〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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この話を境に、クロエは三つの海賊旗を掲げる事になります。


第116話〝旋律〟

 二度目のマリージョア襲撃からハチノスへ無事帰還したクロエ達は、ドクロ岩の要塞で緊急会議を開いていた。

 その目的は情報共有――これから自分達と明確に敵対することになる〝世界の王〟とその直属の配下についてだ。

「成程、つまり〝神の騎士団〟と五老星はイムって奴の恩恵で不死身って事か? コル寿郎」

「正確に言うと、〝神の騎士団〟の下部組織である〝神の従刃〟は別だ。三段階ある契約の内、真に御大と契約を結んでる者は13人しかいない」

「五老星も含むと考えると、騎士団の不死身組は8人ぐれェって事か……もっと軍拡しねェとマズいぞ」

「ああ…覇王色じゃねェと()()()()()()()()ってのが厄介だな…」

 意見交換が白熱する。

 ドレスローザの地下交易港から奪取した海賊相手の取引用の武器・兵器を配備し、ハチノスの防衛力強化が急ピッチで進んでいるが、それでもまだ足りないというのが一味の総意であった。

 一方、〝世界会議(レヴェリー)〟の議決結果により「三大勢力」の一角だった王下七武海が解体され、ただの海賊に成り下がった彼らを拿捕すべく海軍は各地に部隊を向かわせた。そう簡単に()られる面子ではないが、海軍側は「七武海を解体しても問題ない戦力ができた」という裏付けでもあり、それが海賊界にどう影響を及ぼすのか気になるところだ。

「でも、聖地は今それどころじゃないでしょうね。食糧庫を爆破されたんだもの」

「万が一の可能性を想定して人工農場を用意しなかった連中がバカなだけだろ。餓死者が出ても因果応報だ」

 紅茶を飲みながら呟くステューシーに続き、ラカムはタバコを吹かしながら嘲笑う。

 先日のマリージョア襲撃の裏で行われた革命軍の宣戦布告で、サボが食糧庫を破壊した事で〝神々の地〟は深刻な食糧難に陥っている。食糧を得るには世界政府傘下の国家から天上金と同様に「調達」する以外に方法がないのが仇となり、天竜人達は〝飢え殺し〟というかつてない苦痛を味わっているのだ。

 本来なら、反政府組織の襲撃の有無問わず緊急用の農地くらい備えておくべきなのだが、不自由なく豪華絢爛な暮らしをしている彼らがそういう発想を思いつくはずもない。今頃は打開策も見出さず、聖地に勤務する者達に責任転嫁しているところだろう。

「――ボチボチ頃合いだな」

『?』

 徐に立ち上がるクロエに、一味の面々は首を傾げる。

 まるで何かを待っていたかの様子に疑問符を浮かべる一同を尻目に、彼女は単刀直入に告げた。

「これよりクロエ海賊団は、この「海賊島」ハチノスを拠点に世界政府との全面戦争に突入する」

 時代の頂点に立った女船長の言葉に、緊張が走る。

 反応は寝耳に水……という様子ではなく、むしろ腹を括った顔つきだった。

「ネロナ・イムに認知された以上、神の騎士団だけでなく五老星との直接対決も近い。柄じゃないが……私の人生の完成の一環としては悪くない。革命軍の戦況を利用し、神を引き摺り下ろして聖地を陥落させる!!」

 かつてのハチノスの統治者・ロックスが狙った聖地陥落。

 目的こそ違えど、40年もの時を経て〝鬼の女中〟が実行しようとしている事に、仲間達は息を呑んだ。

 しかし七武海制度の撤廃によって海に解き放たれた()()()()()の海賊達の動き、そして革命軍による世界中での反乱の流れを考えると、かつてない乱世と化しつつある今がチャンスと言える。

 クロエは一呼吸置いてから、声高に告げた。

「いいか!! ここから先、私が求めるのは命を懸ける覚悟じゃない!! 私と運命を共にする覚悟だ!!!」

『…!!!』

 これからクロエは、世界の頂点との最終戦争に赴く。

 全員揃って生き残れる保証などない。何なら自分が死んでクロエ海賊団が崩壊する可能性だって十分にある。

 故に彼女は、選択を与えた。降りても構わないのだと。逃げるなら今の内だと。

「来るか来ないかは好きにしろ!! ――だが腹を決めたなら、最後まで付き合え!! 〝ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)〟よりも価値があるもの……(イム)が死んだ世界の夜明けを見せてやる!!!」

 

