〝鬼の女中〟と呼ばれる女   作:悪魔さん

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【緊急速報】
クロエ、再び天竜人相手に大事件を起こす。


第21話〝チカラと責任〟

 ウォーターセブンに到着したロジャー海賊団は、オーロ・ジャクソン号を造った魚人・トムの仕事場を訪れた。

「トム~~~~~~!!」

「トムさ~~~~ん!!」

「たっはっ!! っ……!! っ……!! 久しぶりだな!! おめーら!!」

 ロジャーはトムとハイタッチし、レイリー達も和やかに語り合う。

 すると、クロエと目が合ったトムは、驚いた様子を見せた。

「おお、あん時の嬢ちゃんじゃねェか!! 随分とデッカくなったな」

「久しいな、トム」

「たっはっはっ!! 愛想ねェのは健在だな!!」

 全く変わらない無愛想ぶりに、トムは大笑い。

 その豪快で快活な笑顔に、クロエも釣られて微笑んだ。

「――で、どこ壊したんだ? おめェらがここに来たってことは船の修理だろ?」

「ああ、高いところから落ちちまってよ」

「空島でも行ったか?」

「ああ、ドーンとな!」

 ニカッと笑うロジャーに続き、シャンクスも「でもその後、ドーンと海へ落ちちまったんだ!!」と興奮気味に語る。

 相変わらずメチャクチャな冒険をしていたことにトムは爆笑。秘書であるココロは「相変わらずうるさい奴らだね」とボヤいた。

「たっぷりと旅の話を聞かせてもらう前に、まずは腹ごしらえでもしたら? 準備しといたからさ」

「おう、そうさせてもらうぜ!」

 

 

 ココロの手料理のもてなしを受け、ロジャー達は昼間から酒を飲み交わしていた。

「たっはっはっは! そうか、前世の記憶を持っとるのか嬢ちゃんは!!」

「ああ、ビックリしただろ!? わははははは!!」

「ロジャー……」

 何とロジャー、ここでクロエの秘密をトムに暴露。

 秘密が秘密じゃなくなっていく様子に、クロエは内心「言わない方がよかったか……?」と思いながらジョッキの中のビールを飲み干す。

「仲間の秘密を勝手に暴露するのか、貴様は。酔った勢いとか言わないだろうな」

「わははは!! ()()だと、せめてそう言ってほしいもんだな、クロエ!! トムも立派な〝仲間〟だぜ、別に話したっていいだろ!! おめェも眉唾物だって言ってたじゃねェか、聞いたところで大体の人間は信じやしねェよ!! わははははは!!」

「それはそうかもしれんが……ハァー……」

 誰がどう見ても不機嫌そうなクロエに、酔っ払ったロジャーはお構いなしに肩に手を回す。

 その大きな手がクロエの胸を触っているが、彼女は気に留めず酒を飲んでいる。

(シャンクスの件も然り、いくらか鈍感すぎないか?)

 自分達にとっては娘のような年頃の仲間が、異性間のことにやけに疎いのは些かよろしくない。本人は「強くなるために女を捨てた」とか言っていたが、あれは恥じらいも慎みも捨てたという意味だったのだろうか。 

 レイリーはクロエがちょっぴり心配になった。

「で、これからどうするんだロジャー? 次の目的地は決まったのか?」

「ああ!! 最後の島へ向かうために魚人島へ向かうところだ!! ちょうどさっき、最後の島への道が開けたばかりなんだぜ!!」

「たっはっは!! 最後の島を目指すか!! 相変わらずドンとデカいことをしやがる!!」

 嬉しそうに語るロジャーにトムは笑って応えるが、内心では寂しさも感じていた。

 ロジャーの冒険は、彼がこのトムズワーカーズに来る度に聞かされた。聞くだけで興奮を覚えるロジャーの体験談や、それに伴うレイリーの愚痴は、とても楽しみだった。今回はいつの間にか増えた仲間の話もあり、大いに盛り上がっている。

 が、ロジャーは最後の島へ向かうと言った。それは、あの想像を超えた冒険譚の完結――ロジャーの生涯をかけた大冒険が最終章に向かうという意味でもあった。余命の件も聞いたので、これが最後の顔合わせとなるだろう。

