〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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第122話〝アン・D・リード〟

 全世界にショックを与えるベガパンクの配信が流れる中。

 〝鬼の女中(クロエ)〟と〝鬼の跡目(バレット)〟は五老星と死闘を繰り広げていた。

「どけェ!! 〝鬼の女中〟!!!」

「貴様こそ邪魔だァァ!!!」

 

 ドォン!!

 

 獣型のウォーキュリー聖が覇王色を纏って突進し、クロエも覇王色を纏った化血を振るう。

 それによる「触れない衝突」は、エッグヘッドを震わせ天を割った。

「くぅ…!!」

「おのれ…!!」

 稲妻の如く迸る覇気と共に、互いに弾かれ着地する。

 直後、サンドワームと化したピーター聖が大口を開けて凄まじい吸引を行ったかと思えば、すかさず吐き出して瓦礫を弾丸のように撃ち放つ。それをクロエは化血を振るって斬り刻み、的確に捌いていく。

 そこへバレットが突撃。ピーター聖に覇王色を纏ったパンチを食らわせ大きく吹き飛ばすも、ウォーキュリー聖は狙いをバレットに変え、覇王色の覇気が含まれた咆哮を放って弾き飛ばした。

 バレットはビルに叩きつけられ、崩壊に巻き込まれる。しかしクロエは助けに行かず、そのまま戦闘を継続。高く跳躍してから〝武脚跟(ブジャオゲン)〟を繰り出し、踵落としの要領で打ち下ろした覇気の衝撃波を爆ぜさせた。

「っ……小癪な…!」

 異常な程の肉体硬度で耐えるウォーキュリー聖は、覇王色を全方位に拡散してクロエを吹き飛ばす。

 どうにか空中で受け身を取って着地すると、土煙を自らの覇気で払ってバレットが笑みを浮かべた。

「効いたぜ、五老星……(つえ)ェ奴は嫌いじゃねェ、そいつをぶっ潰すのはもっと好きだ」

「しぶといな……ロジャーめ、とんだ遺産を残しおって」

 山のような巨体の猪が、射殺す勢いで二人の〝鬼〟を睨みつける。

 最強の覇気使いであるクロエと、無限に武器を造れるバレット――大海賊時代以前の海で悪名を轟かせた二人は、実は五老星としても倒し方を考えねばならない相手である。 

 

 というのも、五老星は守らねばならない物が3つある。

 一つ目。ベガパンクの分身であり、自分達に与してくれた「(ヨーク)の身柄」。

 二つ目。ベガパンクの巨大頭脳の保管庫で、世界政府が徹底的に秘匿している〝空白の100年〟の情報も入っているであろう「パンクレコーズ」。

 三つ目。ベガパンクが作った巨大エネルギー〝マザーフレイム〟を生み出す「融合炉(パワープラント)」。

 これらは今後の世界政府にとって大事な存在だが、クロエとバレットから見れば知った事ではない話で、そもそも五老星を討ち取る気満々……エッグヘッドを沈めてでも仕留めるつもりだ。

 

 つまり五老星は、ベガパンクの配信を止め、かつマザーフレイム製造に必要な要素を守りながら、本気で自分達を殺しに来た二人の〝伝説〟を排除しなければならないのだ。

「カハハハ…どうした? 勝負はこれからだぜ」

「全くだ。私とバレットの首を取れるかもしれないチャンス、棒に振る気か?」

「貴様ら……!!」

 口角を上げる二人に、ウォーキュリー聖は苛立ちを露わにする。

 それを眺めながら撤退するルフィは、「ロジャー海賊団の双鬼」の強さに圧倒されていた。

(つえ)ェ……!!」

「〝麦わら〟!! クロエ達が殿をしてる間に撤退だ!!」

「安心しろ、あの女は絶対に死なん!! あの〝赤髪〟の姉貴分だからな!!」

「――おうっ!!」

 

 

