クロエがなぜエッグヘッドに向かうのか、その理由を説明する回です。
一週間後、全世界を震撼させるニュースが駆け巡った。
――金獅子海賊団、〝麦わら〟〝ロー〟によって壊滅!!!
一時代を築いだ〝白ひげ〟と肩を並べるロジャーの宿敵〝金獅子のシキ〟。海賊王と覇を競った伝説の大海賊が、モンキー・D・ルフィとトラファルガー・ローに敗れるという、まさに青天の霹靂とも言える大事件。
世界征服を目論んだ「空飛ぶ海賊」を打ち砕いた二人の海賊船長に対し、政府はそれぞれ30憶ベリーという破格の懸賞金を懸けた。
新世代の海賊達によるジャイアントキリングは、盤石と思われた五皇を脅かしかねない程の成長ぶりであり、革命軍の台頭やクロエ海賊団の凶悪化に頭を悩ませる世界政府を大いに揺るがせた。
しかし世界政府の中枢――五老星は、金獅子海賊団の崩壊よりも困った事案を抱えていた。
「この写真は何だ!!? 目を通してないぞ…!! 〝D〟も外せと伝えたはずだ!!」
《いえ!! 聞いてません!!》
「直ちに刷り直せ!!! いいか、こんな物世に出すな!!!」
五老星は怒鳴りつけるように叫び、焦っていた。
その理由は、手元にある新聞の一面――
五老星をはじめ世界政府は「〝D〟の名に世間の注目度が浴びる事」を嫌い、最も警戒すべき「太陽の神ニカ」の復活を恐れている。それを防ぐ為に命令したのに、印刷所はガン無視したのだ。
その印刷所こそ、かつてクロエに襲撃を受けた世界経済新聞社――世経である。
「クワハハ……!! 何だこの神秘的な姿は!! 運べ運べ!! 運び尽くせ社員達!!」
モルガンズは本社で狂喜乱舞していた。
「情報操作なんてさせねェ、世界が変わる今は事実が一番
金を積まれれば情報操作にも応じるが、面白いスクープは世界政府の圧力を蹴飛ばしてでも掲載する――それがモルガンズのジャーナリズムなのだ。
自分の欲求に正直に従い、時には他人や世界を敵に回しても我を通す姿は、海賊王とは異なる意味でこの世で最も自由な男と言えるだろう。
そんな歴史的とも言える大ニュースは、当然クロエの耳にも入っていた。
*
「クロエの奴、さっきから新聞と睨めっこしながら笑ってやがる」
「あの無愛想がああも笑うのは珍しいな」
ハチノスのアジト内で、仲間達がそう呟く。
クロエの笑顔は、修羅場や戦場で見せる好戦的で獰猛な笑みではなく、自分に絶対的な自信があるゆえの不敵な笑みでもない。身内として懐に入れた人間に向ける、年相応の慈愛の笑みだった。
(もうすぐ会えそうだな、ルフィ…)
オリジナルブレンドのコーヒーを淹れ、柔和な表情をするクロエ。
ルフィとの再会と一戦を心から望む彼女にとって、シキを撃破できる程に強くなったと知れたのは吉報だった。海賊として戦う時は
(まァ、ロジャーを超える気である以上、私もお前の期待に応えた強さでないといけないな)
そんな事を考えながらコーヒーを飲むと、ステューシーがドアを勢いよく開けてやって来た。
「クロエッ!!」
「……?」
コーヒーカップを置き、目を細める。
クロエの知るステューシーは、淑やかで社交性が高い一方で冷徹さを兼ね備えた才媛なのだが、今の彼女は誰がどう見ても切羽詰まった様子だ。
それを見ていた仲間達も、酒盛りや談笑を止めざるを得なかった。
「……何があった」
「…お願い…皆…力を、貸して…!!!」
涙を浮かべ、声を震わせながら話すステューシー。
只ならぬ事情だと誰もが直感し、一同は緊急会議を行う事にした。
『ベガパンクが殺される!!?』
「ええ……〝空白の100年〟を研究している事を世界政府に気づかれたようなの…」
ステューシーから告げられた衝撃の事実に、エマ達は驚愕した。
世界最大の頭脳を持つ「万能の天才」が、海軍に凄まじい恩恵を与えたというのに世界政府が抹殺しようとするのだから、驚くなと言う方が無理な話だ。
「うむ…それはいくらか話が飛躍しすぎじゃのし…」
「我も理解に苦しむ……ベガパンクの抹殺は世界政府にとっても不都合ではないのか?」
「わしも同意だ。いくら罪だとしても大きすぎる損失だろう?」
ナグリをはじめとしたロジャー世代の疑問に、ステューシーは静かに頷く。
「ええ、正論ね……でも世界政府は、〝空白の100年〟の歴史が世間に明かされるくらいならっていうスタンスなの…」
「知られたくない過去を包み隠す事と、軍事の面でも平和利用の面でも有能な天才科学者を天秤にかけ、前者を取るか……」
ベガパンクを殺してでも大昔の出来事を隠蔽する世界政府の判断に、スレイマンは呆れ返った。
