本作は作品の進行上、原作に追いつきそうなので番外編を投稿します。
まずは「FILM RED」の世界線で、本作の第57話の分岐点です。
IFルート:FILM RED part1
世はまさに大海賊時代。
富や名声、力を求め野望ある者達は海へと繰り出した。
海賊達にとっては夢の時代――しかし、彼らの中には奪う事だけを楽しみにしている者達もいた。
それは力無き者たちにとっては、虐げられる日々が続く事を意味している。
世界政府の管轄下にある海軍も、剣を持たない人々全てを助ける事はできない。
ならば彼らは誰に頼れば良いのだろう。
何に縋れば救われるのだろう。
――わかってる。わかってるよ。私がみんなが幸せな〝新時代〟を作ってあげる。
この物語は、「〝もしも〟の世界」のお話。
世界の歌姫と〝鬼の女中〟と呼ばれる女の、〝新時代〟を懸けた物語である。
*
海賊島・ハチノス。
ドクロの形をした巨大な要塞がそびえる「海賊達の楽園」では、大事件が起きていた。
「クロエがいなくなったんだけどォ~~~!!?」
甲高い叫び声を上げるのは、「五皇」クロエ海賊団の副船長であるエマ・グラニュエール。
ハチノスの総督・王直の義理の娘で、〝魔弾〟の異名で知られる大海賊である。
「何やってんだあのバカ船長は!!」
「自由人め……!!」
「書置きとかもないのか!?」
船員達が行方を捜索する中、一味の主戦力の一人――クロエの義理の娘である〝鬼姫〟ヤマトが姿を現す。
「みんな、母さんから伝言があるんだけど……」
「伝言?」
「エレジアに行くって…」
伝言の内容に、一同は顔を見合わせた。
エレジアは、かつて「音楽の都」として栄えた島。そして、12年前にシャンクス率いる赤髪海賊団によって滅亡の運命を辿った国の名だ。
クロエ海賊団としては、シャンクスが何の因果もないエレジアを滅ぼす理由が見つからない為、滅亡の真相をシャンクスが隠しているという認識だが……。
「今になって真相を確かめるという訳でもないな」
「じゃあ、別の目的があって一人で?」
『…………』
思わず押し黙ってしまう。
クロエが滅亡した国に急用ができた――その理由が思いつかない。
幸い、クロエ海賊団の拠点であるハチノスは、他の五皇も迂闊に手を出せない程の無法地帯。しばらく不在でも侵攻はされないだろう。
「……そういやあ、妙に外が騒がしいな」
「何だろ?」
要塞の外の広場が、島に住む海賊達の喧騒で溢れている。
しかしその声は、怒声や悲鳴ではなく歓声だ。しかも映像電伝虫が設置されている広場で、海賊達がペンライトや手製のうちわを手にざわめき立っている。
「どうしたの?」
「あれは世界を熱狂させている歌姫〝ウタ〟のライブを見に来てるの」
一味の中でも情報に通じた女海賊・ステューシーは答える。
ウタは新種の映像電伝虫による世界中への配信で人気を博し、今や世界トップクラスの人気者となっているアーティスト。
活動を始めて僅か2年足らずだが、老若男女や様々な種族からも支持されており、あの〝黄金帝〟ギルド・テゾーロも太鼓判を押している程。海賊嫌いを公言していても海賊達のファンも一定数いるのだから、その歌唱力と魅力は想像を絶するという事なのだろう。
今では「世界で一番愛されている人」と称され、別次元とも言うべき歌声はファンから救世主のように信奉されている。
「あのウタちゃんが、今や世界デビューか…」
「最後に会った時はまだガキンチョだったのにな」
「フン…こんな小娘のどこがいいんだか、わしにはわからん。黄金の方がよっぽど魅力的だ」
「張り倒されてェのかエルドラゴてめェ」
クロエ海賊団の面々が口々に各々の感想を述べていると、一味のブレーンである船医のミリオン・ラカムが口を開いた。
「ちょっと待て、あそこのガヤ共は〝ウタウタの実〟の能力知ってんのか?」
そのさりげない言葉に、一同はハッとなった。
ウタは〝ウタウタの実〟の能力者。その能力は「歌を聞いた相手の精神を、能力者の思い通りになる
という事は、ここで今すぐ耳栓をしなければ――
「提督命令!! 映像電伝虫の配信を止めて!!」
エマがそう命じた瞬間、どこからか冷気を感じ取った。
まさかと思って開けていた窓から外を見ると、広場に一人の男が立っていた。クロエ海賊団の新入りである元海軍大将の〝青キジ〟クザンが、映像電伝虫を自身の〝ヒエヒエの実〟の能力で氷漬けにしたのだ。
