるコロンに、クザン達は驚いた。何と、二人は親子だったのだ。

 だが、それよりも気になる言葉が飛び出ていた。

「シャンクス? あいつも来てたのか」

「うん!! ウタの姉ちゃんと仲良くなったんだ!! スッゲェ歌が上手だった!!」

「だろうな。私も自分の知る限りではあの子を超える歌い手はいない」

 クスクスと思い出すように笑うと、クロエは挨拶をした。

「クロエ海賊団船長、クロエ・D・リードだ。よろしく」

「おれ、コロン!! ねェ、クロエ!! おれを海へ連れてってくれよ!!」

「……ふむ、度胸は本物のようだな。筋も悪くない。――だが、まだ足りんな」

 

 ドスンッ…!

 

「…え? うえェェ!?」

 突如、コロンが手にしていた木剣が根元から斬られていた。

 いつの間にか居合抜きを放っていたクロエは、静かに納刀する。

「私の〝神解〟を見切れるか受け止められるくらい鍛えたら、考えといてやる」

「子供に無理難題を突きつけちゃダメだよ?」

「この世に不可能なんて事はないだろう」

 呆れ返るエマに、クロエはしたり顔で答えた。

 

 

           *

 

 

 同時刻、魚人島。

 2年の修行を経てパワーアップし再集結した〝麦わらの一味〟は、元王下七武海〝海侠のジンベエ〟に誘われていた。

「まずはオトヒメ王妃の一件…本当にありがとう。お前さん達のおかげでクーデターも最小限の被害で食い止められた。……ルフィ君は魚人島の英雄じゃな」

「えーっ!? おれヒーローになりたくねェってのに!!」

「ハハハ、わかっとる。じゃが魚人島の多くの国民はそう思っとるのは覚えておくんじゃな」

 顔をしかめるルフィに、ジンベエは苦笑いを浮かべる。

 しかし、すぐに真面目な顔つきになって一味に問いかけた。

「お前さん達には、今の世界情勢について二つ話しておかねばならん」

『!!』

「まずは、〝赤犬〟と〝青キジ〟の大喧嘩の末の事じゃ」

「え~っ!? 〝赤犬〟と〝青キジ〟が大喧嘩!!?」

 驚きを隠せないルフィに、ジンベエは「あんな大事件すらも耳に入っとらんのか、修行中は」と若干呆れながら説明した。

 

 2年前の頂上戦争後、センゴク元帥が職を降り、海軍元帥の席が空いた。

 センゴク自身は部下からの信頼の厚いクザンを推したが、政府上層部からはサカズキを推す者が多かった。

 普段はだらけきってるクザンだが、サカズキの元帥就任に強く反発し、10日にも及ぶ決闘で両者壮絶な深手を負った末にクザンは敗北。海軍の指揮はサカズキの手に委ねられた。

 

 ルフィは頂上戦争の撤退時、サカズキの能力で大火傷を負わされた因縁がある為、胸の古傷がズキ…と痛むのを感じた。

「そして〝青キジ〟は、海軍を出たのよね……」

「じゃあ、あいつは海兵じゃねェのか!!」

 ロビンの言葉に、フランキーは目を見開いた。

 海軍の最高戦力が軍を辞めたとなると、世界政府としてもかなりの痛手だろう。

「ああ……じゃがその穴を埋める為に政府がとった「世界徴兵」という策は、海軍に思わぬ力を与え、より強力な正義の軍隊となっておる。これがお前さん達に伝えるべき事項の一つ目じゃ」