 トムは忘れない内にと、ロジャー達に告げた。

「ロジャー、それとその仲間達!!」

『?』

「わしはお前らの船を造ったことを、オーロ・ジャクソン号を造ったことをドーンと誇りに思っている!!!」

 それはトムの本心であり、信念だった。

 自らの造った船に誇りと責任を持つトムは、どんな船だろうと()()()()()()に善悪は無く、造った船を否定することは決してあってはならないことだと考えている。自分が作った船が、前人未到の世界一周を成し遂げたのであれば、船大工として誇らしいことなのだ。

 たとえその船の持ち主が、鬼の悪名を馳せる大海賊であっても、だ。

「世界一周して、ドーンと度肝を抜かせてやれ! ロジャー!!」

「おうっ! ドンとやってやるさ! なァ、野郎共ォ!!」

『おぉーーーーっ!!!』

 昼間からドンチャン騒ぐロジャー海賊団は、そのまま深夜まで飲み続けた。

 翌日の朝、ロジャーはトムに最期の別れを告げ、彼らはトム達に見送られながら、航海に出たのだった。

 

 

           *

 

 

 ウォーターセブンを出航したロジャー海賊団は、ついにシャボンディ諸島を訪れた。

「ここでコーティングをするんだったな、ロジャー」

「ああ。魚人島へ向かうにゃあ、海底ルートを行くしかねェからな」

 ロジャーはひげを弄りながらおでんに語る。

 魚人島への海中航海を可能にするための船のコーティングには大よそ三日かかる。それまではこの諸島で滞在するのだが、悪名高い凶悪な海賊達が集結する地でもあるため、海軍本部も近く諸島の駐屯地もそれなりの兵力が待機している。

 問題を起こそうものなら、すぐに物凄い数の海兵が押し寄せてくるのは言うまでもない。

「それと、この諸島は人攫いが横行している。〝人間屋(ヒューマンショップ)〟に送られると面倒だ、観光する時は気を付けろよ」

「禁止されてる人身売買がまかり通ってる土地は、気分が(わり)ィな……」

「ええ……」

 おでんとトキは険しい表情を浮かべる。

 世界政府は当然、世界中のどの国でも人身売買は重罪として禁じられているが、多数の奴隷を所持する天竜人が関わってることもあって、人間屋(ヒューマンショップ)はそれを堂々と行っている。何の罪も持ちあわせていない者も競売送りにされることも多いが、天竜人絡みゆえか世界政府と海軍は黙認しており、それどころか競売前の奴隷を解放することは「財物の強奪」として逮捕するよう動く始末だ。

 胸糞悪い話だが、シャボンディ諸島の古い気風はどうしようもないため、人攫い屋に狙われないよう気を付けて行動する他ない。下手なマネをすれば、大変な事態にもなる。

「……特にクロエ!! お前が一番危ないんだぞ!!」

「生憎だが無理な相談だ、レイリー」

「わははは!! 〝神殺しのクロエ〟にはキツイかもな!!」

 レイリーが憂いているのは、クロエのことだった。

 そう、クロエは過去にこのシャボンディ諸島で天竜人一家を斬殺する、前代未聞の大事件を起こしている。ロジャー以外には従わないと豪語する彼女が、その場をやり過ごすためであっても天竜人に膝をつくはずがない。

 気に食わない者は容赦せずその場で撃ち殺す天竜人と、自分の自由を侵害する「敵」には容赦しないクロエ。鉢合わせたらタダでは済まないだろう。天竜人の方が。

「余計なマネはするなよ、クロエ」

「……善処する」

「イヤそう……」

 心底嫌そうな顔をするクロエに、一抹の不安を覚えるレイリー。

 その不安が見事に的中することになるのをまだ知らない。

 

 

           *

 

 

 ここはシャボンディ諸島18番GR(グローブ)

 無法地帯のとある酒場で、クロエは一人で酒を飲んでいた。一応他にも客はいたが、因縁をつけてきた連中を全員ブチのめしたため、店はクロエの貸し切り状態である。

(〝見聞殺し〟……感覚は何となく掴めたが、ものにするにはもう少し()()が欲しいな)

