ロジャー海賊団は双子岬に到着し、灯台守のクロッカスと交渉。
ひとまず診察してもらうこととなった。
「どうだ、クロッカス」
「今のままじゃあ三年……延命治療をすれば、長くて五年だ」
「じゃあ、三年は時間はあるんだな?」
「楽観的に見ればな」
不治の病に冒された患者の態度じゃないな、と呆れた笑みを浮かべるクロッカス。
海で一番の医者である彼を以てしても、数年分の延命が限界だとのことだが、ロジャーは至って通常運転。むしろ心に余裕ができた様子だ。
「クロッカス……我々の船の船医になってくれるか?」
「……私は、探したい海賊団がいる。
クロッカスは、山のように大きな顔を覗かせるクジラ――ラブーンに目をやる。
ラブーンは、アイランドクジラという世界一大きくなる種のクジラだが、彼は元々「ルンバー海賊団」という音楽が大好きな一団の〝仲間〟である。しかし当時まだ小船程度の大きさだったラブーンに、
しかし、ルンバー海賊団とはその日から何の音沙汰も無い。消息不明となった彼らは、果たしてどうなったのか――絶望的だが、それでも探し出して何らかの事実を知らねば、今もなお待ち続けているラブーンが気の毒だ。
あの別れの日から、25年が経とうとしている。もし、ルンバー海賊団がまだ生きているのならば、今ここでロジャー海賊団の船医として船に乗り、治療を施しながら探し出すのが一番だ。
「わかった。最善は尽くす」
「すまん」
「わはははは! よろしくなクロッカス!」
本当に余命数年の男なのかと疑いたくなる程に元気なロジャーに、クロッカスは呆れながらも固く握手を交わした。
そんなやり取りを見ていた一同は、ふと気づいた。
「そう言えば、クロエはどこ行ったんだ?」
そう、クロエがなぜかいないのだ。
先程までは酒の席にいた彼女だったのに、いつの間にか忽然といなくなっていた。
このタイミングで一味を抜けるということは、彼女の性格上あり得ない。とすれば、船に戻ったのだろうか。
シャンクスはたまたま目が合ったバレットに尋ねた。
「バレット、クロエはどこ行ったか知ってるか?」
「……」
バレットは無言で碧眼を海へ向けた。
すると、「よっこいしょ……」とずぶ濡れになったクロエが海から上がって来たではないか。
「あ、おかえり……」
「ああ。……全く、すばしっこいヤツだ。ほら」
「え? ロープ?」
「引き揚げればわかる」
傍で酒を飲んでたサンベルにロープを渡し、羽織っているコートを絞って海水を落とすクロエ。
サンベルは仲間達を呼んでロープを引っ張ると……。
ザバァッ!
「うおォォッ!?」
「な、何じゃこりゃあァァァァ!?」
「クロエ、お前まさか
何と、引き揚げたのは小型の海王類だった。
小型と言えど、凶暴な海王類は人間はおろか海で暮らす人魚族・魚人族でも接触を避ける存在。そんな生物を海中で仕留め、ロープで拘束するクロエの強さと度胸は尋常ではない。
「どうせクロッカスの加入の宴をやるつもりだろう? 飯は多いに越したことはない」
「わはははは! 気が利くなクロエは!」
「うつけ船長の部下になったんだぞ? これぐらいしないと周りが持たない」
『それな』
ウンウン、と頷く仲間達にロジャーはムッと頬を膨らませた。
五十路手前の男のふくれっ面など、誰に得があるのだろうか。
「まァいい! そうとなりゃあ、野郎共! 新しい仲間の歓迎会をするぞォ!!」
「ロジャー、言っておくが食糧庫の酒は尽きかけてるぞ」
『何ィィ!?』
クロエの一言に、ロジャー達は目を見開いて悲鳴に近い声を上げた。
「酒を切らした程度で何だ……」
「おま、何言ってんだ! 酒が無いのは死活問題だぞ!!」
「てめェらが飲み過ぎてるだけだろうが」
ここでまさかのバレットが苦言を呈した。