 ゾロは怪訝そうに腕組みをして眉間に皺を寄せる。

「もう一つは何だ?」

「もう一つは……今の新世界は、今までの新世界よりも危険という事じゃ!!」

 ジンベエは二つ目の事項について語り出す。

「白ひげのオヤジさん亡き後…黒ひげ海賊団とエースさんを筆頭とした白ひげ海賊団の残党達との間に戦争が勃発した」

「エースは黒ひげと戦ったのか!?」

「ああ。頂上戦争の時とは比べ物にならん強さを得てな」

 ジンベエの言葉に、ルフィはニカッと笑った。

 大切な義兄が、より強くなって元気にしていると思うと、自然と笑みが零れるものだ。

「そんで、勝ったのかエースは!?」

「……いや、敗れた」

「え…!?」

 信じられない情報に、ルフィは絶句した。

 しかしジンベエは、ティーチに負けたわけではなく、思わぬ敵の介入によるものだと説明する。

「その敵は、エースさんがティーチと共闘しても倒せんかった古豪の猛者……ゴールド・ロジャーの宿敵の一人〝金獅子のシキ〟じゃった。無理もない…!」

『海賊王の宿敵!!?』

 まさかの超大物に、ルフィだけじゃなく一味全員が驚愕する。

 ロジャー時代の生き残りである伝説の大海賊が、エースの前に立ちはだかったのだ。

「シキは〝フワフワの実〟の能力者…空中戦を得意とする大海賊じゃ。エースさん達は黒ひげ海賊団と共闘したが、その圧倒的な強さに敵わず敗北した」

「ルフィの兄ちゃんとおれの故郷を滅ぼした奴が手を組んでも、そのシキって海賊に勝てなかったのか……!!」

 チョッパーはシキの強さに唖然とした。

「ティーチは白ひげのオヤジさんに代わって五皇の一人となっておるが、新世界には金獅子を筆頭に五皇に匹敵する伝説達が巣食っておる。その中でも取り分け凶暴なのが、ダグラス・バレットじゃ」

 ジンベエの挙げた名前に、ロビンの顔色が変わった。

「〝ガルツバーグの惨劇〟……あの大虐殺を引き起こした海賊ね……!!」

「〝ガルツバーグの惨劇〟…って何ですか、ロビンさん」

 首を傾げるブルックに、ロビンは語り始めた。

 

 三十年程前、〝偉大なる航路(グランドライン)〟には内戦の絶えない軍事国家が一人の少年兵によって滅亡するという大事件があった。世界政府の報道管制によって表向きは「無かった事」にされたが、その主犯の少年兵は海に出て海賊となり、ロジャー海賊団に入った事で有名になった。

 それが〝鬼の跡目〟ダグラス・バレット――世界最強の女と謳われるクロエ・D・リードの弟分にして、海賊の世界の「最強談義」で必ず名が挙がる「一人海賊」である。

 

「〝鬼の女中〟と共に「ロジャー海賊団の双鬼」として恐れられ、若き日の二人の強さはロジャーに迫る強さだと聞いてるわ」

「戦争ん時、スゲェ強かったおっさんだな!!」

「あの男が戦争に殴り込んだせいで、白ひげ海賊団の崩壊は始まったんじゃ。まァ、今思い返すと複雑極まりないが……」

 ジンベエは苦い顔をする。

 ある意味ではエース救出の遠因であり、白ひげ自身も時代にケジメをつけるつもりであった為、どの道「白ひげの旗」の力が弱まるのは避けられなかっただろう。

「……そしてルフィ。お前さんが〝海賊王〟を目指す以上、五皇との衝突は避けられん。少しでも奴らの情報を得てから進め」

「ん~…シャンクスとクロエは知ってるけどなァ…」

「では、改めて説明するかのう」

 ジンベエは、自身の主観も含めて海の皇帝達を語った。

「まずは穏健派である〝赤髪のシャンクス〟。海賊王の一団の見習いとして幼少期を過ごし、あの〝鷹の目のミホーク〟との決闘の日々は今でも語り草…! 互角に渡り合ったが、実質世界で二番目の剣豪じゃろう」

「幹部達は個々で名を挙げる強豪揃いで、一味は「鉄壁の海賊団」と称されているわね」

「〝鷹の目〟と互角…」

 ミホークに二年間鍛えられたゾロは、興味津々に聞き入る。剣士としての血が騒いだのだろう。

「次に〝黒ひげ〟マーシャル・D・ティーチ。白ひげ海賊団時代の知識と、オヤジさんから奪ったグラグラの能力(チカラ)を生かして遺された海域を瞬く間に制覇し、五皇に上り詰めた」