「ちょっと、クザンさん!!」
「せっかくのウタのライブが観れなくなっちまったじゃないですか!!」
「何でなんだよォ!!」
海賊達のブーイングの集中砲火を受けるクザンは、頭を掻きながら口を開いた。
「そりゃあお前ら、アレだよ。え~っと…アレだ…何だ………忘れた、もういいや」
『よくねェよ!!!』
《いいや、よくやったよクザンさん!! サンキュー!!》
ダラダラしているクザンに海賊達がツッコむと、島中にエマの電伝虫越しの声が響いた。
《やっぱり知ってたんだよね? ウタちゃんの能力》
「……まァ、な。上層部から耳にしてたもんで」
《ハチノスの皆、いい? ウタちゃんの歌を聞いたら能力で現実じゃない世界に引き摺り込まれる!! だからライブを観るのは禁止!!! ……あ、音声さえ切ってれば映像はいいよ》
『生ライブの意味!!!』
海賊達の怒号が響く。
一方の要塞内では、ステューシーが新たな情報を黒電伝虫から入手していた。
「エマ。海軍の大艦隊がエレジアに向かってる情報を得たわ」
「…! スーちゃん、軍艦は何隻?」
「三十隻よ。黄猿と藤虎もいるわ」
ステューシーの言葉に、空気が一変する。
軍艦三十隻の艦隊は、あの無差別殲滅攻撃〝バスターコール〟を超える規模で、しかも海軍の最高戦力が二人もいる。戦力規模で言えば、五皇の誰かとの全面戦争クラスだ。
目的は見当がつく。ウタを亡き者にする事で、万が一シャンクスと戦う際に備えての最高戦力2名派遣は妥当と言えるが……。
「盗聴した通信には、サカズキ元帥が「トットムジカ」という単語を口にしてたわ」
「フム……政府と海軍は、ウタ自身よりそっちを警戒してるやもしれんな」
「今の元帥の判断だと、そのトットムジカとやらが出てこない為にも聞こえるのし」
老齢の海賊、パトリック・レッドフィールドとナグリは各々に呟く。
トットムジカ――エレジアに伝わる古代の伝説で、魔王とも称される禁忌の存在。
あのサカズキが口にして警戒するのだから、トットムジカの伝説は本当と考えるのが筋だろう。
「余も耳にした事がある。確か一度歌えば破滅をもたらす禁断の歌だったな」
天竜人の血を引くドンキホーテ・R・コル寿郎は、目を細めて煙管を燻らせる。
もしウタが、そのトットムジカを発動したら大ごとになるのは明白だ。
(っ! もしかして、クロエは……)
エマは親友の行動の真意を悟ると、仲間達に命じた。
「……よし! 出撃準備!!」
『!!』
「目的地はエレジア!! クロエを追跡して、ウタちゃんのライブを全力で中止してから帰宅する!!」
「要はとんぼ返りだろ」
声高に宣言するエマに、ラカムはジト目で睨む。
世界の歌姫の生ライブは、世界最強の女の海賊団をも動かす事態になったのであった。
*
所変わって、ウタワールド内のエレジア。
ライブフェス会場の裏手にある石造りの水道橋の塔の屋上で、一人の女性が胡坐を掻いて瓢箪の中の酒を呷っていた。
五皇の一角、〝鬼の女中〟の異名で海に君臨する伝説の海賊――クロエ・D・リードだ。
「……随分と、手酷くやられたな」
彼女はライブフェス会場に浮かぶ五線譜に張りつけになった顔見知り達――ビッグ・マム海賊団と麦わらの一味を見つける。
このウタワールドでは、どんな強者もウタには勝てない。たとえ現実世界のウタよりも遥かに強くても。
クロエはそれを承知の上で、ウタワールドに引き摺り込まれた……いや、正確に言うと
「ルフィとしても辛いだろうな……お前は私と違って、大事な人間を殴れない質だからな」
クロエは酒を飲み干し空になった瓢箪を投げ捨てる。
その直後、屈強な戦士達が一斉に舞い降りてきて、手にしていた槍の切っ先を向けた。ウタの能力で生み出された「音符の戦士」で、海賊を狙っているのだ。
しかし音符の戦士達は、標的の海賊、それも悪名高き〝鬼の女中〟を前にしているのに攻撃をしてこなかった。なぜなら、海賊と認識できなかったからだ。
クロエは〝見聞色〟の精密なコントロールにより、自らの気配を周囲にカモフラージュさせる事ができる。今の彼女は橋を渡っている民衆とほぼ同じ気配で、音符の戦士の視点だと「クロエ・D・リードと瓜二つの他人」のように錯覚しているのだ。
「……さて、と。私も推しの若者の為に体を張るとしようか」
そう呟き、愛刀である最上大業物・化血の柄を握る。
攻撃の意思を感じ取った音符の戦士達は、一斉に襲い掛かるが――
ドドドドンッ!
