ちなみに本作のオリ主・クロエは悪魔の身の能力者にはなりません。
海賊〝錐のチンジャオ〟に拾われて、早三年。
10歳になったクロエは、メキメキと実力をつけていき、目を瞠る速さで急成長した。
「ドイサ! 〝
「ハァッ!」
ドォン! という衝撃音と共に、クロエの刀とチンジャオの錐頭が激突し、バリバリと音を立てて覇気がぶつかり合う。
クロエは歯を食いしばって押し返そうとするが、チンジャオは未だ余裕を見せている。
「ひやホホ! どうした、いつもの威勢は!?」
「ぐっ……アァァッ!!」
クロエは必死に耐え、気合で押し返した。
弾かれたチンジャオは、その巨体からは想像もつかない俊敏さで華麗に着地。そのまま拳を振るって八衝拳で進撃する。
クロエは後退して距離を取る。
「ひやホホ、いつまで避けるつもりだ?」
「いや、ここまで距離を取れば十分」
「何だと?」
クロエは刀に覇気を纏わせ、刀身を黒く染めて両手持ちで振りかぶった。
「〝
ドォン!
「ぬおっ!?」
クロエが刀を大きく振った瞬間、覇気を纏った強烈な飛ぶ斬撃が襲い掛かった。
チンジャオは咄嗟に両腕を十字に組んで斬撃を防ぎ、力業で軌道を逸らすと、斬撃は遥か後方へと飛んでいき岩山を粉砕した。
「……ひやホホホ、中々強力。久方振りに両腕が痺れたわ!!」
「ちっ……!」
「では私も少しばかり本気で行こう!! 見るがいい!!!」
チンジャオは跳び上がると、錐頭を〝武装色〟で硬化させ、そのまま落下してきた。
クロエは嫌な予感がしたのか、顔を引き攣らせた。
「〝
「!? ちょ、し、
「〝
刹那、地震かと思える程の大地の震えと共に轟音が響き渡った。
それに続くように、クロエの断末魔の叫びも木霊したのだった。
「クソ、刀折られた……!!」
「ひやホホホホホホ!!」
修行を終え、ボロボロな姿で悪態を吐くクロエを笑い飛ばすチンジャオ。
三年前の出会い以降、二人は師弟関係となった。罵倒合戦を繰り広げつつも決して険悪になる事はなく、スパルタながらも着実に強くなってる為、傍から見れば「喧嘩する程に仲が良い関係」に見られている。
事実、チンジャオはまだ孫がいないが、クロエのことを弟子であると同時に孫娘のように可愛がっているのだ。
(基礎戦闘力は鍛錬と実戦を重ねればさらに飛躍する……もはや十分だろう。しかしまさか、クロエも〝王の資質〟を持っていたとは。ひやはや、これは10年後が楽しみだ)
スパルタ修行を課す内に、クロエの潜在能力をチンジャオは把握していたが、そのスペックは想像以上。自分以外に勝てる者は花ノ国にはいないと断言できる程の逸材だった。
チンジャオがクロエに叩き込んだのは、八衝拳と覇気。
〝
八衝拳については、やはり自分と比較すると威力は低い。しかしクロエは技術面の才能があり、相手に直接衝撃をぶつけるのではなく地面に伝導させて離れた相手を攻撃する〝遠当て〟という戦い方を編み出した。八衝拳の衝撃は拳や蹴りといった直接攻撃で相手に通すのだが、地面に伝導させて通すという間接的な戦法は興味深く、その道を極めたチンジャオも思わず舌を巻いた。
覇気については、修行の最中に〝覇王色〟の覇気を覚醒させるという思わぬハプニングがあった。修行開始から一年余り、あまりのスパルタぶりにクロエがマジギレしてしまい、その感情の爆発の際に覚醒したのだ。とはいえ、覇王色は人間的な成長でしか強化されない特殊な覇気なので、敵味方関係なく周囲を威圧しないようにチンジャオは指南している。
武装色と見聞色に関しても、彼女自身のハングリー精神もあってか10歳でありながら高水準の練度・精度を有している。流石に悪魔の実の能力の無効化や未来予知といった高度な技術には至っていないが、それらもあと数年もすれば習得できる程の力量だろうとチンジャオは判断している。
まさしく、女だてらに一騎当千。今の八宝水軍で彼女を実力で御せるのはチンジャオしかいないだろう。
一方、そんな戦い方をしているからか、覇気に頼りすぎている節がある。覇気は消耗する
(……ひやはや、いつかクロエも
偶然の「拾い者」の計り知れない潜在能力に、チンジャオは口角を上げたのだった。
*
それから暫しの時が流れ。
チンジャオは、クロエにとんでもない稽古を押し付けた。
「クロエよ!! お前には今から財宝泥棒共を蹴散らしてもらう!!」
「子供に頼む内容じゃない」
クロエのごもっともな反論に、チンジャオの部下達は苦笑いする他ない。
チンジャオ曰く、八宝水軍は数百年に渡り「
そこでチンジャオは、実戦経験を重ねる意味合いでその財宝泥棒達を倒すように命じたのだ。
「今までは私自ら鍛えてたが、ここまで強くなった以上お前に教える事はもうない。そうだな……あと三年経てば、お望み通り海へ出てもよい」
「!」
「それまでは鍛え続けろ。一切の妥協は許さんがな」
師匠の無茶ぶりに、クロエは思わず頭を抱えた。
数時間後、クロエは丸腰で宝玉氷床へ訪れていた。
「素手で倒せというの?」
「得物を失った時どうする? いざという時に頼れるのは己の肉体のみ!! そして拳法は武器のない状況でこそ真価を発揮する!! ――ここまで言えば、賢いお前なら自ずと解ろう」
「……まあ」
不敵に笑うチンジャオを睨みつつ、目の前で眼下の氷床の奥底に眠る財宝を奪おうとあの手この手で割ろうとする男達を見据える。
その視線に気づいたのか、男達は振り返ってガンを飛ばした。
「んだ、てめェ?」
「片方はガキじゃねェか」
「じいさんとガキが出しゃばるんじゃねェ!」
ギャーギャーと喚く財宝泥棒達。
その罵詈雑言に意にも介さず、クロエはチンジャオに尋ねた。
「……どこまでが許容範囲なの?」
「海賊は生かすも殺すも自由だぞ?」
「……そう」
クロエは呼吸を整え、両腕に意識を集中させる。
覇気が伝わり、二の腕から先が黒く変色する。黒光りする鋼鉄のように硬化したそれは、たとえ少女の腕でも矛にも盾にもなるチカラだ。
「何だ、やんのか嬢ちゃん」
「痛い目に遭いたいのかァ?」
目つきは悪くとも歩み寄る少女に、男達は下心丸出しの笑みを溢す。
が、その認識は早くも誤りであると思い知ることになった。
「フンッ!」
メキィッ!