 グラスの中にラム酒を注ぎ、一口呷る。

 覇王色の技巧の中でも、気配の完全なコントロールはかなり難易度が高い。バレットとの組手や敵船との戦闘を積み重ねていくが、ゼファーやガープのような拳一筋でロジャーや白ひげと()り合った連中との戦闘でないと、覇気は進化しないのだろう。見聞殺し習得の道のりは、まだまだ長そうだ。

 この島で特にやる事も無い溜め、酒も程々にして船に戻ろうかと思った、その時だった。

「……!」

 クロエの見聞色が、外からの気配を察知した。

 たった二人だが、それなりに強い。海賊なら億越えの大物、海軍なら将官クラスの実力者か。

 酒場で暴れるのは気乗りしないため、クロエは「釣り銭は結構」と一言店主に告げて外へ出た。

「……大人しく出てくるとは、賢明な判断だな」

「へー、嬢ちゃんが〝鬼の女中〟かい? いい身体してんじゃんか」

 海軍の制帽の上からフードを深く被った男と、パーマ気味の黒髪でサングラスをかけた男がそれぞれ口を開く。

 クロエは自身よりも大きな体格をした男達に、目を細めた。

「海軍の将官か……見ない顔だが、何者だ?」

「海賊風情に名乗りやせんわい」

「おれ、海軍中将のクザンってんだ。こっちは同じ中将のサカズキ。よろしくな」

 性格が素晴らしいくらい正反対。

 硬派のサカズキは、軽い調子で自己紹介するクザンを制帽の下から睨みつけた。

「嬢ちゃんがいるって事は、ゴールド・ロジャーもいるのかい?」

()()()()・ロジャーだ。…その質問は、私がこの場にいる事が答えじゃないのか?」

 ぶっきらぼうに答えるクロエに、クザンは「アラララ、スッゲェ無愛想……」と引き攣った笑みを浮かべた。

「……で、用件は?」

「それこそ愚問じゃろうが……!!」

 サカズキは苛立ったような声色で、右腕から黒煙と共に灼熱のマグマを生み出す。

 彼は自然(ロギア)系悪魔の実の一つ、「マグマグの実」の能力者――火すらも焼き尽くす熱量と自然災害級の攻撃力を有するマグマ人間だ。覇気を習得した者だろうと不用意に近づけばマグマの熱で焼き尽くされてしまう為、敵に回せば確実に甚大な被害を被ってしまう恐ろしい能力(チカラ)である。

 一方のクザンは、サカズキとは真逆の「ヒエヒエの実」の氷結人間。あらゆるものを瞬時に凍結させる程の凄まじい冷気を操り、海水もたやすく凍らせてしまうため、間接的にとはいえ悪魔の実のペナルティが無いに等しい能力者である。

「人間は正しくなけりゃあ生きる価値なし!!! お前ら海賊なんぞに生きる場所はいらん、ここで仕留めちゃる!!!」

 苛烈極まる言動のサカズキは、さらにマグマを噴き出す。

 誰もが慄く事態だが、クロエは冷静に「他人の信念にケチは付けたくないが」と前置きしつつ、心底呆れた様子で反論した。

「人間は生きてる間はそいつ一人分の価値でしかなく、それ以上にもそれ以下にもならない。価値が変わるのは、死んで何人の人間が泣いてくれるかだ。世の中は一問一答じゃない」

「おどれ、海賊がわしら海兵に説教垂れるな!!!」

「フフ……ごもっともだ」

 怒気を剥き出しにするサカズキに対し、クロエは余裕の笑みを浮かべつつ刀を抜いた。

「アラララ……投降とかはヤダ?」

「生憎、私は尻の軽い女じゃない。残念だったな」

「じゃあ……仕方ねェな」

 クザンも冷気を放ち始め、地面に生えた草を千切って吐息で凍らせ、氷の剣を作り出す。

 氷と溶岩を操る中将二人に対し、クロエは愛刀を武装硬化させた上に覇王色を纏わせ、黒い稲妻をバリバリと迸らせた。

「こいつ、覇気が……!!」

「ちょっと待て、これヤベェんじゃ……!?」

 覇気の練度が自分達よりも遥かに上だと察したのか、二人は顔を強張らせた。

 対するクロエは不敵に笑っており、カチャリと刀を構え直して告げた。

「気合を入れていこう、二人共。私の首は安くないぞ?」

 

