〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

115 / 122
明けましておめでとうございます。
新年一発目はクロエがイムと直接対決。
〝世界〟を相手に、彼女がどう立ち回るのかに注目。


第115話〝MOST(モスト) WANTED(ウォンテッド)

 軍子の肉体を乗っ取った〝神〟と、仲間を奪い返しに来た〝鬼の女中〟。

 二人の苛烈極まる戦いは、「聖地マリージョアの懐剣」と呼ばれる神の騎士団でも、五皇大幹部クラスの戦闘力を有するコル寿郎でも、その場から動けなかった。

 それ程までに、二人の周囲は異次元だったのだ。

「ヌシアもアンディ・リードと同様、覇気に頼るか…」

「人の心配をするとは、随分と優しい王様だな!!」

 三叉槍と妖刀が激しく打ち合う度、覇気が稲妻状に迸る。

 鍔迫り合いは再び両者を弾くと、クロエが跳んで空中から唐竹割を繰り出す。

 イムはそれを槍で容易く振り払うが……。

 

 キンッ!

 

「!」

 鍔音が鳴ったかと思えば、イムの槍を持った手が斬り飛ばされた。

 しかし、王は動じる事なく左手から魔法陣が描かれた本をどこからか取り出し、そこから飛び出た剣を振るってクロエの左腕を斬った。

 傷は浅いが、咄嗟の武装硬化による防御を突破しており、目の前の敵の覇気の強さに〝鬼の女中〟は驚いた。

「空中で斬撃を繰り出し、着地待たずの抜刀術……アンディ・リードとは異なる戦法だな……」

 あっという間に右手を再生させたイムは、再び三叉槍を召喚すると両足に矢印を巻き付けた。

 王が憑依している軍子は〝アロアロの実〟の「矢印人間」。長い服の袖を矢印を模したリボン状の武器に変化させる事ができる能力者だ。攻撃の軌道が相手に丸分かりになってしまうという欠点こそあるが、汎用性の高い厄介なチカラである。

 イムは彼女の力を利用して矢印を巨大なブーツのように纏い、戦闘の達人であるクロエに肉弾戦を仕掛けた。

「槍と厚底ブーツか…」

 クロエは右手に化血を、左手に鞘を構えて二刀流に戦闘スタイルを変更。さらに両足を武装硬化させ、急接近するイムを迎撃する。

 

 ガガガガン!!

 

 斬撃と打撃が高速でぶつかり合う。一瞬にして数十、百にも届く勢いだ。

 しかし、クロエはこの世で唯一カイドウと一対一(サシ)で渡り合える海賊。純粋な身体能力という点では憑依している軍子よりも格上であり、徐々に押され始めた。

「…この肉体では…」

「まさかの人選ミスか? 神の支配が聞いて呆れる」

「ぬかせ!!」

 イムは翼をはばたかせて宙を舞うと、三叉槍を振るって魔法陣を展開。

 その中から二門の大砲を出すと、空中から容赦なく砲撃を浴びせた。

「〝神威〟!!!」

 クロエはすかさず覇気を纏った斬撃を飛ばして破壊。砲弾は爆裂して視界が塞がる。

 イムは冷静に感覚を研ぎ澄ますと、空気の流れを感じ取って槍を突いた。

 

 ガキィン!!

 

「……何っ!?」

 槍が弾いたのは、ミョスガルド聖を磔にしていた十字架の破片。どうやら視界が塞がった隙に破壊し、それを投げつけたようだ。

 裏をかかれたイムは、背後から感じ取った覇気に振り替えるも……。

「はっ!!」

 

 ズドンッ!!

 

「…!」

 武装硬化した拳が炸裂する。

 胸郭に拳がめり込む衝撃音が轟き、内部破壊と八衝拳の衝撃波による二段構えで肉体が著しく抉り飛ばされるも、イムは全く動じない。

 むしろ先端が矢印になっている尻尾で彼女の胴をぐるぐる巻きにし、手をかざした。

「ヌシアをここで支配するのも悪くない……アンディ・リード。ムーに――」

 

 ドスッ!

 

 クロエは咄嗟にイムが乗っ取る軍子の肉体を、化血の刃で貫いた。

 それは軍子の心臓部に深々と刺さるが、圧倒的不死性を有する神には無意味であった。

「無駄な足掻きを…ムーの支配からは逃れられぬぞ」

「やっぱりガキだな、詰めが甘い…!!」

「!?」

 クロエは化血の柄を握る右手に、ぐっと力を込めた。

「〝御霊送(イオマンテ)〟!!!」

 

 バリバリバリバリバリィッ!!!

