・バギーにラッキースケベが発動しました。
・ロジャーがクロエの秘密を知りました。
クロッカスが船医となって一年が過ぎた頃。
ロジャー海賊団は、とある海域で敵船と遭遇した。
「北北東から敵船が来るぞ!!」
「よォし!! 迎え撃て!!」
ロジャーの号令に、
その中には、あの見習い二人もいた。
「嬉しそうだなバギー」
「――ったりめェだ!! 敵船は宝箱みてェなモンだからな!! 奪ってナンボの海賊だ!!」
「――まァ一理あるけどな」
「一理どころじゃねェ、それが全てだ!!」
戦闘直前でも言い合うシャンクスとバギー。
それに対し、バレットとクロエの仏頂面コンビはというと……。
「また骨のねェ連中か」
「仕方ないだろう。今の私達と同格以上の海賊の方が少ない、探す方こそ無理がある」
無愛想に軽口を叩き合う。
すると、敵船は砲撃を仕掛けることなくオーロ・ジャクソン号に接近してきた。斬り合いがお望みのようだ。
「野郎共、乗り移るぞォォ!!」
愛刀を抜いて敵船へと跳躍したロジャーに続き、クロエ達も敵船の甲板に乗り移って暴れ回った。
ギャバンが、レイリーが、他の仲間達が、一騎当千の戦いぶりを見せつける。敵の一味は数こそロジャー海賊団の倍はあったが、個々の実力は海賊界屈指の無双集団の前では無力だった。
そんな中、船上での戦闘中でバギーは一枚の古い紙きれを発見した。
「た……たたた……た、宝の地図……!! 初めて見た!!」
何と、海底に沈められた巨万の富を記す地図だった。
戦闘中なのに、まさかの掘り出し物に興奮で震えが止まらない。
バギーは〝見聞色〟で誰も自分に見向きしていないのを確認すると、そっと懐に隠した。
(だ……だだ、誰も見てねェな! これを独り占めしない手はねェ!!)
バギーは海賊生活で一番の歓喜に満ち溢れた。
その日の夜。
戦闘に勝ち、財宝もガッポリ奪い取ったことでロジャーは勝利の宴を開いた。
「わはははは! 今日も快勝だった!! 野郎共、宴だァ!!」
「飲み過ぎだロジャー、少しは控えろ!」
「うるへー! そういうのは野暮ってモンだろうがよォ!」
「お前の身を案じて言ってんだよ、この野郎!!」
クロッカスとロジャーの殴り合いに、レイリー達は盛り上がる。
そんな中、シャンクスら若輩四人組は、クロエ特製の焼きおにぎりを頬張りながら自分達の未来を語り合っていた。
「おれ達はいずれ、この船を下りることになるよな。お前どうするんだ?」
「自分の船を持つんだ。時間をかけて、世界を見て回ろうと思ってる。海賊としてだ」
シャンクスの言葉を聞いたバギーは、「相変わらずバカなこと言ってやがる」と笑い飛ばした。
「その甘ったれた考え方さえなきゃ部下にしてやってもよかったんだがな」
「お前の部下だと!? ふざけんな!! 考え方が違うから別々の道を好きに行きゃいいんだ。それが海賊だ!!」
シャンクスはバギーの勧誘を蹴った。
「はっはっはっは!! てめェが海賊を語るのかよ……だが、そうなりゃおれ達が後に海で会う時は殺し合いだぜ?」
「そうなった時はまずてめェら二人は秒で海の藻屑だな」
「「んだとゥ!?」」
バレットの吐いた毒に、見習い二人はカチンと来たのかガンを飛ばした。
それを眺めていたクロエは、酒を呷りながらもクスクスと笑った。
シャンクスは話をクロエにも振った。
「クロエはどうするんだ? 船を下りたら、また一人海賊に戻るのか?」
「私は自由に暮らせれば何も望まないが……自分の海賊団を持とうとは思ってる。方向性はお前と似てるかもな、シャンクス」
「じゃあ、その時はおれの船に来いよ!」
シャンクスの突拍子もない発言に、クロエは目を丸くした。
「クロエがいるとスゲェ楽しいからさ! おれの一味の副船長やってくれ!」
「私と
「えーっ!? 大人げないぞクロエ!」
「じゃあこの話はナシだな」
不貞腐れるシャンクスに、クロエは「酒の席ぐらいなら下りても付き合う」と言って頭を撫でた。
「それはそうと、今日の戦利品はどうする? 私は受け取らないが」