そういう事をすればする程、興味を示して暴いてやろうと意気込む人間が現れるというものであるはずだが……。
「…それで、ベガパンクからはどういう通信が来た?」
「……「エッグヘッドの住人達が脱出できるよう、避難船を護衛してほしい」って……」
ステューシーの言葉に、全員が目を細める。
彼女の口振りから察するに、ベガパンクは消されると悟っているようだ。
「……となると、もうすでに海軍各支部に密令が下ってるな」
「話のデカさを考えると、バスターコールの数倍ってトコか。海軍大将も派遣されるな、こりゃ」
元海兵の二人の言葉から想定すると、相当数の兵力が投入される事になるだろう。
しかし、ベガパンク側にも〝
衝突すれば戦争状態になるのは確定だが、そうなれば軍としての損失も大きいので、世界政府側としては「ベガパンクを抹殺して即座に撤退」といった作戦を決行するだろう。
「……一ついいか」
そんな中、一味の参謀であるラカムが声を上げた。
「何かしら?」
「五老星が直接来る可能性は?」
その言葉に、空気が凍る。
世界政府最高権力が自ら出撃する――まさかとは思いつつも、事が事なので絶対に無いとも言い切れない。
一同は唯一の元天竜人であるコル寿郎に目を向けるが、彼は首を横に振った。
「……残念だが、五老星のおじじ様達が戦う事はほとんどない。故に余でも御大と契約している事以外は知らぬ」
「ハァ…不死身の肉体は確定か…そんなこったろうとは思ったけどな」
タバコを吹かしながらラカムは頭を掻くと、クロエが徐に立ち上がって告げた。
「――1時間後、港に集まれ」
『!?』
全員がクロエを見やった。
たった一言だけだが、そこには確かな意味が込められており、ステューシーは涙を溢した。
「クロエ…あなた…」
「運がよかったな、ステューシー。ちょうど五老星の誰かの首を取れればなと思ってたところだ」
クロエは海のように気まぐれで風のように奔放な性格だ。
だが同時に、自分に責任がある分はきっちり受け止める真面目さを併せ持ち、海賊の一党を率いる頭目として仲間の頼みを聞く事もその一環だ。たとえそれが私情であっても、作戦上で利害が一致していればあっさりと了承する。
今回の場合、ベガパンクと世界政府の衝突は「イムの支配」に甚大な損害を与え得ると解釈。ベガパンクを助けつつ海軍艦隊を殲滅、もし五老星が現れればその首を取ろうという算段で、ステューシーの私情はその方針に反しないと踏んで引き受けたのだ。
「本当に感謝するわ……ありがとう……!!」
「フン…世話の焼ける…」
クロエはそう言いつつも微笑みを浮かべると、ふと思い出したように告げた。
「それとステューシー、ベガパンクに伝えろ」
「伝えろって、何を?」
「お前の島を海に沈めたらごめんな、と」
暗にエッグヘッドを滅亡させてでも己の目的を果たすと告げるクロエに、ステューシーは安堵の表情を一変。一気に顔面蒼白になった。
(〝
1時間後、オーロ・ジャクソン号。
「全員、用意はいいか」
「砲弾も火薬も整備完了、補給も全て完了!」
「
「帆の点検も済んでる。これも完璧だ」
「よし、出撃だ!!! 錨を揚げろ!!!」
クロエの掛け声と共に、仲間達が錨を上げて帆を張る。
同時に船を固定していた
刹那、帆が海風を捉えた事で一気に船速が上がり、
「……クロエ、何だか嬉しそうだね」
「ん?」
「顔に出てる」
エマに指摘され、クロエは目を丸くした後、柔らかく微笑んだ。
「あァ……嬉しいさ。ルフィに会えそうな気がしてな」
「それって…」
「女の勘だ」
「……クロエって〝女〟を捨てたんじゃないの?」
「勘を捨てるのは勿体無いだろう」
エマは呆れた目を向けたが、クロエはまるで気にする素振りも見せず、水平線の先をただ眺めていた。
*
クロエ海賊団がハチノスから出航…いや、出撃した同時刻。
エッグヘッド島内では、麦わらの一味が思わぬ遭遇を果たしていた。
「また助けられるとはな……シャボンディに続いてエッグヘッドまでよ」
「家族ぐるみで恩を作られちゃあ立つ瀬がねェよ!! ガハハハッ!!」
「いいんだ、おれのエゴでやっている」
島ならではの未来服を着こなしたゾロ達は、手袋をはめた巨漢と談笑する。
一味は大恩人である
まさか再会するとは思わず、しかも家庭を持っていたとは知らなかったのか、七武海としての顔馴染みでもあったジンベエも驚いていた。
「……迂闊だった、まさかこうも足を掬われるとは……!!」
「散々じゃのう……」