核心を突いた一言だったようで、ロジャー達はギクッと肩が跳ね上がる。
そもそもバレットとクロエは、幼少期からストイックな環境下に身を置いていた。バレットは少年兵として戦場を生き抜き、クロエはスパルタ修行でチンジャオに師事しており、海賊の必需品である酒とはほぼ無縁の生活……今でこそ飲酒をする二人だが、浴びるように飲むロジャー達と違って嗜む程度である。
酒抜きでも別に不自由や不満を感じない若輩二人と、酒があってこその海賊暮らしなロジャー達とでは、日常生活の相違があるのだ。
「ハァ……仕方ない奴らだ。私の灯台の蔵から持っていくといい。どうせ船に乗ればここは無人だ、こんなところでわざわざ盗みを働く海賊共などおるまいが」
「うおおお! ありがとよクロッカス!!」
見かねたクロッカスの甘言に大喜びするロジャー。
それを見たクロエは、思わず「こんな奴に負けたのか……」としみじみ呟いた。
*
新たに灯台守のクロッカスが船医として加わり、ロジャーの容体はひとまず落ち着きを取り戻した。
ただ、命のやり取りにもなんの抵抗もないくせに採血は抵抗するわ苦い薬は嫌がるわ、世界的な大海賊らしからぬ一面をこれでもかと見せられた。特に注射の際は割と本気で抵抗したので、頭に来たクロエが武装硬化した拳骨を何度も叩き込んでようやく大人しくなった程だ。その際はロジャーの頭にタンコブの五重塔が出来上がったため、レイリー達は大爆笑した。
さて、そんな愉快さが増したロジャー海賊団は、ある島で停泊して物資の買い出しをすることとなり、バレットとクロエは船番をしながら覇気の修行をしていた。
「フゥー……!」
「おっ」
丸太のように太いバレットの腕に、覇気が
今までの力んだ感じから一変したことに、クロエは微笑んだ。
「感覚は掴めたな。じゃあこれを握らずに砕いてみろ」
クロエがバレットに渡したのは、空の酒瓶。
軽く握り、握力ではなく覇気を流し込んで砕き割るということだ。
「…………」
バレットは集中し、覇気を流すイメージで纏う。
身体の中の覇気を、腕を介して酒瓶へ伝導させた次の瞬間!
バリィィン!
「っ!」
「……さすがだ」
バレットが軽く握っていた酒瓶が、粉々に砕け散った。
握力という外部からの破壊ではなく、酒瓶へ流れた覇気による「内部破壊」だ。
それはつまり、バレットがロジャー達が立つステージに上がったということに他ならない。
「カハハハ……! これが覇気の〝高み〟か……!」
さらなるチカラを得たバレットは、興奮を抑えられない。
この内部破壊を可能にする覇気を完全にコントロールすれば、ロジャーに一矢報いることができる――そう思わずにはいられなかった。
「さらに昇華すれば、私やロジャーのように覇王色を纏える。威力は覇気を使った戦闘技術の中でも最高峰……感覚的には内部破壊と似てると思うぞ」
「ほう……」
覇王色を纏う技術は、覇王色の覚醒者の中でも一握りの強者のみ至れる領域。その技術を体得すれば、バレットの野望である「〝世界最強〟の称号」が現実味を帯び始める。
〝鬼の跡目〟に、世界最強へと駆け上がる絶好の好機が訪れたのだ。
「じゃあ、
「……ハハハハ! この私をか? お前には荷が重すぎるだろう」
「ぬかせ」
互いに不敵な笑みを浮かべた、その時。
「クロエーッ! ただいま!」
「!」
ふと、シャンクスがムギュッと後ろから抱き着いてきた。
どうやら買い出しから戻って来たようだ。
「何だ、戻って来たのか」
「おい、ズルいぞバレット! 二人っきりでクロエに構ってもらってよ!」
「てめェは何を想像してやがる」
鬱陶しい奴だと吐き捨てるバレットに、シャンクスはキャンキャン吠え始めた。
クロエは溜め息を吐きながら、むんずと首根っこを掴んだ。
「……で、何の用だ」