 この日、クロエは自らの旗だけでなく、自身が愛した男の象徴たるロジャー海賊団の旗に加え、世界を震撼させたロックス海賊団の旗も掲げた。

 一時代を築いた伝説達の残響は時を超え、一人の女海賊の譜面に起こされ巨大な旋律を奏でようとしていた。

 

 

           *

 

 

 所変わり、〝凪の帯(カームベルト)〟の「女ヶ島」。

 女系戦闘部族「九蛇」が治めるアマゾン・リリーは、王下七武海制度撤廃によりとんでもない災難に遭っていた。

 新型パシフィスタ〝セラフィム〟を連れた海軍の艦隊の襲撃に加え、〝メロメロの実〟の奪取を目論む黒ひげ海賊団が乱入してきた事で、島が大混乱に陥ったのだ。

「〝英雄〟コビー、ロッキーポート事件はお互い大変だったな。だがおめェが取引したおかげで、あの女との戦争を回避できた!! おれとしても、クロエと正面から戦うのは避けたかったからなァ…!!」

 ティーチはハンコックの能力を封じながら、悠々と口角を上げる。

 そんな中でコビーは、事件の際に聞いたエマの助言を思い出す。

 

 ――この海で生き残るんなら、腕っ節だけじゃなく駆け引きの実力もきっちり磨いておくんだね。

 

(石化を解きつつ〝黒ひげ〟を撤退させる……その為には……)

 必死にこの場を切り抜ける折衷案を考えるコビーに、ティーチは問い掛けた。

「なァ、コビー……おれがこの女から手を離したら、こいつは大人しく仲間を元通りにしてくれると思うか?」

「……ウチの海兵達も戻してもらわなきゃ困ります」

「お前達が大人しく帰るなら、そうしてやる…!!」

 このまま女ヶ島を立ち去ると約束するなら、石化した者達を元に戻す――そう語るハンコック。

 だが、一瞬だけ目を背けたのをティーチは見逃さなかった。

「いいや、ウソだ!!」

「ウグッ!!」

「手を離したらお前はおれ達を石にする。それで終わりだ。違うか? 正直男なら、おめェの術にかからねェなんて不可能だ」

 ティーチは心底困った様子で「やはり殺すか」と呟く。

 これが、ハンコックの唯一の誤算だった。マーシャル・D・ティーチという海賊は、重要な部下や目的であっても最悪の場合は切り捨てる覚悟があるのだ。

「待ってください、犠牲者が多すぎる!! お互いに損耗は避けないと……!!」

「ゼハハハ、優しいなァ〝英雄〟さんは!! その優しさでてめェの命を危ぶめちゃ世話ねェだろ?」

 理解は示しつつも、ハンコックにトドメを刺す事を止めようとしないティーチ。

 まさに絶体絶命と思われた時、どこからか大気を震わせる程の強大な覇気が放たれた。

「海軍の包囲は予想したが、島の形が変わる程とは…」

「め…〝冥王〟レイリー!?」

「遅くなってすまない、ハンコック」

「え~~~!!? あのシルバーズ・レイリー~~~!!?」

 覇気の正体は、何と元ロジャー海賊団副船長のレイリー。

 予想だにしなかった大物の介入に、コビーだけでなくティーチも驚愕した。

「おい、白ひげの見習い小僧!! 大人げないが私はお前がキライでね」

「!!」

「ハンコック、石化を解いてあげなさい。私が見届ける。誰も余計なマネをせず島を出たまえ」

 レイリーの鋭い眼差しに、流石のティーチも言葉を詰まらせ、ハンコックの首から手を離す。 

 ハンコックもまた、恩人の介入を無下にしない為にその場で石化させた者達を元に戻した。

 その時!!

 

 ドゴォン!!

 

『!!?』

 海岸の方から爆発音が響く。

 何事かと思うと、コビーの電伝虫が鳴り響いた。

「こちらコビー!! どうしたんですか!?」

《コビー!! まだ息はあるか!?》

「ゼット中将!!?」

 その名を聞いた者は皆、目を見開いた。

 ガープ・センゴクと並ぶ「伝説の海兵」の一人――元海軍本部大将〝黒腕のゼファー〟の血を引く、海軍本部中将ゼット。

 頂上戦争を機に目覚ましい成長と活躍を見せ、今では三大将に並ぶ戦力と称されるまで強くなった彼は、全盛期の父親(ゼファー)師匠(ガープ)らには及ばずとも、今の海軍ではトップレベルの実力者に入る。クロエを捕らえる為に心技体を鍛え続ける彼は、〝黒ひげ〟を筆頭とした新世代の海賊達の新たな脅威として立ちはだかっていた。

 そんな彼が、自身の軍艦を率いて女ヶ島にやって来たのだ!!