 

 その頃、24番GR(グローブ)

 かつてクロエがゴミルット聖一家を斬殺したこの地では、何の因果か別の天竜人の親子が姿を現していた。グレツナ聖とその娘のグレツネ宮である。

「早く新しい奴隷が欲しいでアマス!」

「そう急かすな、競売の時間には間に合うえ」

 杖を突きながら歩くグレツナ聖と、首輪に繋がれた二人の奴隷をリードで引っ張るグレツネ宮。

 彼らの凶悪さすら感じる権力の前では、民衆が敵うはずもなく、腕の立つ海賊も報復措置を恐れ、全員が膝をついたり土下座したりしてやり過ごす他ない。

 それは、買い物中だったシャンクス達も例外ではない。

「おい、いつになったら立っていいんだよ! 遅すぎだろ!」

「運動不足なのかな?」

「バカ、聞こえるぞお前ら!!」

 シャンクスとバギーの会話を、ギャバンは諫める。

 すると、グレツネ宮がシャンクスとバギーに目を付けた。

「あ!! お父様、あの子供達欲しいアマス!!」

「「は!?」」

「おい、そのガキ共を寄越すんだえ!」

 グレツナ聖が命令を下すと、十人の護衛騎士に加え、白いスーツを着た仮面の男が二人現れた。

「〝CP-0〟……!!」

 ギャバンは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

 世界政府の諜報機関であるサイファーポールの中で、最強の諜報機関であるのが「サイファーポール〝イージス〟ゼロ」――通称〝CP-0〟だ。天竜人の繁栄に大きく関わる任務を行っている彼らは、超人式武術(マーシャルアーツ)である「六式」を極めており、構成員一人一人が高い戦闘力を有する、まさしく世界最高峰のエージェントなのだ。

 一人でシャンクスとバギーを護りながら、CP-0の諜報員を退けるのは、いかにギャバンでも難しい。だがここで二人が攫われれば、ロジャー達に顔向けできない。

 ギャバンは意を決し、二人を背に隠しながら斧を構えた。

「ギャバン……」

「大丈夫だ、おれが護ってやる」

「逆らう奴は死刑だえ!!」

 グレツナ聖が非情な命令を下した、その時だった。

 

 ドォン!

 