「ハハハ!! ウチらにまで喧嘩吹っ掛けたのが間違いだったね、ガキ共!!」
部屋の奥で横たわる二人の白スーツ姿の諜報員――CPー0のロブ・ルッチとカクを見ながら、骨付き肉を頬張るピンク頭の美女が銃の手入れをしながら笑う。
御年51歳の革命軍の幹部、バーソロミュー・ジニーである。
「いや~、お前さん達がいて助かった!! ボニーが
「恩に着る、ジュエリー・ボニー……いや、バーソロミュー・ボニーとでも言うべきか?」
「いいほ、ひにふんあ!!」
好物のピザをルフィ達と爆食いするボニーに、長い舌を突き出しリンゴ型のアンテナが刺さった老人と「01」と描かれたフルフェイスマスクを被った男が礼を述べる。
彼らこそ世界一の天才科学者――
「
「わいらを消そうとしてまでとはな…」
「これは少々、ショックが強すぎますね……」
「〝ウルトラマイティパンチ〟を100発は叩き込みたい気分だ!!」
「え~ん!! せっかくあたいが天竜人になれるチャンスなのにィ~!!!」
彼女こそが裏切者で、島の防御システムである〝フロンティアドーム〟の解除やサイファーポールの面々及びベガパンクの本体の監禁をし、五老星に密告したのだ。麦わらの一味とバーソロミュー一家がいなければ、彼女の思うままの事態になっていただろう。
「全く!! あんな汚らわしい人間にそうまでしてなりたいなど、信じられん!! なったらなったでクロエ海賊団の標的にされるぞ!!?」
「――へっ!!?」
「知らないでなろうとしたのか!!? もはや呆れて何も言えん…!!!」
今の海のヤバさを知らずに天竜人になろうとした
「リンゴのおっさん、クロエがどうかしたのか?」
「ああ……実を言うと、お前さんたちがこの島に来る前、〝鬼の女中〟の2回目のマリージョア襲撃があってな…」
ベガパンクは、クロエが引き起こした事件とその影響について語り出す。
その全てを聞いた麦わらの一味とバーソロミュー一家は、顔を引き攣らせた。
「ご、50億越えの懸賞金って……」
「相変わらず天竜人にえげつないな、ウチのダチは……」
「完全に世界政府と戦争状態ね……」
「しかもあの〝青キジ〟がクロエ海賊団にいるとはのう……」
海賊の歴史上3人目の50億越えの暴れっぷりに、ウソップ達は驚いた。
今回の金獅子撃破により、ルフィの懸賞金は30億ベリーという破格の懸賞金が懸けられた。だがクロエは、あの〝白ひげ〟を超えた50億9610万ベリーという桁違いどころか異次元の領域の賞金を懸けられており、たとえ〝
ルフィの頂点への道は、まだまだ遠そうだ。
「50億……やっぱクロエはスゲェな!! もうすぐ会えるかもなァ…!!」
「感心してる場合!? 今の私達じゃあとてもじゃないけど勝てないし、まずはこの島からどう脱出するかを考えないと!!」
クロエとの再会が近い事を思い嬉しそうな笑みを浮かべるルフィに、ナミは腕を組んでツッコミを入れた、その時。
ゴゴゴゴゴゴゴ……ズズゥン!!
「わーっ!! 地震だ~~!!」
「こりゃデカい!!」
「皆、頭を守るんじゃ!!」
島全体が大きく揺れ動き、建物が軋む。
しかし、それは何もエッグヘッドに限った事ではなかった。
この日起きた地震は、観測史上類を見ない「世界」という広範囲に被害を及ぼすもの。
震源地は特定できず、地学的にも異例の事態であり、関連性は不明だがルルシア王国が突如として地上から消滅した6日後の出来事。
この地震により世界の海水面は約1メートル上昇し、世界からいくつもの砂浜やいくつかの島が消えたのだった。
そしてエッグヘッドでは、世界の命運を左右する大事件が勃発しようとしていた。
エッグヘッドにクロエが向かう理由は、ステューシーのお願いと海軍艦隊を壊滅させて政府の威光をゴリゴリに削ぐ為でした。
ステューシーはクロエ海賊団に入った後も、定期的にベガパンクと連絡を取ってます。一応ベガパンク側が白電伝虫を使ってるので通話は盗聴されてません。
そしてステューシーがいないエッグヘッドでは、バーソロミュー一家が麦わらの一味を援護。セラフィムとルッチ達は本気を出したくま・ジニー・ルフィ・ゾロが征圧、ヨークはボニーとロビンの不意打ちでボコボコにされました。
次回はついにエッグヘッド事件を本格的に。
麦わらの一味&バーソロミュー一家&ベガパンクVS.海軍&五老星&CPー0が激突する戦場に世界最強のクロエ海賊団が強襲。更にあの戦闘狂が乱入、呼んでもないのにあの破天荒海兵も乱入し、事態はカオスどころかハルマゲドンの状況に。
エッグヘッドが海に沈んだらごめんね、ベガパンク。