「まんまと白ひげの後釜に座ったわけ? 食えない奴!!」

 吐き捨てるナミに続いて、ジンベエも「誠に憎たらしい男よ…!!!」と同意してから()()()を伝えた。

「…噂によると、奴らは今〝能力者狩り〟に奮起しとる。どういう訳か、能力者を殺してその能力を奪い取る術を奴らは持っておるんじゃ。黒ひげ達の狙いは、より強い悪魔の実の能力…! 気をつけろ」

「ヤベェ!! おれ!!」

 戦慄するチョッパーに、ウソップはジト目で「〝ヒトヒトの実〟はいらねェだろ…」とツッコミを入れた。

 ティーチの狙いは言い返せば、弱い能力は標的にしないという事であるのだ…。

「続いて、今の魚人島をナワバリにしとる〝ビッグ・マム〟じゃ」

『!!』

「本名はシャーロット・リンリン…大海賊時代以前から活動している古参海賊で、海軍からは「生まれついてのモンスター」と称される程の狂暴性と実力を持つ怪物…!! 中心となる血縁者だけで数百人、総戦力は1万は超える」

「い、1万…!?」

 あまりにも巨大な組織である事に、ウソップは震え上がる。全面衝突となれば、今の麦わらの一味では到底勝ち目は無いだろう。

 しかし、それ以上に厄介なのがビッグ・マム海賊団の情報力だとジンベエは語る。

「ビッグ・マムは海賊業界一の情報通…!! お前さん達の〝弱み〟もすぐ把握されかねん…なるべく逆撫でせん事じゃ」

「ちっ、()()()()()かよ…」

 タバコの紫煙を燻らせるサンジは、苦虫を噛み潰したような表情になった。

 つまり、その気になれば故郷や大切な人間をいつでも人質にし、殺しに行くという事だ。これ程までに凶悪で強力な脅迫はないだろう。

「そして〝百獣のカイドウ〟…この世における最強生物と称される海賊で、あのクロエの「永遠のライバル」じゃ!!!」

「最強生物…!? まるで人間じゃないような言い回しですね…」

 ブルックはカイドウの評判に冷や汗を流す。

「まァ、本人は至って人間族じゃがな……しかし戦闘力は文字通りの規格外!! 政府からは()()()()()()()()()が畏怖される始末じゃ」

「ヤバすぎるだろ!! そんなのに出くわしたら即全滅じゃねェか!!!」

「そうじゃな…海賊団の「層」も厚い。挑むとすれば、より強くなって万全を期してからでないとすぐ()()()じゃ」

 震え上がったウソップは、ジンベエの助言に深く頷いた。

 そんなのに遭遇した時点で、逃げる事を考える方が賢明だろう。

「最後に、現時点の世界最強の海賊である〝鬼の女中〟クロエ・D・リードじゃ」

「!!」

「クロエは元々、海賊王の時代から〝神殺し〟の二つ名で活動していた一匹狼。今のルフィと大よそ同じ年頃で9億を超える高額賞金首じゃった。その後、ゴールド・ロジャーの部下となってさらなる悪名を馳せ、多くの大物海賊を従えてオヤジさんと肩を並べた」

「〝孤高の少数精鋭〟……それがクロエ海賊団の異名ね」

 ロビンの補足に、ジンベエは続ける。

「船長自らが「戦闘の達人」と呼ばれる程の圧倒的な強さを持ち、それに連ねるように新世界の船長レベルの猛者共が揃っておる。統率力も高く、海戦にも強い……!! 兵力こそ最小規模であるが、個々の戦闘力の高さは五皇随一じゃ」

「隙のねェ連中って事か……」

「それだけではないぞ。覇気の練度も五皇で一番高い。今のお前さん達が挑むには早すぎる。他の五皇にも言える事じゃが、少なくとも勢いで勝てるような生易しい相手じゃない……ってルフィ!!! 聞いとんのかわりゃあ!!?」