「おれも覇気、頑張ってんだから見てほしくてさ」
「ほう……やれるか?」
「当たり前だろっ!」
無邪気な笑みを浮かべるシャンクスに、クロエは目を細めて「やってみろ」と促す。
すると、腰に差していた剣を抜いて力を込め始めた。白刃は段々と黒く染まり始め、ついに切っ先までに至って「黒刀」となる。
それは、武装硬化に至った証拠だ。
「へへっ! どうだクロ――」
ゴンッ
「ヴェッ!?」
何と、クロエが鞘に収めた化血で頭を叩いた。
手加減したとはいえ、モロに直撃を受けたシャンクスは頭を抑えて悶絶した。
「一つのことに集中しすぎだ。見聞色も忘れるな」
「だからって叩くなよォ……」
「フフ……まあ、武装色はひとまず合格だ。よく頑張ったな」
微笑みながら労いの声を投げかけるクロエに、シャンクスは満面の笑みで「おうっ!」と応えた。
それをこっそり見ていたバギーは、ギリギリと歯ぎしりしていた。
(シャンクスの野郎……! ハデに構われやがって……!)
「さあ、バギー。そろそろ実を結んでいい頃だぞ」
「うげっ!」
クロエの声に、バギーは肩をビクつかせた。
「目隠しでの攻撃回避100回。今日一発で達成できたら……そうだな、お前の好物のホットドッグを作ってやるというのはどうだ?」
「やるっ!!」
食い物で釣るという常套手段――好物のホットドッグをクロエの手作りで食べさせるという条件に、バギーは思いっきり食いついた。
それを見たバレットは「現金な野郎だ」と呆れ返った。
「おいクロエ! バギーに贔屓してんじゃんか!」
「お前は私の胸でチャラだろう」
「やめてクロエ! それマジで言わないでくれ!」
気持ちよかったけど、という言葉を飲み込んで抗議するシャンクス。
それ以上言ったら〝鬼の女中〟の逆鱗に触れかねないので、賢明な判断である。
「さあ、始めようか。血祭りにならんように善処はする」
「誰が真っ赤な鼻だァ!!」
「そうは言ってないだろう」
ワイワイと騒ぐ若輩達。
それを遠くから眺めていたロジャーは、にんまりと笑っていた。
*
しばらくして、海を駆けるロジャー海賊団は、ある海賊団と交戦した。
「
「奪い合いこそ海賊の本分だが、これでは弱い者いじめをしてる気分だな……」
敵船の甲板の上で、歯応えの無さをボヤくバレットとクロエ。
それに対し、敵船の船長――〝大渦蜘蛛〟スクアードは言葉を失い膝をついていた。
鬼の悪名を馳せるロジャーの首を狙う海賊は多い。
傘下勢力は持たずとも、一大勢力を築いている〝白ひげ〟や〝金獅子のシキ〟らと渡り合っている大海賊は、成り上がりを目論む海賊達の標的だ。大渦蜘蛛海賊団を率いるスクアードも、その一人だった。
が、ロジャー海賊団は傘下勢力を一切持たない反面、個々の実力が異常なまでに高い。しかも覇王色の覚醒者が四人以上配属しているという精鋭ぶりで、チームとしての強さもあって海賊界随一の無双集団と化していた。
並大抵の超新星や実力者では、歯が立たない遥か上の存在。それがロジャー海賊団なのだ。
それを承知の上で、スクアードは真っ向からロジャーに挑んだ。
が、現れたのはロジャーに従う前は一人海賊として暴れ回ったバレットとクロエ。この時、まさかロジャーが二日酔いで苦しんでるとは露知らず、「ロジャーを呼べ」と挑発したスクアードはものの数分で壊滅させられたわけである。
(ウソだろ……? たった二人におれ達は……)
プルプルと身体を怒りと悲しみで震わせる。
スクアードの海賊団は、億越え海賊として海軍からも警戒されている。懸賞金の高さは実力の象徴とも言えるため、スクアードは嬉々として進撃を続けた。
そしてロジャー海賊団とぶつかり、乗り込んできたバレットとクロエによって全滅させられた。あっという間に捻じ伏せられたのだ。これを慟哭しないわけがない。