「戦利品?」
「ああ……〝悪魔の実〟があったんだ」
話は変わり、日中の戦いで敵船から奪った悪魔の実の話になる。
「ロジャー船長が「誰か食いたきゃ食っていい」って言ってたぜ」
「がははははは! そんなモンで万年カナヅチになっちゃ敵わねェな」
「赤鼻、それおれのこと言ってんのか」
「すんませんでしたっ!」
バレットの野太い声に、バギーは目にも止まらぬ速さで土下座した。
そんなモンを食う奴は相当のバカだなと一瞬思ったのは事実だが、あくまでも財宝の入手に関してなので、決してバレットのことを言ってはいない。
「しかし、あんな妙ちきりんな果実が売れば
「なァに、ホントかそりゃあ!!!」
自分で作った焼きおにぎりを頬張りながら呟くクロエに、バギーは目をガン開きさせた。
一億となれば、A級の宝箱10個でも足りないとされる程の巨額だ。
「バレット、お前も能力者だろう? 味はどうなんだ?」
「いつの話だと思ってやがる。おれが地雷原歩かされた頃の話だ、戦場で食った物の味なんか一々憶えちゃいねェよ」
この船で唯一の能力者であるバレットの体験談は、意味を成さなかった。もっとも、ガシャガシャの実はバレットが餓死寸前に戦場で見つけた代物であり、悪魔の実を食べて生き延びるか口にせず死ぬかの選択肢しかない状況下ゆえ、味のことなど憶えてなくて当然だが。
しかし、バギーにとって味など些細なこと。その実につく値段の高さに頭がいっぱいだった。
*
翌朝、バギーは悪魔の実を披露することにした。
「海賊見習いバギー、悪魔の実を食わせて頂きます!!」
「だはははははは! いいねェ、若いってのは後先考えずに」
「見直したぞバギー!」
黒タンクトップのドンキーノや黒い羽根を持つドリンゴに煽てられる中、バギーは豪快にも一口で実を食った。
「どうだバギー、体に変化はあるか?」
「いや……別に……」
バギーの反応に、ギャバン達は敵船から奪ったのは偽物――悪魔の実に似ただけの果実ではないかと結論づけた。
それもそのはず。バギーが目の前で食ったのは徹夜で工作した偽物で、夜の内に本物とすり替えていたのだ。
(この実を売り払った金とこの地図の財宝があれば、おれは……!)
船尾楼甲板で、積み荷に隠れてニヤニヤしていると……。
「おいバギー、こんなとこで何やってんだ」
「!?」
後ろからシャンクスが声をかけてきた。
ビックリしたバギーは、思わず実を口の中に放り込んだ。
(な……何だてめェか……脅かすなよ)
「何て顔してんだよ、盗み食いは程々にしろよ」
スタスタと離れていくシャンクス。
バギーはホッと一息ついたが――
「あ、そういえばさっきクロエが」
「!?」
まさかの二段構え。
バギーは再びビックリしてしまい、実を丸ごと飲み込んでしまった。
「あああああああああああああ!!!」
バギーはシャンクスの胸倉を掴み、物凄い剣幕で迫った。
「て……てててめェおれの……おれの、おれはあああああああああ!!!」
「!?」
バギーとしては人生を左右する程の事態だったが、シャンクスは一体何のことかわからず首を傾げた。
「何だあの紙きれ」
「あああああおれの地図!!!」
いつの間にか風で飛んでいった地図を拾いに、海へ飛び込むバギーだったが……。
(何だ……体がうまく動かねェ……)
バギーは実を食ったせいで体が動かなかった。
一応海面に出るが、必死にもがく。
「ぶはっ……ばび!! ……ばぼ!! 助けば…………!!」
「おい、お前何やってんだ! 泳ぎは得意だろ!?」
水泳は得意であるはずのバギーがもがく姿に、シャンクスは困惑した。
――まさか、あの悪魔の実は本物だったのか。
そう思った時、欄干を蹴って誰かが海へ飛び込んだ。クロエだ。
「クロエ!!」
海へ飛び込んだクロエに、シャンクスは引き揚げるためのロープを取りに行った。
一方のクロエはあっという間にバギーを回収し、右腕で抱え立ち泳ぎしていた。
「大丈夫か、バギー」
(む、胸が……!)
