エッグヘッド事件から一夜明け。
クロエ海賊団は新世界の海を駆けていた。
「まだ起きないのか?」
「五老星全員と戦ってからな……」
「おそらく実力で言えばウチの船長の方が上だろうが、あの不死身のギミックがな……」
「だが止めを刺せなかった……それぐらいの疲労は溜まったんだろう」
昨日の出来事を振り返っていると、ギィィ…と医務室の扉が開いた。
そこからは身体中に包帯を巻きながらもピンピンしているクロエの姿が。
「心配をかけたな、お前達…」
「クロエ!!」
「母さん!!」
「船長!!」
「よせよせ、騒ぐ程の事じゃない」
クロエは苦笑いを浮かべながら、エマ達に状況を尋ねる。
「今、どこに向かってる?」
「海賊島だよ」
「……方向転換、エルバフに向かうぞ」
『エルバフ!!?』
クロエの船長命令に、船員達は驚いた。
エルバフは今の海域からなら近いし、療養先という観点では確かに問題は無いが……。
「今回の一件で、神の騎士団も本格的に動くだろう。エルバフの王も神の騎士団だったと聞く……奴らに巨人族の兵力を取らせたくない」
「まァ……エルバフが政府側に付くと面倒だよね」
「私に一人、絶対に政府に与しないという確信が持てる男がいる。そいつに会いに行こうと思う」
「……クロエ、まさかと思うが、ロキではないか?」
顔を引き攣らせるコル寿郎に、クロエはあっけらかんと「それがどうした」と返す。
「……余としてはあまりお勧めしない。奴は世界政府特別懸賞金26億ベリー!! いくら賞金が卿と倍近い差があれど、実力は五皇にも迫るぞ」
「暴れたら手に負えんと? だから私が行くんだが」
「……確かに世界政府には与しないだろうな…」
ロキと事を構えるのは避けるべきと唱えるも、クロエは意にも介さない。
すると、そこへ思わぬ珍客が。
「敵船だァ!!!」
「百獣海賊団の船だ!!!」
「待て、ここは私が出る!」
前方に現れた永遠のライバルの一味に、クロエは船首楼甲板に躍り出る。
見上げると視線の先には、魔界のような光景――百獣海賊団の幹部達が勢揃いしていた。
「聞いたぞクロエ。昨日の配信。おれとお前が組めば〝
「――やりたいようにやるのが海賊だ。それと私は〝
クロエは単身百獣海賊団に乗り込み、カイドウと二人っきりの会談を行った。
「いいか……これはお前にしか話さん。私の仲間達は承知しているが」
「あァ?」
トクトクと盃に瓢箪の酒を注ぎ、カイドウに投げ渡す。
世界最強の生物と称される男は、それに直接口をつけてグビグビと呷り始める。
「私は世界政府の王…ネロナ・イムを倒す」
「!? 五老星じゃねェのか!?」
「前に聖地に殴り込んだ際に戦った。お前も心当たりがあるんじゃないか? 姿はわからんが、両目が赤い化け物を」
彼女の言葉に、カイドウはハッとなった。
38年前、ゴッドバレーで黒い化け物に遭遇し、その化け物は両目が真っ赤であったのを思い出したのだ。
あの時の化け物はロックスやロジャー、白ひげ達の一斉攻撃を浴びながら平然としていたが、クロエはそれと聖地で戦ったのだ!
「私のご先祖……アン・D・リードも、どうやらそいつとの戦いに負けて
「!!」
「別に敵討ちのつもりはないさ。私の夢とご先祖の悲願は方向性がまるっきり違うらしいからな。だが……私の人生の完成に相応しい強敵なのは間違いない」
盃の酒を飲み干し、クロエは笑う。
「……カイドウ、私はお前を仲間と同じくらいに信用してる。だからこそ、今回の要求は蹴らせてもらう。これは私の問題だ」
「……」
「むしろ貴様は周囲を固めるべきだ。〝
シャンクス、ビッグ・マム、黒ひげ、世界政府および海軍……あらゆる勢力がベガパンクの配信を機に〝
カイドウも争奪戦を勝ち抜くからには、〝
「次に会ったら、今度こそ決着を付けよう。それまでは
「……その約束、
「今の私なら、もう少し長く貴様と遊べるさ」
クロエは盃を置き、踵を返す。
「くたばったら承知しねェぞ、クロエ」
「フッ…貴様こそ」
盃を交わしたカイドウと別れ、クロエ海賊団は一路エルバフを目指す。
そんな中、ニュース・クーが新聞を配達してきたのだが――
「ルフィ君がベガパンク殺害の主犯になってんだけど……」
「あの鳥、丸焼きにされたいのか!!? ルフィがそんな事するわけないじゃないか!!!」
「落ち着け、ヤマト!!!」
ムキーッ!! とヤマトが怒り、船員が宥める。
新聞を見ると、エッグヘッドの一件は戦犯として、ルフィとクロエが悪者にされているようだ。
「……まあ、あながち間違いじゃないしな」