 途中から肉を食い始めたルフィに、ジンベエは目が飛び出る勢いで怒鳴り散らした。

「貴様船長じゃろうがい!! たとえ仲間が聞いていたとしても、自分自身で最低限の情報は頭に入れておけ!!!」

「ま~ジンベエ~楽に行こう!! おれ出たトコ勝負好きだし!!」

「――お前ら大変じゃのう……」

『そうなんだよ』

 ジンベエは自由奔放過ぎる船長(ルフィ)と付き合う一味に、心の底から同情したのだった。

 

 

           *

 

 

 エルバフでは、クロエ海賊団が巨人族の代表である長老〝山ひげのヤルル〟に誘われて村の宴に参加していた。

「ボジャジャジャジャジャ……客人達よ、楽しんでくれて何より」

「ええ、楽しませてもらってるわ♡」

「ヘラジカの肉、気に入った。お礼に素潜りで何か獲って来ようか? 水泳はよくやるんだ」

「ボジャジャジャジャジャ…礼など構わぬ、お主らは客人達だ。気持ちだけは受け取っておこう」

 クロエとステューシーのクールビューティ組は、ヤルルと酒を飲み交わして談笑する。

「クロエ、他の皆は?」

「ナグリ達はそこでギャバンと飲んで、ノリのいい奴らはあっちで踊ってる」

 大きな盃の酒を飲みながら、クロエは村の広場の踊りを指差す。

 その先では、エマを筆頭にクロエ海賊団のメンバー達が村の巨人達と仲良く「ドンドットット♪ ドンドットット♫」と口ずさみながら踊っており、隣の巨大なテーブルでは〝海賊王の左腕(スコッパー・ギャバン)〟がレッドフィールド達と酒盛りをしていた。

 久しぶりの顔馴染みに「あとで一対一(サシ)の付き合いをするか」と呟きながら、クロエはヤルルに一つ尋ねた。

「ヤルル……あの踊りはこの村の伝統か?」

「エルバフには太古より伝わる神典「ハーレイ」があるのだが、古き言葉ゆえ解釈は多岐に渡る。それによると世界は二度壊れており、その都度〝太陽の神ニカ〟の存在が刻まれておるのだ」

 ヤルル曰く。

 ニカに関しても読み手によって世界を救う為に現れる「英雄」とも解釈すれば、世界を壊す「破壊神」とも解釈されており、正確なところは不明だという。

 しかし白い雲を纏った全身真っ白な姿である事や、ニカが現れる際には「解放のドラム」というリズムを鳴らして大笑いしながら登場するなど、共通点も多いらしい。

「その伝説の名残が、あの珍妙なリズムか」

「左様。……そしてニカを〝破壊神〟と捉え、わしに仲間になるよう打診してきた者がいた」

「誰だ?」

「アンディ・リード……クロエ、お主の高祖母に当たる海賊じゃ」

 ヤルルの告げた人物に、クロエとステューシーは目を見開いた。

 アンディ・リードは、かつて黒ひげ(ティーチ)から聞いたアン・D・リードというテロリストの別名。ヤルルの証言では、彼女は海賊行為も行っていたらしい。

「アンはお主と同じ、血の色の刃をした剣を腰に差した強大な覇気使い……!! 彼女は世界各地でテロ行為を重ね、世界政府に怒りを抱く者・迫害された者をかき集めておった」

「それで……お前にも用が?」

「うむ……彼女はわしにこう言った」

 

 ――世界は一度やり直すべきだ!!! 私の計画と地震能力、お前達の兵力があれば完膚なきまでに世界政府を破壊し、国々が〝汚れた神々〟から解放される!!! 私と共に来い!!! 

 

()()()()ですって!!?」

「〝グラグラの実〟の持ち主だったのか、私のご先祖は!!?」

 衝撃の事実に、クロエとステューシーは仰天した。

 まさかアンが悪魔の実の能力者で、それも白ひげよりずっと昔の〝グラグラの実〟の前任者であったとは!

