〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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ついにエッド・ウォーの海戦です!
原作では「痛み分け」でしたが、本作はクロエとバレットがいるんで……。


第16話〝エッド・ウォーの海戦〟

 ここは海軍本部が置かれる島、マリンフォード。

 何百年もの間、世界の海を守り続ける正義の要塞は、サイレンが鳴り響き騒然としていた。

《コング元帥!! 新世界エッド・ウォー沖にて、〝ロジャー〟と〝金獅子〟が接触を!!》

 その報告を元帥室で聞いたガープは、ニヤリと笑った。

 大将への昇格の話をしている最中の、ロジャー絡み。天竜人直属の部下になることを拒むガープとしては、まさにベストタイミングと言ったところだろう。

「そら来た!」

「待てガープ! 話はまだ終わってないぞ!」

「あんたがそうでもおれは終わった!」

「ガープ、待たんか!!」

 襖を豪快に開けながら廊下に出て、港へ向かうガープ。

 すると、ヒョイッと横からサングラスをかけた若い軍人が絡んできた。二十代で海軍中将に上り詰めた、若手でもずば抜けた実力を持つクザンだ。

「ガープさん! また昇格蹴ったんでしょ! 全くカッコイイなァ~も~~」

「自由にやるにはこれ以上の地位はいらん! おつるちゃん、(ふね)出すんなら乗せてくれ!!」

 右隣りで合流した海軍屈指の切れ者中将、〝大参謀〟つるに声をかけるが、「出撃要請出てない上にすぐに(ふね)壊すからやだ」と突っぱねられてしまう。

 しかし、その程度で諦めるガープでもなく。港へ着くとセンゴクの(ふね)にお忍びで乗り込もうとしたが、案の定見つかってしまう。

「ガープ!! シキの件はおれが任されてんだ、引っ込んでろ!!」

「あー、気にするな。手柄は全部お前にやるよ」

「そういうことじゃねェ!!」

「ぶわっはっはっは!!」

 海軍の最高戦力である大将(センゴク)に加え、何と英雄(ガープ)まで出動するという事態に、若手の将校達はどよめきつつも「やっぱりな」と笑い合った。

 それもそのはず。ガープはロジャー拿捕に対するこだわりが海軍随一である海兵……標的が大きく動く時に、自分が動かないなどあり得ないからだ。

「センゴク大将にガープ中将……! こりゃあ百人力だな」

「ロジャーのネタなんだ、ガープさんは放っとかねェ……!」

 

 

 同時刻、新世界エッド・ウォー沖では。

「ロジャー船長ォ~~~~!!! 命が一番だって!!!」

 バギーは頭を抱えながら泣き叫ぶ。

 何を隠そう、相手は()()〝金獅子〟だ。白ひげのように良識的な喧嘩友達(ライバル)というわけではなく、昔から戦争に近い対立をしてきた「敵」だ。新世界屈指の大所帯と全面衝突するのは、バギーとしてはあまり好ましくない。

「ここは一つ、一時的に金獅子の言うこと聞いてさァ!!」

「お前、いくら切られても死なねェ体になったんだからいいじゃねェか」

「弱点はいっぱいあんだよ!! バーカ!!」

 ニヤけるシャンクスに怒りを露にするバギーは、ハッとした表情でクロッカスにドクターストップを要請。しかし主治医は「絶好調」と首を鳴らし、随分と楽しげであることに呻き声を上げた。