 同時刻、エマは単身でナス寿郎聖と戦っていた。

「おりゃあーーっ!!!」

「ぬっ!!」

 ガギィン!! と武装硬化した右足と黒刀が激突。

 それに伴う覇王色の衝突に、大気と海は震え、気の弱い者達が次々と泡を吹く。

「ここは譲らないよ、提督の名に懸けてね…!!」

「おのれ…!!」

 クロエ海賊団副船長の奮戦に、ナス寿郎聖は苦虫を嚙み潰したような表情をする。

 エマの真髄は、驚異的な精度と探知能力を誇る見聞色だ。見聞色の基本的技能から高等技術の未来視、さらに派生能力も極めており、音速や光速の攻撃だけでなく未来視が使える相手の攻撃すらも的確に回避できる。目にも留まらぬ居合の達人であるナス寿郎聖の太刀筋も、エマは難なく対応できるのだ。

 海賊界随一の狙撃能力をはじめとした基礎戦闘力も高く、クロエ程ではないが覇王色と武装色も強力。海の皇帝達にも引けを取らない実力は、不死身の剣星でも一筋縄ではいかないだろう。

《私が読んだ〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟は僅かじゃが……そこに記されていたのは、とてつもなく「巨大な戦い」の記録であった》

「ベガパンク…!!」

「ジョイボーイ……海賊の始祖は中々の男だね」

 ベガパンクの配信は、五老星の想像を超える領域に至っていた。

 

 ジョイボーイの一団は世界政府の前身である20の王国の臨時共同体に敗北し、その戦争の爪痕は世界には取り返しがつかない程だった事。

 詳細は不明だが、ジョイボーイの出身である「ある巨大な王国」を含むかつて存在した複数の大陸が海の底へと沈んだ事。

 それによって海面が200メートル上昇し、その原因が古代兵器にある事。

 

 話せば話す程とんでもない事態になり、これ以上の情報が出るとマズいと判断したのか、ナス寿郎聖はエマとの戦闘を中断して撤退した。

「……配信を止める方に専念、か。大昔に何があったんだか」

 エマは愛銃を腰布に差しながらボヤき、エッグヘッドからの脱出を本格的に進めようとした時。

《〝空白の100年〟にあった〝巨大な戦い〟は、まだ終わってはおらん……じゃが、それを終わらせようとした者がおよそ200年前にいた》

「ん?」

《それは〝歴史の本文(ポーネグリフ)〟にも記されておらず、奇跡的に処分されなかった文献にのみ残っていた()()()()の話じゃ》

 映像の中のベガパンクは、ジョイボーイだけでなくもう一人の存在も知ってほしいと語った。

 

《彼女の名は〝アン・D・リード〟……かつて世界政府に戦いを挑んだテロリストであり、「五皇」クロエ・D・リードの高祖母である海賊じゃ!!!》

 

『ハァァァ!!?』

 クロエ海賊団と五老星を除いた、エッグヘッドにいる全ての人間が驚愕した。

 

 

           *

 

 

 話が世界最強の女の先祖に変わり、驚きに包まれたのは全世界も同様だった。

「〝鬼の女中〟の高祖母が、世界政府に戦争を!!?」

「そんな話聞いた事ない!!」

「……!?」

 海軍本部では海兵達が混乱し、かつては彼女と殺し合いを繰り広げていた元帥・サカズキも驚いていた。

「クロエさんのご先祖が、おれ達よりも早く政府に…!?」

「ドラゴンさんは?」

「いや…おれも初めて知った…!」

 カマバッカ王国に拠点を移したドラゴンと革命軍も、ベガパンクの言葉にざわつく。

「アンディ……」

「カイドウさん、何か心当たりが?」

 百獣海賊団の本拠地・鬼ヶ島では、総督のカイドウが意味深に呟き、キングが思わず声を掛けた。

《彼女に関連する記録は、ジョイボーイのそれよりも少なく……200年前の戦いもほとんど記録に無い。ゆえに憶測が多くなる為……仮説であるという事を前提に聞いてほしい》

