ウタウタの実の能力により心を取り込まれたクロエは、ウタの意図しない形で降臨。
シャンクス達に激しい動揺を与えた。
「こいつァ…!!」
「お、〝鬼の女中〟!? 何でここに!?」
――猛烈に悪い予感がする。
そう身構える赤髪海賊団の幹部達だったが、クロエの方が動くのが早かった。
「っ!?」
クロエはシャンクスに覇気を込めた飛ぶ斬撃――〝神威〟をぶつけた。
咄嗟に愛剣・グリフォンでガードするが、距離が近すぎたゆえに勢いを殺せず、そのまま客席まで吹き飛ばされてしまう。
「お頭ァ!!」
「ヌゥゥゥ…!!」
目の前でシャンクスを薙ぎ払ったクロエに、ハウリング・ガブは怒りを滲ませ口から対象を斬り裂く咆哮を放とうとする。
が、その時にはクロエの飛び膝蹴りが鳩尾に命中していた。防御不能と謳われる八衝拳の衝撃を込めたそれに、ガブは吐瀉物をぶちまけながら殴り飛ばされ、ステージの壁に叩きつけられた。
「や、やめろ!! 大頭達に手を出すな!!」
「待て!! ロックスター!!」
伝令役を担うロックスターが後ろから斬りかかるが、クロエは裏拳を脇腹に減り込ませて返り討ち。まるでボールのように飛ばされ、そのまま海に落水した。
「全員、下がれ!!!」
副船長のベン・ベックマンが号令をかけ、客席に退避する幹部達。
しかし、クロエも同時に動いており、ヤソップが狙われた。
ギィン!!
「ぐぅっ…!!」
「シャンクス!!」
シャンクスが間に入り、クロエの武装色で黒刀となった化血を受け止める。
火花が散る程の鍔迫り合いの末、互いに距離を置く。
「ヤソップ、市民の避難を頼む!! おれが時間を稼ぐ!!」
「お頭!?」
「ホンゴウ、解毒剤は!?」
「今飲ませる!!」
ホンゴウは懐から小瓶を取り出し、ウタに差し出した。
「ホンゴウさん…」
「ウタ、飲むんだ! 今は非常――っ!?」
ズドンッ!
「ガハッ…!」
「ホンゴウ!?」
刹那、全身に衝撃が走る。クロエが化血の鞘を振るい、飛ぶ打撃を放ったのだ。
その場に崩れ落ちてしまうホンゴウは、持っていた解毒剤を落としてしまう。
パリンッ…という音が無慈悲に響き、シャンクス達の表情が凍りついた。
「クソッ!! 何てこった…!!」
ウタを救う術を失い、悔しさを噛み殺すヤソップ。
その時、一発の銃声が響き、クロエは紙一重で躱した。
「クロエ!! 聞こえて…はいないね」
現れたのは、クロエ海賊団副船長のエマだった。
彼女に続くようにヤマト達も見参するが、ウタワールドによって支配されたクロエが目に映ると、一斉に顔を強張らせた。
「ま、まさか……船長が操られてる!?」
「何だ、この絵に描いたような最悪の事態は!!?」
「おい、誰かあの怪物船長の囮やれ!!」
ラカムはすかさずウタの下へ向かう。
クロエはそれを追おうとするが、人獣型になったヤマトの攻撃に気づいて回避する。
「母さん!! ごめ…ふぎゃっ!!」
口から冷気を出して氷漬けを狙うも、その前にクロエの拳が叩き込まれ、ヤマトは殴り飛ばされてしまう。
それを見たドーマ達は得物を武装硬化させて一斉に襲い掛かるも、今度は斬撃の嵐が放たれて次々と薙ぎ払われてしまう。
「っ……悪いな、あとで全員診てやるからな!!」
ラカムは苦い顔をしつつも、ウタに解毒剤を注射する。
念には念をか予備の2本目も打った。
「……ラカム、さん」
「よし、これで命は助かる。飲むよりは巡るのが早いはずだ…!!」
どうにか解毒剤の投与に成功したを見た赤髪海賊団は、安堵の息を漏らした。
しかし、それでも目の前の脅威をどうにかしなければならない状況に変わりはない。
そもそも、ラカムが作った注射用の解毒剤は治験をしてない。飲む方よりも効きはいいだろうが、ウタは致死量以上のネズキノコを短時間で摂取している以上、眠れるまでどれ程の時間が掛かるかも不明で、その間もクロエは暴れ続けるのだ。
「……シャンクス、一緒にクロエを食い止めるよ!! ウタちゃんが眠れるまで!!」
「頼む、エマ姉さん!!」
「じゃあ、わっしも少し手を貸したげるよォ~」
二人の下に、黄色のストライプスーツに海軍のコートを羽織った男――ボルサリーノが降り立つ。
「黄猿…!!」
「世界転覆を目論んだ極悪人を捕縛しようと思ってたが……それどころじゃないでしょォ、こいつァ。――イッショウ、観客の方は頼むよォ~」
間延びした口調で、共に派遣された藤虎――イッショウに観客の避難を要請する。
イッショウは「無論です」と返し、傍にいたモモンガ中将に指示を送った。
「赤髪! おれも手を貸そう」
「ビッグ・マムの息子が何の用だ」
「家族を助けに来た」
援軍に来たのは、それだけではなかった。
妹のブリュレと兄弟のオーブンの身を案じ、単身エレジアに駆けつけたビッグ・マム海賊団の将星・カタクリも申し出た。
「これぐらい戦力過剰じゃないと、止められないよなァ」
「困ったもんだねェ~」
「っ!! 来るよ、みんな!!」
エマが叫んだ途端、クロエはステージを蹴った。
砲弾のごとき爆発的な加速で、黒刀となった化血を閃かせる。
シャンクスは即応。グリフォンで受け止め、その隙にエマが武装硬化した右手で顔面を殴ると、その隙にボルサリーノは光速で背後に回り〝
普通なら、これで全て終わる……はずだった。
バリバリッ…!!