クロエが抜刀した直後、無数の剣閃が走った。
音符の戦士達は武装ごと斬り裂かれ、一体も残らず消滅した。
「ウタ…喜べ。〝鬼の女中〟が新世界から来てやったぞ」
「…?」
マーチングバンドの演奏に合わせて観客を引き連れるウタは、宙に浮く音符の上から水道橋の塔を見上げた。
今、確かに人影が見えたような…。
「……気のせい、かな?」
そう考えを切り替え、逃走したルフィ達を追う。
〝新時代〟は、もうすぐそこなのだ。
*
エレジアの旧市街はすっかり朽ち果て、ほとんど廃墟と化している。
今にも崩れそうな煉瓦の建物の合間を縫うように、クロエは気配を殺して歩く。
「……」
破壊の爪痕が生々しい街中を歩くと、行く手に大きな丸いドアが現れた。
クロエは刀の柄に手を伸ばしたが、見聞色の精度を高めると、すぐに手を離した。
「……コビーか」
柔和な表情を浮かべると、3人の男がドアを開けて出てきた。
海軍本部大佐のコビーと少佐のヘルメッポ、そしてCP‐0の諜報員・ブルーノだ。
「クロエさん、まさかあなたもいたんですね」
「ロッキーポート事件以来だな。……ウタの能力は把握してるか? 私はウタワールドについては悪魔の実図鑑で知ってるが」
「という事は、クロエさんはウタさんを?」
「シャンクスの義理の娘だからな。何度か交流はあるから顔馴染みではある」
その言葉に、コビーは明るい表情になった。
――彼女ならば、ウタの計画を止められるかもしれない。
「クロエさん、実は…」
「わかっている。あの子がネズキノコを食ってる事も、タイムリミットが迫ってる事も。おそらくだが、私の仲間達もこっちに向かってるはずだ」
状況を全て把握しているクロエに、ブルーノは「流石だな」と呟いた。
ネズキノコ。
丸耳のような突起でネズミの顔にみえる、特徴的なピンク色のカサを持った
食べると眠気が生じない体になれる反面、副作用で攻撃性が強まって感情のコントロールが効かず凶暴化し、それでも更に食べ続けると数時間後には死亡する恐ろしい代物である。しかも加熱や冷凍という処理が意味をなさず、調理云々でどうにかなるレベルではない程に強力な毒素を有している。
その一方、胃洗浄や活性炭の投与による毒の排出や症状に応じた点滴・支持療法などが治療法である通常の毒キノコと違い、解毒剤が存在する数少ないキノコでもあり、早期に服用すれば助かる見込みは十分あるという特徴もある。
クロエは今のウタは副作用で攻撃性が増しており、自分の計画に固執している状態だと語りつつ、コビーに助言した。
「コビー。寝れない身体となったウタを止めるには、本人の意思と言うよりも解毒剤を服用させて強制睡眠させる事で能力を解除する…という方法が現実的だ。ウタワールドにおけるウタウタの能力を封じる事を先決しろ。ウタのライブはシャンクスも知っているはずだ、ホンゴウは優秀な船医だし、仮に来なくても私の仲間がいる」
「……申し訳ないですが、あくまでも説得します。彼女は根っからの悪人ではないんです。でも助言には感謝します」
「甘いな…まァ好きにすればいい。海賊の理屈と海兵の理屈じゃあ、後者を選ぶのは当たり前だしな」
「それこそクロエさんは? あなたがいてくれると、心強いんですが……」
「そうだぜ、何せウタワールドじゃあウタは無敵だ」
コビーに続き、ヘルメッポもクロエに協力を依頼する。
が、クロエは全面協力はしないというスタンスを取った。
「これでも堅気への手出しは自戒しているつもりだ。正直なところウタ次第だが…まァ危なくなったら手は貸してやる」
クロエはコートをなびかせ、その場を後にした。
今のウタは、クロエが知る赤髪海賊団音楽家ではない。世界最強の女がウタワールドで動く時は、ウタが本気で自分を倒しに来た時だけ。
クロエの意図を察したコビーは、ひとまず戦力を集める事にするのだった。
