シャンクス、お前似合わないセリフ言うな。(笑)
エルバフに滞在するクロエ海賊団は、ある巨人と面会していた。
その巨人とは、20年ぶりの再会であった。
「デレシシシ!! 久しぶりでよォ、クロエ海賊団!!」
「そっちこそ、元気そうで何よりだよ」
一味を代表して、エマが挨拶を返した。
巨人の名は、ハグワール・D・サウロ。クロエと同じ「D」の名を持つ者で、海軍時代は中将を務めたクザンの親友である。
20年もの時が流れた為か、オハラのバスターコールの時よりも老けて髭も伸びているが、陽気さは相変わらずであった。
「お前達があの日……クロエの気まぐれで来てくれたおかげで、クローバー達の研究は進み、ベガパンクも協力してくれた!! オハラの〝勝利〟の陰の立役者達だで!!」
「あー……あれについては、クロエも見捨てるって選択肢を用意してあったんだよね……避難船の砲撃が無ければ、あのまんまスルーして里帰りする気だったし」
「そうだったんか!? 行き過ぎた海軍に救われたとは、わかったもんじゃないでな…」
エマの言葉を聞き、サウロは「あの日」の事を思い出しながらしみじみと言った。
世界政府が〝空白の100年〟の研究を固く禁じている以上、それを承知で研究する事はれっきとした法律違反――学者といえど法を破った以上は無法者である為、クロエは当初深く介入する気はなかったのだ。そんな彼女が艦隊を攻撃したのは、仲間ごと堅気に手を上げたサカズキへの怒りゆえだった。
「今ではオハラの生き残りは、わしとロビンだけとなったで……」
サウロは天を仰ぐ。
考古学の権威だったクローバーは病死し、かつての仲間達も大勢が世界政府の手にかかり死んだ。ニコ・ロビンの母のオルビアも半年前、〝
今となってはオハラの生き残りは二人だけだが、その意志はまだ生きているとサウロは言う。
「まだオハラは滅んじゃいないで!!! デレシシシシシシ!!!」
「あァ……そうだな」
涙を流して大笑いするサウロに、クザンはサングラスをかけながら相槌を打つ。
「クザンこそ驚いたで!! サカズキとの決闘に海軍の脱退、そして今じゃ海賊!! わしも海軍を辞めとるから捕らえる気はないが……」
「いやァ……まァ色々あってねェ……」
頭を掻きながら、クザンは困った笑みで言った。
すると、サウロはある事実に気づいた。
「……ところで、クロエはどこへ行ったんだで?」
「何か〝散歩〟に行くって」
「散歩?」
巨人族の総本山であるエルバフは、3つの階層で構成されている。
険しい雪山と樹齢が千年を超える大木が囲う、太陽の光が差さない「冥界」。
エルバフの戦士達の村がある、陽の差す「陽界」。
島の中枢にそびえる巨大樹・宝樹アダムの上層部である「天界」。
その内の冥界に、クロエはたった一人で乗り込んでいた。その理由は、この階層から強い覇気を感じ取ったからだった。
「……成程、貴様の覇気だったか」
「ドガハハハ…!!! バカ
クロエは宝樹アダムに海楼石の鎖で磔にされた、上半身裸で紫色の毛皮のマントを羽織る巨人を見上げる。
毒々しい赤紫色の毛髪、額から生えている一対の角、目元の包帯……通常の巨人族とは明確に違う特徴を持つ男もまた、この地に巣食う屈強な猛獣達を
「私はクロエ・D・リード。貴様も知ってるだろうが、海賊〝鬼の女中〟だ」
「おれは世界を終わらせる〝太陽の神〟ロキだ」
互いに自己紹介を終えたクロエとロキは、どちらともなく不敵な笑みを浮かべる。
「ところでだがクロエ…この状況をどう思う?」
「鎖の錠を外せと言うのか?」
「そこまで察すれば話は
ロキはクロエに交渉した。
自分は悪魔の実の能力者で、この鎖も海楼石でできている為に力が入らず脱出できず6年も囚われてる。
もしここで自分を解放してくれれば、潰してほしい海賊団を一つだけ跡形もなく消す事を約束する……というのだ。
本人曰く「無理にとは言わない」との事で、鎖を解く鍵は村にあるそうだが……。
「今時の海賊団は自力で潰せそうな連中ばかりだからな…気持ちは受け取ろう」
(やんわりと交渉決裂かよ!?)