安否確認するクロエだが、バギーは気が気でなかった。
あのシャンクスを撃沈・行動不能にさせた豊満な膨らみが、顔に当たっているのだ。
海に浸かって冷たいはずなのに、一気に茹で蛸のように全身が真っ赤になる。
「それとこの紙切れ、お前のか?」
「あっ!! おれの宝の地図!!」
クロエが左腕に持っていたのは、先の戦闘でバギーが見つけた宝の地図だった。
どうやら、ついでに回収してくれたようだ。
「私は財宝に興味はない。それに最初に見つけたのはお前だろう? 持っていけ」
「ク、クロエェェェ……!」
鼻水と涙で顔がグシャグシャになるバギーに、クロエは顔を顰めた。
その時、海面がいきなり盛り上がり、地響きのような唸り声と共に海王類が現れた!
「海王類!?」
「二人が危ないぞ!」
「この野郎……!」
一気に慌ただしくなる甲板。
ロジャーは額に青筋を浮かべながら、仲間に狙いを定めた海王類を血祭りにあげようと抜刀した、次の瞬間だった。
ドォン! バリバリィ!
『!?』
クロエの身体から、海を震わす程の覇王色の覇気が放たれた。
その威圧は凄まじく、真っ向から浴びた海王類は金縛りにあったように動かなくなった。
「――とっとと
睨みつけながら言い放つクロエに、海王類は全身をガタガタと震わせ、逃げ帰っていった。
ロジャーに迫る程の強大な覇気に、
「油断も隙も無いな」
「…………」
涼しげな顔で吐き捨てるクロエに対し、バギーは顔を引き攣らせたまま白目を剥くのだった。
その後、バギーが食べた悪魔の実は「バラバラの実」だということが判明した。
着用している衣服も含め、肉体を複数のパーツへ分離することができ、体の分離と接合が自由自在になる能力だ。ただし足を絶対の基点としているがために生じる弊害や「面」による攻撃の弱さなど、残念なことに悪魔の実の中でも比較的弱点の多い実であったが――
「人体構造の限界を超えた間合いからの遠隔攻撃に、刺突斬撃の無効化……弱点は多いが、この二つはかなりの強みだな」
「だからっつって細切れにする必要ありますゥ!?」
白を切るように能力を分析するクロエに、涙ながらに抗議するバギー。
覇気こそ纏ってないが、容赦なく斬撃の雨を浴びたのは辛かったようだ。
「カハハハ……てめェがぶん殴られた時に首が取れたのはお笑いだった」
「ロジャーの奴、すごい表情だったしな」
そう、バギーがなぜバラバラの実の能力者になったと判明したのかは、引き揚げた直後にバギーとシャンクスが喧嘩をしたからだ。喧嘩した際にシャンクスの覇気を纏った拳が顔面に減り込み、そのままバギーの頭がポロリしてしまったのだ。
当然、その場は阿鼻叫喚。シャンクスは気を失いかけるわ、ロジャーは頭を両手で抱えて悲鳴を上げるわ、レイリー達は必死に首を繋げようとするわ、それはもう手に負えない状態になった。最終的にはバギーが大声で「生きらいでかっ!!!」と叫んだことで我に返り、ロジャーは脅かすなと大笑いしてその場は収まった。バギーは殴られ損だったが。
「悪かったって、まさかああなるとは思わなかったんだ!」
唾が飛ぶ勢いで怒鳴り散らすバギーを、何とか宥めようとするシャンクス。
すると、そこへ
「おい、クロエ! 船長が夜になったら来いっつってたぞ!」
「ロジャーが……?」
「
*
その日の夜、仲間達が寝静まった頃にクロエはロジャーの自室へと足を運んだ。
「よう、来たかクロエ」
「保護者面談や進路志望とかならすぐ帰る」
「わははは! そんな堅苦しい話ァしねェよ」
ロジャーは大笑いしながらクロエにグラスを渡し、酒を注いだ。
クロエは煽るように、ロジャーはラッパ飲みで酒を喉に流す。
「いい酒だろ?」
「まあ、美味しいな」
