・ロジャーの中の時限爆弾が作動しました。
・シャンクスにラッキースケベが発動しました。
それは、突然の出来事だった。
「ゲホ、ゲホッ!」
「……大丈夫か、ロジャー」
港に停泊するオーロ・ジャクソン号の甲板で、クロエは咳き込むロジャーを気にかける。
ここ最近、ロジャーの容体がどうも怪しいのだ。
「心配すんな。これくらい、どうってことねェよ」
「阿呆。風邪は万病の元だ、そうやって高を括ってると後悔するぞ」
クロエは苛立つような声色で、覇気を放ちながら忠告する。
ロジャーは「わざわざ覇王色を放ちながら言う程じゃねェだろ?」と言うが、クロエは即座に「こうでもしないと聞き入って貰えそうにないのでな」と反論。
ロジャーの我儘ぶりを理解できているようで何よりである。
「ロジャー、貴様は部下が大事なんだろう? 私も立場上、貴様の部下だ。部下の言うことの一つや二つ、真摯に受け止めるべきだ」
「レイリーみてェなこと言ってくれるじゃねェか……」
「フン……部下の気を遣った言葉を無視する上司についていく程、私はお人好しじゃない」
一刀両断するクロエに、ロジャーは苦笑いを浮かべた。
その時だった。
「ゴホ、ゴボッ!」
ポタ、ポタッ……
「っ!? ロジャー!?」
ロジャーの口から流れる鮮血。
蹲る彼の背中を摩りながら、クロエは焦燥に駆られた。
「レイリー! ギャバン! 誰かいないか!? ロジャーが吐血した!!」
「何だと!? 船長が!?」
「ロジャー!! しっかりしろ、ロジャーっ!!」
いつになく顔色の悪いレイリーに、マズいことになったなとクロエは一筋の汗を流した。
ロジャーはすぐさま島内の病院に運ばれ、病室に放り込まれた。
事態が事態なので、船員達は全員病院の前に集合していた。
若輩から古株まで、全ての仲間達がロジャーの身を案じ、中には泣き出しそうになる者もいた。シャンクスとバギーも例外ではない。
「「船長……」」
「……」
いつ泣き崩れてもおかしくない表情の弟分二人の頭に、クロエは優しく手を乗せて撫でる。
しばらくすると、病院の玄関からレイリーが出てきた。
「レイリーさん!」
「副船長、船長は!?」
「レイリー!」
「……落ち着いて聞いてくれ」
レイリーは沈痛な面持ちで、医者から聞いたことをありのまま話した。
「ロジャーの容体は安定している。検査したところ、感染症ではないから隔離の必要はない。だが……」
「〝不治の病〟なのか」
「……そうだ。今のままだと、持って三年だ」
クロエの言葉に頷くレイリーに、空気が凍った。
あの無敵のロジャーが、最強の船長が、あと三年の命?
ウソだと叫びたいし、悪い冗談を言うなと怒鳴りたい。だが一番付き合いが長いレイリーの堪えたような表情に、誰も何も言えなくなる。
重苦しい空気が支配するが、それを破る者が現れる。
「おう、待たせたな野郎共!」
『船長!』
何事もなかったように出てくるロジャー。
余命数年の態度ではない船長のご機嫌さに、一同は戸惑う。
すると、クロエがド直球に質問した。
「……もう長くないのか? ロジャー」
(クロエ!?)
ストレートすぎる問いかけに、レイリー達は口をあんぐりと開けた。
ロジャーは「ああ、そのことか」と呑気に答えた。
「不治の病だからどうしようもねェってよ。延命はできるらしいがな」
「……そうか。せいぜい意地で寿命を延ばすことだな」
「おい、クロエ!! そういう言い方ないだろ!! おれ達の気持ちも酌めよ、バカクロエ!!」
「おい、シャンクス!」
いつも通りの素っ気ない返事をするクロエに、シャンクスは涙目で非難の声を上げ、バギーはそれを諫める。
が、クロエは至って冷静にシャンクスに切り返した。
「死の淵は皆平等に訪れる。それが早いか遅いかの話だ。ロジャーは
「そういうこった! 気に病むこたァねェ!!」
クロエの方が肝が据わってるじゃねェかと、ロジャーは豪快に笑い飛ばした。
「それぐらい割り切ってくれた方が、おれとしても気が楽になる。ありがとよ」
「やめろ! 頭を撫でるなっ!」
「わはははは! 何だ、女らしい
「っ――このっ!!」
ワシワシと頭を撫でられたクロエは、青筋を浮かべながらその手を振り払う。
毛を逆立てて威嚇してくる猫のような態度の仲間に、ロジャーは愉快そうに笑った。
「ったく……寿命を延ばすよりも、最期までやりたい放題やって力尽きる方を選ぶ男とは思ったが、
「ロジャーは薬が大嫌いだからなァ……」
「薬嫌いの酒好きって、ろくでなしじゃないか」
言葉の刃を振るうクロエに、ロジャーは「ぐはっ」と吐血してひっくり返った。
その隙にレイリーがギャバンに命じてロジャーを病室へ放り込み、話の続きをした。
