エルバフ、冥界――
「ロキ……あれが26億の賞金首か。もうちょっと盛ってもいい気もするがな……」
クロエは巨大な角を生やした恐竜のような獣を引き摺り、ロキとエマの場所へ戻っていた。
この恐竜のような獣は「ヘラジカ」と呼ばれ、その肉が非常に美味である為エルバフではご馳走の部類に入る。
実はヘラジカは巨人族よりもはるかに巨大で凶暴な生物であり、腕に自信のある巨人でも数人がかりでなければ仕留められない程に獰猛なのだが……クロエは覇王色の覇気を浴びせて手を出す事なく倒したのだ。現にヘラジカは白目を剥いて泡を口から垂れ流している。
「……む?」
ヘラジカ片手に移動していると、感じた事のある覇気を察知する。
それは、エッグヘッドで再会を果たした――
(来たか、ルフィ)
クスリと笑いながら、彼はヘラジカをさらに引き摺ってロキとエマの場所へ向かう。
思えば、エッグヘッドではロクな会話もできなかった。話したい事も、やりたい事も、試したい事もあった。
だからこそ、このエルバフでルフィを迎える。愛するロジャー亡き今、自分の時代となった今、がら空きとなった王座に相応しいのかを試す為に。
「……いかんな。ルフィの母親ではないんだが、ついついあの子が息子のように思えてしまう」
私も今年で47歳だしな、と呟いてロキ達の元へ向かうと……。
「あ~~~っ!! クロエ~~~!!!」
「おいクロエ!! こいつどうにかしろよ!!!」
「いや、君も君でしょ」
ワーワーと騒ぐ一同に、クロエはしかめっ面で「何をしてるんだ、阿呆共が」と呆れながら言う。
しかしその顔は柔和に笑っており、ルフィとの再会を喜んでいるのがバレバレだ。
「エマ、揉め事か?」
「何かロキ君がシャンクスの事ディスったらルフィ君がキレた」
「あー、あいつ大人げない上に自分の娘の件で盛大にしくじってるしな。しかも未だに私に勝てないし」
「身内のてめェが一番ディスってんじゃねェか!!!」
シャンクスを腰抜け呼ばわりしたロキに対し、クロエはそれ以上の悪口を平然と言ってのけた。
不公平だと言いたいが、クロエがシャンクスの義理の姉であり、シャンクス自身も彼女に頭が上がらないのを知っているので誰もツッコまない。
しかし、義理の姉という立場でこれだけ言い合える仲なのだ、互いに深い絆がそこにあるのは事実だろう。
「……でだ、ルフィ。ロキと何か約束したりしなかったか?」
「あっ……べ、別に…何もしてねェよ…?」
ルフィは口笛を吹きながら汗だくで目をそらすが、クロエは「無邪気すぎるぞ」とクスクス笑う。
相変わらずウソがヘタクソである若者に、エマは腹を抱えて大笑いした。
「まァいい。大方の見当はつく。だがロキ、お前はもう少し待機だ」
「あ?」
「人には必ず出番がある。その見極めだ」
クロエは愛刀・化血を抜いて軽く一振り。
ヘラジカの巨体をスパパンッ! とあっという間に細切れにした。
「ルフィ、そろそろ私の仲間達とお前の仲間達が合流する頃だ。エマと一緒に上がれ」
「そうだね……ロックスのお頭さんとの思い出話はまだあるけど、こっちの都合もあるし」
「ドガハハ…あの三段首の義理の娘が天下の〝魔弾〟だとはな。いい話聞けたぜ、ありがとよ」
「肉食ってから行く!!」
大食漢のルフィは、ヘラジカの肉を堪能する事を優先。
仲間を心から信頼してるのだろうが……食欲には抗えないのだろう。
「仕方ない、携帯食にしてやるか…………そういえば、コーヒーはちゃんと淹れられてるか?」
「おうっ!! サンジから墨付けられた!!」
「いや、お墨付きを貰ったんでしょ!? それ絶対誤解生む言い方だって!!」
ルフィの言い回しに盛大にツッコむエマ。
しかし、超一流の料理人である〝黒足のサンジ〟が認める旨さなのだから、バリスタ技術はかなりのレベルに達したようだ。
「あとでどこまで上達したか、飲ませてもらうぞ」
「ニシシシ!! 美味すぎてひっくり返るぞ!!」
「無類のコーヒー好きの私に言うとはいい度胸だ」
互いに笑い合い、ルフィはエマと共にクロエが焼いた肉を頬張りながら陽界に戻って行った。
それを見届けたクロエは、化血でヘラジカの肉を突き刺し、モグモグ食べながらロキに声を掛けた。
「これは美味い……どうだロキ、貴様も」
「おめェ、この状態でどうしろってんだ!!」
「ん……それもそうだな」
クロエはヘラジカのサイコロステーキを食べ終えると、化血を右手に持って覇王色と武装色を纏わせ、ロキの巨体を駆けあがる。
目指すは、彼を拘束する海楼石の手錠だ。
「やはりここまで巨大だと、
「? ……ちょっと待て、お前まさか…!!」
クロエは一言「動いたら痛いじゃ済まんぞ」と告げ、化血を振り下ろした。
*
その頃、エルバフ〝西の村〟。
ルフィと合流した麦わらの一味は、ロビンの恩人であるハグワール・D・サウロへの挨拶へ向かい、クロエ海賊団はエルバフの戦士達の宴に参加していたのだが……。
「何の冗談!!? 断る!!!」
『うおおおっ!!?』
突如として響く、エマの怒号。
相当感情が荒ぶってるのか、バリバリと覇王色が漏れ出ている。流石にエルバフの戦士達は耐えているが、酔いが完全に覚めたのかざわついている。
視線の先には、エマが電伝虫で誰かと会話している様子だが……。
《おめェも知ってるだろ? エマ……麦わらに顔潰されたまんまじゃ、シメシがつかねェんだよ》
「ルフィ君に足を掬われたのは自業自得でしょ? それにエルバフに殴り込んだらどうなるかわかってるの!? リンリンさん…!!」
エマが口にした名前に、巨人族は息を呑んだ。
電話相手は、何と現在の五皇の最古参――〝ビッグ・マム〟シャーロット・リンリンなのだ!