同時刻、エレジアへ向かうクロエ海賊団はというと。
《ザザ……ネズキ…タの命は……三時…ザザ……》
「まさか、無理心中する気か!?」
「やってる事がテロリストと大差ねェど!?」
黒電伝虫を使った盗聴から、ウタのライブの意図とネズキノコの情報を聞いて絶句した。
ウタの真の目的は「世界中の人々を永久にウタワールドに閉じ込める事で苦しみから解放し、その中で幸せな生活を送らせる事」だったのだ。
今まで盗聴した内容から、大海賊時代を終わらせようと考えているのは把握してたが、まさか事実上の世界転覆計画だとは。しかもタイムリミットは三時間もない。
一応、このまま何事もなく突き進めればギリギリ間に合うだろうが、それまでに海軍が始末してしまったら一巻の終わりだ。だからこそ、全速力でエレジアへ向かわねばならない。シャンクスが間に合わなかった場合を想定して。
「ラカム君、解毒剤は?」
「ちょっと待て、予備を作ってんだ」
「解毒剤自体は完成したのか!?」
何とラカムはすでに解毒剤を完成させていた。
海賊団随一の器用さを誇る彼だが、あまりの手際の良さに仲間達も愕然とした。
「おい、副船長!」
ラカムはエマに注射が入った袋を投げ渡す。
この中に、ネズキノコの毒を中和できる薬液がある。
「ラカム君……」
「テストはしてねェぞ」
その忠告に、エマは頷いた。
ネズキノコの毒を中和できるといっても、解毒剤はそれ自体が体に強い影響を与える医薬品の為、一定の副作用を伴う。ウタの体力次第では、一命を取り留めても副作用で何らかの後遺症が残るリスクがあるのだ。
「……とりあえず、エレジアに行ったら迷わず打て」
「ありがとう」
エマは注射器が入った袋をコートに仕舞う。
ここから先は、海軍の大将達が率いる三十隻の艦隊を出し抜いてクロエと合流するだけだ。
その為にも、船を早く進ませなければならない。
(待ってて…ウタちゃん)
*
一方、ウタワールドでは創造主の暴走が始まっていた。
コビーの説得によって会場に混乱が起き、観客はウタワールドに残りたいと考える者と現実世界に帰りたい者に分裂。ネズキノコの副作用で思考や言動が破綻し始めた事もあり、ウタは「もっと楽しい事がいっぱいあれば良い」とライブ会場を水没させ飲み込まれた観客全員をぬいぐるみなどに変化させてしまったのだ。
「全く……世話の焼ける」
遠くからそれを眺めていたクロエは呆れたように笑うと、跳躍してライブ会場に降り立った。
ウタが仰向けで水の上に横になっており、その下には観客だったモノが無数に漂っている。
「……昔よりもヤンチャになったな」
「誰? あなたも――」
海賊なの? と、起き上がって目を向けた瞬間、ウタは瞳を揺らした。
そこには、かつて自分が憧憬した女――クロエがいたのである。
「……クロエ、おばさん……?」
「待たせて悪かったな。悪い海賊の登場だ」
クロエは落ち着いた声で言うと、鯉口を切った。
琥珀の瞳に射抜かれたウタは、憧れの女性が敵として立ちはだかると悟ると、髪をかきむしった。
様々な感情が洪水のように押し寄せる中、海の女王は語りかける。
「ウタ…時代を変えるには、その時代の象徴を超えねばならん。ロジャーは死に、ニューゲートも死に…今の海の頂点は私となった。――どういう意味かわかるよな?」
「…ハハッ! アハハハハハハハハハ!! そうだね、新時代を迎えるには
ウタはそう言うと、能力で変身。荘厳な黄金の鎧に身を包み、頭には高い王冠、背中には赤い毛皮のマントとブースターを背負い、槍と盾を構えた。
クロエもそれに呼応するように、スラリと化血を抜刀する。
「仮想世界の最強の女か、現実世界の最強の女か……力試しと行こうか?」
「望むところっ!!!」
先制攻撃を仕掛けたのはウタ。ブースターで一気に加速し、強烈な刺突を繰り出す。