《九蛇海賊団と黒ひげ海賊団は、親父譲りの黒腕でブチのめす!! おれに任せとけ~~~!!!》

「いや、今それどころじゃ……って、ああ!! 切れた!!」

 通信が途絶え、コビーは思わず頭を抱える。

 これにはレイリーも「君も苦労しているな……」と憐れむと、アマゾン・リリーの正門を破壊してゼットが殴り込んだ。

「覚悟しろ海賊共ォ~~~!!!」

「ゼット中将!! 待ってください!!」

「心配すんなコビー、まずは任務達成からだ!! その次はお前だ〝黒ひげ〟!!」

「いや、だから〝冥王〟がいるんですって!!!」

 声を荒げるコビーに、ゼットはふとレイリーと目が合った。

 元七武海と五皇がいるのは把握していたが、伝説の大海賊までいるのは予想外だったのか、ゼットは顔を強張らせた。

 もっとも、コビーとの通信を切らなければよかったのだが……。

「おいおい、こいつァ一体……」

「ゼファーの息子か。成る程、確かに昔のゼファーのように猛々しいな」

「チクショウ……ズラかるぞ野郎共!!!」

 万全の状態のゼット、そしてレイリーに挟まれたティーチは即座に撤退を決断する。

 本音としてはハンコック拿捕に来た海兵達と軍艦一隻を連れ去って何かの交渉材料としたいところだが、まかり間違ってゼットとレイリーが共闘するという事態になれば、いくら黒ひげ海賊団といえど手に負えない。

 不本意だが、手ぶらで帰るしかない。あてもない賭けに人生を捧げる事ができる覚悟はあれど、下手を打てば組織が致命傷を負いかねない賭けは絶対に避けるのがティーチの強みでもある。

「ちっ、逃がしたか」

「ゼット中将、五皇との戦闘は「上」の許可が!!」

「おれ、上層部嫌いなんだよ」

 コビーに「ここで言っちゃいます!?」とツッコまれながら、ゼットはレイリーとハンコックを見やる。

 再び一触即発になったかと思われたが、不意に電伝虫の着信音が鳴った。

「おれだ」

《ゼット、聞こえちょるか?》

「元帥!?」

「えっ!? サカズキ元帥!?」

 電話の相手は、現海軍元帥の赤犬(サカズキ)だった。

《ボア・ハンコック討伐は中止じゃ…!! 戦力を整えにゃならん》

「戦力? 大将達いるからいいだろ、最悪親父とガープさんいるだろうし。センゴクさんにも言えばいい。おれは自由にやらせてもらう!!」

「ゼ、ゼット中将!! 相手はサカズキ元帥ですよ!?」

 ゼットの反抗的な態度に、ギョッとするコビー。

 しかしサカズキは、それどころではないとばかりに珍しく慌てた様子で叫んだ。

《早う本部に戻って来んかい!! クロエが動き出したんじゃ!!!》

「先に言え!!! すぐ行く!!!」

 通話を終えたゼットは即座に踵を返し、軍艦のある方へと走り去っていく。

 呆然とするコビーに、レイリーは大笑いした。

「わははは!! あの立ち振る舞い、ゼファーよりもガープを彷彿させるな」

「でしょうね……」

「コビー君と言ったか。今回はこれで手打ちとしよう……だが次は私も容赦せん。軍にはそう伝えてくれないか? これは〝冥王〟からの忠告だと思えばいい」

 圧のある笑みを向けられ、コビーは冷や汗を掻くしかなかった。

 

 

           *

 

 

 新世界「ワノ国」。

 カイドウに敗北したルフィ・ローの海賊同盟は、鎖国国家で己を鍛え直していた。

 五皇のレベルの高さを実感したのは船長達だけでなく、仲間達も同様。皆がワノ国の武人達に稽古の指南を受けていた。

「ハァ…ハァ…!!」

「大分〝流桜〟が馴染んできたな!! 流石ヒョウちゃんだぜ!!」

 息を荒げるルフィに、先代将軍・光月おでんは破顔する。

 ワノ国最強の男にして優れた〝流桜〟の使い手であるおでんは、ルフィ達がカイドウに敗北したのは覇気の練度不足だと指摘。元ロジャー海賊団としての不思議な縁――というよりも久しぶりの海賊の来訪が嬉しかった――もあり、おでんはワノ国一のヤクザの大親分である〝花のヒョウ五郎〟や剣技に秀でた各郷の大名達に声を掛け、ルフィとロー率いる麦わら・ハートの両海賊団を鍛える事にした。