「ロックス、おめェが生きてたら…さぞ聞きたかったろうねェ」

「ママ…?」

 ホールケーキアイランドでは、リンリンが家族と一緒に配信に耳を傾ける。

 どうやら彼女のかつての船長は、アンディに興味を持っていたそうだ……。

《アン・D・リードは、この場では通称であったアンディに変えて語ろう。……()()()()であったアンディは世界各地でテロ行為を重ね、世界政府に怒りを抱く者をかき集めていた。種族も性別も問わず兵力を集め、世界中に点在する全ての種族の軍隊を作った。残念ながら、彼女がなぜ戦いを仕掛けようとした理由はわからぬが》

「ゼハハハ…」

「おいティーチ、お前まさか…」

 自身のナワバリで耳を傾けていたティーチの意味深な笑みに、仲間達は顔を見合わせる。

《――そして諸君も気づいているだろうが、アンディは聖地マリージョアで戦死。軍隊も完全崩壊した。だが彼女の戦いは、150年の時を経て海賊ロックス・D・ジーベックに影響を与え、そして50年経ってリード一族最後の末裔であるクロエ・D・リードに引き継がれた…!!》

 

 

           *

 

 

「ロックスのお頭さん…」

 かつて憧憬したロックスとの淡い記憶を振り返るエマ。

 目的は違えど、世界政府の支配を終焉させる為に奔走してきた過去の〝D〟達の残響は、クロエによって再び譜面となろうとしている。世界政府は、それを阻止したいのだろう。

 一方、配信の方は、ベガパンクが自身の開発したマザーフレイムが古代兵器を起動させ、ルルシア王国を島ごと消滅させた事を告白。多くの人命を奪う行為に加担し、かつて世界を海に沈めた〝人為的災害〟の実行可能を証明してしまった事を深く謝罪していた。

 誰が悪で誰が正義か……その全てが明らかになる時、世界沈没の危機が訪れると警告しつつ、さらなる爆弾発言をした。

《〝空白の100年〟と〝アン・D・リードの戦い〟は、まだ謎に満ちておる!!! ――しかし、その全てを知った者達がいる!!! 〝海賊王〟の一団である!!!》

『ええええェ~~~!!?』

 世界制覇を果たしたロジャー海賊団が、世界の秘密を知った事に誰もが愕然とする。

《――歴史の全てを知った彼らはなぜ、誰にも何も告げず消えたのか…》

「……随分と、刺激の強い話ね」

「それどころじゃねェ、ヤバい覇気が近づいてんぞ!!」

 話の内容が濃すぎて眩暈しそうなステューシーに、ラカムは危険を知らせつつ構えた。

 彼の視線の先には、刀を持ったケンタウロスのような怪物――ナス寿郎聖が高速移動で向かってきていた。

「コル寿郎、合わせろ!!」

「うむ!!」

 ラカムとコル寿郎は得物に武装色の覇気を纏わせ、同時に振り抜いた。

「「〝覇国〟!!!」」

 五老星に照準を定め、〝エルバフの槍〟を放つ。

 ――本家である巨人族のそれよりは多少なりとも劣るが、五皇幹部の合体技は流石の五老星でも無傷では済まないだろう。

 そう思っていた二人だったが……。

 

 ――ドドッ!! ドゴォン!!

 

「何っ!?」

「躱された!! 船が危ないぞ!!」

 ナス寿郎聖は紙一重で回避し、一気にサニー号へ肉薄。

 完全に不意を突かれ、絶体絶命になるも――

「〝(ごく)(らく)(あん)(よう) 羅生門(らしょうもん)〟!!!」

 

 ガキィン!! ギギギギギ…バチィン!!!