クロエは通常運転の無愛想ぶりで返事をすると、ロジャーは「だろ!?」と笑みを溢した。
そう言えば、ロジャーとは戦ったことこそあるが、酒を飲み交わしたことは無かったな――そんなことを考えながら、もう一口呷る。
「……で、わざわざ何の用だ? 私を抱く腹積もりか?」
「わはははは! 別に取って喰ったりしねェよ! 一つだけ訊きてェことがあってな」
「私に、か?」
クロエは首を傾げると、ロジャーは単刀直入に言い放った。
「クロエ……おめェ、何か隠してるだろ?」
その言葉に、クロエは眉間にしわを寄せた。
「……何を根拠に言ってる?」
「おれの勘だ……と言いてェが、違和感を感じたのは去年。おれが不治の病に冒されたことが発覚した時だ。相棒ですら動揺してたのに、いくら付き合いが短いとはいえ、おめェはほとんど動じてなかった。だからふと思ったんだ」
――おれの死期を実は知っていて、早く言うと混乱するから何も言わなかったんじゃねェかって。
ロジャーは真っ直ぐクロエの目を見据える。決して責めているわけではないが、全て見え透いてるような錯覚を感じる眼差しに、クロエは溜め息を吐いた。
「……隠し事があるのは認めるが、お前の思うような大層なものじゃないぞ。私一人の些細なことだし、そもそも眉唾物だしな」
「眉唾物なら余計に興味が湧くってモンだ! おれの
ニヤニヤしながら食い下がるロジャーに、クロエは呆れた様子で肩を竦めた。
「私の隠し事はどうでもいい案件だ、秘密って程の価値は無いぞ?」
「まァそうだな。だがモヤモヤしたまま
「……わかった。このまま寝床に帰してくれなさそうだからな」
クロエは観念したような表情で、チンジャオにすら言ってない自らの唯一の隠し事――前世を語った。
前世では、この世界は一人の人間によって生まれた
自分は「前の世界」で生きることに嫌気が差し、命を絶った記憶が在ること。
自由に拘るのは、「前の世界」で自由や自分らしさを奪われたも同然の生活を強いられたからということ。
酒が入っていたのもあるが、クロエはロジャーに自らの前世を赤裸々に語った。
ロジャーは一言も水を差すことなく、真剣な顔で黙って聞いていた。
「……以上だ。
「そっか……悪かった、嫌な記憶を思い出させちまったな……」
「すでに割り切ったことだ、謝られる方が気分が悪くなる」
グラスに残った酒を飲み干すと、クロエはロジャーに向けて微笑みを浮かべた。
「ロジャー……私は転生してからずっと、誰かの下につくなど真っ平御免だ。今もそれは変わらない」
「……」
「でも、この一味は前とは全然違って居心地がいい。貴様みたいな間抜け面の部下になったのは心外だったが」
それは、クロエなりのロジャーに対する感謝だった。
人間関係が最悪だった前世と違い、今世は拳で語る割合が高いが良好な人間関係を築いている。かつては煩わしく思っていた他者との付き合いも、今ではシャンクスやバギー、バレットを弟のように接している。
ロジャーの仲間愛に感化され、無愛想なクロエもまた仲間想いになっていた。じゃじゃ馬の認識は変わらないが。
「もう残り数年だが、貴様の部下として自由に振る舞わせてもらう。――気が済んだなら、私はもう寝る」
クロエは立ち上がって寝床へ戻ろうとした。
が、ロジャーがそこで待ったをかけた。
「待て、クロエ」
「……」
「クロエ、おめェだって人間だ。ギャーギャー泣いて叫んで、助けを求めていいんだ。おれ達は命を預ける大事な仲間だってこと、忘れないでくれよ」
「……ああ、肝に銘じておく」
呆れたような、それでいてどこか嬉しそうな声色で短く返答するクロエだった。
次回、ついにエッド・ウォーの海戦です!
まあ、バレットのいるエッド・ウォーだから、金獅子海賊団はコテンパンになるかな。(笑)