「一応、すぐにどうこうなるものではないらしいが、船の備品にも限りがある。双子岬のクロッカスの元を訪ね、船医として乗ってもらうように頼むことにする」
「安静という言葉から最も程遠い男だからな」
クロエの一言に、全員が頷いた。
ロジャーは医者に「大人しく休んでください」と言われて素直に従うような男ではない。了承した上ですぐに
そこでレイリーが考えたのは、〝
「とにかく、まずはロジャーの体調だ。安定次第、すぐに双子岬へ向かう!」
『おうっ!』
その場を解散し、船へ戻っていく
しかし一番の柱が病で倒れ、残された時間も少ないという事実が相当堪えたのか、動揺を隠せないでいる。唯一冷静なのは、
(……ロジャーは気にも留めてないようだが、暫くは息がつまるかもな)
クロエもオーロ・ジャクソン号へ戻ろうとした時。
その手を掴む者がいた。シャンクスだ。
「……何だいきなり」
「ごめん……怒っちゃって……」
「謝るな。長く苦楽を共にした、親同然の人間があと数年で死ぬと言われて動揺するのは当たり前だ。ましてやお前らは子供だしな」
無愛想だが、どことなく優しさを感じる言葉に、シャンクスとバギーは泣き出しそうになるのを耐えた。
クロエは気まぐれで残酷な一面が目立つが、決して冷酷無情ではない。それなりの仲間意識はあるし、そもそも根っから冷酷無情ならロジャーは船に乗せない。他の仲間を危険に晒すからだ。そうしないということは、ロジャーはクロエを信頼できる人間だと判断しているという意味だ。
「……疲れたろう。少し休め、修行は暫く中断だ」
クロエはそう告げ、今なおその場から動かない同僚――バレットに目を向ける。
相変わらずであるようだが、クロエはあの場で誰よりも動揺していたことに気づいていた。
(……これは
クロエは溜め息を吐きながら、踵を返して船へ戻っていった。
*
その日の深夜。皆が寝静まった中、バレットは一人鍛錬を続けていた。
バレットにとって、ロジャーは絶対的な存在だ。幾度となく挑み続け、その度に敗れ、それでも真っ向から受け止めてくれる、唯一尊敬できる男だ。
そのロジャーの死期が近い。あらゆる意味で手も足も出ない最強の男が、不治の病に負ける。その現実に頭が追いつかず、ロジャーへの誓いを果たさねばという焦りが生まれ、落ち着かなくなっていた。
だが、バレットは決して一人ではない。もう一人いるのだ、〝鬼の跡目〟を受け止められる者が。
「――気持ちの整理がついていないようだな、バレット」
「……クロエ」
あの場で唯一平静を保てた、孤高の強さを求めるバレットが一目置く女。
――こいつだけは、ロジャーの余命にほぼ動じなかった。
「……一番あの中で動揺してたな」
「……何が言いてェ」
碧眼で見据えるバレットに、クロエは目を細めて答えた。
「恐れてるんだろう? ロジャーがいなくては、自分はもう強くなれないんじゃないかと」
直後、バレットは覇気を纏った拳でクロエに殴りかかった。
しかしクロエは腕に覇気を流し、無造作に振るって弾いた。
「貴様……!」
「死期が近いぐらいで躓くようでは、ロジャーは超えられないぞ」
「黙れ!!」
凄まじい怒気を放つバレット。
しかしクロエは臆することなく、淡々と言葉を紡いだ。
「ロジャーもこんなところで死ぬつもりは無い。
「っ……」
射殺さんばかりに自分を睨んでいた、バレットの碧眼が揺らいだ。
クロエは迷いを断ち切る手伝いをしようと、彼に問い掛けた。
「バレット。お前は何の為に強さを求めてる?」
「何だと……?」
「何の為に強くなったか。そこから考えれば、自ずと答えは出るはずだ」
クロエに促され、バレットは二人の強さを考える。
ロジャーは、愛する仲間を守りたいから強くなった。守りたい仲間がいるから、鬼のように強い。
クロエは、自由で在り続けたいから強くなった。自由を奪われたくないから、女だてらにロジャー相手に善戦できる強さを有している。
では、自分はどうなのか。
強さこそが全てであることを、一度も間違いだと思ったことはない。強ければ強い程、思うままに過ごすことができるからだ。現にかつての少年兵時代、戦いに勝てば勝つ程に組織内で自由に振る舞うことができ、それに充足感を得た。
だが、バレットはそれだけではない。いや、それ以上の理由が存在する。船主楼甲板に尻をついて欄干に凭れ、無様に足元を舐めたあの時だ。
――
――おめェは
「……!」
「フフ……答えは出たか?」
「……ああ」
相変わらずの仏頂面だが、迷いが晴れたように見えるバレットに、クロエは笑った。
バレットがひたすらに強さを求める理由。それは、「強さこそが〝自由〟」という生涯の指針と、「ロジャーとの誓いを守りたい」という想いだ。