 

 ジンベエの〝魚人柔術(ぎょじんじゅうじゅつ) 肩車(かたぐるま)〟で投げ飛ばされたゾロが、ナス寿郎聖と斬り結ぶ。

 拮抗する斬撃は、覇王色を伴って互いを弾いた。

「ゾロ!!」

「船を出せお前ら!! おれ達はあとで飛び乗る!!!」

 今の内に脱出しろとナミ達に告げるゾロ。

 そんな彼に、世界最強の女の仲間が笑みを浮かべて歩み寄った。

「10億越えの剣技、やるじゃねェか」

「助太刀感謝するぞロロノア!! 卿がいれば、ナス寿郎のおじじ様を出し抜けるかもしれん!!」

「てめェらは…」

「……コル寿郎…!!」

 ゾロがきょとんとした顔をすると、ナス寿郎聖が睨みつけながら居合の構えを取った。

「〝海賊狩り〟、おれとコル寿郎で奴に隙をつくる。その間に一泡吹かせてやれ!!」

「余とラカムは覇王色を扱えない。先程のような卿の斬撃が入れば、あの船を逃がせる時間は稼げるはずだ!!!」

「……何だか知らねェが、要はあの馬ジジイをぶった斬るんだな?」

「シンプルな方が好みだろ?」

(ちげ)ェねェ」

 三刀流に構えたゾロは、覇気を高めて不敵な表情を浮かべる。

「いいだろう、やってやる!!」

 

 

 その頃、地上では謎の〝鉄の巨人〟が突如として起動。島を闊歩し始めていた。

 島の大火はおろか海軍のバスターコールの砲撃すらものともせず、まるで何かを探しているかのように巨体を動かしている。

 そんな大昔のロボットに、ナス寿郎聖を除いた五老星が各々の戦場を放置して集結していた。

「おい……あれは……!!!」

「ああ…200年前に……マリージョアを襲撃した鉄巨人……!! 間違いない…!!!」

 獣型の姿のまま、マーズ聖とウォーキュリー聖は視認する。

 あの〝鉄の巨人〟の中に、配信電伝虫があるのだ。

《――最後に一つ…伝言(メッセージ)をさせてくれ。世界中に点在している…!! 〝D〟の名を持つ者達へ…》

『!!!』

 五老星は一斉に顔色を変え、鉄の巨人に突進する。

「……!!」

「エース…ルフィ…」

 ドラゴンと参謀総長のサボは、自らの家族を思い浮かべる。

「ルフィさん…ガープ中将」

 海軍の新たな英雄は、恩人と師匠を案じる。

「……」

「クロエおばさん…ルフィ」

 新世界の海を流離うレッド・フォース号で、赤き覇王が眉をひそめ、その娘が憂慮した。

『キャプテン…』

「何を言う気だ、ベガパンク…」

 ある島の海域に停泊中のハートの海賊団は、船長のローとその仲間達が画面の科学者に目を奪われる。

「……」

「エース…」

 白ひげの故郷・スフィンクスで耳を傾けていたエースは目を細め、マルコは腕を組んで当事者の彼の名を口にする。

《お前さん達の中にも…》

 

 ガシャァン!!

 

「いい加減にしろ……!! ベガパンク……!!!」

 その先が流れようとした途端、ウォーキュリー聖の突進が直撃。

 鉄の巨人は海に放り出され、そのまま沈んでいった。

 

 ――ドコ…? ジョイボーイ、アンディ…ドコヘ行ッタ? 会イタイナ……()()()()、ジョイボーイ、アンディ…変ダナ…変ダナァ……。

 

 その巨体に宿る意志と共に、深く暗い海底へと。




皆さんも本作の時系列的に気づいていたかと思いましたが、クロエの高祖母・アンディと鉄巨人のエメトは200年前に会ってます。
アンディもまた、エメトにある物を遺しているらしく……?

そうそう、先日ワンピースの人気投票の中間結果が出ましたね。
推しのロックスが12位でスゴい嬉しいです。(笑)
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