まさかの返答に、ロキは心の中でツッコミを入れた。
そもそもクロエはロジャーと白ひげが全盛期だった頃の海を生き抜いた「歴戦個体」。そしてカイドウやビッグ・マムを筆頭に歴史に名を残すレベルの大海賊達と互角に渡り合った戦闘狂である。伊達や酔狂で世界最強の女として海に君臨しているわけではないし、それ以前に誰かに潰してもらうより
こればかりは、ロキがクロエの戦闘狂気質を見誤っていたとしか言いようがない……。
「それに貴様はまだ「待機」だ、ロキ」
「あァ?」
「人には必ず「出番」がある。近い内に必ず貴様の力が必要になるだろう。……焦らずその時を待つんだな、若造」
意味深な事をロキに告げ、クロエは踵を返して冥界を去っていった。
*
エルバフを発ち、海賊島「ハチノス」へ帰還したクロエ海賊団。
ドクロ岩の内部にある提督室で、クロエはエマと王直、そしてマーロンに新作のコーヒーリキュールを振る舞っていた。
「そういえばエマ、近頃新世代の海賊達にカイドウやリンリンが接触して取り込んでるらしいな」
「あ~……例の世代でしょ? ほぼ半数くらいだよね」
クロエの言葉に、エマは頭の後ろで腕を組みながら頷いた。
今から2年前にあった、海賊界の超新星10人のシャボンディ諸島集結。そして直後に勃発したマリンフォード頂上戦争。
この二つの出来事を機に、新世界に進出した10人と新たに五皇となった黒ひげは勢力争いに鎬を削り、その武勇と影響力から「最悪の世代」と呼称されるようになった。
ある者は五皇の傘下に入り、またある者は己の計略の為に七武海入りし、さらにある者は「海賊同盟」を結成し。新世界を掻き回す彼らを大海賊達も無視できなくなった。しかし実際は五皇に挑んで敗北したり屈服する者も少なくなく、旧世代の怪物達から見下されているのも事実である。
そんな中、今を騒がせてるのが海賊〝麦わらの一味〟であった。
「ルフィ君達もついに新世界入りだね」
「そうだな…私の唯一の愉しみだ」
海賊の世界の頂点に立ったクロエにとって、海賊王となるべく自分を倒しに海を駆け上がる〝麦わらのルフィ〟は待ち望んだ存在だ。
彼の可能性を強く信じ、いつか戦うであろう運命の日に思いを馳せており、それが楽しみで仕方ないのだ。
それは、同じ「D」の名を持つが故なのかもしれない。
「〝麦わらのルフィ〟……ガープの孫か。おれ達もよく奴に追いかけられたもんだぜ」
葉巻の紫煙を燻らせながら、マーロンはロックス海賊団時代を回想する。
今から40年以上前の「ロックスの時代」と呼ばれた海の頃から、若きガープは圧倒的な実力で海軍を引っ張っていた。ロックスと共に相応の修羅場をくぐり抜け世界を引っ掻き回してきた二人も、あの拳骨ばかりは今でも脅威を感じている程だ。
海軍といえばガープ中将――それがロックスの時代の海軍本部だったのだ。
「我が娘よ。例の世代の中でも筆頭格は、やはり黒ひげか?」
「〝白ひげ〟の後釜に座っちゃってるからな~…」
育て親の王直に訊かれ、エマは両肘をつきながら言った、その時だった。
「提督!!!
「何だ、騒々しいぞ!!」
「す、すいません!!! ですが急な事で……赤髪海賊団が港に!!!」
「何ィ!? あのガキ、ウチと戦争しに来たのか!?」
伝令に来た海賊の言葉に、王直は顔色を変えた。
五皇の一角が、目的不明のまま自らの母船で海賊島に寄港したというのだ。
ノコノコとやってきたシャンクスを追い払おうと王直は立ち上がるが、そこに待ったをかけたのがクロエだった。
「ここは私が出よう。……それとエマ、
「あー……何となく似合ってそうだしさ」
「私に対する嫌味か? 何が姐さんだ、窮屈な立場は嫌いだと言ってるだろう」
しょうがない親友だとクロエは呆れながら大窓から飛び降り、月歩で宙を蹴って進む。
港には見慣れた赤い竜を象っている海賊船が停泊しており、赤髪海賊団の面々が上陸してハチノスの海賊達と一触即発になっていた。
よく見ると泡を吹いて気絶している海賊もおり、シャンクスの威嚇を受けたのだろう。
「もう一人の姉貴分の就任祝いか?」
「クロエ姉さん!!」
やっと話せる人が来たとシャンクスは安堵すると、その隣を横切って少女がクロエに思いっきり抱き着いた。
一味の音楽家であり、「赤髪の娘」として知られるようになったウタだ。
「クロエおばさんっ!!」
「ウタ! 息災だったか?」
