〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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ついにエッグヘッド事件、終幕です。


第124話〝楽譜(フルスコア)

 ルフィ達や巨人達が続々と島を脱出する中。

 クロエとバレットは、五老星相手に大立ち回りを繰り広げていた。

「いい加減にくたばれ!!」

「この老害共め!!」

 怒りを孕んだ咆哮をあげ、死力を尽くした猛攻を続ける二人の無双(バケモノ)

 心技体が全盛期を迎えた「ロジャー海賊団の双鬼」には、不死身の五老星もかなり疲労が溜まっており、島で手中に収めたい物もあってか焦りが滲み出ている。

 その戦いの余波は凄まじく、覇気の暴発が地上を次々と破壊し、ベガパンクの配信をしていた鉄の巨人の内部の電伝虫も覇気を浴びて気絶して配信を強制停止してしまった程。海岸に至っては敵味方関係なく島からの脱出しか頭に考えてない状態だ。

「何ちゅう覇気じゃ!!」

「島が危ないわ!! 早く沖に!!!」

「野郎共、急げ!! クロエ達が怪物達を相手取ってる今がチャンスだ!!」

 麦わらの一味と巨兵海賊団は、各々の船を出航させる。

 一方のクロエ海賊団はというと……。

「エマ!! ラカム!! どこへ行く!?」

「お前ら、絶対に来るなよ!!」

「レッドさん、出航して沖で待ってて!!」

 エマとラカムは、クロエの覇気の強さから万が一を考えて島の中央へ向かう。

 その同時刻、島内にあるパンクレコーズでは(エジソン)(シャカ)(ピタゴラス)の三人の〝(サテライト)〟が「未来」を守る為に懸命に作業をしている。

「急げ!! はよせんと間に合わなくなるで!!」

「〝工場層(ファビリオフェーズ)〟は捨てる!! 〝研究層(ラボフェーズ)〟も状況次第では破棄すると覚悟しろ!!」

「しかしこれ程の被害……融合炉(パワープラント)も捨てねばならないかも……!!」

 

 〝新世界〟「エッグヘッド事件」――

 海軍本部及びサイファーポール〝イージス〟ゼロ、極秘任務記録あり――

 事件による死傷者数、不明――

 島の住民の安否、情報破棄――

 被害総額、計算不能――

 

 この歴史的大事件は、ベガパンクが配信で語った世界の真実と共に大きな衝撃を与える一方、かつてのゴッドバレー事件を彷彿させる結末を迎えようとしていた。

 

 

           *

 

 

「ハァ…ハァ…ったく、しぶといな…」

 辺り一面が瓦礫しかない世界で、クロエは雨に濡れながら悪態をつく。

 ベガパンクが島エアコンを開発した事で気候を自在に調整できるようになったエッグヘッドだが、度重なる覇王色の衝突による異常な覇気のせいか、それとも単純に島が崩壊し始めてるからか……島エアコンが制御不能となり大雨が降り注いでいた。

 雨の日の戦闘は、急激な体温低下を伴う。水は空気の約25倍もの速さで熱を奪う為、体温を保とうとする為にエネルギーが過剰消費される上、血管が収縮して筋肉へ酸素や栄養がスムーズに運ばれなくなり、指先の感覚が鈍ったり震えによって精密な動作や咄嗟の判断が著しく低下してしまう。

 つまりこの雨は、終幕の合図なのだ。もっとも、島の崩壊が進んでいるのでこれ以上の戦闘は厳しいというのもあるが。

「……バレット」

「ちっ……もう終わりか」

 ゴゴゴゴゴ……という地響きが群発する。

 この島は、もう長くもたない。あと数時間の命だろう。

 それは五老星も同じ判断だったのか、今まで以上に殺気立った。

「バレット……おそらくだが、向こうも覇王色である程度ガードしているかもしれない。だが覇気は悪魔の実に対抗できる唯一のチカラ…ノーダメージはあるまい」

「最大質量でブチ込もうってか? ――カハハハ…!! 名案だ…!!」

 クロエは化血を黒刀状態にさせ、バレットは全身に武装色の覇気を纏わせて肉体をパンプアップさせた、その時。

 

 ――アンディ?