「暴れ過ぎて海に沈んでしまいました、ってのはちょっとやり過ぎよ……」
「だから言ったろう、沈めたら悪いなと」
ジト目のステューシーを他所に、クロエはエマから新聞を分捕る。
記事によると、100年の眠りから目覚めた巨兵海賊団が復活し、五皇の一角にして世界最強の女である〝鬼の女中〟と彼女に比肩する伝説の大海賊〝鬼の跡目〟、そして「第六の皇帝」と世間で知られる〝麦わらのルフィ〟らと共にエッグヘッドを滅亡させたという衝撃的な見出しが躍っていた。
そして、かつて1億ベリーの賞金首だった船長である〝赤鬼のブロギー〟と〝青鬼のドリー〟に対し、それぞれ18億ベリーという巨額の懸賞金が懸けられたという。100年前と今では物価が全く違う上、現在のエルバフの戦士達の長という立場を考えれば妥当な金額である。
「……〝
「いや……別に大したもんじゃねェよ。それよりもその写真、おかしくねェか?」
クザンは世経の最新号の一面にある、一つの不自然な点を指摘した。
「麦わらの写真はめっちゃブレてるのに、その腕のマークだけがはっきり写ってるじゃねェか」
「私が見た時にはなかった……あとから付け足したんだろう」
「でも、何の為に?」
「さァな……」
クロエは腕を組み、小さく息を吐く。
世経のモルガンズの考えてる事などわかるはずもない。
(ただ…
*
2日後、エルバフ。
クロエはラカム達と別れ、エマを連れて「冥界」の雪原を一人で進んでいた。
その目的は当然――
「久しぶりだな、ロキ」
「……クロエか」
〝呪いの王子〟ロキであった。
「デカ……ロックスのお頭さんが言ってた話と違う、のは当然だよね」
「――あァ!? お前、今〝ロックス〟っつったか!!?」
「あ、うん。私、海賊島のバーでお手伝いしてたし、お師匠がロックス海賊団だし」
「なに、ホントかそりゃ!!?」
ロックスの名を聞いた途端、海楼石の鎖でグルグル巻きになった体を激しく揺らすロキ。
何を隠そう、かつてルフィがシャンクスに憧れたように、ロキはロックスに憧れていた。ただロックス本人は彼の父であるハラルドの勧誘をしにエルバフへ訪れていた為、幾度となく一蹴されてきたのだが。
「君の事は聞いてるよ。「変におれに懐いたハナッタレのガキ」だって」
「……そうか、ロックスはおれの事を憶えて…」
その言葉を聞き、柔和な笑みを浮かべるロキ。
見向きもされなかった憧れの海賊が、自分の事を憶えていてくれた。これ程嬉しい事はない。
「私はエマ・グラニュエール。クロエ海賊団副船長にして海賊島提督、そして元ロックス海賊団・王直の娘だよ」
「おれは世界を終わらせる〝太陽の神〟ロキだ!!! ――って、ハァ!!? 王直の娘ェ!!? あの三段首のォ!!?」
「といっても、義理の娘だよ。拾われたんだ」
「だよな……全然似てねェし」
ロキは改めて、ロックスの関係者が来てくれた事を嬉しそうにする。
「丁度良い、話を聞かせてくれよ。お前の知るロックスの事……」
「えっと、クロエはいい? 話したい事ある?」
「あとで構わん、好きに話してやれ」
クロエは踵を返し、森の奥へ向かう。
「クロエ! どこ行くの!?」
「飯を調達してくるだけだ、すぐ戻る」
大きく欠伸をしながら、クロエは森の奥へ姿を消した。
同時刻、エルバフの村。
一足早く到着したラカム達は、巨人達の接待を受けながらこれから来る来客の話を聞いていた。
「〝麦わら〟も来るのか!?」
「そうか、
「つくづく〝D〟は〝D〟を呼び寄せるな……」
エッグヘッドに続いてまたしても邂逅しようとする〝D〟の意志に、コル寿郎は驚嘆するしかない。
「お頭達に加えてハイルディン達も戻って来る!! 今日の宴はいつも以上に豪勢だぞ!!」
「お前達のお頭はどうした?」
「ロキに会ってくると言っていたが…」
『ダメだ!!!』
レッドアローの言葉に、巨人達は一斉に猛反対した。
「ロキとは仲良くできん。あいつは〝エルバフの恥〟だ!!!」
「ああ…頭のネジが飛んでるんだ」
「エルバフの王家に伝わる〝伝説の悪魔の実〟を手に入れる為に父を殺したんだ……次にあいつを解き放ったら世界がぶっ壊れる!!!」
巨人達の話に、クロエ海賊団の面々も顔をしかめる。
「頭のネジは…あの怪物船長も飛んでるっちゃ飛んでるんだよな…」
「……一応忠告はあとでしとくわね」
――もう手遅れかもしれないけど。
その言葉を飲み込み、ステューシーは紅茶を一口飲むのだった。
ついに始まったエルバフ編。
果たして、神の騎士団の運命や如何に……!?
本作の神の騎士団、貧乏くじ引いてるなァ……。