柔和な表情を浮かべるクロエに、ウタは屈託のない笑顔で応える。
五皇同士の接触は戦争になりかねず、世界情勢を大きく揺るがしかねないが、義姉弟の関係であるクロエとシャンクスは「余程の事」が無い限りは全面対決しない……はずである。
「ドクロ岩の大窓が見えるか? あそこでエマも待っている。挨拶ぐらいはしていけ」
「うん!」
「そういう訳だ、阿呆共。道を開けろ」
『姐御さん!! すんません!!』
一斉に頭を垂れる海賊達に、クロエの額に青筋が浮かんだ。
「……どうやら、本格的にエマと話をしなければならんらしい」
「姐御」
「何か言ったか、シャンクス」
「すんませんでしたっ!」
義姉からの威圧に、シャンクスはすぐさま平謝りしたのだった。
真紅に染まる夕陽が、海賊達の影を長く伸ばしている。
ハチノスの酒場ではクロエ海賊団と赤髪海賊団による合同宴会が開催されており、双方の海賊達は飲んで食べてのドンチャン騒ぎを起こしていた。
そんな中、クロエはシャンクスを呼び出して
「いや~、まさか姉さんに奢ってもらうなんてな!! だっはははは!!」
「この島の金鉱脈のおかげで羽振りがよくなったからな」
盃に注いだ酒を飲みながら、赤き覇王と黒き女皇は穏やかに語り合う。
ロジャー海賊団の〝
あの世のロジャーも、さぞ喜んでいることだろう。
「さて……シャンクス。私は一つ、この場でお前に尋ねたい事がある」
「おれに尋ねたい事?」
「単刀直入に言おう。――私に黙っていた事があるよな?
空気が凍りつく。
琥珀の瞳に射抜かれ、シャンクスは心臓を鷲掴みにされたような錯覚を覚えた。
自分の出生は言ってないはずなのに――
「2年ぐらい前か……〝神の騎士団〟のシャムロックと軍子が私の前に現れた」
「!?」
冷や汗を掻くシャンクスは、姉貴分の言葉に息を呑んだ。
シャムロックは自分の双子の兄で、神の騎士団の団長である男。
彼が自らの素性を明かし、聖地で最も恐れ忌み嫌われている〝神殺しのクロエ〟にわざわざ会いに来たというのか。
「シャムロックが……なぜ姉さんに……?」
声を震わせながら問うと、クロエは酒を呷りながら答える。
「私の仲間のコル寿郎の事は知ってるだろう? あいつはシャムロックが直々に騎士団への入団を勧める程の腕前だ」
「まさか、いきなり騎士になる「契約」を…!?」
シャンクスはコル寿郎の異常さに驚愕する。
神の騎士団には〝神の
契約は「浅海契約」「深海契約」「深々海契約」の三段階が存在し、段階が上がる程に大きな力と権力を得られる。その契約の中でも深海契約と深々海契約はたった13人しか結ばれない、真の契約者なのだ。
だが、神の騎士団に属するようになった者は、まずは神の従刃に迎えられた者が結ぶ浅海契約から始まる。事実、あの軍子も従刃時代を経て神の騎士団に昇格しているので、今の騎士団を構成しているメンバーも大よそ二軍の組織から始まっているはずだ。その神の従刃への配属の段階を飛び越えて深海契約を結ばせるという事は、即戦力になるどころの話ではなく、強さ以外の「何か」をコル寿郎は持っているという特殊な事情がある事に他ならない。
「お前の言うその「契約」が何かは知らんし、そんな事はどうでもいい。だが奴はコル寿郎を聖地に戻してもらうよう、私に直談判したのは事実だ。当然蹴ったがな」
「……」
「お前が出自を黙っていた事を咎めはしない。人間、誰しも人に言いたくない事情を抱えてるものだからな。……だが、今のお前の立ち位置は知りたい」
酒の肴を取りつつ、クロエはシャンクスの反応を伺う。
「……おれは、今の姉さんの思っている通りの立場だ」
「双子の兄が気掛かりか? ――海賊なら離れた場所の家族や故郷にこだわるな。それの為に足を引っ張られ、今の仲間達を自分の命ごと危ぶめてちゃあ世話ないぞ」
「……ああ、わかってる」
シャンクスは盃に残った酒を一気飲みする。
クロエは弟分の心に燻る〝迷い〟を察し、難儀なものだと苦笑するのだった。
コル寿郎は団長や最高司令官に直々に神の騎士団にスカウトされる程の実力者という設定ですが、今回の話はその裏事情も発覚しました。
従刃での見習い期間を飛び越えてガーリング・シャムロック親子が正式な騎士にしたがる理由は、彼の「バショバショの実の能力」にあります。
次回は、クロエとイムが衝突するきっかけとなった事件をやります。
やはりコル寿郎が巻き込まれます。