 しかし、この程度で懲りるバギーではなく、続いてレイリーに縋ろうとしたが――

「レイリーさん!!!」

「諦めろ、赤鼻。この海は戦場だ」

「バレットの言う通りだ。(なげ)ェ付き合いだが、おれ達がロジャーを止められたことはねェ!」

「そんなァァァァ!!!」

 ガシッと頭を鷲掴みにしてきたバレットと古株のギャバンにまで観念するよう言われ、いよいよもってバギーは四面楚歌になった。

 そんな中、クロエは目と鼻の先に浮かぶ獅子の船首の船を睨んでいた。

「金獅子か……久しぶりだな……」

「何だ、会ったことあるのか?」

 ロジャーは興味本位にクロエを質す。

「一人海賊してた頃、酒場で会って勧誘された。秒で蹴ったが」

「わはははは! ざまァねェな!」

 クロエがシキをフッた場面を想像し、大笑いするロジャー。

 すると、噂をすれば影が差すように長い金髪をなびかせ和装の大男が船首に立ち、葉巻を加えながら大声で叫んだ。

 ――新世界に君臨する海賊艦隊の大親分、〝金獅子のシキ〟だ。

「この話何十回目だ、ロジャー!! (わけ)ェ頃にゃあ色々あったが、水に流そう!!」

 シキは身振り手振りで己の野望を声高に告げ始めた。

「お前が在り処を知る〝世界を滅ぼす兵器〟と!! おれの兵力!! そしておれが長い年月を費やして立てた、完璧な計画があれば!! 今すぐにでもこの世界を征服できる!!! おれの右腕になれ、ロジャー!!!」

「貴様、そんなものの在り処知ってるのか?」

「わははは! 冒険のハズミだ」

 ――この間抜け面が、世界を滅ぼす兵器の在処を知っているとはな。

 クロエはそんなことを暢気に思ったが、状況ははっきり言って最悪。どう考えても大嵐が来そうな荒れた海で、多くの敵船に行く手を阻まれ強制的に傘下に入るよう脅迫(かんゆう)されている。

「……で、話って何だ金獅子ィ!!」

「てめェ聞いてなかったのかよ!?」

 まさか隣の部下と話してて聞き流していたとは。

 こめかみに青筋を浮かべ、怒りを堪えるシキだったが、隣にいる女海賊の姿を見た途端に目の色を変えた。

 あの顔に傷がある女は……!

「ん? おお、あの時のベイビーちゃんじゃねェか!! 久しぶ――」

「〝(かん)()(かむ)()〟!!」

 

 ドゴォン!!

 

『ええええええええええええっ!?』

 何とクロエは、シキの話を遮って覇王色を纏った斬撃を飛ばした。

 シキは咄嗟に剣を盾に防ぐが、弾き飛ばされメインマストに叩きつけられる。

 いきなりの先制攻撃に、シキの一味はおろかロジャー達も口をあんぐりと開けている。

「おいィ!! 何すんだいきなり!!」

「私はクロエという名前があると言ってるだろう!」

「おれから見りゃあベイビーちゃんだよォ!!」

「下郎が……その頭を焼け野原にしてくれる……!!」

 ゴゴゴゴ……と覇気を剥き出しにして威嚇するクロエ。

 ロジャーの部下になってからメキメキと実力を付けたクロエの覇王色は、シキの艦隊全ての船に届く程の範囲を有するようになった。現に長年シキの傘下として活動していた強者の船長達も、冷や汗を流している。〝鬼の女中〟は、名ばかりではないのだ。

(どうやら私も一言言わないとな……)

 クロエはシキに対し、覇気を放ちながら叫んだ。

「いいか金獅子!! 私はロジャー以外の人間の下にはつかないと決めた!! お前の手足になるくらいなら死んだ方がマシだ!!」

「……ほう、言うじゃねェか」

 刹那、シキから凄まじい威圧が放たれた。

 数百メートルは離れているのに、まるですぐ隣で睨み合っているかのような錯覚を覚えるが、クロエは負けじと気迫を高める。

 バリバリと黒い稲妻が迸り、その衝撃で波のうねりも大きくなる。火薬庫のような状態となったエッド・ウォー沖に、緊張が走る。

 そんな中、シキを睨み続けるクロエの前に、ロジャーがコートをなびかせながら叫んだ。

「おれは〝支配〟に興味がねェんだよ、シキ!!」

 ロジャーは語った。

 

 海賊は「自由」でなければならないのであり、やりたいようにやらないと海賊やってる意味がないと。

 世界を「支配」することを求める、かつてのロックスの信念に賛同することは絶対ないし、同様の信念を掲げるシキとは相容れない間柄になるのは当然だと。

 それが例え、何倍もの兵力で押し寄せてきても変わることは無く、真っ向からその申し出を拒絶すると。

 

 不敵に笑いながら告げるロジャーに、シキの眉間にしわが寄っていく。

 そして――

 

