戦場になったエルバフでは、各々が目の前の脅威に対処していた。
その中でも面倒なのが、悪魔化した者達だ。
「クソ、チェス従兵が全員悪魔に…!! あのリバーシはホーミーズも対象になるのか!?」
ソルソルの実による擬人化部隊が悪魔化して全滅し、オーブンは苦い表情をする。
どうやら魂がある存在は、挟まれた瞬間に
「徒にぶつけりゃ物量でやられるだけだ!! 覇王色の攻撃じゃなけりゃ有効打にならん!!」
「リンリンの息子、まずは挟まれないように攻撃しろ!! 不死の体とはいえ悪魔の実の能力によるものなら限界はあるはずだ!!!」
ギャバンと凶がそれぞれの斧を振るい、遠当て技で攻撃を叩き込む。
しかし老齢の二人にとって、物量による侵攻は足止めするのが精一杯。しかも悪魔化した巨兵海賊団とチェス従兵達は斬っても抉っても再生し、有り余る力を振るってくる。
どうすれば攻略できるのか――その活路を見出し始めたのは、ゾロだった。
「だったら頭上なら挟みようがねェ。上からの攻撃ならひっくり返ずに済む」
「成程!! 流石だロロノア!!」
「ディガガガ!! 利口だ」
「よし!! 回り込んで挟み撃ちだ!! 正面には立つなよ!!」
膠着状態の中、ゾロが機転を利かせて空中からの強襲を提案。ハイルディン達もそれに賛同し、両サイドから回り込んで足を攻撃して少しでも進撃を遅らせようと試みる。
そして同時刻、
「〝雷鳴八卦〟!!!」
「〝布都御魂〟!!!」
「〝
強力な武装色を纏った攻撃を繰り出すクロエ海賊団。
巨大で攻撃力が高い
「攻撃は確実に効いてるけど、しばらくすると復活するのが厄介だな」
「やっぱり、元を叩かないとダメか!?」
「ってか、クザンはどうしてるんだ!?」
海賊見習いの立ち位置とはいえ、元海軍大将の男がいれば心強いというのに、当の本人は行方不明ときた。
が、子電伝虫を渡したのを思い出したラカムは、すかさず連絡を取る。
《あー、はいよ。どうした?》
「クザン、お前今どこにいる!?」
《どこっつってもな……まァ神の騎士団を一人戦闘不能にはできたぜ」
「本当か!?」
クザンからの報告に、一同は沸いた。
大方の予想はつく。不意打ちで氷漬けにしたのだろう。いくら不死身でも冷凍状態にされれば動けない。
《いや、な。ニコ・ロビン達が囮やってくれたおかげで不意打ち成功よ。
「流石の神の騎士団も、海軍大将には敵わねェか。……わかった、そのまま待機してろ。怪物騒動はこっちで収集つける。矢印女は船長が相手取ってくれるだろ」
《その怪物を操る奴はいいのかい?》
「多分、加勢に行かない方がいい。そいつビッグ・マムと戦ってるはずだ」
《あー……ご愁傷さん》
そして、そのキリンガムはというと……。
「マ~マママ!!! どんなに握り潰しても焼いても再生する能力!!! 生首でも喋れる生き物は初めてだよ♡ ソウルキングとはまた別の特異性だねェ」
「は、放せ、ビッグ・マム……!!」
「ママハハハ!!! 欲しいものを妥協する海賊がどこにいる!!?」
愉快そうに笑うリンリンに対し、キリンガムは満身創痍。
神の騎士団でなければ秒殺である。
「しかし、聖地にはこんな奴がいたなんてね!! あと何体いるんだい? コレクションなんかにゃ勿体ねェ!!! おれの戦闘奴隷にしてやる!!!」
「な、何だと……!?」
「不死身の兵隊がいれば巨人族抜きでも〝海賊王〟も〝
高笑いするリンリンに、キリンガムはただ震えるしかなかった。
*
一方、クロエと軍子に憑依したイムは壮絶な死闘を展開。
異次元とも言うべき、凄まじい打ち合いを繰り広げていた。
「ちっ…そんなに本体で来るのが怖いか?」
煽るように尋ねるクロエに、イムは冷徹に返す。
「〝支配者〟は…手など汚さぬ…」
「やっぱりガキだな。私が出会ったり聞いたりした「支配を語る者」は、全員自分の手を汚す覚悟を持ってたぞ」
鍔迫り合いをしながら、クロエは目の前の敵を嗤った。
海賊王と肩を並べ、世界征服を野望に掲げた〝金獅子のシキ〟。
凶暴な一味を統率し、「世界の王」を目指したロックス・D・ジーベック。
自身を王とする国家樹立を目論む一方、虎視眈々と世界を狙うマーシャル・D・ティーチ。
実力を伴わない権力者が治める矛盾した世界を嫌悪し、暴力の世界を目指し続けるカイドウ。
彼らは皆、自身の野望の為、泥と血で磨いたその手で戦ってきた。
クロエもまた、自由で在り続ける為、己の人生を完成させる為に泥と血でその手を磨いた。
手を汚さないという事は、自分の身を死線に投じ続ける覚悟が足りないという事。その気概も心意気もない腑抜けに、世界の頂点に君臨する資格などない。
クロエはそう生きた者として、世界の王を「等身大の若輩」に過ぎないと断じた。
「ジョイボーイもニカもアンディ・リードも……私には知った事ではない…がっ!!」
イムから距離を置き、化血に覇気を込めながらクロエは笑う。
「貴様の目指す世界を壊すのも、私の人生の完成の一環に相応しいな…!!」
「ぬかせ!! ヌシア如きに世界は渡さぬ!!!」
「短期記憶の欠如もここに極まれりだな!! 言っただろう、私には知った事ではないと!!!」
刺突を繰り出すイムとの打ち合いが加速し、斬撃のぶつかり合いは苛烈さを増す。
均衡を崩したのは、イムだった。
ガキィン!