「よくも……よくもおれの仲間をォ!!」
「仲間……
スクアードは得物の大剣を振るい、バレットを両断せんと全力の覇気を纏わせ斬りかかる。
が、バレットは武装硬化した右腕を無造作に振るい、大剣をへし折った。
「……この海は戦場だ」
「ウアァ!」
スクアードはバレットに首根っこを掴まれ、宙に差し上げられた。
圧倒的なチカラが、一人残された船長の命の灯火すらかき消そうとしていた。
スクアードは必死に足掻くが、バレットの腕はビクともしない。
「くたばれ」
表情の無い目で、死刑宣告をするバレット。
もはやここまでかと諦めかけた時……。
「バレット、もう止せ」
「……!?」
「クロエ、どういう風の吹き回しだ」
力を緩めたバレットは、鋭い眼光でクロエを睨んだ。
クロエは一切怯むことなく口を開く。
「もうすでに牙は折れた。これ以上やったところで、何の意味もない。――それとも、弱者を甚振るのがそんなに楽しいか?」
「…………フン」
バレットはスクアードを投げ捨てる。
剣も心も折られ、スクアードは放心状態となっていたが、二人はそんな彼を無視して財宝を奪った。
「チクショウ……チクショウ……!」
圧倒的な武力を前に、打ちひしがれるスクアード。
しかし、海賊の世界とはこういう出来事が頻繁にあるものだ。ここで立ち直って航海を続けるのも、そのまま牙を折られたまま海賊人生を終えるのも、スクアード次第だ。
しかし、敵方にそこまで諭す義理もなく。クロエとバレットは、一人その場に残って涙を流すスクアードを尻目にオーロ・ジャクソン号へと帰還した。
「早いな……まだ五分と経ってないぞ」
レイリーは驚いた様子で二人を迎える。
「フン……弱すぎて話にならねェ」
「あの状態じゃあ、復讐する気も失せてるだろうな」
火の手が上がるスクアードのレアルスパイダー号に顔を向けながら、バレットとクロエは告げた。
「……ロジャーの野郎、まだ二日酔い治らねェのか」
「ああ。どうもクロッカスの用意した粉薬を
「何でそんな馬鹿が生き残れるんだ」
「知らん」
レイリーも「しょうがない奴だ」と頭を抱えた。
薬は水で飲むモノだろうに、苦いからと酒と一緒に飲んだのだろう……。
「おい、クロエ。ロジャーとの決闘はまた今度だ、てめェと決闘する」
「次の島でな。どうせ
「わかってるじゃねェか」
「お前ら、結構仲良いだろ……」
対等に接し、互いを理解している言動の両者に、レイリーは苦笑いしたのだった。
本作ではスクアードの件は、ロジャーによって全滅ではなく「バレットとクロエが手を下した」という形にしました。いつ戦ったのかわからないので、オリジナル展開と言えばオリジナル展開かな?
次回は「バラバラの実事件」です。
大海賊時代開幕までにクロエと会う(または戦う)原作キャラは誰がいい?
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クロコダイル
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ジュラキュール・ミホーク
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ドンキホーテ・ドフラミンゴ
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ゲッコー・モリア
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カイドウ
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シャーロット・リンリン