「いくらロックス海賊団との付き合いがあるとはいえ、私も引けないよ」
《おれとしても王直やマーロンとわざわざ揉めに来た訳じゃねェよ…!! いいかい? エマ…手ェ出すんじゃねェぞ。麦わらとはおれが直々に
あくまでも麦わらの一味が目的であり、エルバフと巨人達に対しては自分から攻撃はしないが、攻撃してきたら容赦なく滅ぼすと伝えるリンリン。
彼女は決して脅しで言ってるのではなく、一報入れている。つまり口先ではなく、意向でもない。
《おれだっておめェを殺したくはねェのさ……》
「っ…」
イカレた皇帝だと大海賊からも称される、傍若無人の女王とは思えぬ優しさを滲ませるリンリン。
エマはクロエ海賊団副船長として何度か戦争レベルの衝突をしてきたが、幼少期にロックス海賊団にお世話になったのも事実であり、実際可愛がってもらった。最優先はクロエだが、あの頃の若干の姉御肌気質だったリンリンを知る者として、色々と思うところもあるのだ。
「……村に来ないで。その条件を呑めるのなら――」
ドンッ!!
「!!?」
突如として、強力な気配を察知。
それと共に感じた覚えのある気配がして、エマは後ろに遠くそびえる古城――アウルスト城に目を向ける。
「ラカム君!!!」
「わかってらァ!!」
「――リンリンさん、ごめん一旦切る!!」
《あァ!? おい待て、まだ話は――》
リンリンとの通話を強制終了すると、エマは城へ向かったラカム以外のメンバーにサインを送る。
それを見た一同は顔色を変え、臨戦態勢に入った。
(今の気配……杞憂であれば良いんだけど……)
嫌な予感がしてならないエマだが、その予感は的中。
アウルスト城では、二人の侵入者――〝神の騎士団〟の団長シャムロック聖と騎士の一人である軍子宮が、見回りと思われる二人の巨人に深手を負わせ、征圧していた。
その目的は、囚われの身のロキに会い、彼を神の騎士団に勧誘する為だ。
「冥界と呼ばれる最下層にロキはいるそうだ、団長」
「ああ……」
シャムロック聖は軍子宮と共に移動を始めた、その時。
城の入口から強力なかまいたちが襲い掛かり、シャムロックは剣を抜いて相殺した。
「六式の嵐脚……!?」
「リンリンの次はゴミの騎士団か。愛されてるねェ、ウチの船長は」
「その声……〝鎚撃のラカム〟か!!」
「ハッ、やっとそれっぽい異名が付いたか」
シャムロックは目を見開き、戦鎚を担いだラカムを見やる。
クロエとエマに勧誘される形で海賊稼業を始めて25年、ようやくマトモな異名が付けられた事に少し嬉しそうな様子のラカムは、髪の毛に隠れた双眸で顔見知りを睨む。
「そうか……貴様のところには裏切り者のステューシーがいたな。奴から盗んだか」
「どこまでも邪魔をするか、非礼者……」
「非礼なのはそっちだ。普通他人様の家に行くときは玄関からが相場だろ。お前、まさか同僚の家も裏口から入るのか?」
「黙っておれば……!」
怒りを滲ませて身構える軍子宮だが、攻撃は仕掛けない。
ラカムの真髄は、攻撃力よりも鉄壁とも言える防衛力にある。
「……クロエ海賊団との戦争は望まない。ここは引け」
「それで引いてくれるような親切な人間に見えるか?」
「……だろうな」
シャムロック聖は剣を収めると、ゆっくりとした足取りでラカムの隣を通り過ぎた。
「貴様の足止めは厄介だ。あくまでも我々はロキに会いに来ただけだ……」
「はぐらかしやがって……どうせ世界政府の指揮下にでも置く気だろ?」
勘繰るラカムに、シャムロック聖は黙って気配を消し、軍子宮と共にその場を去った。
世界最強の王国で、新たなる騒乱が幕を開こうとしていた。
原作でブルックの過去編やってますね。
本作はそういうのはかな~り簡潔にして連載します。
ちなみにクロエはロジャーにこだわってますが、もしロックス海賊団に入ってたらロックスの部下として最後まで付き合ってたと思われます。
だって人間関係に律儀だし、真面目だったりするし。