クロエの唐竹割を跳ね返す。
今だと言わんばかりに槍の切っ先を心臓に向け、イムは踏み込む。
だが同時に、クロエの刀が彼女の背後に回され、視界から消えた。
「ぐっ……!?」
逆の手に持ち替えられた赤黒い刃が、覇王色を纏いながら掬い上げるように伸びて肩に突き刺さった。
背中越しに刀を持ち替える、奇襲の一撃。直前まで左右どちらから刃が来るかわからない、変幻自在の剣技だ。
「詰めが甘い!!」
クロエは真上に跳躍すると、身体を大きく反り、覇王色を纏った化血を振るった。
「〝
ドンッ!!
クロエは覇王色の覇気をのせた斬撃を放つ。
宝樹アダムの幹を両断するどころか砕き割る程の威力に、直撃を受けた軍子イムは不死の身体をズタズタにされて怯む。
その隙をクロエは見逃すはずもなく、月歩の要領で宙を蹴り、急降下しながら距離を詰めた。
「〝神避〟!!!」
化血を一閃し、覇王色を帯びた衝撃波を飛ばす。
ギャバン・レイリー・ロジャー…伝説の大海賊達の技を立て続けに受け、流石の軍子イムも再生が追いつかなくなってきた。
「……!!」
「どうした? 押されてるぞ!?」
猛攻を仕掛けるクロエは余裕の笑みを浮かべ始め、軍子イムは目つきを鋭くしつつも一筋の汗を流した。
というのも、イムは前回の戦いで〝
悪魔化を封印した状態で〝鬼の女中〟を倒すのは容易ではなく、むしろ基礎戦闘力にモノを言わせる白兵戦こそ彼女の土俵。長期戦になれば援軍が来る可能性もある為、戦況的にはイムが不利なのだ。
「……止むを得ぬ……」
「逃がすか!!」
エルバフからの撤退を判断したと察し、クロエは化血を納刀してから跳び、宙に浮き始める軍子イムの胸ぐらを掴んだ。
そのまま空中で巴投げの要領で地面へ垂直に投げ捨てようとする。
「〝
英雄ガープの技を独自アレンジした荒業を仕掛けようとした途端、クロエは異変に気づいた。
イムの覇気が突如として消えたのだ。どうやら一足遅かったようだ。
「ちっ……逃がした」
顔を顰めつつ、強制的に憑依されたせいで気を失った軍子の背中と膝裏に両腕を差し入れて、水平に抱き上げる。いわゆる「お姫様抱っこ」である。
「……どうやら、どこもかしこも一段落したみたいだな」
周辺を見渡す限り、
自分の一味やこの島にいる全ての戦える者達に感心しながら、気を失っている軍子を連れてクロエは降り立った。
*
それとほぼ同時刻、聖地マリージョアでは。
「五老星よ、ムーは少々……「聖地」を空ける」
《!? イム様!!》
《今、何と…!?》
イムが告げた言葉に、電伝虫の相手――五老星は動揺した。
世界最大のタブーが、自ら出陣・遠征を宣言したのだ。
《まさかエルバフに行かれるので!?》
《おやめください、あなたが下界へ降りるなど……!!》
五老星は必死に止め、「海軍大将の派遣」や「五老星の再度出陣」などの様々な妥協案を提示する。
しかしイムは腹を決めており、逆に五老星に驕り・怠惰・疎外心・プライドを捨てろと発破をかけた。
「全ては「必然」…!!!」
そうハッキリと言うイムの脳裏に、
よくそれでデービーやジョイボーイに勝てたな――聖地侵攻を敢行した、アン・D・リード。
おれは戻って来るぜ――花の部屋に侵入してそう言い残した、ロックス・D・ジーベック。
探してみろ――自らの死と引き換えに大海賊時代を始めた、ゴール・D・ロジャー。
200年前の続きを始めようか――現在の海賊界の頂点に立つ、クロエ・D・リード。
「始まっていたのだ。ずっと前から…」
イムは花の部屋に展開した
時代の移り変わりを表すように、彼にとって気掛かりな出来事はチラホラあった。
――ネプチューンに娘が生まれたのか?
――悪魔の実を奪われた!?
――エルバフに何がいるのだ!?
――〝白ひげ〟が守った?
――ジョイボーイ!! デービー・ジョーンズ!! まだムーを苦しめるのか…!!
彼らは全て偶然ではなく、時代を動かすべく生まれてきた事だった――そう確信した王は、静かに口を開いた。
「聖地を任せた」
イムは五老星にマリージョアを預け、全てを覚悟して出立した。
軍子イムとクロエの二戦目は、イムが先に撤退しましたが引き分けと考えてください。
本作はギャバンの負傷は軽度な上、凶やビッグ・マム海賊団もいるのでイムとソマーズ達も一筋縄ではいかないでしょう。ただ、そうなると初っ端から全力で殺しに来そうなのが、ね……。