 

「ん?」

 ふと、クロエの耳に声が届いた。

 徐に振り返ると、視線の先には鉄の巨人が佇んでいた。

「おい、ウォーキュリー……」

「ああ…まだ完全に機能停止してなかったようだ」

 五老星は鉄の巨人を警戒しつつも、まずは目の前の二人を優先しなければならず、同時に意識を向けている。

 一方、クロエは鉄の巨人に話しかけていた。

「おい、ガラクタ。今は目の前の敵に集中させろ」

「クロエ、誰と喋ってやがる」

「ん? お前には聞こえないのか?」

 この場ではクロエしか聞こえない声に、バレットは困惑しながらも鉄の巨人を睨んだ。

「……」

「私にしか聞こえないか……おい、ガラクタ!! 10秒やるから言いたい事あるなら言え!!」

 双方が戦闘体勢に入ると、鉄の巨人がまた喋り出した。

 

 ――スマナイ…アンディ…ワカッテルンダ、ジョイボーイモオ前モ、モウ生キテナインダッテ……!! デモ、オ前ヲ見テルト、トッテモ懐カシインダ……!!! ネェ、名前ハ…?

 

「私の名前? クロエ・D・リード…お前の知るアンディの子孫だ。貴様こそ名前は?」

 

 ――フフフ…〝エメト〟……!! ソッカァ…オ前ハアンディノ……!! 口ノ悪サソックリ……!! ネェクロエ…ココハ任セテ。ジョイボーイヲオ願イ!!!

 

 鉄の巨人――エメトは右胸のボタンを徐に押す。

 するとそこから縄の結び目が現れ、()はそれを引っ張って解いた。

 次の瞬間!!

 

 バリバリバリィ!!

 

 バレットはおろかクロエですら感じた事のない強力な覇王色が拡散。

 あまりの威力に天が割れ、ボルサリーノとゼット、セラフィムを除く海兵達は中将クラス含めて全員気絶。至近距離で覇気の直撃を受けた五老星は、身動きが一切取れなくなった。

 エメトが作った隙を見逃さず、クロエはバレットと共に最大出力の攻撃を仕掛けた。

「〝火雷神(ほのいかづちの)〟――」

「〝最強の(デー・ステェクステ)〟――」

 クロエは黒刀となった化血を振り回し、限界まで覇王色を込める。

 バレットは青き熱を帯びながら、拳に覇王色を込める。

 この戦いで一番強力な大技を仕掛けてくると五老星は察知するも、例の覇王色のせいで身動きが取れず――

「〝()(けつ)〟!!!」

「〝一撃(ストライク)!!!」

 クロエは渾身の一太刀で、バレットは無数の拳の乱打で五老星に集中砲火。

 最大質量の覇王色を纏ったそれは、覇王色で守りを強固にしていた怪物達を完膚なきまでにズタズタにし、その余波でエッグヘッドは激しく震えた。

 

 

「……ハァ……ハァ……」

「ゼェ……ゼェ……」

 体力も覇気も限界まで消耗し、息も絶え絶えな二人。

 すると、煙の中から五つの人影が。

「ハァ、ハァ…」

 五老星はいまだ健在だった。

 しかし、その顔には脂汗が滴っており、怪物に変身できないくらいに疲労が蓄積している様子だ。

「……あと一発…!!」

 クロエは歯を食いしばり、化血に残り僅かな覇王色を込めた時。

 今までとは比べ物にならない程の地響きが起き、次々と地割れが発生。崩壊を免れていたビルや工場も、ひび割れて傾き始める。

 エッグヘッドが海に沈む――結論を導くのは一瞬であった。

 

 ボンッ!

 