 

「ぐあァッ!?」

『御大!!?』

 クロエは突き立てた化血を介し、自らの覇王色と武装色を衝撃波のように伝導させた。

 内部破壊の極致とも言える必殺技にイム――厳密に言うと軍子の肉体だが――は吐血し、騎士団の面々は驚愕の声を上げ、コル寿郎とミョスガルド聖も言葉を失った。

「小癪な!!」

 たまらず振り払うイムにより、クロエは地面に叩きつけられる。

 しかし瞬時に全身に武装色を流していた為、ノーダメージで立ち上がった。

「ハァ…ハァ……ハハ、その顔が見たかったぞ…ようやく拝めたな…」

「アンディ・リード…!!」

「…さっきの一撃は、軍子にダメージが多く行ってるな…本体でない事が、悔やまれる……!!」

 顔を歪める王に対し、〝鬼の女中〟は激しく消耗しつつも笑みを深める。

 まるで勝機を見出したかのような表情だ。

「――コル寿郎、そこで伸びてる兄を連れて撤退しろ。もう少しあの痴れ者に試したい事がある」

「無茶だ!!! 今の卿では御大を倒せない!!!」

 船長命令を下すクロエに、コル寿郎は叫ぶ。

 そうはさせるかと騎士団の面々は動き出し、コル寿郎の逃走を阻もうとするが……。

「!? 〝荊壁(イバリア)〟!!」

 突如として矛の形の氷塊が襲い掛かった。

 ソマーズ聖がすかさず全身から荊が出る〝 イバイバの実〟の能力で防ぐと、冷気を纏う男が姿を現した。

「アラララ……おれァ見ちゃいけねェモンを見ちまったかね、クロエ」

「見習い、どこをほっつき歩いてた?」

「そうカッカすんなって」

「ハァ!? 青キジ!!?」

 ポケットに手を突っ込みながら歩み寄るに、ソマーズ聖は驚愕した。

 元海軍大将がクロエ海賊団に加担しているとは聞いていたが、まさか完全に仲間(クルー)になっていたとは。

 しかも、海賊見習いになっているなど誰が予想できただろうか。

「……まァ、とにかくアレだ……全員、氷の世界に行ってくるか」

 直後、ガキィン!! という音と共に周囲が氷結した。ヒエヒエの能力が発動したのだ。

「……私ごと凍らせるか?」

「別にいいでしょ、これくらいで倒れるタマじゃねェでしょうが」

「……まァいい、時間は稼げた。あとは――」

 ラカムを待つだけだ、と言おうとした途端。

 突如として石壁が破壊され、土煙の中から最後の仲間が駆けつけた。

「派手な登場だな」

「んな事言ってる場合か!! 早くトンズラしねェとマズいぞ、〝赤犬〟が来てる!!!」

「何だと、サカズキが?」

「いや、当たり前でしょ…おれ達ヤバい事やらかしてんだから」

 クザンが呆れ返っていると、バリィン! という氷を砕く音が響いた。

 どうやら凍結したはずのイムが、自身の覇気で破砕したようだ。

「アララ、効果無しか……」

「くっ…この雪辱は果たすぞ……!」

「ムーが逃がすと思うか? アンディ・リード」

 イムは魔法陣を展開しようとすると、クロエはその先を未来が視えたのか顔を青ざめた。

「っ!? ラカム、合わせろ!!」

「わかってるっての!!」

 クロエはすぐさま黒刀と成った化血を両手持ちで構え、ラカムも彼女のすぐ横に立って戦鎚に覇気を纏わせる。

「「〝覇国〟!!!」」

 

 ズドォン!!

 

 刀と戦鎚を同時に振り抜き、エルバフの槍を再現。

 イムに衝撃波をぶつけ、解凍中の騎士団のメンバーを次々と巻き込み、パンゲア城の外壁に風穴を開けた。

「よし、今の内だ!! 覇王色を伴ってない以上、神の騎士団と御大はすぐに再生するぞ!!」

「それ以外の攻撃は効かねェってか…!!」

「それより、おれらの船沈められてたらどうすんだ!?」

「そん時は軍艦でも奪えばいい、ひとまず退却だ!! 殿は私がやる!!!」

 クロエ達はミョスガルドを連れ、〝神々の地〟を脱出。

 その頃にはすでに再生を終えていたイムも、追撃は困難と判断したのか、一瞥した後に軍子から離脱した。

 

 〝鬼の女中〟が世界一のタブーに触れ、その正体である〝世界の王〟との一戦は明るみに出る事は当然なかったが……「二度目の聖地襲撃」という前代未聞の悪行は五老星を以てしても闇に葬る事はできず、世界中に大きなショックと不安を与えた。