クロエは武装色と覇王色を化血に纏わせ、自身の突き技〝錐龍錐釘〟で迎撃。ウタの攻撃を弾き返した。
「っ!?」
「どうした、ウタ? このウタワールドでは「私は最強」じゃないのか?」
不敵な笑みで煽るクロエ。
ネズキノコの大量摂取による副作用で凶暴性が増したウタは、まんまと挑発に乗り猛攻を仕掛ける。
しかし、相手は戦闘の達人で、「最強の生物」と呼ばれる〝百獣のカイドウ〟と唯一互角に戦える怪物。いかにウタワールドでは無敵の彼女でも、伝説の〝鬼の女中〟は相性が悪かった。
「これならどう!?」
ウタは音符を次々と召喚し、投げ飛ばす。
が、クロエは冷静に刀を振るい、次々と斬り伏せていく。
「このっ!!」
すかさず音符の戦士の軍団を召喚。
圧倒的な物量でクロエを追い詰めようとする。
「力押しか。狙いは悪くないが…ダメだ」
ダンッ! とクロエは跳ぶと、化血の刀身を武装硬化させ、空中で体を横に回しながら刀を振って覇気の竜巻を展開する技――〝
それならばと、ウタは槍と盾を投げつける。クロエはそれを紙一重で躱すと、五線譜が迫ってる事に気づき、バックステップで回避する。
「フフ…能力の扱いは一流でも、覇気を扱えなければ意味はないぞ?」
「うるさいっ!!!」
「冷静こそ勝負の要だ……〝神鳴神威〟!!!」
激昂したウタは衝撃波を放つと、クロエは覇王色を纏った斬撃を飛ばす。
互いの一撃がぶつかり、凄まじい〝圧〟が周囲を襲ったのだった。
その頃、現実世界では一隻の海賊船がエレジアへ向かっていた。
オーロ・ジャクソン号ではない。竜を象った船首――赤髪海賊団の母船「レッド・フォース号」だ。
「スネイク!! エレジアはまだか?」
「急いでるがまだだ!!」
「でもまさかウタがここまでやるとはな!! ガハハハ!!」
屈強な海賊達は、いつもの陽気さで海を突き進む。
そこへ、船員の一人であるロックスターが、赤髪の男に質問した。
「大頭…ウタって人におれァ会った事ないんですが、どういう人なんです?」
「あァ…元赤髪海賊団の音楽家で…おれ達の自慢の娘だ」
赤髪の男――シャンクスは、懐かしそうに笑った。
*
ウタワールドでのウタとクロエの戦いは、膠着状態が続いていた。
無限に何でも生み出し操れる歌姫と、規格外の覇気と基礎戦闘力を有する〝鬼の女中〟。
現実世界のウタの残された時間を考えると、彼女がウタワールドでクロエを倒すのは難しくなっていた。
「くっ…!! これがクロエおばさんの力……!! 悔しいけど、今は認めてあげる!!!」
「そうか。ならそろそろ終わりにしよう……〝
クロエは覇王色を纏わせた化血を掲げ、刀身から次々と稲妻状の覇気を放つ。
ウタはブースターの出力を最大にして逃げ回るが、クロエの攻撃は止まらない。
「そしてダメ押しだ…〝降伏三界〟!!」
化血を掲げて遠距離攻撃を仕掛けながら、腰に差した鉄拵えの鞘を抜き、武装色と覇王色を纏わせて振り抜く。
ボンッ! という音と共に〝飛ぶ打撃〟が放たれ、ウタは咄嗟に盾で防ぐが衝撃を殺し切れず、後方へと吹き飛ばされた。
「この…!!」
ウタは体勢を立て直すが、その時にはすでにクロエが目の前にいた。
喉元に赤黒い刃の切っ先が突きつけられ、彼女は瞠目する。
(…今の一瞬で…)
「久しぶりに面白い勝負だった。
「まだだよっ!!!」
ウタはゼロ距離で衝撃波を放ち、クロエを吹き飛ばす。
だが全身に覇気を纏ってガードしていた彼女は無傷で、空中で受け身を取って着地する。
「まだ…終わってない!!」
「そうか。だが私の出番はここまでだ……そうだろう、ルフィ」
化血を納刀するクロエが口にした名に、ウタはハッとなる。
視線の先――クロエの背後に、彼女の幼馴染である〝麦わらのルフィ〟ことモンキー・D・ルフィが立っていた。
「……クロエか」