「あなたのご先祖様、とんでもない女ね……」

「ハァ……納得がいった…たかが反逆者一人になぜ政府はビビり散らしてたんだと思ってたが…」

 ドン引きするステューシーに、溜め息交じりにボヤくクロエ。

 ただでさえ数ある超人(パラミシア)系悪魔の実の中でも最強と謳われるというのに、その能力者が世界転覆を目論むようなヤバい女だったのだ。必死に記録からも記憶からも抹消したくもなるだろう。

 世界政府にとって、アンディ・リードは恐ろしい魔物のような存在で、それを思い出させる名前すら聞くのも嫌だと思えたのかもしれない。

「……貴様は断ったようだが、なぜだ?」

「……アンの行動は、本当に世界を滅ぼしかねんかったからじゃ」

 ヤルルは述懐する。

 アンディは自らの思想を「世界回帰」と呼称し、天竜人及び世界政府を解体して世界全体を自由にするという考えを持っていた。しかしそれを実現する為に道理も利益も度外視し、政府直轄の機関や領地をひたすらに破壊し尽くしていた。ヤルルは彼女の言いたい事は理解していたが、その破竹の進撃には恐怖を覚えていた。

 

 ――世界をやり直す為に、世界を殺す。

 

 目的を果たすまで破壊を止めない彼女の暴走でエルバフも災禍に見舞われる事を恐れ、ヤルルはその誘いを断ったのだ。

「……彼女に関する物はほとんど抹消され、記憶にくっきりと残っておるのはわしと相棒のヨルルだけ。そのヨルルも死に、在りし日の彼女を語り継ぐ者はもうおらぬ。ならばせめて…」

「子孫にだけでも伝えておきたいというエゴか。……ありがとう、恩に着る」

「わしも彼女の事を嫌いにはなれんかったし、悪友としても悪くなかった。……生まれるのが()()()()、考えを改めて世界を変えたのかもしれん」

「……ちなみに、アンディ・リードの言っていた計画って何かご存じ?」

 ステューシーの質問に、ヤルルは髭を撫でながら答える。

「詳しくはわからんが……当時あの子は〝ヤミヤミの実〟と〝ウタウタの実〟という悪魔の実を手中に収めていて、ある島の国王に古い楽譜を譲るよう交渉している最中だと言っておった。それとダイナ岩という鉱物をかき集め、政府の三大機関にプレゼントするつもりだったと聞く。手に入れた悪魔の実は誰に食わせるか迷ってたそうじゃが……」

「「……」」

 ヤルルの言葉に、クロエとステューシーは一つの可能性に辿り着いて硬直した。

 古い楽譜とは、おそらくエレジアを滅亡させた「歌の魔王(トットムジカ)」。そしてダイナ岩は酸素に触れ衝撃が加わると大爆発を起こす、古代兵器にも匹敵すると言われる巨大なエネルギーを持つ鉱物。

 つまり、アンディはトットムジカとダイナ岩を利用し、世界政府の三大機関の破壊と聖地の陥落を企んでいたのではないか――

「世界滅亡の危機じゃないの…」

 あまりに壮大で危険な目論見に、ステューシーは血の気が引いた。

 実現していれば未来も歴史も変わっていただろうが、世界が荒廃する可能性もあり得ただろう。

「クロエ…そういえばあなた、ご両親の顔知らないのよね? チンジャオに拾われたと聞いたわ。親が子を捨てるなんてしょっちゅうあるけど……」

「私を逃がす為だろうな……一度、自分の家系図を整理した方がいいかもしれんな……」

 クロエは溜め息を吐きながら、酒を飲み干した。




というわけで、クロエのご先祖のアンディ・リードとヤルルとヨルルは顔見知りというのが本作の歴史です。ヨルルは亡くなってるので、彼女の生前を知るのはヤルル・五老星・イムとなります。
かつてのグラグラの実の能力者だったアンディですが、戦闘力と覇気の練度はロックスやロジャーの方が上です。
ちなみにアンディの得物は、あの刀剣です。

次回はサウロとの再会とか小ネタを挟み、イムとクロエのしょうと…邂逅に向けて進めます。
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