 同時にクロエの懸賞金は上がり、大海賊時代開幕以来「海の皇帝達」として海賊界の頂点に君臨し続けた五皇の歴代懸賞金額を更新。ロジャー亡き後に海の王者となったあの〝白ひげ〟を超える50億9610万ベリーという破壊的な数字が懸けられた。

 女海賊クロエの悪行は、世界政府の権威と影響力、海軍の威厳の低下へと繋がろうとしていた。

 

 

           *

 

 

 新世界、鬼ヶ島。

 現状、世界最大規模の海賊団となった百獣海賊団は、ナワバリに侵入した「麦わらの一味」と「ハートの海賊団」をカイドウ自らが出向いて制圧。現在は全員を根城へと連行していたところだったが……。

「へー…やっぱクロエは(つえ)ェんだなァ!!」

「ウォロロロロォ!!! そうさ!!! あいつはおれにとって最初にして最強のライバルだ、てめェらガキ共じゃあ話にならねェ!!!」

「カイドウさん、あの女の話始めてもう30分経ってんスけど……そろそろ本題切り出しましょうよ」

 クロエとの接点が明らかになった事に興奮するルフィに、瓢箪片手に得意げに語るカイドウ。

 その様子をクイーンが微妙な表情で見つめ、ルフィと共に拘束されているローも困惑していた。

「ウィ~……さて、本題と行こうか……数日前、少し事情が変わってな。今回の件は()()()()()にしてやる」

「!? おい、どういう意味だ…」

「そのままだ。特例でお前らを解放してやるってんだ」

 意表を突く提案に、ローは警戒する。

 歯向かってきた相手は容赦なく潰してきたカイドウが、無条件で自分達を自由にするとは思えない。何らかの目的があるのは明白だ。

 それこそ、滅茶苦茶な要求をしてきてもおかしくはない。

(一体何を企んでやがる……?)

「お前らが知ってるかどうかはともかく……王下七武海が解体された」

「えっ!!?」

「何っ…!?」

「まァ、そういう反応になるだろうな」

 あの曲者揃いの七武海が立場を喪失すると知って驚愕するルフィとローに、カイドウは話を続ける。

 五皇を筆頭とした他の海賊達への抑止力となる王下七武海の廃止は、新聞を通じて情報を得ていたカイドウも想定していた為、特別驚きはしなかった。むしろ政府が愚行に出たのではなく、ベガパンクらの開発した海軍の新戦力が五皇を抑えられる程に強力だと分析し、ルフィ達よりも海に解き放たれた七武海を従えるべきと判断したとの事だ。現に〝白ひげ〟の息子を自称するエドワード・ウィーブルが〝火拳のエース〟率いる白ひげ海賊団の残党と合流し、〝千両道化のバギー〟が〝鬼の跡目〟ダグラス・バレットと手を組んだという情報が拡散し、七武海の奪い合いが起きている。ボア・ハンコックや〝鷹の目のミホーク〟が誰かの下に就くとは思えないが、それも時間の問題だろう。

 その上、ビッグ・マム海賊団が先日の一件でルフィ・ロー同盟を壊滅させるべく動き出している。リンリンはあくまでもカイドウに用は無いと言っているが、戦場になるのは百獣海賊団の領海(ナワバリ)である。他所のイザコザを持ち込まれると面倒だというキング達の進言に加え、殺したら殺したで()()()()()()()が増える為、あえて自分に逆らった事を見逃した方が組織として得策。

 揺れ動く世界情勢と一味の絡み合った事情から組織の長として判断し、今回の話を持ち掛けたとの事だ。

(〝ロード歴史の本文(ポーネグリフ)〟の写しを奪えなかったのは仕方ねェが、ここで刺激して交戦状態になったら命取りだ……)

 ローは苦い顔を浮かべる。

 命あってこそではあるが、海賊としてはかなり屈辱的。それでも、五皇の一角であるカイドウと今もう一度事を構えるのはあまりにもリスクが高い。この要求を蹴れば、今度こそ無事では済まないだろう。