『うわああああ!!?』

 突如、土煙を上げながら長身の男が店の壁に減り込んだ。

 被った帽子と袖を通したコートに刻まれたカモメのマークを見て、ギャバンは吹っ飛んできた男が海兵――それも将官クラスの実力者だと瞬時に悟った。

「いててて……覇気(つえ)ェな、おい……!」

 血を流す頭を押さえるのは、クザンだった。

 そこへ、彼を吹っ飛ばした張本人がコートをなびかせて歩み寄った。

「氷壁で威力を削いだとはいえ、〝(ごう)(ぶく)(さん)(がい)〟をモロに食らっても立つか……流石はガープと同じ海軍中将だな」

「いやいやいや、あの人は別次元だっての!!」

「だろうな」

 目を細めながら、長身の男――クザンの喉元に切っ先を突きつける。

「……まだ戦うか? お前達は殺すの一択、私は生かすも殺すも自由……引き際は弁えるべきだと思うが」

「あー…………お前とは相性悪いのは認めるよ。これ以上被害出すと面倒だしな……」

「何を言うちょるんじゃあ、クザン!!!」

 そう怒号を上げ、サカズキが特攻してマグマの腕で殴りかかる。

 見聞色で把握したクロエは、左手で持っていた鞘に覇気を纏わせ、真っ向から灼熱の拳を受け止める。

「……むやみに堅気を巻き込むのは、船のルールに触れる。サカズキ、お互いここで引く方が利口だと私は思うが?」

「海兵である限り、海賊という〝悪〟は逃がさん!!! わしらは世界の正義を背負っちょるんじゃ、刺し違えてでも息の根を止めちゃる!!!」

 マグマを噴き出しながら、サカズキは吠える。

 正義の執行人の揺るがぬ信念に、クロエは「なら、心を込めて貴様を倒そう」と笑顔で応える。

「っ……!!」

「お父様、あの傷物の下々民は……!!」

 一方、グレツナ聖とグレツネ宮はクロエの顔を見て血の気が引いていた。

 これはクロエ自身も知らないことだが……彼女は先の斬殺事件以来、天竜人の間でひどく恐れられ、同時に憎悪を向けられている。世界の頂点に君臨する神たる存在である自分達を下々民(みんしゅう)の前で虐殺したとして、大逆人としてマリージョアで獄門を強く望んでいる程の恨みを向けられている。聖地マリージョアにおいては、クロエはロジャー以上の悪名を轟かせているのだ。

「おい、海兵!! その大逆人をひっ捕らえるんだえ!! 聖地でさらし首にしてやるえ!!」

「そこの子供二人も捕らえるアマス!! ペットにするでアマス!!」

「っ……!?」

「天竜人……!?」

 天竜人の無茶振りに、クザンとサカズキは舌打ちしそうになった。

 海兵である以上、この世界で神に等しい天竜人を護るのは義務であり、その命令を遂行するのも義務だ。偉大な功績と厚い人望があるガープはやりたい放題やってるため例外と言えるが、二人はそうではない。天竜人の命令に従わなければならないのだ。

 自分達の正義の為ではなく、天竜人の私利私欲の為に動かねばならない。海兵ならではのジレンマに、歯がゆい思いでいっぱいになる。

 が、クロエにとって彼らの都合など至極どうでもよかった。二人を無視し、一度刀を鞘に収めてから瞬時にグレツナ聖とグレツネ宮を蹴り倒し、奴隷達に近寄った。

「じっとしていなさい。すぐ終わらせてあげるから」

「え?」

「おい!! 私らを蹴り倒しといて無視するんじゃないえ~!!」

 グレツナ聖の言葉を無視し、クロエは奴隷の男の首輪に手を添え、穏やかな微笑を見せつつも、手に力を入れた。

 次の瞬間!

 

 ――グシャッ!!

 

『!!?』

「な……!?」

「首輪が!!」

 クロエが両手を武装硬化させて握った途端、潰されたかのように首輪が外れた。覇気の応用で、流し込むことで内部破壊を引き起こしたのだ。

 鍵も要らずに首輪の錠を破壊したクロエに、一同は驚いていると、彼女は外した首輪を何の躊躇いもなく()()()()()()()()()()()()()()()放り投げた。

「「は?」」

 カチカチという機械音の間隔が早まり、目と鼻の先まで迫り―

 

 ボカァン!!

 

「「ギャアアアアアアアッ!!!」」

 目の前で首輪が爆発し、爆炎に呑まれた天竜人は断末魔の叫びを上げた。

 火達磨になってのたうち回る彼らに、クロエは絶対零度の眼差しを向け、もう一人の奴隷の男の首輪を外した。

「耳障りだぞ、近所迷惑だ」

 クロエは何の躊躇いもなく、炎に包まれた天竜人へ投げつけた。

 さらなる爆炎が上がり、苦痛に満ちた悲鳴すらかき消される。地獄の業火に焼かれる罪人のように炎の中で足掻き、ついに力尽きたのか、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。

「…私から弟分を奪おうとするからそうなるんだ、痴れ者共め」

 感情の無い目で天竜人の焼死体を一瞥するクロエ。

 前回は民衆の前で、今回はさらに加えて仲間や海兵と護衛達の前で、この世界の〝神〟を二人も殺した〝鬼の女中〟。まざまざと見せつけられたサカズキは動揺し、クザンは「マジかよ……」と冷や汗をかき、ギャバン達に至っては開いた口が塞がらないままだった。

「――大きなチカラには、相応の責任がある。チカラの行使に伴う責任から逃げられる、安全地帯でイスに座って踏ん反り返っている豚共が、私は心底嫌いだ…………前世(むかし)も、今世(いま)もな」