スパークのような音と共に、クロエの全身から赤黒い稲妻状の覇気が迸る。
それを見た四人は、悪寒が走った。
「!!?」
「何だと!?」
「こりゃあ…!!」
「ウソでしょ、覇王色!!?」
ドゴォン!
何とクロエは覇王色を暴発させ、四人を吹き飛ばした。
シャンクスとエマは観客席に、ボルサリーノとカタクリはステージの壁に思いっきり叩きつけられる。
イッショウは咄嗟に重力帯を広範囲に発生させて防御壁とし、どうにか眠っている観客の救護をする海兵達とそれを協力する海賊達を護るが、それでも殺しきれないクロエの覇王色に当てられ、何十人かの海兵が気絶していく。
その影響は人的なものだけでなく、周囲の環境にも及び……。
ドォン!! ゴゴゴゴゴゴゴ…!!
エレジアの天を割り、上空の雨雲が真っ二つに裂けた。
「何だあの空!? 割れた!?」
「まさか、母さんの覇気だけで!?」
「困りやしたね……あの面子で無理だったら、誰にも止められねェ……!!」
海賊達は愕然とし、イッショウも顔から余裕が消える。
あれ程の戦力がクロエに敗北を喫すれば、現場にいる人間で彼女の暴走を止める事は不可能。今度こそエレジアは滅亡し、その先は〝
「モモンガさん…市民の皆さんを全員乗せたら船を出しておくんなさい!!」
「大将殿…!?」
「あっしも腹を括らにゃいかんので…!!」
イッショウは覚悟を決めた表情で、仕込み杖を構えた。
*
その頃、エマ達は暴走するクロエと激闘を繰り広げていた。
「大人しくしてくれないかねェ…!!」
光の剣…〝
カタクリは〝柳モチ〟を繰り出すが、サイドステップで回避され、覇王色を込めた斬撃で反撃を受ける。
「ぐっ…!!」
「カタクリ!」
「武装硬化で防御してもこの威力か…!!」
幸いにもカタクリは武装硬化でダメージを抑えたが、それでも体中に電撃が走ったかのような激痛が走る。
その間にもクロエは攻撃を続けるが、エマの銃撃やシャンクスの剣技がそれらを相殺した。
「すまん…!! それにしてもどういう事だ、見聞色で未来を視れんとは…!!」
「〝見聞殺し〟だよ!! 覇王色のコントロールで見聞色の未来視を封殺してるの!! 今のクロエに未来視は通用しない!!」
エマの言葉に、カタクリは言葉を失う。
少し先の未来を視て先手を打つ、という戦術が使えないのはかなりの痛手だ。
「持久戦という事かねェ~…」
「ただの持久戦じゃねェ…!! クロエ姉さんは防御不能の八衝拳の衝撃を操るんだ、覇気の消耗を抑えながらこっちを圧倒できる!!」
たとえウタワールドに支配されていても、彼女が覇気を極めた戦闘の達人である事に変わりはない。
しかも本人は真っ向からのドツキ合いを好みながら、相手の出方を見てクセや動きを見切ってから一気に叩き潰すという戦法を得意としており、とにかく攻守の硬さが尋常ではない。その上
心技体を備えた無双の権化――それが大海賊クロエ・D・リードなのだ。
「ウタはどれくらいで眠りにつく?」
「流石に半日経てば眠ってるだろ…」
「それまで耐えろって話ね…!!」
「仕方ないけど、やるしかないねェ~…!!」
四人の覇気が高まるのを感じ取ったのか、クロエも覇気を高めて襲い掛かる。
一斉に回避すると、カタクリがモチモチの実の応用でステージを崩し、ボルサリーノが覇気を纏ったキックでクロエを蹴り飛ばす。
観客席に叩きつけられたところで、エマは追撃で片手用ライフル銃をバットのように振って飛ぶ打撃を繰り出すが、クロエはすぐさま起き上がって退避。先を読んだシャンクスがグリフォンで覇王色を込めた斬撃を叩きつける。
即興の共同戦線ながら、息の合ったチームプレーで〝鬼の女中〟を翻弄するが……。
ダンッ!!