「どうだ、ガキ共」

「麦わら屋……ここは一旦――」

「本当に、仲間には手を出すなよ。手を出したらぶっ飛ばす」

 ルフィはそう言い、覇王色を放って威嚇した。

 ここへ来て面と向かってカイドウを挑発するような行動に、クイーンは咥えていた葉巻を落とし、ローも「あのバカ……!!」と冷や汗を流し舌打ちした。

 一方のカイドウは、それに怒りを覚えるどころか、むしろ愉快そうに笑みを浮かべた。

「お前も覇王色か…!! だがクロエの足元にも及ばねェ……威力も練度もお粗末だ」

 ルフィの覇気の練度を看破したカイドウは、クイーンに囚われた仲間も解放するよう指示。

 流石の二人もこれに歯向かうような愚行はしなかったが、一言だけ告げた。

「「覚えてろ…カイドウ!!」」

「ウォロロロロ…〝海賊ごっこ〟じゃあ、おれやクロエは倒せねェよ…!!!」

 新世界の生き方とは何たるか――それを自らの強さで見せつけたカイドウは、クイーンに連行される若輩達を遠目に眺めた後、酒を呷った。

 

 

           *

 

 

 海軍本部、ニューマリンフォードでは。

「今回の〝世界会議(レヴェリー)〟は、最悪としか言えねェ」

「そんなもん、わしもわかっちょるわ」

 溜め息をつくサカズキは、海軍将校のコートを羽織った赤茶色の男に目を向ける。

 男の名は、テンセイ。〝(くろ)(ウマ)〟の二つ名を持つ、海軍犯罪捜査局の局長を務める人物である。

 彼もまた、今回の件でどこか疲れた様子に見える。

「サボによるネフェルタリ・コブラ王の殺害及び世界貴族のシンボル〝天駆ける竜の蹄〟の破壊に加え、〝鬼の女中〟の二度目の聖地襲撃とミョスガルド聖の誘拐……流石の大将達も、こればかりは同情するのう」

 場所が〝神々の地〟ゆえに戦い辛かったのもあるが、何よりクロエが革命軍に加担し、挙句の果てには破壊の限りを尽くしてから天竜人を一人誘拐するのは想定外すぎた。政府に対する交渉のカードなのか、それとも嫌がらせ目的か、はたまた別の何かか……目的が全く不明なのでお手上げ状態で、これにはサカズキも頭を抱えた。

 それに続くように、ボルサリーノはテンセイに尋ねた。

「コブラ王殺害と同時に起きた、王女ビビの失踪の件は?」

「事件の関連性と共に…目下調査中」

「アラバスタは散々じゃのう」

 世界的にも名君と呼称されるコブラ王が殺害され、王女ビビも行方不明。

 護衛として来訪したアラバスタの家臣団は、とても帰国できる状況ではないだろう。

「ロズワード一家殺人未遂は解決でいいのかい?」

「下手人がクロエ海賊団船医のミリオン・ラカムなのは明白。現在、手配書を更新して世界に公表する準備を進めとる。相変わらず、滅茶苦茶な一味じゃのう……」

「全く…えらい時代に元帥になったわい…!!!」

 サカズキは葉巻を咥え、火を点けて燻らせながら外を眺める。

 七武海は撤廃。革命軍の急激な台頭によって世界中で反乱の火は燃え盛る。五皇はそれぞれ不穏な動きを見せ、クロエが聖地を再度攻撃。

 大海賊時代開幕直後の動乱とは比べ物にならない、歴史上稀に見る混乱だ。

「なんぼ向かって来ようとも…全員返り討ちにしちゃるがのう……!!!」

 荒れる時代に元帥になった事を実感しつつも、敵は全て返り討ちにする決意を固めるサカズキだった。




という訳で、クロエはイムを倒せず撤退する形になりました。
まァ、ロックスでもできなかったんだからね……仕方ない。
そして今回出た新技の〝御霊送(イオマンテ)〟は、ローの覚醒技である〝衝撃波動(ショックヴィレ)〟のクロエバージョンです。内側から覇王色と内部破壊の武装色を叩き込む、かなり殺意の高い技です。(震)
ちなみにちゃっかり〝覇国〟放ってますが、エルバフ滞在時に教わったそうです。自分だけでなく一味を強化する為に他者に教えを乞うのを厭わないのも、クロエの特徴です。

また、本作の現時点の世界情勢は、かなり複雑です。
・革命軍が任務を達成(くまは無敵奴隷になってないので省略)
・七武海撤廃は原作通りだが、ウィーブルがエースと、バギーがバレットと合流
・クロコダイルはミホークに声を掛けているが、モリアは唯一不明
・世界中で革命の嵐(原作通り)
・ルフィとローの海賊同盟、カイドウに完敗
・ティーチやリンリンも七武海を狙い、シャンクスもバギーの身を案じて動き出している
・海軍は動かせる兵が無い。(イッショウとアラマキも七武海狩りに参加している)

次回からは、クロエと世界政府の対立が激化します。
頑張れ、皆!(笑)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。