「……?」

 クロエの秘密を知らないクザンは、その発言に疑念を抱くも、すぐさま迎撃態勢を取った。

 天竜人に手を出した者は、殺されても文句は言えない、ましてや殺めたとなれば、すぐに討伐対象となる。それが誰であろうと、だ。

 無論、サカズキも迎撃態勢を取り、クロエを睨みつけた。

「……ちょっとやり過ぎじゃねェか?」

「わしら海兵の前でやるとは……貴様も大概狂犬じゃのう……!!」

「狂犬なのはバレットだろう」

 クロエは再び刀を抜き、切っ先を向ける。

 まるで「もう邪魔者はいない」と言いたげな表情で、真っ直ぐに金の瞳でサカズキ達を見据えている。

「ギャバン、二人を連れて逃げろ。あの白仮面も私が引き受ける」

「何言ってんだ!? 危険すぎる!! この様子じゃあセンゴクかゼファーが来るんだぞ!?」

「自分で蒔いた種は自分で刈り取るべきだろう」

 クロエはギャバン達に顔を向けずに告げた。

 自由とは自己責任である――そう考える彼女にとって、天竜人親子の爆殺も、それによって実行される報復も、全て自己責任。好きに振る舞った分は孤軍奮闘上等でケジメをつけねばならないのだ。

 ゆえに、ギャバン達を安全な所まで逃げる時間を一人で稼がねばならない。それが彼女が自らに課した責務なのだから。

「っ……死ぬんじゃねェぞ!!」

 ギャバンはシャンクスとバギーを担ぎ、オーロ・ジャクソン号へと駆けた。

 すぐさま追いかけようとするCP-0だったが……。

「どりゃああああっ!!!」

「!?」

 雄叫びと共に剣閃が走り、CP-0の二人は血を流した。

 二人を斬ったのは、おでんだった。

「よう!! 何か助太刀が必要そうだが?」

「貴様は無関係だろう、おでん」

「なァに言ってんだ!! 同じ仲間じゃねェか!!」

 満面の笑みで応じるおでんに対し、サカズキ達は噂の侍の乱入に苦々しい表情を浮かべる。

「……まさかこんな形で共闘とはな。トキ達はどうした?」

「すでに船に戻ってるはずだ。途中で賭場でボロ負けしたレイリーと合流したからな」

「フフ……冥王ともあろう者が」

 レイリーのどうでもいい情報を知り、思わず笑ってしまうクロエ。

 しかし状況は、はっきり言ってかなりマズい。護衛達はともかく、中将二人にCP-0二名に加え、このあとに海軍の大将と軍艦が来る。しかも天竜人の憎悪の対象であるクロエの犯行となれば、聖地の神々は黙ってはいないだろうし、()()()()()も起こり得るだろう。

 シャボンディ諸島は戦場になる。そうなったらそうなったらで喜ぶ奴もいるが。

「アララ……えれェの引き連れてんじゃないの」

「不倫旅行とか言ったら真っ先にお前を斬るからな、クザン」

「ちょっと、おれへの当たり、何でそんなに強いん?」

 クロエは愛刀に覇王色を纏わせる。

 すると、おでんもまた愛刀二振りに覇気を纏わせた。

「クロエ、お前との共闘は初めてだな!!」

「足引っ張ったら承知しないぞ」

「心配すんな、おれの剣術は〝最強〟だ!!」

 互いに軽口を叩きながら、目の前の敵に集中する。

「天竜人の為みたいになるのは癪に障るが……海賊は海賊じゃ!! 徹底的正義を執行する!!!」

 サカズキの宣言と共に、クロエとおでんのタッグが世界政府の戦力と全面衝突した。




誰が斬殺すると言った? 正解は爆殺だ。(笑)


さて、今回は中将時代のサカズキとクザンが参戦しました。
中将時代から、サカさんは広島弁だったんじゃないかと思い、過去編でも広島弁にしました。オハラの時は意外と標準語だったので、どうかなとは思いましたけど。

あと今更ですが、本作では天竜人が高い割合で死にます。オリジナルの天竜人は、名前は悪口にしてあります。今回のグレツナとグレツネは「愚劣」って言葉入ってますし。

そうそう、奴隷の二人は首輪外れてからすでに逃走済みです。
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