 不意に、地面に魔法陣が展開され、サターン聖を除いた五老星が移動していく。

「引き際だ……」

「待て!!」

 咄嗟に覇王色を込めた斬撃を飛ばすが、サターン聖は杖を振るって相殺。

 疲労困憊の状況ではそれが精一杯で、クロエは聖地へ撤退する五老星を見届けるしかない。

「…この島は沈む…ゴッドバレーのようにな……ハァ、ハァ……」

 サターン聖も激しい戦闘で相当疲弊しているのか、不死身の身体でありながらクロエとバレットへの追撃はせずに別の魔法陣を展開。

 どこか覚束ない足取りで中心に立つと、黒い爆発と共に消滅した。

「……クソッ!! しくじった……!!」

「……」

 まるで敗戦の将みたいな雰囲気を醸し出す二人。

 すると、近くからエマとラカムが現れた。

「クロエ、ここにいたの!?」

「ダグラス・バレットもか……早くしろ!! 島が崩壊するぞ!!」

 エマはクロエを担ぎ上げると、ラカムがバレットに問う。

「……あんたは大丈夫なのか」

「おれは一人で帰る。――そこの()()()()によろしく言っとけ」

「……世話んなったな」

「やめろ、気色悪い」

 バレットはぶっきらぼうに告げ、自身の船である潜水艇カタパルト号へ戻る。

 その浅黒く大きな背中を見届け、ラカム達も撤退した。

 そんな彼らを、エメトもまた見送るように佇んでいた。

 

 

           *

 

 

《急げ!! 島が崩壊するぞ!!》

《クロエの船が動いたぞォー!!》

《撃てーー!!》

 まだ動ける海軍の軍艦の連絡が飛び交う中、沖で待機していたオーロ・ジャクソン号はようやく出航。

 体力も覇気も使い果たして気を失ったクロエが医務室に運ばれる中、艦隊の砲撃が向けられるも、砲弾は正確に迎撃され着弾を許さない。

 海軍と世界政府は、またもや世界最強の女に翻弄されてしまったのだ。

「……わしらの、エッグヘッドが……」

「あのロボも巻き込まれてるぞ!!」

「今は逃げる事だけ考えろ!! 感傷に浸るのは後じゃ!!」

 麦わらの一味の船――サウザンド・サニー号はベガパンクの分身達の一部である(リリス)達を連れ、巨兵海賊団と共にエルバフへ向かいながら撤退。

 上空では、島雲に乗ったパンクレコーズから(シャカ)達が見下ろしていた。

「マザーフレイムの融合炉(パワープラント)も「(クモ)フト」も、海に沈んでしまいましたね……」

「……止むを得ん。我々の命に加え、パンクレコーズと研究層(ラボフェーズ)の一部だけでも、あれ程の戦力から奪われずに済んだのが奇跡だ」

「幸い、本体(ステラ)が失っちゃアカンと言ってた「雲フト」の設計図はある!! まだ諦めるには早いで」

「ひとまず「ウェザリア」へ向かうぞ」

 天候の科学について研究する人工島へ、パンクレコーズは舵を切る。

 それを軍艦の甲板で、ゼットは見上げていた。

「……」

「ゼット中将!! ボルサリーノ大将が……」

「起きたのか。……しばらくそっとしてやれ、誰よりも心の傷が深いんだ」

 壁に凭れ、好物のシェリー酒を瓶ごと呷る。

 父親からは一番カッコいいと言われた酒は、なぜか味がいつもより不味く感じるのを堪えながらゼットはただただ飲んだ。

 

 ――まるで舞台の幕が下りるかのように、「500年後の未来」は崩れ、深い霧に覆われていく。

 ――これが後世に世界をひっくり返したきっかけとして語り継がれる、「エッグヘッド事件」の大要である。

 ――しかしこの時、一瞬の静けさを経て…割れたままの天からは降り注ぐ雨が吹雪へと変わり、いくつもの冬季雷が轟いた。

 ――そして、過去の海の猛者達の残響を譜面に起こした〝鬼の女中〟が奏でる楽譜(フルスコア)は、この世界を新しい時代へ導こうと加速していくのだった。




以上で、エッグヘッド事件は終結です。

今回ばかりはクロエもヘトヘト。お疲れ様でした。
五老星も、本気のクロエとバレットを討ち取れる程の元気はなかったようです。「ロジャー海賊団の双鬼」を倒すのは5人がかりでも厳しかった模様。

皆さんも薄々勘づいてたと思いますが、アンディの置き土産はジョイボーイと同じものです。
ただしジョイボーイの方が覇王色は上なので、五老星をマリージョアへ強制送還させる程の威力はありません。
ちなみにイム様は例の部屋で「うわあああああ!!!」って言ってました。流石にジョイボーイ程ではないですが、アンディもトラウマになってます。

そして島の崩壊に巻き込まれたと思われるエメトですが、まだ出番があるので乞うご期待。

あ、そうそう。マザーフレイムはエッグヘッドと共に融合炉(パワープラント)ごと海に沈んで引き上げ困難になりました。サターン聖、ご愁傷さまです。(笑)
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