「どんな圧力を掛けてこようとも! 〝金獅子〟ィ!! お前の申し出は断る!!!」

 

 自分の信念には揺らぎはなく、死んでも曲げないとロジャーは宣言する。

 バギーは「やめて船長!! これ何十隻いると思ってんだよォ!!」と泣きつくが、クロエの制裁(げんこつ)を食らって悶絶した。

 すると、ロジャーに一蹴されたシキが額に血管を浮かばせながら叫んだ。

「つまり、その答えは……今ここで殺してくれという意味だよなァ!?」

「てめェら全員、叩き潰すって意味だよ!!!」

 ロジャーがそう言い放つと、オーロ・ジャクソン号の船首砲台が火を噴き、シキの本船の右隣の船を轟沈させた。

 それを皮切りに、シキの艦隊の砲撃が始まった。三十隻以上ある海賊船の集中砲火に、バギーは涙目で絶叫した。

「ギャーーーーーッ!! 来たァァァァ!!」

「どけ、バギー」

 クロエはバギーを後方へ放り投げると、覇気を纏った斬撃を飛ばし砲弾を全て両断。

 砲弾の弾幕はオーロ・ジャクソン号の手前で爆発し、黒煙が立ち込める。それを隠れ蓑にクロエは跳躍し、敵船に乗り込んで暴れ回った。

「カハハハ! どっちが多く船を沈められるか、勝負と行こうぜクロエ!!」

 先陣を切ったクロエに感化され、バレットも空を蹴りながら敵船に殴り込んだ。

 左サイドは〝鬼の女中〟が、右サイドは〝鬼の跡目〟が容赦なく敵を屠り、船を沈めていく。

「おいおい、ちと調子に乗り過ぎじゃねェか? ――〝(ざん)()〟!!」

 シキはクロエに狙いを定め、海を割る程の斬撃を放った。

 一直線に飛んでくるそれに気づいたクロエは、攻撃を斬る技である〝神凪〟の構えを取る。

 が、シキの斬撃はオーロ・ジャクソン号から飛んできた斬撃によって相殺された。

「っ!!」

「……別に私一人でも対処できるというのに」

 シキの〝斬波〟を相殺したのは、ロジャーだった。

 クロエは溜め息を吐きながら戦闘を続け、さらに海賊達を屠っていく。

「おめェの相手はおれだろ?」

「ロジャー……!!」

 不敵に笑うロジャーに、シキは苛立った声色の割には笑みを深めていた。

 シキは宿敵として()()()()ロジャーを認めているからだ。

「わははは! やるじゃねェか、こりゃあ後れをとる訳にゃあいかねェな!」

 先陣を切った二人の奮闘を称えつつ、ロジャーは気迫を高める。

 クロエとバレットの猛攻で次々と金獅子傘下の海賊は沈んでいくが、数で言えばまだまだシキが優勢。それも半端な連中ではなく、シキに従うのは新世界でも名の売れた猛者ばかり。絶体絶命ではないが、苦戦を強いられるのは変わらない。

 しかも今回の戦いは、それだけではない不安要素がある。

「ロジャー、勝敗よりもこの海域を早めに突破することを優先するぞ!」

「わーってるよ!」

 そう、このエッド・ウォー沖は現在進行形で時化ている。雲行きの怪しさから見ると、近い内に大嵐が襲い掛かるのは想像に難くない。そうとなれば、戦闘はおろかその場にいること自体が危険になるだろう。

 つまり、この戦いは金獅子海賊団の撃滅は諦め、エッド・ウォー沖を脱出することを最優先するべき――レイリーはそう判断したのだ。もっとも、ロジャーはシキを撃破した上で脱出する腹積もりだろうが。

「お前達! あくまでも戦場突破だ、深追いはするなよ!!」

「わはははは! てめェら、気合入れろ!!」

『おおおおおおおっ!!』

 ロジャーの一声に応え、オーロ・ジャクソンの船員(クルー)達は雄叫びを上げた。

 

 