「何だ!?」
目を閉じたまま顔を顰めたクロエは、一度後方へ退避すると、化血に膨大な覇王色を込めて一気に距離を詰めた。
それは、シャンクスも扱える「海賊王の御業」だった。
「っ!! 〝神避〟!!!」
ドォン!!
クロエの〝神避〟に、シャンクスも同じ技で応えた。
覇王色の衝突は島を震わせ、海面を激しくうねらせる。
ドンッ!!
「ぐあァァ!!!」
しかしクロエの〝神避〟は、シャンクスのそれを真っ向から打ち破り、彼を豪快に吹き飛ばした。
覇王色の攻撃を、それ以上に膨大な覇王色で突破するという荒業は言語に絶した。
が、そのおかげでクロエは僅かに態勢を崩した。その一瞬の隙を突き、エマは武装色と覇王色を纏ったパンチ〝
ドォン! と大爆発を起こし、クロエは地面へと落下。態勢を整える間もなくカタクリの〝
「……これなら、流石に効くでしょ」
「いてて…エマ姉さんも容赦ないな…」
「そんな事言ってる余裕ないでしょ、クロエが相手だとさ」
ドゴン!!
突如、轟音が響いて巨大な餅が粉砕。
土煙が立ち込め、それがクロエの剣の一振りで払われる。
無傷……という事は流石にあるまいが、身体のあちこちから血を流しながらもダメージを悟らせないその様は、まさに海の女王であった。
「おォ~、冗談キツいねェ~…」
ボルサリーノは再び〝八尺瓊勾玉〟の構えを取る。
が、その時には見聞殺しで突撃していたクロエが、覇王色と武装色を纏わせた化血を水平に構えていた。
「!!?」
ドォン!!
クロエは化血を横薙ぎに一閃し、ボルサリーノを薙ぎ払った。
彼女は〝海賊王〟ゴール・D・ロジャーの剣技だけでなく、
(こりゃあ…いかん……!!!)
直撃を受けたボルサリーノは為す術もなく吹き飛ばされ、沖合の軍艦の帆柱に激突した。
「黄猿!!」
「レイリーさんの技まで…!! クロエ姉さん、少しは手加減してくれ!!!」
思わずシャンクスは抗議するが、彼の事情など今のクロエには知った事ではなく。
狂瀾怒涛の勢いで〝鬼の女中〟は暴走を続けた。
「……シャンクス…」
一方、騒動の引き金であるウタは、目の前の戦いに心を痛めていた。
ウタワールドに心を取り込まれ、どういう訳か自分の支配を外れて暴れるクロエ。
姉貴分の暴走を止めんと、決死の覚悟で剣を振るうシャンクス。
思惑はそれぞれ違えど、シャンクスと手を組んで対処に当たるエマ達。
元来、心優しい少女であるウタは、大事な人達が傷つけ合う状況に耐え切れなくなってきた。
「私のせいで、みんなが……!!」
「ウタ……気持ちはわかるが先に脱出するぞ!!」
「待って、スネイクさん…!!」
ウタは自分を担いでいたスネイクから降りて、どうにか立ち上がった。
「おい、ウタ!!」
「大丈夫……少しくらいなら歌える…!!」
解毒が完了していない身体に鞭を打ち、ウタはすっと手を伸ばし歌い出す。
すると、ウタワールドに取り込まれていたルフィだけでなく、〝死の外科医〟トラファルガー・ローとブルーノ、コビーも起き上がってクロエに攻撃を始めた。
奇妙な事に、ウタの歌声を聞いても誰一人として心を奪われなかった。
「ウタ……」
「私が眠るには、体力の消耗が必要でしょ……? それにシャンクス達にこれ以上、傷ついてほしくない……!!」
ウタの覚悟にスネイクは言葉を失い、ベックマン達も息を呑んだ。
今の彼女に、もはや「新時代」はどうでもよくなっていた。
目の前で起こる争いを止める――その一心で、彼女は歌うのだ。
「私は…赤髪海賊団の音楽家、ウタだよ…!!!」
クロエの心を解放するべく、ウタもシャンクスと共に戦う事を決めたのだった。
クロエは
ヒントとしては、化血が持ち主の覇気を際限なく吸い続けて放出する特性…ですかね?