(つえ)ェ~……!! あれがレイリーと同じ海賊王の船員(クルー)の強さかよ……」

「でも、このレベルじゃないと五皇を傷つけられないのよね……」

「フフ…天下無双を自負するだけあるようね」

 ウソップとナミ、ロビンは遠巻きに稽古を見て息を呑む。

 ビッグ・マム海賊団の最高幹部をも打ち破ったルフィを以ってしても、おでん相手ではかすり傷一つ付かない。おでん自身も御年59歳の壮年でありながら、19歳の若者のルフィを遥かに凌ぐ実力を持っているのだ。

 かつてブルックの口から「ワノ国は侍が強すぎて海軍も近寄れない」と聞いていたが、その理由を改めて実感したウソップ達は鳥肌が立った。

「ワノ国の人間って、皆こんなに強いのかよ……?」

「聞いたか? この国の将軍の家臣団、キャプテンでもかなり手古摺る強さらしいぞ……」

「ウソでしょ、元七武海なのに!?」

 ハートの海賊団もまた、ローが稽古でかなり苦労している事を知って驚く。

 そこへ、毛が逆立ちアフロのような球体を描いた特徴的な髪型をした厳格そうな小柄の老人が家臣を連れて現れた。

「左様。良き客もあれば悪しき客もあり…ゆえに我々は鉄壁の軍隊でなければならぬ」

「あなたは…」

「〝(はく)(まい)〟の地を治める(しも)(つき)(やす)イエだ。わさび寿司はいかがかな?」

 圧倒される一同の前に現れたのは、白舞の大名・霜月康イエ。

 海賊とはいえ、かつて訪れた白ひげやロジャーのようなタイプの入国者と知り、良き客としてもてなしの品を用意したとの事だ。

「おでんが随分気に入っているあの若者……只者ではないな。名は何と言う?」

「モンキー・D・ルフィ。未来の海賊王よ」

「〝D〟…!! そうか、ロジャーやクロエと同じ…」

 康イエはロビンの返答を聞き、感慨深そうに頷く。

 どうやら何か知っている様子だと判断し、ロビンは食い下がった。

「クロエさんも、この国に?」

「ああ……今から20年以上前、兎丼の地でクロエとカイドウの戦争があった」

『えっ!!?』

 まさかの事実に、一同は仰天する。

 二人がまだ五皇に数えられる前の出来事を、康イエは語り出す。

「当時のワノ国は、この国に深い恨みを持つ黒炭オロチが、カイドウを後ろ盾にして圧政を敷いていた。長い航海から戻ったおでんは単身攻め込んだが、国民を人質に取られてウソの約束を結ばれた」

「そこへ、〝鬼の女中〟が現れたのね!」

「当の本人は、おでんと再会するなりタコ殴りにしていたがな……」

 呆れた笑みを浮かべながら、康イエは国の存亡がかかった戦争の一部始終を語り続ける。

「ワノ国を懸けた戦争は、痛み分けで終わった。だがカイドウはそれを機にクロエと親しくなり、ワノ国の沖合にあった離島の譲渡を条件に二度と本土に近づかないという取り決めをし、ワノ国は晴れて圧政から解放されたのだ」

「そんな事が……!!」

「クロエとカイドウのライバル伝説は、ワノ国から始まったのか……!!」

 海賊の世界では当たり前である、世界最強の女と世界最強の生物のライバル関係。

 その始まりはワノ国だったという事に、麦わらの一味もハートの海賊団も目から鱗だった。

「……それから20年。外界はおでんの兄弟分だった〝白ひげ〟の死を始め、随分と荒れていると聞く。おでんはロジャーと共に世界の秘密を知ったが、それを誰にも明かさなかった。……もしかすれば、あのような若者が鍵になるやもしれぬ」

 おでんと激闘を繰り広げるルフィを見て、康イエは微笑んだのだった。

 




現時点の状況は以下の通り。
・クロエ……イムとの最終決戦を勝利する為、革命軍に便乗して政府機関の襲撃を開始
・ルフィ……仲間達と友達(ロー)と共にワノ国で修行
・ゼット……無茶苦茶暴れまくって武勲を挙げ、新世界の海賊達を牽制

この三人は、後に本作におけるエッグヘッド編で大活躍しますのでお楽しみに。
本作のエッグヘッド編は、ゴッドバレー事件並みの規模になる予定です。
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