 一時間後。

 やはりというべきか、天候はあっという間に荒れ狂い、海は大きくうねった。

 クロエはバレットと背中合わせになりながら、敵船にて大軍と対峙する。

「おいクロエ、何隻沈めた」

「五隻」

「チッ……おれもだ」

 バレットは悔し気に舌打ちした。

 ロジャー海賊団の無愛想コンビにより、荒れ狂う天候もあってシキの傘下は大分やられた。ここまでの損害を与えれば、いくらシキとて大きく立て直す必要があるだろう。

(……思ったよりデカい嵐になったな)

 ――引き際だな。

 クロエはこれ以上の長居は無益と判断し、刀を鞘に収めた。

 しかし海賊達は諦める訳もなく、得物を仕舞ったクロエに襲い掛かった。

「今だ!」

「死ね、〝神殺し〟ィ!」

「……阿呆が」

 斬り殺そうとしてきた海賊達に、クロエは次々に八衝拳の衝撃を叩き込んだ。

 斧が、剣が、槍が……全ての刃が防御不能の衝撃によって粉砕され、海賊達は無様に倒れていき、全滅してしまった。

「バレット、撤退だ。このままだと巻き込まれ墓場行きだぞ」

「チッ、まだ暴れ足りねェ……」

 返り血塗れのバレットは、渋々といった様子で構えを解くと、クロエと共に敵船から波にもまれるオーロ・ジャクソン号へと跳躍。そのまま華麗に甲板に降り立った。

「おお、戻ったかお前ら!」

「全く、独断で突っ走りやがって……!」

 ロジャーは満面の笑みで迎え、レイリーは頭を抱えながら怒りを堪える。

 乗組員全員が船に帰還したことを確認すると、ギャバンに操舵を任せ、沈みゆく海賊船の間を抜けてエッド・ウォー沖を脱出した。

 

 

           *

 

 

 ロジャーと金獅子の激突、世に言う「エッド・ウォーの海戦」から一夜明け。

 新世界の覇を競う大海賊同士の決戦は、ロジャーの勝利という形で大きく取り沙汰された。

「絶体絶命と思われたロジャー海賊団だったが、〝鬼の跡目〟と〝鬼の女中〟の奮戦により、兵力差は歴然でも戦局は拮抗。そこへ突如大嵐に見舞われ、シキの艦隊の七割が沈没。さらにシキの頭に()()()()()()()()が発生し、艦隊の統率が取れなくなったために撤退、だと……フフッ……アハハハハハ!」

『ギャーッハッハッハッハッハッハッ!!!』

 新聞を音読していたクロエが涙目で笑い出すと同時に、ロジャー達は抱腹絶倒。

 獅子と例えられる男が、鶏のトサカよろしく頭頂部に舵輪が刺さるというまさかの事態。次に会った時は頭の舵輪に目が行ってしまい、笑える意味で戦闘に集中できなくなるだろう。

「金の長髪に舵輪って、どんなセンスしてんだ!? わははははは!!」

「おいロジャー、それ以上は止せ……ククッ」

「そうだぞ、失礼すぎだ! ブフッ……」

 ロジャーの相棒であるレイリーや主治医のクロッカスも、舵輪がめり込んだシキの頭を想像して吹き出すのを堪えている。バレットも無表情を貫いているが、肩を震わせて必死に耐えている。

 それもそうだろう、ヘアアクセサリーに舵輪という斬新すぎる選択をしたのだ。面白くないわけがない。

「わはははははは! まァ、これでシキの野郎も少しは懲りたろ!」

「甘いぞロジャー。こういう質の悪い男は、どこまでも尻を追いかけてくるぞ」

 腕を組みながら笑うロジャーに、クロエは呆れたように笑う。

「よォし! 野郎共、デッカい宴をするぞォ!!」

 ロジャーは仲間達にそう号令をかけるが、レイリーにたしなめられた。

「おいロジャー! ついさっき戦勝記念の宴したばっかだろ!」

「バカ野郎、こんな(おも)(しれ)ェ時に飲まずにいられるかよォ!」

「まだ()は高いぞ」

「気にすんなってクロエ! わははは、パーッと行くぞ、パーッと!!」

 苦言を呈すクロエのことも意に介さず、ロジャーは真昼間から宴の二次会の開始を宣言した。

 そして後で二日酔いに苦しむことになるのは、言うまでもない。




次回あたり、そろそろあの侍を出そうと思います。
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