誓いを立てたあの夜、ロジャーは笑っていた。あの笑みに一切の偽りはないと、バレットは思っている。男と男の約束だ。ゆえに今も、強いロジャーを追いかけ続けている。だがロジャーは死期が近い。
このままでは、あの夜の誓いを――ロジャーとの約束を果たせない。その焦りに、クロエは誰よりも早く気づいたのだ。女の勘とは、恐ろしいものだ。
「バレット……私は別に無理して仲良くしろとか、今までの生き方を変えろとは言わない。海賊たる者、信じるモノは自分で決めるのが道理だ」
「……」
「私達を信じなくてもいい。だからロジャーを裏切るな」
そう一言告げ、クロエは部屋へ戻っていく。
バレットはその背中に向け、声をかけた。
「待て、クロエ」
「?」
「貴様が病に冒されても、おれは挑み続ける。だから勝手にくたばるな……ロジャーにそう伝えろ」
「フフ……自分で伝えればいいだろう? ――まあ、同期のよしみだ。今回だけだぞ?」
愉快そうに喉を鳴らしながら、クロエは部屋へ戻っていった。
部屋に戻ったクロエは、静かにベッドに腰掛けた。
「よっこいしょ……」
羽織ったコートを丁寧にたたみ、髪留めを外す。
ロジャーの船に乗ってから、クロエはシャンクスとバギー、バレットと共同の部屋を使うことになった。理由としては、彼女の分の個室がないことと、あの三人が一番性欲から程遠いために同室でも問題ないというレイリーの判断からだ。
クロエ自身は別にちゃんとした寝床さえあれば文句はないし、他の面々と同室でも苦にはならないが、それでも性別は女。一味の紅一点であり、それなりのスタイルではある彼女を抱こうとする不届き者がいないとは限らない。そうなったらクロエに半殺しにされるので、それを未然に防ぐという意味合いでもあるが。
「……
窓から見える月を眺め、そう呟く。
その言葉に反応するかのように、反対側のベッドからすすり泣く声が聞こえた。
「……せんちょぉ……」
「……」
寝言と共に一筋の涙を流すシャンクス。夢の中で、ロジャーと離れ離れになる夢でも見ているのだろうか。
「……親離れは辛いか」
そっと手を伸ばして、一滴流れた彼の涙を優しく拭う。
一度命を絶った経験を秘めるクロエは、親類の死に対してはすんなり受け入れられる
だが、シャンクスやバギーにとってロジャーは父親同然だ。いくらか破天荒が過ぎるが、仲間に対して深い愛情を持つ男の死期が近い現実を、自分よりも一回りも年下の子供が受け入れきれるわけもない。海賊と言えど、子供は子供なのだ。
「……ハァ……今回だけだぞ」
クロエは溜め息を吐くと、シャンクスのベッドに入り込んだ。まさかの添い寝である。
しかし姉貴分の気配を無意識に感じ取ったのか、魘されていたシャンクスは段々と落ち着いた寝息を立てていった。
「全く、世話の焼ける弟分だ……」
随分と感化されたものだ、と自嘲気味にクロエは笑ったのだった。
*
翌日の早朝、シャンクスはうっすらと目を覚ました。
妙に背中が温かいのだ。それも、とても心地よく、安心感を覚えるような温かさだ。
ぼんやりする頭で、その正体を知るべく手探りで探した。
――むちっ
「……?」
シャンクスの手に、弾力のある感触が。
むにむにと触ってみて、それが布団や枕じゃないことに気づいた。とくん、とくん……という肌に感じる鼓動も感じるからだ。
「む……起きたか?」
「…………えっ?」
頭上からしてきたクロエの声に、一気に覚醒する。
恐る恐る見上げると、頬や額に切り傷を付けたクロエの整った顔が。ゆっくり目線を下ろすと、自分の手がクロエの二つの膨らみを掴んでいて……。
ブバァッ!! ガシャァン!!
「!?」
シャンクスは鼻血を吹き出してひっくり返り、ベッドから豪快に転落。
これはさすがのクロエも予想だにしなかったのか、紺のシャツが血塗れになった。
「お、おい! シャンクス!?」
「…………おい、うっせェぞ」
「んだよ、ギャーギャーとハデに騒ぐスットン……って、シャンクス!? てめェどうした!?」
喧騒に起きたバレットとバギーだが、「はわわわ……」と顔を真っ赤にして鼻血を流すシャンクスと胸元が血塗れになったクロエにギョッとした。
騒ぎを聞きつけたロジャー達も、密室殺人のような現場に唖然とし、シャンクスを医務室に運んでいった。
後にクロエの口から事の顛末を聞くと、ロジャー達は大爆笑し、バギーは血涙を流したとか。
というわけで、クロエのおかげでバレットの離反はなくなりました。相変わらず仲間意識は薄いけど。
クロエのスリーサイズの件は、非常に楽しみにしている方が多いんですけど、イメージイラストの件もあって調整中です。
まあ、バストは……それなりのデカさです。うへへ。