地面を蹴ったクロエは、先頭の男の鳩尾を正確に殴った。
それと同時に、チンジャオ直伝の八衝拳の衝撃が叩き込まれ、男は吐瀉物をぶちまけてノックダウン。口や鼻から血を流し、白目を剥いて失神した。
「な、何だこのガキ!?」
「
すかさずクロエは、覇気で硬化した腕で裏拳を見舞い、自らの数倍の体躯を持つ巨漢を沈めた。続けざまにすぐ傍の男に飛び膝で八衝拳の衝撃を胸に叩き込み、意識をあっという間に刈り取る。
大物海賊が直々に鍛えたとはいえ、クロエの戦闘技術がすでに達人の領域に至ってると過言ではないほどに研ぎ澄まされていたことに、チンジャオは驚きを隠せなかった。むしろ一端の師範として、とても満足の行く出来上がりだった。
「ひやホホホ……これは新世界でも通じるやもしれんな」
蓄えた髭を弄りながら、クロエ無双を満足気に見守るのだった。
*
その日の夜、クロエは勉学に励んでいた。
理由は簡単。この海を生き抜く為に必要な知識を得る為だ。
(飯と金は敵船から奪えばいいとして、気象や自然現象の知識は必要。そう考えると、学習するに越した事はない)
何しろ、この世界の海は「物語の海」だ。
常識は通じず、理屈も理論も滅茶苦茶。ましてや世界を一周する〝
無知は罪。何も知らずに船を出すのは自殺行為であるので、こうしてこの海における常識を頭の中に叩き込むのだ。
(それに新聞はありがたい。世情に疎いのも問題だ)
クロエが欠かさないのは、新聞を読む事だ。
新聞はこの世界の数少ない情報ツール。誇張表現や印象操作も多々あるだろうが、真偽は己の目で確かめればいいだけの話なので、捏造しようが全く気にならない。
最近の記事は先年に壊滅した「ロックス海賊団」の残党達、巷を騒がす大海賊〝ゴールド・ロジャー〟、海軍の英傑達の武勇がほとんどを占めている。特にロックス海賊団は世界最強と謳われた凶暴な一味であり、船長が討伐されてなお懸念が続いているそうだ。
「……いつか戦うのか」
この世界を生きる以上、強大な存在・勢力といずれは衝突する。
三つの覇気を覚醒させ、防御不能の攻撃力を学んだとはいえ、それらを容易く捻じ伏せる猛者と必ず出会う。この新聞に載ってる面々こそ、その猛者達なのかもしれない。彼ら彼女らから己の自由を守る為には、匹敵する力が求められるのは言うまでもなかった。
「……よし!」
思い立ったが吉日。クロエは目を閉じて集中力を高め、見聞色を鍛え始めた。
今の見聞色の精度は、相手の感情や気配を見抜き、攻撃を先読みする基礎中の基礎でしかない。それだけでも年齢を考えれば十分にも思えるが、クロエはそこで満足せずにさらに上の
見聞色は、極限にまで極めていくと未来予知の領域に達する。数秒先の相手の行動・言動などを映像として「視る」事ができる為、戦闘に昇華すれば周囲から襲って来る死角からの不意打ちすら予知できる。世界の名だたる強者、取り分け世界でもトップクラスの実力者は未来予知ができるのだろう。
これを扱えるようになれば、クロエは災害級の怪物達とも戦えるようになれるだろう。
(三年。あと三年は鍛える。強さこそ全ての海だ、弱音を吐く暇も惜しい)
努力は、必ずしも報われるとは限らない。だが無駄ではない。
己の可能性を信じ、クロエは一人黙々と鍛えるのだった。
ついに「ONE PIECE FILM RED」の情報が出回りましたね。
ウタちゃん、可愛すぎる!