「久し振りだな、ルフィ。覇気も想像以上に上がって、いい出来上がりだ。……しかし再会の祝いはまた今度にしよう。ここから先は一旦任せる」
「……ありがとな」
ルフィは小さく礼を言うと、クロエを素通りしてウタへ向かって行く。
「…ルフィ、何しに来たの? 何度戦っても私には勝てないよ」
「まだ決着がついてねェ」
「出た、負け惜しみィ!! …じゃあ、勝負するしかないね」
ウタが指を鳴らすと、大量の音符が飛び出して戦士の姿となり、一斉にルフィに襲い掛かった。
ルフィは次々と音符の戦士を殴り倒していき、距離を詰めて右足を蹴り上げ〝ゴムゴムの
「……当てる気もないクセに」
ウタの目の前に落ちてきたルフィの踵は、大きな水しぶきを上げる。
「ウタ…お前は間違ってる」
「それはルフィの方だよ。……いい加減わかりなよ、大海賊時代は終わりだって。何でそんなに海賊王になりたいの?」
「新時代を作る為だ」
「ルフィ!!!」
ウタは苛立ちを露わにし、衝撃波でルフィを吹き飛ばす。
かと思えば、二人は言い争いを始め、お互いに感情を爆発させた。
その様子を眺めていたクロエは、盛大に溜め息をついてゆっくりと歩み寄り……。
「お前ら、いい加減にしろ」
バチンッ! バチンッ!
「いたっ!!」
「あだっ!?」
二人に武装色を纏ったデコピンをお見舞いした。
流石に八衝拳の衝撃まで込めてたら痛いでは済まないので、彼女なりの手加減のようだ。
「「~~~~!!」」
「親の心子知らずというか、子の心親知らずというのか……ウタにはこれで手打ちにするが、シャンクスは一回私がシバいた方がいいな」
「おい、シャンクスはウタにあんな事しねェよ!!!」
「あいつの気持ちはわからんでもない。私が言いたいのは、ウタが一番辛い時に寄り添うべきだというのに置いてくなという話だ」
クロエの言葉に、ルフィは押し黙る。
その直後、ウタは目を閉じて黙りこくり、一筋の涙を流し始めた。
「……で、ウタ。その涙はシャンクスが来たという事だな?」
「っ!!」
ウタはハッとなり、取り繕うように涙を拭った。
クロエは徐に彼女の頭へ手を伸ばすと、乱暴に撫で始める。
「きゃっ!!」
「ケジメをつけてこい。物事には区切りが必要だ」
柔和な表情で、クロエは優しく落ち着いた声で言った。
――その言葉が、世界規模の危機を引き起こすハメになるとは、彼女自身も知らぬまま。
現実世界では、シャンクス率いる赤髪海賊団とウタが12年ぶりの再会を果たしていた。
「久し振りに聞きに来た。お前の歌を」
「――アハハハハハッ!! アハハハハハ!!」
笑みを浮かべるシャンクス達に、ウタはそれまでの経緯と様々な感情が一気にあふれて爆発。
身体を大きく仰け反らせて狂ったように笑い出し、立ち上がった。
「ちょうどよかった!! もうすぐ私と世界中のファンが新時代を迎える!! その前にあんたと決着をつけておきたかったから!!」
ウタはナイフを片手に跳び、アリーナを見下ろす升席の縁に立った。
「みんなァ!! 一番悪い海賊が来たよ、一緒にやっつけよう!!!」
ダンッ!
「え…?」
目の前に舞い降りた人影に、ウタは思わず間の抜けた声をあげた。
確かに呼びかけたが、それは客席で寝ている数万の観客だけのつもりだった。
しかし、彼女の心からの叫びは、ライブ会場から離れた場所で心を取り込まれた「海の女王」を突き動かしてしまった。
「ハァ!? クロエ姉さん!!?」
そこに現れたのは観客ではなく、化血を抜いたシャンクスの姉貴分――クロエだった!
という訳で、part1はここまで。
映画の方ではトットムジカと戦う事になりますが、本作では「ウタワールドに心を取り込まれた為に身体を支配されたクロエ」と戦う展開です。
part2は「赤髪海賊団&クロエ海賊団&海軍VS.ウタウタの能力に支配されたクロエ・D・リード」の予定になりますので、お楽しみに。